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第62話 「墓所の奥で」

 中身はガルドルド魔法帝国騎士であり、今は滅ぼす者(デストロイヤー)のゴッドハルトを先頭に俺達は王宮風に建築された巨大な墓所の中を進んで行く。

 ゴッドハルトによれば、この建物の1番奥に旧ガルドルド魔法帝国の王女、彼のいう姫君が眠っているという。


 だがここに疑問がある。

 眠っているといってもガルドルド帝国が滅びたのは数千年前……

 その姫君はもうとうに亡くなっている筈なのだ。

 俺達がこんなに急いで玄室に向って、何の意味があると言うのだろう?


 しかし、泡を食って先に進むという感じがぴったりなゴッドハルトの様子は尋常では無い。

 そんな彼の悲愴な姿に俺達は口を挟む事は出来なかった。

 確かなのはゴッドハルトとの約束を果せば、伝説の金属であるオリハルコンの錬金方法を教えて貰う事が出来るので、イザベラから頼まれたオリハルコン獲得のミッションが完了する事だ。


 墓所の巨大な門を開いて中に入った俺達だが、最初の部屋には特に何も無かった。

 しかし次の部屋にはゴッドハルトを小型化したようなシルバーメタルゴーレムが何体も待ち構えており、彼等は同胞?のゴッドハルトに対しても構わず、一斉に攻撃しようとする。

 多分、この墓所に侵入した者は敵味方構わずに、問答無用で殺せと設定されているのであろう。


 しかし先頭に立つゴッドハルトの盾役(タンク)としての力はもの凄い。

 両手を交差させて防御の姿勢を取ると、相手からの擬似魔法などは呆気なく弾いてしまうし、シルバーメタル製の頑丈そうな敵をたった一撃で豆腐のように軽々と粉砕する剛力を見せ付ける。

 さすがは旧ガルドルド魔法帝国の『最終兵器』だ。

 その様子を見ていたジュリアが呆れて、「ほう」と溜息を吐いた。


「はぁ……あのさ、トール……良く、こんなのに勝ったねぇ……」


「本当にそうだよねぇ……」


 相槌を打つイザベラも含めて……こいつらめ!

 こんなのに良く勝ったってしみじみと言うお前等、相変わらず人事(ひとごと)みたいだなぁ……


 それから1時間も歩いただろうか?

 主にゴッドハルトが襲い掛かる敵をお掃除していたから、俺達にはまだまだ余力がある。

 1時間歩くといえば少なくとも約3キロ以上は歩いているだろう。

 これだけを見てもこの墓所がとてつもなく広いのが分かるというものだ。


 そしてまた歩く事、10分――


 俺達はようやくこの墓所の最後の部屋、つまり王女の玄室の前に辿り着いた。

 その部屋の入り口は思ったよりずっと小さく、天地左右で2m四方ほどしかない。

 はっきり言って約5m近い体躯を誇るゴッドハルトの入室はとても無理である。

 

 ゴッドハルトも当然それは分かっているようで、俺に指示を入れて来た。


「ココカラハ、トール、オ前達ダケデ進ンデクレ。俺ノ身体デハ部屋ニ入レズ、姫様ノゴ様子ヲ確カメルノハ無理ダ……鍵ハ今アケル」


「分かった……」


「出来レバ、悪魔達モ控エテクレ。姫様ニハ刺激ガ強過ギル」


「う~、ケチ!」

「良いだろう、俺達は彼等から見れば不倶戴天の敵だったからな」


 ゴッドハルトにそう言われた悪魔2人の反応は対照的だ。

 イザベラは苦々しげに舌打ちをし、アモンは納得したように頷いたからである。


「じゃあ、俺とジュリアで行こう。ゴッドハルトを信じてはいるが、2人とも何かあったら直ぐ来てくれ」


「了解! 直ぐ呼んでね」


「了解だ」


 俺が直ぐフォローをしたので、イザベラは即座に機嫌を直す。

 いつも通り寡黙なアモンの表情は変わらない。


 ゴッドハルトが手を伸ばして、これまた鋼鉄製の扉を開く。

 不思議なのは鋼鉄なんてあっという間に錆びるのにここでは全然錆びていない。

 やはりゴーレムの鋼の加工同様、魔法帝国の技術の賜物だろうか?


 俺はジュリアを後ろに(かば)いながら、開いた入り口から恐る恐る中に入って行ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 入った玄室は20畳ほどの部屋であろうか、建物の全体の広大さを考えると思ったより狭かった。

 密閉された狭い空間だが不思議な事に空気は殆ど澱んでいない。


 物入れっぽいロッカー? らしき物が立ち並び、1番奥には表面に古代文字がびっしりと書かれた円筒形の長いカプセルのような物が鎮座していた。


 あのカプセルが王女の棺だろうか?


 俺達が2歩、3歩足を踏み入れた時であった。

 またもや俺の(こころ)に、暫く聞こえなかったあの女の声が聞こえて来たのだ。


『た、たす……けて……このままでは……(わらわ)の魂が……き、消えて、し、しまう』


 え!?

 誰もいないのに、誰かの気配がする!

 この声の主が王女なのだろうか?

 しかし、一体どうすれば良いんだ?


『そ、そなたが……持っている……その……東国の……』


「東国!?」


 俺は思わず声に出した。

 しかし、ジュリアには王女らしい声が、やはり聞こえていなかったらしく、俺の顔を見てぎょっとする。


 う~ん!?

 そ、そうだ!


 少し考えた俺にひらめくものがあった。

 『あれ』を使うのだ。

 名品珍品の店の主人サイラス・ダックヴァルからサービスで貰った珍品『反魂香はんごんこう』を部屋の中央に置いて焚けば良いと、内なる声が囁いたのである。


 確か反魂香とは、死線を彷徨う重態の病人を回復させたり、肉体から離れたばかりの死者の魂を呼び戻す魔道具(マジックアイテム)だと記憶していて、俺自身で鑑定したものだ。

 そして絶対に売るな!と例の勘が確信に近い形で俺に働きかけた因縁の商品である。


 俺は指示通り、部屋の中央に反魂香を置くと、香を焚く為に生活魔法を発動し、指先に小さな炎を出して反魂香に火をつけた。

 火がつくと同時に何とも言えない独特の香りが辺りに漂う。

 軽い眩暈(めまい)に襲われた俺は直ぐにその場を少し離れてジュリアを抱き寄せた。


「きゃっ!」


 小さな悲鳴をあげたジュリアは、俺に確りとしがみつき、玄室内の異様な雰囲気に怯えている。

 部屋の中央に置かれた香から出た、独特な香りのする煙が部屋中に篭もり、その一部は外に洩れだす。

 そんな玄室の危さを感じたのであろうか?

 ゴッドハルトが大声で制止するのを振り切って、イザベラとアモンの2人も玄室へ飛び込んで来たのである。


 嬉しかったのはアモンが俺達の前面に出て盾役として3人をしっかりと守ろうとした事だ。

 普段は教師然として、俺を小馬鹿にするような態度を取りっぱなしのアモンがである。


『情けは人の為ならずって言うのは、まさに君が悪魔王女様を助けている事に他ならない。お陰でそこに居る悪魔侯爵君でさえ、君に友情って奴を感じているじゃないか』


 神――スパイラルの声がリフレインする。

 悪魔侯爵アモンが俺に友情を感じているのは間違い無い。

 いや友情と言うより、出来が悪い可愛い弟のように見ているのだろう。


 ん!?


 そういえば、いつの間にかあんなに苦しがっていた王女らしい声が消えている。

 でも、王女が死んだら悪霊って事だし、これは悪魔の管理する範疇では?


 俺がそのような事を考えているとまた頭の中に、あの声が聞こえて来た。


『ふう~。助かったぞ、我が忠実なる下僕よ。ん!? 何だ? お前達の中に悪魔が居るではないか! おぞましく汚らわしいわ! ええい、出直して来るがよいわ!』


 何だ、この高慢ちき王女は!?

 俺達はこいつの下僕ではないし、助けた礼も(ろく)に言わずにいきなりこれかい!

 まあ、良い。

 王女の命を救った?のだから、これでゴッドハルトとの約束も果せたであろう。

 彼から『報酬』を貰えば良いし、このような場所にもう用は無いのだ。


『分かったよ、じゃあな!』


 俺は未だ戦闘態勢を解いていない3人に対して危険は無いと伝えて、さっさと玄室を出ようとした。


『ま、待てっ! 我が下僕よ、ほ、本当に出て行くのではないだろうな?』


『悪魔が居たら嫌なんだろう? もう出て行くよ、当り前だろう?』 


『待てというのに! 悪魔が居ても構わん! い、今、姿を見せる! だから待つのじゃ!』


 必死で俺達を引き止める王女とおぼしき声。

 口調からすると、結構なお年を召したお姉様だろうか?


 やがて立ち昇る『反魂香』の煙の中に1人の少女が浮かび上がる。


わらわの姿が、み、見えるか!? 妾こそが偉大なるガルドルド帝の妹であり、創世神の巫女ソフィアじゃ』


 それが旧ガルドルド魔法帝国の王女ソフィア・ガルドルドと俺達の初めての出会いだったのだ。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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