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第44話 「クランの名は?」

 ジェトレの村をお昼前に出発した俺達は夜に少し休憩したくらいで、殆ど休憩も取らずに夜通し歩いた。

 イザベラの姉の挙式が刻一刻と迫っている事もあり、少しでも早く迷宮に行くという意見で全員が一致していた事もある。


 どうやら俺のチートな身体は数日くらい眠らないでも平気らしい。

 だが、それ以上に凄いのが悪魔だ。

 イザベラやアモンに聞いた所、彼等は睡眠を全然取らないでも平気なようだ。

 

 全員の中でまともな人間であるジュリアはそのようにはいかない。

 竜神族の血が流れているとはいえ、眠気を訴えるジュリアを背負って歩いた俺をイザベラはじっと見詰めていた。

 

 イザベラにしてみれば、やはりジュリアが羨ましいと思ったようだ。

 彼女からもジュリアと交代で背負ってくれとせがまれたのは言うまでも無い。


 愛する妻達に対しては出来るだけ公平であれ!


 俺はまたひとつ妻と言うか女性に対する接し方を学んだのである。

 明け方になってようやく目覚めたジュリアに理由(わけ)を話すと快諾してくれたので、直ぐに交代するとイザベラはおもちゃを与えられた子供のように無邪気に笑ったのだ。


 旅立った時から目指す先がキャンプと聞いて、迷宮とのマッチングが余りピンと来なかった俺は道すがらジュリアに色々聞いていた。


 ジュリアによると、この世界では迷宮が発見された場合、規模にもよるが一攫千金を狙って冒険者が殺到するという。

 

 武器防具、魔道具、ポーション、薬草など冒険者達の迷宮攻略用の必需品や日々の生活を扱う商人達も集まるのは当然だ。

 人が集まれば、小さな集落や村が直ぐに出来る。

 それがこの世界での『キャンプ』と呼ばれる拠点だそうだ。


 直ぐに移動が出来るような露店に近い店がまず出店し、小さな村の形態となる。

 迷宮が攻略されるにつれて、得られる冒険者達の利益に比例して段々と大きな店や施設……それらが発展して大きな村、そして町が造られて行くらしい。

 

 本来、俺とジュリアは商人だから店を出す方の立場なのだが、現在はイザベラの依頼を受けているので冒険者という立ち位置である。

 

 このコーンウォールのキャンプは、かつての旧ガルドルド魔法帝国の廃墟を囲むように造られた小規模な集落ではあったが、人間族は勿論、アールヴやドヴェルグ、そして俺が初めて見る獣人族など冒険者と商人達の人種は多種多彩だ。

 

 俺はこのコーンウォールのキャンプの雰囲気が嫌いではない。

 昔、熱中したロールプレイングゲームの町に酷似しているからだ。


「ジェトレの村に比べればずっと規模が小さいけど何か活気がある場所だな」


 俺の言葉を受けてジュリアが解説してくれる。


「ああ、この規模では一般市民は居ない場所だよね。居るのは冒険者と彼等に対して商売をしようとする商人だけだもの」


「全てが迷宮ありき……って事か」


「そうだね、迷宮っていうのはこのコーンウォールみたいに古代の遺跡の中にある物もあれば、何者かが意図して作った物もあるんだ。後者はだいたい邪悪な闇の魔法使いが悪意を持って作り上げた物が多いんだよ」


 邪悪な闇の魔法使いが悪意を持って作り上げただと!?

 駄目だ!

 俺、何か……うきうきして来た!


「もう! トールったら呆れた! 凄く嬉しそうな顔をしてるんだから。言っとくけど、そんな危険な迷宮なんか絶対に行かないからね。闇の魔法使いは死霊術師が多いんだ。稀少なお宝を餌にして人間の魂を収集してから悪魔に契約を持ちかけるとんでもない輩共だよ」


 悪魔!?

 悪魔だったらもう俺とジュリアの目の前に居るけど……

 それも2人もだ。


 「悪魔に契約を持ちかける、とんでもない輩共」と言ってからジュリアはハッと気がついたようだ。

 だって悪魔と契約したって今の俺達であり、それも単なる契約ではなく家族になってしまったのだから……

 ジュリアは申し訳無さそうに両手を合わせてイザベラに謝る。


「御免……イザベラ。言葉の弾みでつい……」


 しかしイザベラは大して気にしていないようだ。

 自分達魔族がいかに人間に怖れられているかを自覚しているに違いない。


「良いんだよ。普通の人間から見れば悪魔との契約なんて怖ろしいものかもね。でもね、人間の死霊術師程度が契約するのは大抵下級悪魔さ。上級悪魔は人間の魂など欲しがらず、人間の夢を喰らうのが好きなんだよ」


「え? ゆ、夢を……喰らう?」


「ああ、夢って基本は甘くて素晴らしい物だろう。上級悪魔はそんな夢を持つ人間と契約して力を貸して夢を叶えさせるんだ。そして夢が叶った瞬間に味わう人間の喜びを喰らうのさ。私は食べた事はないけど食べ慣れると魂なんか見向きもしないって言うよ」


 ううむ……夢を喰らうなんて初耳だ。

 確かにそれは始末が悪いかも。

 人間が幸せを感じる1番美味しい所を持って行くんだからな……


「どうする? 直ぐに迷宮へ行くか?」


 そんな話をしているとアモンがぶっきらぼうに言う。


「いや……まず冒険者ギルドの支部に行って迷宮の情報集めだ。その後に店を見て不足している物資がないか確認した上で宿屋で作戦会議を兼ねた休息。それから出撃だな」


 そんな俺の言葉を目を閉じて聞いていたアモンがゆっくりと口を開く。


「……慎重だな。先程より少しは成長したようだ」


「そいつはどうも! さあ行こうか」


 俺は傍らに立っていた衛兵に冒険者ギルドの場所を聞くと3人に行こうと促したのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 コーンウォールのキャンプにある冒険者ギルドの支部は思ったより大きかった。

 これはやはり迷宮によって生み出される冒険者の需要に応える為と言って良いだろう。


 ジェトレ村の支部には及ばないものの3階建ての大きな建物でこのキャンプの中でも1、2を争う大きさだったのだ。

 しかしここでは迷宮関係以外の依頼は殆ど無い。

 その迷宮関係の依頼とは大体がクランメンバーの募集なのである。


 冒険者ギルドに入るや否や案の定、俺達はいろいろな冒険者に声を掛けられた。

 1番人気はやはり戦士として圧倒的な存在感のアモンである。


「ぜひウチのクランに!」


「いやいやウチに!」


 次いで人気があるのは俺の嫁である超絶美少女2人だ。


「おおお! こんな薄汚い迷宮キャンプに! まさに掃き溜めに鶴だ!」


「うわぁ……あの銀髪の娘……少女から女になる寸前かな、たまらん!」


 おいおい!

 なんか危ない事を言っている奴が居るぞ。


「駄目、駄目! あたし達この人の妻だから!」


「私もよ~」


「ああ~っ! こ、こんな奴の!?」


「何かの間違いだろう?」


 ジュリアとイザベラの言葉に冒険者達は驚く。

 1番弱そうに見えた俺が2人の旦那だと知って違和感がありありなのだろう。


 冒険者達の反応に対してジュリアがムッとした様子で返す。


「あたし達はクラン、バトルブローカーよ。リーダーはこのトール・ユウキ、れっきとしたBランク冒険者よ」


戦仲買人(バトルブローカー)!? この男がBランクぅ!?」


 クラン戦仲買人(バトルブローカー)って……

 戦う商人って……どんなクラン名なんだよ?


 だがジュリアの言葉でとりあえず俺達を誘ってくる冒険者は居なくなった。

 

 俺はカウンターに行き、話しを聞いた上で小銀貨3枚で売っていた迷宮の地図を購入する。

 それによるとコーンウォールの迷宮は地下5階、聞いた通り最深部には例の日替わり宝箱があるらしい。

 また地図には各階ごとに出没する魔物までがご丁寧に記載されていた。

 

 それを見た途端俺の中ではまた例の中二病が大きな声を出して騒ぎ出したのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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