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第6話 「ジュリアとの夜」

 俺が部屋に篭もってからしばらく経って、扉がノックされた。

 ジュリアが部屋まで俺を呼びに来たのである。

 どうやら夕食の支度が出来たらしく、「直ぐ来い」と告げられる。

 この村は彼女からとても貧しい村だと聞いていたから、あまり食事に期待はしていない。

 

 そんな俺の想像通り、大空亭の夕食は良く言えば簡素&質素なものであった。

 固いパンが主食。

 そして野菜と何かの端肉を一緒にして、ドロドロになるまで煮込んだおじや(・・・)のようなスープとのセットのみなのだ。


 そう言えば中世西洋の平民の食事はそのようなものだと資料本で読んだ記憶がよみがえる。

 夕食は今回だけはサービスで無料だが、通常300アウルムを別途取るらしい。

 

 果してこの世界の物価はどうなっているのだろう?

 それが分からないから、夕食の値段が果して高いのか安いのか、俺には良く分からなかった。

 

 そもそもこの1アウルムという通貨単位は日本円で幾らくらいなのだろう?

 ここの素泊まりが1,000アウルムだから1アウルムは1円か2円で考えておけば良いのだろうか?


 出された夕食自体の量はそこそこあったので、完食したら満腹になった。

 食欲を満たした俺はジェマさんとジュリアに「ご馳走様」と礼を言って部屋に戻る。


 とりあえず飯食って、眠るところも確保出来た。

 後は……寝るだけだ。


 ジェマさんはともかく、ジュリアは先程の『夜伽』の件の話が出た時から何かよそよそしく口数も少ない。

 すっかり態度が変わってしまったのである。

 やはり原因は俺が『夜伽』を断わって彼女に恥をかかせた事かと少し気になった。

 だが、今更「やっぱりお願いします」と言うのも事が事だけに恥ずかしい。


「……明日はどうしようか?」


 俺は部屋の粗末なベッドに寝転がると口に出して考えてみた。

 良くあるRPGゲームであれば最初に辿り着いた街や村を拠点に少しずつ経験値を溜めてレベルを上げて行く。


 今の俺はレベル0もしくは1だろうからなぁ……

 

 優秀な装備品と凄い身体スペックを与えられて、いくらゴブリンをあっさり倒しても自信など全く無いし、遠出していきなりゲームオーバーは勘弁だ。


 俺が居る、このタトラ村はいわゆる辺境の村だろう。

 スパイラルがそのようなGAME設定をしているのであれば、この周辺でまずは初心者向けの雑魚モンスターを地道に狩って経験を積んで行くという事になる。


 俺は腕輪から取り出して財布に入れておいたゴブリンの魔石を取り出した。

 失礼な言い方だが、典型的な雑魚モンスターの魔石だろう。

 くすんだ黒色の小さなもので到底価値があるとは思えない。


 迷うなぁ……


 そう呟いた上で俺は自問自答する。

 ゴブリンには勝ったが、それ以上の高レベルの魔物と戦ってどうなのか?

 こんなに楽勝という事はそれより少し上位の魔物と戦っても大丈夫か?

 でも万が一「死んだら次は無い」ときっぱり言われているし、1回戦っただけじゃ何とも言えない。

 それに戦い自体に慣れていないから、明日、またゴブリンともう少し戦って経験を積んでみるか……

 

 俺はそのような事を考えながらいつの間にか眠りに落ちた。


 ――眠りに落ちて1時間くらい経ったであろうか

 俺は自分の部屋に誰かが忍び込もうとしている気配を感じて目を覚ました。

  

 ……誰だ?

 ジュリアによればこの村の治安は良いそうだけど……

 まさか物盗りだろうか?


 ゆっくりとノブが回り、碌に油の差していないドアが音を立てて開いて行くのだ。


 ぎいいい……


 スパイラルから与えられた俺の身体は五感全てにおいて鋭くなっている。

 昼間は当然確認出来なかったが、やはり夜目も相当に効くのである。


 俺は寝た振りをしながら手を伸ばして剣を取ると侵入者に備えていた。

 薄目を開けて見ていると入って来たのは……

 何とジュリアである!

 俺は暫く様子を見る事にした。

 ジュリアは俺をじっと見詰めると暫く考え込んでいる様子であった。

 そして溜息を吐いて大きく頷くと何と着ている粗末な服を脱ぎ始めたのである。


 俺は思わずごくりと唾を飲み込んだ。

 彼女の身体は昼間抱きかかえた時に分かったが、まだ華奢きゃしゃで幼かった。

 

 しかしこれって……やっぱりそうだよな……

 普通は男が女の子の所へ忍び込む、日本の平安時代の求愛行動。

 すなわち夜這い……である。


 やがてジュリアは服を脱ぎ捨てて肌着姿になると俺が寝ているベッドにそっと潜り込んで来た。

 多分、彼女は覚悟を決めて来たのだろう。

 荒い息遣いが聞こえ、小さく華奢な身体が俺にぴったりとくっついたのである。


 これ以上俺が何もしなかったら、もしかしてジュリアにもっと恥をかかせるのでは……

 俺はそう思い、とうとう彼女を抱く事に決めたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ジュリア……」


 背中を向けていた俺はジュリアの名を呼ぶと彼女の方に向きを変えた。

 ジュリアは俺が寝ていると思っていたらしくいきなり声を掛けられて目を丸くした。


「え!? トール……もしかして起きていたの?」


「ああ、ずっとな……」


 しばしの沈黙……

 そんな沈黙を振り払うかのようにジュリアが意を決したのか話し始める。


「……ああああ、あたしさ……わわわ、悪いけど……ああ、あんたの事を特にすすす、好きってわけじゃないのよ」


 あっ、そう……

 彼女の顔は真っ赤だし、盛大に噛んでいるぞ。

 だから俺の事が必ず好きってわけではないか……


 俺が不機嫌そうに黙ってしまったのでジュリアは慌てて言う。


「ででで、でもさ、トールが命を助けてくれたのは恩に着ているよ。だ、誰もひとりぼっちのあたしを助けてくれる人なんか居なかったから……」


「ひとりぼっちって……ジュリアには叔母さんが居るじゃないか?」


 ジュリアは俺の問いに答えなかった。

 そして淡々と話し出す。


「……実は私、叔母さんに借金があるんだ……でもさ、今夜、あんたの夜伽をすれば30万アウルム貯まるんだよ。これを返せばあたしは自分の借金を帳消しに出来るの」


 ジュリアの告白に俺は少し驚いた。

 あの叔母さんとジュリアはそのようにドライな関係なのか……厳しいな。

 俺はもう少し詳しく話を聞いて見る事にした。


「ジュリア、もう少し話を聞かせてくれよ」


「うん……父さんと母さんが魔物に殺されて以来あたしは生活に困ってしまった……そんな私を引き取ってくれたのが母さんの妹であるジェマ叔母さんなんだ。この村って親兄弟と言えども金銭には厳しくてね。結局3年間あたしの面倒を見る事に対して30万アウルム分この宿屋で働くって約束になったんだよ」


 ジュリアは俺に身の上話をしてくれた。

 人生に悩んでいた俺なんか及びもつかない苦労人だ。


「そうか……結構大変なんだな」


 俺がそう言うとジュリアは「多分、あんたよりわね」と寂しそうに笑う。


「でもさ、あんたの事……好きじゃないけど、こんな事するの……誰でも良いって訳でもないんだ」


「光栄だね」


「う、嘘じゃないよ! トールってさ、あたしの命の恩人だし、ゴブやっつける時格好良かったし……だから抱かれても良いと思ったんだ」


「分かった……でもお前は抱けないよ」


「ええっ!? な、何故! あ、あたしが好みじゃないから!?」


 勢い込んで迫るジュリアに俺はゆっくりと首を横に振った。


「何かお前の弱味につけ込むみたいで嫌だもの。じゃあ、こうしよう! 俺が25,000アウルム貸すから叔母さんの借金を一気に返してしまえよ」


「……でも!」


「貸した金はさ、俺とまた会えた時に返してくれたら良いよ、その代わり今夜は俺と添い寝してくれる? 俺もひとりぼっちだからさ。少し寂しいのさ」


「トールもひとりぼっち?」


「そうさ、お前と一緒だよ」


 ジュリアは俺を熱い目で見詰めて来る。

 何かさっきから彼女はおかしい。


「トール……さっき……叔母さんにあんたの夜伽しろって言われてから……あたし変になってる……ドキドキして身体が熱いの」


「…………」


「ねぇ……ま、また会えた時って……トールは明日、この村を旅立つの?」


「いや明日とか直ぐじゃあないけど……いずれは、な」


「……い、嫌!」


 ジュリアはひしっと俺にしがみついた。

 女の子に抱きつかれるなんて俺には初めての経験だから、少し慌てる。


「ゴブに追われて木に登った時、もう駄目だと思った。奴等執念深くて決して獲物を諦めないから!」


「…………」


「あんたが現れてゴブを倒した時は……吃驚したけど……でも奴らに食べられる代わりに結局、あんたに乱暴されると思ったんだ……」


 そう……だよなぁ……

 良く考えて俺が女の子だったらそう思うもの……


「最初は本当に怖かった……」


 ぽつりと呟くジュリア。

 俺はそっと彼女を抱き締めた。


「でもあんたが良い人だって分かって……安心した」


 俺に抱き締められたジュリアはそう言うと大きな溜息をついた。

 それは安堵の気持ちを表したものであった。


「あたし……あたし……トールと色々な話をしながら村へ帰る時……凄くホッとした……そして命を助けて貰って嬉しかったの! 男の人と心の底から笑いながら話すのって初めて楽しいって思ったの」 


「ジュリア……」


「父さんと母さんが死んで今迄ひとりでやって来たけど……助けてくれる人が居た。もうひとりぼっちじゃないって思ったの……トールが居なくなると……あたし、寂しくなる」


 いつの間にかジュリアは泣いていた。

 俺に酷い事を言われた時みたいに泣いていた。

 昼間の元気なジュリアはどこにも居なかった。


 暫し泣いたジュリアは真っ直ぐ俺を見る。


「トール……あたしを離さないで欲しいの。ももも、もし良かったら……だだだ、抱いて! 私を……こここ、恋人にして!」


 ああ、何と……ジュリアは俺に告白してくれた。

 会ったばかりの俺に思いを告げてくれた。


 ジュリア、お前って健気だなぁ……そして可愛いよ。

 覚悟を決めた女の子にここまで言わせて尻込みしていたら男の恥だろう。


 俺は必死で訴えるジュリアを再び抱き締めた。

 今日ジュリアを運んで初めて知ったが、やはり女の子の身体は柔らかい。

 彼女の肌はすべすべしていて張りも申し分なかった。


 俺はその先をどうして良いか分からず、焦ってジュリアの胸に手を伸ばす。

 ジュリアに胸が無いのは分かってはいるが、何せ俺は○○○○星人だから!

 

 ああ、でも!

 なんて柔らかいんだぁ!

 貧乳でも感動したぁ!

 

 しかしジュリアは胸へ伸ばした俺の手を払い除ける。

 どうやら怒らせてしまったようだ。


「トール! いきなり胸は反則だよぉ!」


「悪い、間違ったか?」


 ジュリア、御免な……

 でもはっきり言って俺だって『あれ』に関しては君と同じ未経験……童貞だ。


「こういう時は……ま、まずキスからしてよぉ……そ、それも……や、優しくだよ」


 キスから?

 そうか! それは失礼

 そういえば前世でもこういうのっていわゆる『A』から始まる順番だったしな。

 俺はTVドラマで見たシーンを思い出して不器用にジュリアに口付けした。

 

 おお、唇も柔らかい。

 それに女の子の唇って、何て美味しいんだ!

 しかし、ここは甘い言葉を掛けるべきだったようだ。

 俺は全くの経験不足なので甘い雰囲気で優しくキスをするイケメン俳優のようにはいかなかった。


「もう! トールって、ムード無いなぁ……あたしの事好きとか、愛しているとか言わないの?」


「ご、御免!」


「な、何度も、謝らないでよ!」


 暫くして俺は服を脱いでジュリアにそっと覆い被さると……

 ジュリアもだんだん息が荒くなって来て……


 その夜、何度かの失敗の末に俺達は(ようや)く結ばれたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 大空亭午前5時……


 俺はハッと目が覚めた。

 傍らにはジュリアが軽い寝息を立てて眠っており、目には涙の跡がくっきりと残っている。

 昨夜、ジュリアとした行為は夢の中でやったようで俺には全く現実感がなかった。

 ただ彼女が大きな声でとても痛がったのは覚えている。


 俺としては真面目に愛をこめてジュリアを抱いたつもりだから、やはり情が湧く。

 そんなジュリアが急に愛しくなった俺はとりとめもなく彼女の綺麗な栗色の髪を梳き始めた。


「う……あ、痛い……」


 まだ「痛がる」ジュリアに俺はとても優しくしたくなる。


「おお、起きたか。お早う」


「お早う……トール……あたし恥ずかしいよ。声……大きかったし……」


 俺はその声を聞いてもっともっと彼女が愛おしくなり、そっと彼女を抱き締めていたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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