第48話 「戦いの決意」
アモンの部下である悪霊に殺された初心者殺しの連中は思ったよりも多くのお宝を所持していた。
今迄襲った冒険者達から容赦なく奪ったものであろう。
盗賊の上前をはねるというか、そのような物を貰ってしまって本当に良いのかと、俺は最後まで躊躇した。
しかしジュリアとイザベラは問題なんか全く無いと言い切るのである。
「それくらい貰っておいても問題無いでしょう? あんな鬼畜」
「ジュリアの言う通りだよ。私達悪魔にも劣る外道さ」
鬼畜に外道か。
確かに上級悪魔であるアモンの方があんな初心者殺しに比べれば、俺から見てもずっと立派で紳士的だ。
俺と妻達は骸骨の傍らで車座になってお宝を確認した。
背後ではアモンが腕組みをして立っている。
奴等から頂こうとするものは幸い呪われてはいない。
まず現金が金貨200枚で200万アウルム、そして銀貨等で30万アウルム、合計230万アウルムもある。
そして魔法指輪が3つに、魔力蓄積用の魔法水晶が2つだ。
ジュリア、指輪の鑑定だ。
君の出番だよ~。
俺達のクランでは指輪や貴金属は竜神族の血を引くジュリアが鑑定担当だ。
「うふふ、守護の指輪が1つ。そして魔力回復の指輪がひとつ、そして最後は体力強化の指輪……かな」
死んだ奴がつけていた装身具はどうかと思ったが……
「この指輪……気持ち悪くない?」
「ええっ? 素敵な指輪じゃない! どうして嫌なの?」
「あたしもイザベラと同じで全然平気! そんなの気にしていたら商売なんて出来ないし……さすがに呪われているのは勘弁だけどね」
この台詞でも分かる通り、イザベラは勿論、ジュリアも抵抗がないという。
俺の前世の女の子だったら、絶対に嫌がるであろう。
男の俺でさえ、嫌だもの……
この異世界の感覚は俺には理解し難いものがある。
よ~し、だったら魔力回復の指輪はイザベラが、そして体力強化の指輪は君がつけなさい、ジュリア。
魔力蓄積用の魔法水晶に関してはイザベラかアモンに魔力を篭めて貰って俺の魔力切れの際の予備バッテリー代わりとしよう。
鎧などの防具は放棄すると決めていたが、あいつらの使っていた武器はどうかな?
俺は奴等が使っていた武器を手にとって調べてみた。
なまくらなロングソードが3振りと錆びた大型のメイスがひとつ、そして小さな宝石のついた短剣がひとつである。
……この中でましなのは短剣くらいか。
なまくらとは切れ味の鈍い、いわゆる質が悪い武器という意味で……ようは殆ど価値が無いって事だ。
分った、短剣だけ貰っておこう。
自分達がしているのと同じ指輪を見たジュリアとイザベラが俺にも指輪をするように促した。
「トール、守護の指輪……してみてよ」
「そうそう! 左手の薬指にね。トールが教えてくれた夫婦の証だよ」
成る程、夫婦ね!
でもさ、こういう大事な指輪って死人から奪った指輪をつけても良いのか?
一応、結婚指輪……だぜ。
この異世界の不思議な価値観は俺にとって相変わらず理解不能だ。
まあ、良い。
嫁達にあげたのだって、オーダー品じゃないしね。
俺は守護の指輪を左の薬指に嵌めた。
とりあえずこれで3人お揃いにはなったわけである。
目出度し、目出度し。
「もう話は済んだか? お宝の回収が終わったらさっさと出発するぞ」
アモンが指輪で盛り上がる俺達に対して早く出発するように促した。
タイミングとしては良い頃合である。
「分った、出発しよう」
確かにここで油を売っていても良い事は無い。
俺達は素直に頷くとさっさと立ち上がる。
そして妨害者の居なくなった地下2階への階段を降りていったのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
地下1階を通過した俺達は地下2階に降りると同じ様に階段を探す。
この迷宮の最深部地下5階までずっとこのような探索が続くのだ。
地下2階へ降りた所で俺は少し先に何者かの気配を感じる。
ジュリアやイザベラほどではないが、俺も徐々に索敵が実行出来るようになっていた。
今度の相手は人間ではなく、この階に居る魔物のようだ。
俺は振り返って3人に言う。
「数匹の魔物だ、この反応は……ゴブリンようだな……よし、打合せ通りにやろう。良い訓練になる」
将来的には、優れた魔力波読みになれると言われた俺だが、未だ経験不足なのは否めない。
ただ1回戦った相手の魔力波は何となく分るのである。
今度の相手はジュリアと助けた時に初めて戦った相手――ゴブリンだ。
間違い無いだろう。
俺達は奴等に先制攻撃を仕掛ける事にした。
―――幸い相手は未だ俺達に気付いていない。
俺はそろりそろりと距離を詰める。
相手の数は5体であった……
俺は自分が攻撃出来る間まで近付くと音も無く跳躍した。
「しゅっ!」
俺の口から僅かに息が漏れると愛用の魔剣が一閃する。
「!」
ゴブリン達は何が起こったか分らないままあっと言う間に5体とも首を刎ねられて絶命したのであった。
それだけ俺の素早さは人間離れしていたという事だ。
俺が魔石を回収して意気揚々と戻って来るとアモンはさも当然という表情をしている。
「当り前の結果……だな。次回は同胞の人間相手にその非情さが発揮出来るかどうかだ」
アモン……その上から目線の物言いは、もう完全に俺の教師役だ。
そして愛する妻達も頼もしそうに俺を見ているが……倒したのは所詮雑魚のゴブ……
全然威張れないよ、俺。
―――だが、とうとうその時はやって来た。
今度の相手は山賊と呼ばれる迷宮内のならず者達である。
「良い機会だ。思い切りやってみせろ……」
例によってアモンの冷たい声が響く。
でもな~
やっぱり人を殺すって躊躇いが……
「トール! さっきみたいにあたし達が滅茶苦茶に犯されても良いの?」
「トール! あんた、もしかして寝取られ上等って事? それじゃあアモンと同じだよ!」
愛する嫁達、ジュリアとイザベラから一斉に厳しい非難の声があがる。
あのね……
君たちが俺以外の男に犯されたら困るし、俺の『嫁は寝取られ上等』もありえない。
はっきり言って両方とも嫌なのだ!
「「だったら!」」
分かったよ。
でも最初に相手の意思確認をさせて貰おう。
その意思確認とは何かと言うと……
「お~い、お前等。もしかして俺達と戦いたいか~!?」
俺は山賊達に間の抜けた声で呼びかけてみたのである。
まるで昔のクイズ番組のように。
ははは、馬鹿だろう? 俺って!
しかしこれは俺なりに悩んで出した結果なのだ。
自分からは仕掛けずとも相手が戦いを仕掛けてきたら倒す。
降りかかる火の粉は防ぐという事。
戦いに慣れるまで、最初はその方針で行くしかないと考えたのだ。
「てめぇ~!」
「殺してやるぅ!」
「女を犯せ~!」
俺がそんな事を言えば平和になど済む筈もなく、山賊は当然の如く襲って来た。
はい!
こうなれば仕方が無い。
戦い決定!
俺は気を取り直して戦意を高めると改めて山賊に向って行ったのであった。
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