第66話 「残念な王女」
俺達はソフィアをクランの仲間として受け入れる事を決めた。
表向きは今後の冒険及び商売のが理由だが――本当は世界滅亡を回避をさせる為だ。
このコーンウォール遺跡にはソフィアの本当の身体が眠っている。
ソフィアの当面の目的はこの身体に自分の魂を戻す事だ。
それまでは大事に身体を保管して貰う必要がある。
そこで俺達は親衛隊であるゴッドハルト達に対して彼女の本当の身体と、この遺跡の守護を託して再び地上に戻る事にした。
ゴッドハルトは彼等の主、ソフィアの面倒をみるという俺の好意に感謝してくれたようである。
「トール殿、姫様ノ事クレグレモ宜シク頼ミマスゾ! 何卒、何卒」
何度も何度も繰り返して頼むゴッドハルトは果たしてソフィアの真意を知っているのだろうか?
もしかしたらそれも含めての「頼み」かもしれない。
そんなゴッドハルトは随行出来ない自分の代わりに「プレゼント」をくれるという。
彼が抱えて現れた機体を見てソフィア以外の者は驚いた。
それはゴッドハルトの機体である滅ぼす者のひとつ前の試作機であったからだ。
大きさは人間に近い体長2mほどで、ゴッドハルトの1/3くらいの性能を持っているという。
桁外れに強力なゴッドハルトほどではないが、装甲に関しては鋼鉄の巨人以上の頑健さを誇り、歴戦の戦士並みに鋼鉄の剣を振るう。
ゴッドハルト同様に様々な擬似魔法を発射出来る射出装置も備えた万能戦士だ。
試作機はゴッドハルトに勝っている性能もあった。
それは俊敏性だ。
吸入口から取り入れた空気を足裏から噴出し、高速で移動する事が出来るというのだ。
こうなると『ゴーレム』というより、まさにどこかで見た『ロボット』である。
問題はこの試作機の中枢部だが、滅ぼす者や鋼鉄の巨人などと違って人間の魂を使うものでは無い。
主人の魔力波を登録して、その指示通りに動く魔法水晶が搭載されていたのだ。
そして『燃料』は魔力であり、一定時間充填しておけば稼働する。
魔力を『電池』に置き換えれば分かるだろう。
だが『操縦者』が必要であるこの機体は、当時の上層部からその有用性を否定され、やはり人間の魂を使用する機体に切り替えられてしまったという。
ゴッドハルトはこの機体を俺に託す意図を改めて強調する。
「俺達、帝国第7騎士団ハ貴方ノ部下ニナルト約束ヲシタガ、残念ナガラ果タセナイ。ソコデ代ワリニ、コイツヲ託ス」
ゴッドハルトの放つ、この魔力波は……
彼の魂には一切の嘘は感じられない。
俺は彼の男気に感動してありがたくこの試作機を受け取ったのである。
当然、この試作機には俺の魔力波を登録して貰い、目の前で起動して貰う。
一通りの『操縦方法』を教授して貰った後に、俺はこの機体を収納の腕輪に仕舞ったのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
こうして俺達、クラン戦う仲買人は地上に向けて出発した。
名残惜しそうに見送るゴッドハルト麾下第7騎士団の連中の姿が見えなくなると、ソフィアは改めて自分の持ち味を強調し始める。
彼女の語る内容は、はっきり言って自慢そのものだ。
「お前達は本当に幸運じゃ! 妾は創世神から祝福された最高位の巫女じゃからの」
家臣にかしずかれて生きて来たソフィアは、やはり自分が中心でなければ、気が済まないのだろう。
俺達が黙って聞いていると、ソフィアの口調はますます熱を帯びて来る。
「まず豊かな魔力量は魔力枯渇などの心配は一切要らぬ。行使出来る魔法じゃが、回復魔法は治癒から解呪まで全て問題なく行使出来る。防御魔法もお手のものじゃ。お前達下僕……いや、な、仲間をしっかり守ってやれるぞよ」
つい口が滑ったのだろうが、相変わらず俺達を下僕だと考えているようだ。
当然、俺達もソフィアの話を適当に聞き流している。
「ふ~ん……あっ、そう……」
「ふ~ん……あっ、そうって……妾の類稀なる才能の説明をしているというのに反応が薄い奴じゃな。そうそう知識も相当じゃぞ、何せガルドルド帝国魔法大学を首席で、それも僅か15歳で卒業したのだからな」
ふ~ん、15歳で大学卒業ね?
数千年前の知らない国の学校制度なんて分らないから何とも言えないや。
ここで俺は直球を投げてやる。
「で、ソフィアさあ、お前は結局は今、何歳なの?」
「な!? わ、わ、妾の年齢をいきなり聞くのか!? し、失礼じゃぞ! 乙女の年齢を聞くなど!」
いきなり年齢を聞かれるというのは、どの時代のどんな女性でも嫌だし、失礼にあたるらしい。
「……分かったよ、もう聞かない。別に興味無いからさ」
「ううう、17歳じゃ! 興味無いとはどういう事じゃ!」
「だってさ、お前は数千年前の人間だろう? そうしたら……」
「え、ええいっ! その先を言うでないわぁ! 今の時代を考えるな。妾が眠りについたのは17歳! だからその時から年齢を重ねるのは無しじゃ!」
むきになって否定するソフィア。
はっきり言ってうざい。
地団太を踏む彼女を置いてめでたし、めでたし……って俺が手を振って出口に向かうとソフィアは必死になって追いかけて来たのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ソフィアはどうしても自分の存在感をアピールしてクランの主導権を握りたいらしい。
それには俺に認めて貰うのが1番だと考えたのだろう。
早速、自分の力を発揮したいと申し入れて来たのである。
「トールよ、ここで妾が役に立つ所をしっかりと見せておこうぞ。良いか? 妾が素晴らしい魔法を発動するからな」
「はい、はい、どうぞ」
俺の醒めた返事にソフィアの怒りの波動が伝わって来る。
「トール、お主という奴は妾を全く信用しておらぬな」
ソフィアは6階から5階に上がる階段の入り口で腕組みをして立ちはだかっている。
そりゃ信用していないよ。
俺達を下僕にして世界征服を狙っている子だもの。
ソフィアは俺達を忌々しげに睨むと言霊の詠唱を開始した。
いわゆる創世神の魔法式という奴らしい。
「我は知る、神の力を! 天の御使いよ、我が願いを聞き給え! ビナー・ゲブラー・ネツアク・ホド」
ソフィアは言霊を唱えると一瞬の溜めをもって決めの言霊を言い放つ。
「門!」
何の魔法だろう?
これ?
そんな事を考えているとアモンが感嘆してソフィアを褒めた。
「ほう! 大したものだ。これは迷宮に隠された転移門を開く魔法だ」
「ほほほ、悪魔よ! そなたは分かっておるな、流石じゃ。 ええと名は……」
「アモンだ……」
「そうか、アモンか! お前は妾の力を評価してくれたようだな。聞いたか、トールよ。下賎な低級悪魔でさえ妾を理解しておるというのに、人の子のお前が何故分かろうとせぬ。おかしいぞ?」」
「…………」
あ~あ、
下賎な低級悪魔でさえ……とか余計なひと言を言わなければ良いのに。
アモンのいらいらっとした波動が見える。
まあ、良いや。
「分かったよ、ソフィアは偉い。で、その転移門とやらを使ってどうするの?」
「むう、とってつけたような褒め方じゃの……」
ここで見かねたジュリアがソフィアを擁護する。
「トール、ソフィアもよかれと思って一生懸命やっているみたいだし……ここはちゃんとお礼を言おうよ」
「おおお、卑しい下民の娘よ。良く言ってくれた! そうじゃ、よかれと思ってしているのじゃ!」
「…………」
また余計なひと言が出たよ。
折角のジュリアのフォローだったのに「卑しい下民」とか言うから恩を仇で返すようなものだ。
しかも当のソフィアだけが自分の失言に気付いていない。
『トール……いい加減、この馬鹿な木偶人形、殴って良い? 思いっきりグーパンで?』
傍らで話を聞いていたイザベラもとうとう堪忍袋の緒が切れたらしい。
不快そうに眉間に皺を寄せ、念話で怒りの感情を伝えて来たのであった。
ここまでお読み頂きありがとうございます!




