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第64話 「王女の事情」

「ひとつ聞きたい! お前達の中に我がガルドルドの魔法工学師の血を、もしくは知識を引き継ぎし者はおらぬか?」


 それは(すが)る者の必死な叫び。

 先程の慌てぶりからすると、ソフィアの身に何かトラブルが起こったに違いない。

 だが当然ながらというか、俺達は勿論、アモンでさえガルドルドの魔法工学の知識は有していなかった。

 ソフィアの言葉を聞いて、アモンは遥か昔の記憶を呼び戻したようである。


「悪いな……我々が勝ってお前達の王宮を占領した時には貴重な魔法設備や資料などは、あらかた破壊、廃棄されていたのだ」


「そうか……」


 うつむいて呟いたソフィアであったが、何か思い出したのか、ハッとしてアモンに向き直った。


「そこな悪魔! お前の言う通りであれば……冥界大戦はお前達悪魔の勝利のようだが?」


「俺の名は悪魔侯爵アモン。お前の言う通りだ、お前達が冥界大戦と呼ぶ(いくさ)は俺達悪魔が勝利したのは間違い無い」


 きっぱりと言い放つアモンの言葉はソフィアには相当、こたえたようだ。

 無理もない。

 目の前に故国を散々蹂躙した上に、滅ぼした相手が居るのだから。


 しかしソフィアは気丈にもアモンを問い質す。


「では皇帝である兄上は? そして我がガルドルド魔法帝国は現在、どうなっておるのだ?」


 その問いに答えたのは、この世界の各地の情勢を知るジュリアである。


「残念ながら……貴女の国は数千年前、とうに滅んだわ。今は同じ名前の国があるけど現在の統治者が昔の貴女の国の繁栄にあやかってつけただけで直接は何の関係もないのよ」


「う、嘘じゃ…………」


 厳しい現実を突きつけられて無言になってしまったソフィア。

 俺はとりあえず戻る事を提案した。


「話が長くなりそうだから、一旦表に出よう。ゴッドハルトも待っているだろうからな」


 俺がゴッドハルトの名前を出すとソフィアは色めきたった。


「ゴッドハルトじゃと!? その名は(わらわ)の親衛隊である騎士団の団長の名じゃぞ! か、彼が外に居るのじゃな?」


 俺は黙って頷くとソフィアがとんでもない事を要求して来た。


「よし! トールよ! そこまで妾を背負って行け!」


 出たよ……

 しかし彼女が王女ならば、周囲にかしずいた臣下に対して、雑務を命じるのは決して不自然ではないだろう。

 だが俺はソフィアの家来や下僕ではない。


「どうした? 何をしておるのじゃ? ガルドルドの可愛い王女を下賎な者が背負えるのじゃぞ、光栄であろうが?」


「……う~ん、お前の事は可哀想だと思うが……断る!」


「な、何故じゃ!?」


「悪いが俺はお前の下僕じゃない。どうせ、俺達は地上に帰るが、お前と部下達は今後もこの地で暮らすのだからな。背負ってくれとか、そんな事は部下であるゴッドハルトにでも頼むが良いさ」


「ううう……」


 そんなやりとりをした上で俺達は玄室の外で待つゴッドハルトの下に戻ったのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ヒ、姫様! 何ト言ウ!」


 自動人形(オートマタ)の姿で出て来たソフィアにゴッドハルトは嘆く。

 ゴッドハルトはソフィアがどのような姿で眠っているか、知っているから何かトラブルがあったとも理解しているのだろう。


「そちこそ……とうとうその最終型の機体にその魂を移したか? クラウディアとシャルロッテはどうした?」


 ソフィアがゴッドハルトに問う名前は彼の身内――家族であるらしかった。


「……我ガ妻子ハ、姫様ヲ守ル為ト伝エタラ、快ク送リ出シテクレマシタ。アレカラ数千年ガ経ッタヨウデスカラ、今ハモウコノ世ノ者デハアリマスマイ」


 機体から発せられる合成音声的な抑揚の無い言葉の筈なのに、俺には何故か悲しく聞こえて仕方がなかった。

 それはどうやらソフィアも同じ気持ちのようである。


「……そうか、そなたの忠誠はしかと受け取ったぞ。では妾が改めて命じよう。この者達を制圧せよ!」


 何だと!

 いきなり出た俺達への攻撃命令!

 やはりソフィアは主導権を握るチャンスを窺っていたのだ。


 俺達は本能的に思わず身構えたが、ゴッドハルトは微動だにしない。

 信じられない状況にソフィアは驚愕する。

 忠実を旨とする自分の親衛隊の長が言う事を聞かないのだから当然であろう。


「ななな、何故じゃ!? ゴッドハルトよ! 何故、わらわの命令が聞けないのじゃ!?」


「姫様! オ聞キ下サイ! 私ハ、コノトールニ真ッ向勝負デ完敗シ、命マデ救ワレタノデス。我等ハ戦ウ前ニ約束ヲシマシタ。負ケタ方ガ傘下ニ入ルト! ソノ上姫様モ、ソノ機体ニ居ルトイウ事ハ、トールニ命ヲ救ワレタノデハナイノデスカ?」


 ゴッドハルトに人の道に外れて良いのか?と聞かれたソフィアは思わず俯いてしまった。


「ううう……」


「我々ガルドルド人ハ誇リダケハ捨テラレマセン。例エ姫様ノ、ゴ命令デモ、トール達ヘ手ヲ出シタラ外道ニ堕チテシマイマス」


 ゴッドハルトに諭されたソフィアは、さすがに堪えたようである。

 彼女はその場にがっくりと膝を突いてしまったのだ。


 30分後――差し支えないレベルと言う前提でだが、俺が自分達の素性を始めとして、それをアモンやジュリア、イザベラが補足するという形でソフィアに対して現状の説明が行われた。

 所々、ゴッドハルトも説明を入れる。

 当然、説明する側もお互いに知らない事も多かったから、知識や情報を共有する意味合いもあるのだ。


 それが終わると今度はソフィアから説明が行われた。

 やはりあの古代文字がびっしりと書かれた円筒形の長いカプセルは彼女のひつぎだそうだ。

 しかも驚いた事にあのカプセルの中には数千年前の彼女の肉体がそのままの状態で眠っているという。


 長い眠りについていたソフィアはある時、目覚めてふと魂のみで抜け出る事が出来るようになったようだ。

 

精神体アストラルボディという奴じゃな……」


 俺の知識で言えば幽体離脱みたいなものだろう。


 ソフィアはこの墓所から出て、あちらこちらを自由に行動しようとしたが、不思議な結界があり、玄室の外には一切出られなかったそうだ。

 しかし遠くまで見通せる能力や対象者に話しかけられる能力はあったので、迷宮に入って来た人間達の魂に触れて念話で話す事はしていたのだ。

 彼女は俺に対してしたのと同じ様に、身分を隠して正体不明の声として呼びかけていたのである。


 だが話しかけられたのは一攫千金目当てのいいかげんな冒険者ばかりで、俺達が来るまでは碌な人間が居なかったという。


 それでもソフィアは冒険者達から断片的な情報は集める事は出来た。

 彼女は慎重な性格で、冒険者から得た情報自体を頭から信用しなかったので、正確な情報の収集と親衛隊以外の新たな人間の下僕を得たいと思うようになる。

 そして5階のボスであるミノタウロスが倒された場合、連動して魔法の扉が出現するように仕掛けをしたのだ。


 だがある日、アクシデントは起きた!

 棺の機能に故障が発生して、彼女の肉体自体が崩壊する危機に陥ったのである。

 

 彼女は焦った。

 棺の機能により維持されていた生身の肉体の崩壊が進み、それに比例し魂も崩壊して行くからだ。


 しかし彼女にも生き延びる方法があった。

 ゴッドハルトの機体、滅ぼす者(デストロイヤー)と同様に旧ガルドルド魔法帝国は人間に極力近い構造で永遠の生命を持つ究極の自動人形(オートマタ)を開発していた。

 それもソフィアをモデルとし、寸分違わない機体を造りあげたのである。

 生き延びる方法とは、その自動人形(オートマタ)に秘法を使って自らの魂を移す事だ。


 但し、それにはいくつかクリアしなければならない条件があった。

 玄室にある仕掛けにより隠された自動人形(オートマタ)を秘密のキーワードである創世神の言霊の詠唱で出現させられる者、崩壊寸前の自分の魂の修復も必要だという厳しいものである。


 そこにたまたま現れたのが創世神の息子スパイラルの使徒で魂を一時的に修復出来る魔道具『反魂香』を所持した俺であったのだ。


「ふ~ん……まあ、お前の命が……いや、魂かもしれないけど、助かってよかったじゃあないか?」


「…………」


 俺の問い掛けにソフィアは無言であった。

 まあ、良い。

 後はゴッドハルトにオリハルコン錬金の秘法を聞くだけである。

 それでミッションは完了するのだ。


 ――30分後


 俺達は希望した通りに、ガルドルド帝国の秘伝であるオリハルコン錬金の方法をゴッドハルトから取得した。

 俺が聞いても難しい方法だが、悪魔王国には凄腕の錬金術師達が居るという。

 技術習得や加工は彼等で何とかなるらしい。

 イザベラの話では他に必要な金属素材も揃えられそうだ。

  

 そして錬金に必須と言われるキーアイテム『賢者の石』は俺が持っている。

   

 やはり俺への内なる声は運命の指標だった。

 結果的にこの『賢者の石』と『反魂香』は共に売却しないでよかったというオチなのだ。


 よっし、パーフェクトだ!

 俺達はこの迷宮での目的を完全に果した。

 後はイザベラの実家である『悪魔の王国』に急ぎ向かうだけである。


 俺達はおもむろに立ち上がると、ソフィアやゴッドハルト達に別れを告げた。


 ゴッドハルト麾下、鋼鉄の巨人(ソルジャーゴーレム)達が俺の配下にはなったが、よくよく考えたら彼等を地上に連れてはいけないし、元通りここでソフィアの事を守護する存在であった方がお互いの幸せの筈だ。

 

 俺達は早速、迷宮の5階に繋がる通路の入り口へ向かおうとした。


「待って! 待ってたもれ! 妾も一緒に連れて行って欲しいのじゃ」

 

 するとそれを見て決意したように、今迄無言で固まっていたソフィアが大声で叫んだのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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