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第57話 「鋼鉄の巨人を打倒せよ!」

 俺達クランは一旦、階段の途中まで後退して作戦を練り直していた。

 今迄の迷宮とは全く違う、『街』での戦闘という戸惑いは勿論、予想より遥かに数が多い強敵、鋼鉄の巨人(ソルジャーゴーレム)共へどのように対処すべきかである。


 まずは市街戦だが、普通の迷宮で戦うよりも不確定要素が多いという。

 索敵で把握している敵は鋼鉄の巨人(ソルジャーゴーレム)のみだが、街というノイズのせいで他の敵や罠が配置されていたりすると直ぐに命取りになる。

 

 誰にでも分かる事だが、相手の戦力が読み切れていないのにむやみに攻め懸けるほど愚かな事はないのだ。


 市街戦は俺達のような少人数のクランで攻めるには圧倒的に不利、というより戦いのプロならば、いきなり小部隊で攻めるなど、絶対に避けるのが常識らしい。

 近代戦でのやり方でいえば、退路をしっかりと確保しておいて火器、つまり戦車やロケット砲などで先に攻撃しながら相手の戦力を計って、状況を把握し、準備が整ってから歩兵部隊が後に続くのが常なのだそうだ。

 

 ……俺の読んだ資料本には確かそう書いてあった。


「トール……今後の為にもなる。何か意見があれば言ってみるが良い」


 このところ教師然として接してくるアモン。

 俺もその対応にはさすがに、もう慣れた。


「他力本願で心苦しいが……アモンの配下である悪霊を囮に使い、そしてアモンの炎の息(ブレス)とイザベラの火炎魔法を撃ち込んでの陽動作戦かな」


「ふむ……それをやると当然、鋼鉄の巨人(ソルジャーゴーレム)が襲ってくるな」


「ああ、(おび)き出した鋼鉄の巨人(ソルジャーゴーレム)をこちらは退路を確保した上で各個撃破にて少しずつ潰し、数を減らして行く。いわゆる消耗戦で回り道となるが、それが逆に1番の近道だと思う」


 アモンは俺の意見に納得しているようで腕組みをしながら、黙って頷いている。


「それに街を模したあの家屋などの中にはどのような罠があるか分からない。貴重な遺跡と考えるのであれば勿体無いが『王宮』への安全な進路を確保する為に破壊してしまおう」


 俺の話を聞いたアモンは満足げに笑顔を見せる。

 

 へぇ!

 珍しいね!

 彼がこのような顔をするとは。


「ははは、中々の作戦だな。となると鋼鉄の巨人(ソルジャーゴーレム)共が1度に襲い掛かれない場所が必要だ。うむ……退路を確保しながらというなら、この階段を背に攻撃するのが良いだろう」


「そうだな。囮が上手く立ち回ってくれないと各個撃破は出来ない」


 俺とアモンの会話を聞いていたイザベラも、にこやかな表情をしながら手を挙げる。

 普段は某女優並みのクールビューティというイメージの、イザベラが見せる意外な素顔だ。


「トール! さっきアモンが召喚した部下の悪霊なら私も呼べるわ。今の話からすれば囮の数は少しでも多いほうが良いだろう?」


「そうだな、イザベラ。宜しく頼む」


「任せといて!」


 にっこりと微笑んで頷くイザベラ。

 それを見て慌てたのがジュリアである。

 今迄の自分の働きを考えて、足りていないと思っているようだ。


「私は!? 私に何かやれる事は無い?」


「ジュリア、お前にもぜひ頼みたい事がある」


「本当!?  私、クランの役に立ちたいから」


 ジュリアはこのように健気で一生懸命な所が俺は好きだ。

 そこで早速、彼女の役割を説明する。


「ジュリアの持つ杖の先端は今回復の魔法水晶が取り付けられているが、魔法水晶の魔力を使い切ったら、いつでも予備のものに着け代えられる様にしておいてくれ。さっきの話に出たようにこの戦いは消耗戦となるからな」


「消耗戦?」


 ジュリアは可愛らしく首を傾げる。


 くう!

 こいつ、本当に可愛いな。


 間近で改めて見るとジュリアといい、イザベラといい、美少女ぶりに更に拍車が掛かっている。

 俺はやはり幸せ者だ。


「消耗戦というのは我慢比べだ。その中では回復役の働きが1番重要なのだ。クランの誰かが傷ついたらしっかりと回復してやってくれ。勿論、自分の安全も考えてくれよ」


「わ、分かった! 頑張るよ!」


 緊張しているらしいジュリアの肩をぽんと叩き、俺はイザベラも呼んだ。

 そして腕組みをして、また目を閉じているアモンを前にし、2人の事をしっかりと抱き締めていたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――20分後


 俺達は再び、地下6階フロアへの入り口から中の様子を窺っている。

 相変わらず鋼鉄の巨人(ソルジャーゴーレム)達はじっとしたまま動かない。

 ただのはがねの彫像に見える彼等が動き出して攻撃するなど俺には信じられないが、俺の索敵には確かにあの中に魂の波動を感じるのである。


 戦うにはまずは奴等がどのような動きで攻撃して来るか、確かめる必要があった。

 俺はアモンとイザベラに合図をした。

 背後でジュリアが身体を硬くする気配が伝わって来る。


 かあああっ!


「燃えよっ!」


 アモンの口からは気合を込めた灼熱の炎が、イザベラの手からは炎の魔法が発動され、鋼鉄の巨人(ソルジャーゴーレム)達を襲う。


 がちゃり!


 その攻撃が届く前に鋼鉄の巨人(ソルジャーゴーレム)達は想像以上の機敏な動きで向きを変えると、盾と一体化したと思われる太い腕で炎を防ぐ。

 2人が放った炎は力無く四散してしまう。


 むう!

 あれじゃあ……な。

 アモンの灼熱の炎もイザベラの火炎魔法も全く効いていないぞ!


 続いての作戦、発動だ!


「アモン、イザベラ! 悪霊を!」


「分かった……」


「了解! 旦那様!」


 ぶしゅうう!


 鋼鉄の巨人(ソルジャーゴーレム)達は俺達を認めたようだ。

 何が動力で動いているのか分らないが、排気口らしい部分から蒸気が立ち昇る。


 そこにわらわらと実体を持たない悪霊軍団が襲い掛かった。

 掴み所のない敵に鋼鉄の巨人(ソルジャーゴーレム)達は戸惑っている。


「アモン! イザベラ! 悪霊に命じて奴等を少しでも分断するんだ! そうしたら、俺が出る!」


「よし! トール、奴等を分断させよう!」


「OK! 旦那様!」 


 2人の指示で悪霊達は思い思いの方向に散って行くと鋼鉄の巨人(ソルジャーゴーレム)達もそれを追って走り出した。

 これは……肉食獣が草食獣の群れから狙いすました獲物を狩るやり方だ。

 すなわち群れからはぐれた個体を狙って倒すのである。


 俺は1体の鋼鉄の巨人(ソルジャーゴーレム)が、だいぶ離れたのを確かめると剣を握って走り出す。


 走る俺の背にはジュリアとイザベラから、「頑張って」という大きな声が飛んだのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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