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第76話 「悪魔王の真意」

 悪魔王国ディアボルス王都ソドム、アッロガーンス宮殿謁見の間……


 今、俺達はイザベラの実家である悪魔王家にて『義両親達』に拝謁している。

 真ん中にイザベラの父である王アルフレードル、向って左側に母である王妃リリス、右側に姉である第一王女レイラという並びだ。

 アルフレードルの命令により悪魔達はしぶしぶながら全員が人化しているらしい。

 悪魔の真の姿は人間には刺激が強過ぎるらしく、俺達に配慮してくれた形だ。


 この部屋には護衛の悪魔達も詰めている。

 

 レイラのやや右後方には、俺に恥をかかされた形のベリアルが憎悪の篭もった目で睨みつけているし、同じ様な目付きをしたエリゴスも王妃リリスの後ろに控えていた。

 そして左右は先程戦ったエリゴスと同じ出で立ちをした王家親衛隊の奴等ががっちりと固めていたのである。

 俺は自ら宣言した通り、戦神スパイラルの使徒だと知れ渡っているので、この部屋全体から湧き出る憎悪の嵐も半端では無い。


 言うなれば完全にアウェーである。

 だが俺は全く臆してはいなかった。

 どう見られようが、別に悪い事をしているわけではないから。


 王族の顔をじろじろと見続けるのも失礼に当たるらしいので、俺はやや下方向に視線を向けていた。

 やがてアルフレードから声が掛かる。


「人間族の商人、トール・ユーキよ。このディアボルスへオリハルコンの製造方法及び材料の一部、賢者の石を良くぞ持ち帰った。余が褒めて遣わすぞ」


 ああ、王に褒められるのは良い。

 問題はそこから先だ。

 王族の言葉は『金』に値するというから、このままの流れでは下手をすれば折角のオリハルコンを『献上』する事になりかねない。

 だけど俺は商人――はっきり言おう!


「この度、陛下からご発注頂いたオリハルコン、お約束通り納品させて頂きますが、代金の方はどのような形でお支払い頂けますか?」


 俺の切り返しにアルフレードルは渋い顔をした。

 そして意外な言葉を投げ掛けて来たのだ。


「代金とは異な事を……お前は既に我が娘イザベラを余から授かった筈だがな」


 おいおい、それは……違うだろう。

 俺はオリハルコンの代価にイザベラを嫁に貰ったわけではない。


「恐れながら申し上げます。我が妻イザベラは『物』ではありません」


「はははは、古来からそういった事は多々あった筈。今更何を申しておるのだ」


「もう1度申し上げます。イザベラはオリハルコンと引き換えに私が王から授かったものではありません。お互いが納得の上で夫婦となったのです」


「小僧……俺はな……同じ事を何度も言う事が大嫌いなのだ」


「それはよおく分かります! 実は私もですから!」


 謁見の間に一瞬の沈黙が流れる。

 空気がびしりと鳴った。

 俺とアルフレードル、お互いに怒りの為に発した魔力波オーラがぶつかり合い、共鳴しているのである。


 ここでジュリアが俺の袖を引いた。

 このままでは王とのやりとりが平行線になりかねないので彼女は冷静に落とし処を見極めようとしていたようである。


「トール、ここで王様と喧嘩してもしょうがないよ。そうだ! ソフィアに必要な情報と引き換えで良しとしない?」


 竜神族に覚醒してからジュリアの助言アドバイスは益々、冴えている。


 成る程!

 確かにそれは良い着地点かもしれない。

 今後の事を考えると確かにその方が良い。

 彼等悪魔はガルドルド魔法帝国と戦ったのだから、様々な情報を持っていると考えた方が良い。

 俺はついでにいくつかお願いをする事に決めた。


「分かりました、アルフレードル様。私が間違っておりました」


 強硬な態度をとっていた俺が、意外にも素直に引き下がったので、アルフレードルの機嫌も直って行く。


「今後もイザベラは大事に致します。つきましては寛大なるアルフレードル様に3つお願いが……」


「むう……申してみよ」


「はい、ひとつめはアモンの処遇です。引き続き私の従士としてお譲り頂けないかと」


「アモンか……奴は我が王国にとって大事な者だ。今回の件に関しては一切お咎め無しとして余が代わりの嫁の世話をする……これは決定事項だ」


 アモン……お前、よかったな。

 変な裁判なんかに掛けられず、お咎めなしなら万々歳だし、新しい嫁も世話して貰えるなら……今度こそ幸せになれるよな。


「2つめは?」


 おおっと!

 せっかちな王様だよ。


「はい、2つめはこの国に出入り自由の商人にして頂けないかと……そうすれば妻の里帰りも問題無くなりますから」


「うむ! 余も我が娘が帰国するのに一々、手間が掛かる事になってはかなわん。許可をしよう」


「お待ち下さい!」


 ここで待ったを掛けたのが宰相ベリアルである。


「いくらイザベラ様の夫とはいえ、我等が仇敵であるスパイラルの使徒やガルドルドの末裔をこの国に出入り自由にするとはいささかお気を許し過ぎではありませぬか?」


 そんなベリアルの言葉を聞いたアルフレードルはふっと笑った。


「ははは、ベリアルよ……折角、此度(こたび)の貴様の失態も大目に見ると申しておるのに……」


 唄うように低く呟いたアルフレードルであったが、キッとベリアルを睨むとちっと舌打ちをした。


「そこまで言うのであれば貴様をも罰せねばならぬ」


「な!?」


「今回の貴様の報告の不手際……事実と違う報告をずっと余へ入れおって……可愛い娘の行方や行動が気にならない筈があるまい。余とて水晶球でずっと見ておるわ……見損なうな」


「う、ううううう……」


 うぉ!

 ベリアルの奴、叱られてやんの。

 しかし、さすが悪魔王……貫禄があるよ。


「さあ、トール……3つめを申してみよ」


「えっと……旧ガルドルド魔法帝国の知識を受け継いだ魔法工学師に心当たりはありませんか?」


「……今の余とベリアルの話を聞いた上で、その願いを申すとはお前も大物だな」


 アルフレードルはにやりと笑った。

 多分、彼は水晶球で俺達の行動全てを知っているに違いない。

 ソフィアの野望やそれをいざとなったら俺が止めようとする事も見越しているのであろう。


「丁度良い……お前達に仕事をひとつ発注しよう。但し出発は7日後だ。イザベラの嫁入り道具の拵えとイザベラとトールにレイラの結婚式へ出席して貰うからな」


 神の使徒を悪魔族の結婚式に出席させる悪魔王など普通は居らぬわと、義父アルフレードルはまたにやりと笑ったのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!


※体調は未だ万全とは行きませんが頑張りますので何卒宜しくお願いします。

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