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第72話 「魔界入り」

  転移門に入ってからしばらくの間、暗く長いトンネルを潜ったような感覚が続いた後、視界がぱあっと開けた。

 今迄イザベラの故郷である『魔界』とは一体どのような場所であろうと常々想像して来た俺であったが、思った以上に荒涼とした風景に唖然あぜんとする。

 

 何せ大きな岩ばかりで、草木も殆ど無い砂漠が続く肌寒い雰囲気なのだ。

 大きな空は雲など一切無く、濃い紫一色であり、今は一応昼間にあたるそうだ。

 夜はやはり真っ暗になるのであろうか……


 以前読んだ本で、とある詩人が冥界を巡る有名な本があった。

 大昔に書かれた古典ともいえる作品だが、中二病の俺にとっては大好物の本であったから、何度も読み返したものだ。

 今、目の前に広がる風景はその本の中で紹介されている風景に似ていなくも無い。

 スパイラルが言っていた、この世界に俺が及ぼす影響とはこの魔界にも反映されているのであろうか?


 目の前には石畳となっている、そこそこ広い幅の街道が遥か彼方の地平線まで延びていた。

 俺が街道の先まで見通しているとアモンがぽつりと言う。


「この道をずっと行けば悪魔王国ディアボルス、王都のソドム……イザベラ様のお父上、悪魔王アルフレードル様がいらせられる街だ」


 はぁ!?

 悪魔王国ディアボルス?

 ソドムって、あの背徳の街、ソドムから取ったの?

 そして……イザベラの父、悪魔王アルフレードルが居るのか……

 オリハルコンの件もそうだが、着いたら直ぐに『挨拶』に行かないと不味いだろうなぁ……


「このような転移門から王都への道はかつてたくさんあったが、スパイラルによる転移門破壊に伴い、殆どが封鎖された。確かこの先には関所がある、そこで入国手続きをしてから王都の王宮に向かおう」


「そ、そうか。分かった」


 俺が納得して頷くと、アモンはまた「待った」をかける。


「その前にやっておく事がある」


「?」


 やっておく事?

 果たして何だろう?


「この魔界では悪魔以外に身体が順応しない者が多々居る。その為に魔法で悪魔化して貰う。我々が人間界では身体が順応しない為に人化するのと同じだ」


 へぇ!?

 悪魔が人化するってただ人間に化けて紛れ込むだけじゃあなかったのね。

 それにしても……悪魔化か……

 やってみたい!

 もしかしたら、邪神様に滅法怒られそうだがね。


 俺のウキウキした様子を見てアモンは、にやっと笑う。


「ふふふ、お前の考えている事などお見通しだ。必要がなければ魔法は使わないぞ!」


 ああ、やっぱりお見通しか!


「ははは、ただ覚えておけよ。人化や悪魔化とは単なる変身では無い。まあ根本は変身魔法の一種ではあるが、その土地に順応するという趣旨だから、ただ化けるだけとは意味合いが全然違うのだ」


 彼はそう言い放つと、直ぐに元の不機嫌そうな『怒れる悪魔アモン』の表情に戻ったのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺達は石畳の街道を進んで行く。

 アモンが確認したところ、結局は誰も悪魔化の魔法は無用という事になり、皆そのままで進んでいる。

 今迄1番ノーマルな人間に近かったジュリアも竜神族の覚醒を経て、超人的な能力が身に付いたという事らしい。

 ちなみにソフィアは自動人形(オートマタ)だから冥界の瘴気も全然平気だそうだ。

 

 暫く歩けど歩けど、周囲が砂漠と岩ばかりの代わり映えしない風景で続いていたが、その先にやっと黒っぽい建物が見えて来る。


「あれが関所だ」


 アモンが呟くと俺は即座に反応した。


「という事は……あそこにケルベロスとかオルトロスとかが居るの?」


「ははは、トールは良く知っているな。だが残念ながら奴等はあそこには居ない。ここはイレギュラーの悪魔専門の出入り口で彼等が居るのは正門だ」


 正門には居るんだ……

 っていうか、実在するんだ、2頭とも。


 しかし!


 『関所』に近付くにつれて不穏な気配が漂って来る。

 これは……この禍々しい大量の気配は……おびただしい悪魔の軍団だ。


 俺の目が『関所』前に整列する悪魔の一隊を捉えた。

 真ん中に将校らしい悪魔が腕組みをして仁王立ちをしている。

 アモンほど、魔力波オーラは強くはないが、結構な大物だ。


 俺が待ち伏せがある事を告げるとアモンの顔が辛そうに歪む。

 どうやら何かやばい事になりそうだ。

 そうこうしている間に俺達はとうとう関所の前に到達した。


 やはり関所の前には1,000体以上の悪魔が(ひしめ)いていた。

 いわば悪魔軍団って奴か!

 しかし不思議な事に俺はあまり恐怖を感じなかった。


 俺達が近付くと、先程遠目から見た悪魔がしわがれた声を張り上げる。

 見た目は白髪と長いあごひげをたくわえた、老人であった。

 しかし目付きが完全にどこか明後日の方向にいってしまっている。

 つまり狂気の眼差しという事だ。

 その悪魔が吠える。


「悪魔将軍、アモン侯爵よ! そなたは神の使徒にあっさりと負けた挙句、婚約者のイザベラ様を奪われた……その罪、言語道断である。よって悪魔裁判に掛けられて、相当の刑を受けさせるものとする」


「…………」


「そこの神の使徒及び他2名に告ぐ! ……イザベラ様を置いて退けば今回だけは許してやろう。無論、オリハルコンのレシピと賢者の石は置いて行って貰う」


 ……何だ、それ?

 あまりにも一方的で無茶苦茶な話じゃあないか?

 俺は相手の悪魔の言い方に沸々と怒りが湧いて来た。


「よせ、トール……いくらお前でも相手の数が多過ぎる」


 アモンが俺の怒りの波動を感じたのだろう。

 俺を止めようとした。

 しかし俺はこのまえゴッドハルトと戦ったタイマンの事を思い出していたのだ。

 相手のリーダーを潰せば有利に進められる可能性は大きいと!


「おい、そこの糞じじい。俺に負けたアモンを偉そうに非難するのなら、俺にタイマンで勝ってみせろ。お前が勝負を受けないのなら、逃げたとみなして、ここに居る悪魔を全て殺す……俺は本気だ」


「何……糞じじいだと!?」


 悪魔の顔色が変わる。

 いかにも高慢そうな老人の風貌をした悪魔は俺の言い方に恥をかかされたと思ったのであろう。

 悪魔の周囲には禍々しい瘴気が立ち昇ったのだ。

 しかし俺は既に相手を見下ろしている。

 だってこいつはアモンより弱いって事は……図式として俺、楽勝だもの。


 待てよ!

 こんなふうに盛り上がった時って……

 あいつ……いきなり乱入して来るのだものなぁ……


『ははっ! あったり~! そりゃそうさ! 君がこんなに面白い事するからね! 短気で好戦的な僕の性格に染まりつつあるよぉ! やっちゃえ、やっちゃえ!』


 やっぱり出たか!

 

 でも今の俺は怒り心頭でこの邪神様なんかには構っていられない。

 しかしスパイラルは俺が無視するのもお見通しらしくて、構わず喋り続けた。


『あらぶる闘神スパイラルの使徒、トール・ユーキってとこだね。かっけ~、でもね、ちょっとは冷静になった方が良いよぉ!』


 冷静になれ!?

 勝手に煽っておいてそれはないでしょ!


 しかしスパイラルは俺の考えなど無視して勝手に話を進めてしまう。


『そうそう、相手は戦鬼アモンよりはだいぶ落ちるけど、仮にも悪魔の騎士だよ。今の君には奥さんが2人と候補生も1人居るんだから、それも考えて戦わないとね』


 奥さんが2人と候補生も1人ってぇ!?


『今の所は未だ自動人形(オートマタ)だけどさ、本来の身体に戻れば、君のお嫁さん候補だよね』


 それって、まさかソフィアかい!

 スパイラルとの念話は当然悪魔には聞こえない。

 俺が無視しているように見えたらしく、悪魔は癇癪かんしゃくを起している。


「おのれ! 人間ふぜいめ! 先程、自分から決闘を申し込んでおいて何をぶつぶつ言っておる! よかろう! この勝負受けてやるわ!」


 怒りの余り、大声で叫ぶ悪魔だが、風貌が老人のせいか迫力に欠ける。

 悪いが……アモンと違って全然迫力が無い。

 油断するつもりはないが、余裕をもって対峙出来るのは嬉しい。


「儂は悪魔騎士、フルカス! ひ弱な人間のお前など我が槍の錆びにしてくれるわ!」


 お~、お~、いきり立っちゃって!

 でも槍か?

 初めて戦う武器だ。

 振り返るとアモンが黙って頷いた。

 

 俺は魔剣を抜いて正眼に構えると、悪魔を睨みつけたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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