第61話 「約束の履行」
俺は一体どうなったんだろうか?
頭がぼうっとしているので、順を追って思い出すとしようか……
ええと……そうだ!
ガルドルド魔法帝国の巨人、滅ぼす者とタイマンして、苦労して勝って、倒れた相手が自爆しそうになって、動いていた自爆装置を止めようとして奴の擬似魔法の射出孔から魔力波を差し込んで止めたのだっけ?
そうか!
こうして皆が無事だと言う事は自爆装置は発動しなかったんだな……
よかったぁ!!!
俺は途切れていた記憶を呼び覚まし、今の状況を把握し終わると、とりあえずホッとした。
しかし身体が強張ってまだ思うように動かない。
そんな俺を見守りながらアモンが呆れたように言う。
「お前はオークと戦った時と同様に、体内の魔力が完全枯渇する一歩手前だったからな。俺やイザベラ様の魔力を注いで、結構な量を補填したのだが、お前の『器」が大き過ぎてまだまだ魔力容量の満杯にはほど遠いんだ」
魔力の完全枯渇、一歩手前……か……
まあ『器』が大きいなんて凄く褒められているようで光栄だ。
しかし俺の口元には皮肉とも思える笑みがこぼれる。
やっぱりこの大技は最後の切り札としてしか使えないのか……
次回こそ、威力を落としても良いから、もう少し制御して使ってみよう。
「しかし、滅ぼす者が爆発しなくて良かったなぁ」
そっと呟く俺の言葉を聞きつけ、鋼鉄の巨人達が音を立てて膝を地に着けると、一斉に跪いた。
一騎打ちで勝った場合に取り交わした約束は、何とか履行されそうである。
鋼鉄の巨人達の中でも腕に黒い輪が記された機体が一歩前に出て、くぐもったような言葉を発する。
どうやら『彼』が副隊長格らしい。
「私ハ、フランツ。ゴットハルト様ノ部下デス。コレカラ我等、ガルドルド魔法帝国第七騎士団ハ、決闘ノ際ニ取リ交ワシタ約束トオリニ、トール様ニ、タイシテ忠誠ヲ誓イマス」
おおっ!?
もしかして、この鋼鉄の巨人達が俺の部下になるの?
ええと、彼が言うゴットハルト様って、もしかして?
やはりだ。
先程、俺が倒した新型機体の滅ぼす者が『ゴッドハルト様』という名前らしい。
多分、この第七騎士団の指揮官で団長か何かなんだろう。
そんな話をしているうちに俺の身体に力が漲って来る。
どうやら体内の魔力がある程度、回復して来たようだ。
まず俺は手足を動かしてみる。
指先は……ええと、動いた。
良いぞ!
次は手全部、腕……
足も……同じ様に動かす。
順調だ、何とか行けそうだ。
腹筋も背筋にも力が入るぞ。
もう大丈夫だ!
俺は少しずつ力を入れながら、とうとう立ち上がった。
何か大昔の凄く有名なテレビアニメで極秘の白い陸戦兵器が立ったようなシーンだが、あのような素晴らしい感動は……残念ながら全く無い。
「「トール!」」
だが、俺にはそのような感慨は無くても『妻達』は違ったようだ。
俺が立ち上がったのを見てジュリアとイザベラが抱きついて来たのである。
イザベラなんて「オリハルコンが欲しいの」なんて言っていた癖に一応心配だったのね。
ただ彼女に遠回しに言ったら泣いちゃった上に睨まれた俺であった。
そんな事をしているうちに……
ガッシュウ!
凄い起動音が突然周囲に響く。
俺は吃驚して、音のした方を見た。
何と俺に破壊された筈の滅ぼす者が復活している。
ええっ!?
これって……
完全に倒していなかったのか、それとも自動修復装置でも内臓しているのか……
まさか、こいつにいきなり襲われるなんてないだろうな?
まあ皆、誇り高い騎士らしいから一騎打ちの勝利者が得た約束は守るだろう。
思い出した!
確かゴットハルト様とかいう名前だっけ。
俺は先手を打って自分から話し掛ける事にした。
こういう時は当然、相手に配慮するような物言いが肝心だ。
「俺はトール・ユーキ、あんたと戦えて光栄だよ」
「…………ソウカ、オ前ガ俺ヲ破壊シタノアノ技ハ……俺ノ勘ガ間違ッテイナケレバ……オ前ハ……イヤ、止メテオコウ」
ゴッドハルトが一体何を言いたいのか、俺には直ぐ分った。
彼が受けた魔力波は特殊なもの、いわゆる『神力』である。
ゴッドハルトは今迄に神力を持つ者と戦った経験を持っているのに違いない。
その力により一旦内部を破壊されたゴットハルトには、俺がいずれかの神の使徒だと分かったのであろう。
「アノ爆破装置ハ俺ノ意思トハ別ノ所デ、ツケラレタ、ソレヲ、オ前ハ破壊シテ勝負ニモ勝チ、俺達ヲ永遠ノ任務カラ解放シテクレタ」
どうやらゴッドハルトの機体に備わった自動修復装置も自爆装置は修復しないようだ。
俺はひと息つくとゴッドハルトの話を聞く事にする。
「永遠の任務?」
「ソウダ、ココハ我々、ガルドルド魔法帝国ノ王族ガ眠ル巨大ナ御霊屋デアリ、ココヲ守ル事ガ俺達ノ永遠ノ任務ダ」
「御霊屋って……廟所……いわゆる墓場か? そうかお前達は貴人を守る為の墓守だったのだな……俺達はどうしてもオリハルコンの練金方法が欲しくて、ここまで来たのさ」
「オリハルコン!? 成ル程、ソウカ……マタ、戦ニナルノカ?」
どうやらガルドルドでのオリハルコンの用途は軍事用であったようだ。
俺は手を横に振って否定する。
「戦だって? 違う、違うよ! この娘、俺の嫁だけど彼女の姉の嫁入り道具さ」
「ハ!? オ前ノ嫁? 嫁入リ道具ダト!?」
俺がイザベラを指差すと彼女もぺこりと頭を下げた。
「ソノ娘ハ悪魔ダナ! ソシテ、オ前ト夫婦トイウ事ハ……普通デハ絶対ニ、アリエナイ組ミ合セダガ、ソレダケ世界ガ平和ニ、ナッタトイウノカ?」
がっしゅう!
滅ぼす者の排気口から、大量の蒸気が噴出する。
どうやらゴッドハルトは盛大に溜息を吐いたらしい。
「フウ! 今ガ、モシ平和ナ世ノ中デアレバ、重ネ重ネ悪イガ、頼ミガアル……」
「頼みって何だ?」
「御霊屋ニ眠ル姫サマの事ヲ、オ頼ミシタイ……引キ換エニ、オ前達ガ求メテイルモノヲ、渡ソウ……案内スルカラ着イテ来テクレ」
こうして俺達は滅ぼす者のゴッドハルトの案内で王宮風であるこの御霊屋の玄室に向かったのである。
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滅ぼす者のゴッドハルトを先頭に俺達クランは御霊屋の玄室に向かう。
結論から言えばゴッドハルトに先導して貰ったのは大正解であった。
何故ならば……罠、罠、罠、罠……罠のオンパレードだったからである。
これらの罠は闖入者が通ると擬似魔法の炎弾等が発射されるものが殆どだ。
ゴッドハルトはこの膨大な罠の情報を持っているらしい。
彼が御霊屋の罠をどんどん解除して行くと、とうとう王宮風の玄室の入り口に辿り着いた。
入り口は俺が前世で存命中に、通学途中の駅で見かけた駅中の大型看板の大きさくらいの鋼鉄の門扉だ。
天地左右で4m四方くらいだろうか?
「ええっと、鍵が掛かっているのかな?」
「今、扉ヲ開ケル、急グゾ、何ヤラ嫌ナ予感ガ、スル!」
ゴッドハルトがごつい指先を当てて、気合を入れると門扉は鈍い音を立てて、ゆっくりと開いたのである。
俺達はその向こうで何が起こっても良い様に身構えていたのであった。
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