第43話 「決着」
俺はイザベラの攻撃魔法を受けて混乱するオークの群れに突っ込んだ。
何体かのオークが俺に気付いて、人間から奪ったらしい剣やメイスを振るって襲い掛かって来る。
しかし、俺があれだけ気にしていた奴等の強さといったら……
結論から言えばとんだ拍子抜けであった。
やはりスパイラル神の与えてくれた身体強化のチートは凄い!
奴等の動きが遅いのだ。
ゴブリンの時と同様であり、まるでスローモーションシーンを見るようにその動きは緩慢だ。
多分、自分がそう感じるだけで俺の動きが飛びぬけて速くなっているのだろう。
え?
びびって、損をしただろうって!?
いや!
一見臆病にも見える慎重さこそ、この世界では貴重なのだ。
慢心は絶対死を招く事になる。
俺は付け焼刃の無明の剣モドキでどんどんオークを屠って行く。
喉、鳩尾、そして心臓などの急所は人間と変わらないようで、一体に3箇所の攻撃を与えなくてもあっけなく絶命して行く。
まるで気分は幕末の天才剣士、沖田総司である。
ちなみに俺はゴブといい、このオークといい、彼等を倒す事に余り罪悪感を感じなかった。
その答えは簡単且つ明瞭だ。
人間では無い事は勿論、目の前で喰われる犠牲者を見れば非情になれる。
相手を斃さなければ、こっちが斃されるのだ。
数匹のオークが俺の攻撃をすり抜けてアモンの方に向ったが、あっという間に瞬殺されている。
奴の剣は気合と共に何と刀身が1m余りも伸びてオーク共数匹を1度の突きで団子のように串刺しにしてしまう。
何じゃあ、ありゃ!?
俺が使う魔法剣とはまたタイプが違う、怖ろしい魔剣である事は間違いなかった。
やがて戦いが中盤に差し掛かり、俺は試したいと思っていた戦法を試してみることにした。
余裕のある動きで奴等を屠っていた俺であったが、スパイラルの言っていた言葉がどこまで凄いか試してみたくなったのである。
スパイラルはこう言っていた。
『この剣は外見が君の居た世界でスクラマサクスと言われているものに近い小型の剣だ。しかし只の剣じゃあない。大気を切れると言われる程、切れ味が抜群なのと永久に研がなくても良いという優れモノだ』
大気を切る!?
それが果して本当かどうか……もしかしてカマイタチのようなものなのか?
そして俺にはどうすれば大気を切れるか、一体何をやればいいかも分らない。
とりあえず俺は剣に魔力を込めた。
この剣の力が発動されて、スパイラルの言う通り大気を切れるかどうか、試してみる価値はあるのだ。
剣は俺の念=魔力を吸い込みながら黒い刀身が禍々《まがまが》しく輝いて行く。
見ていると魔力を吸い込むというより喰らうと言う方がぴったりな感じだ。
俺は向かってくるオークに向って思い切り剣を振る。
剣に魔力を篭める事はやめずにだ。
すると剣に篭められた魔力から変換されて放たれた魔力波がオークに一直線に伸びていく。
オークとの距離は未だ10mほどもあっただろうか。
しかし俺の強大な魔力波はあっと言う間にオークに届いた。
その瞬間、奴の身体は真ん中からまるで魚の開きのように真っ二つに切り裂かれていたのである。
おおう!
これかぁ!
しかし喜んだのも束の間、急に倦怠感が俺の身体を襲う。
俺の膝からがくっと力が抜け、思わず地に突きそうになった。
しまった!
握った剣はまだ光っている。
未だに俺の魔力を吸収し続けていやがるのだ!
「くっ!」
これはもしかして魔力の使い過ぎって……か。
か、身体が強張って動かない!
俺の動きがぴたっと止まったのを見て、遠巻きにしていたオーク達が咆哮しながら襲い掛かって来た。
くう!
や、やばいぞ!
やられてしまうのか!?
その時であった。
「この愚か者めが!」
低いが良く通る声が響いたかと思うと襟首を掴まれた俺は思い切り投げ飛ばされた。
ジュリアやイザベラの居る方向にである。
ジュリア達の居る手前まで投げ飛ばされた俺は襲いかかるオークに1人で立ちはだかるアモンの姿を見たのだ。
「があああああ!」
びりびりと大気を揺るがす怖ろしい声で咆哮したアモン。
思わず動きを止めたオーク達……
良く見ると奴等は身体が硬直して動けないようである。
身体を麻痺させる効果のある恐るべき咆哮。
悪魔アモンはこのような力まで有していたのだ。
「だあおっ!」
気合一閃!
アモンは相手が動けなくなったと同時にずいっとオーク共の中に踏み込んで大剣で次々と首を刎ねて行く。
血飛沫の飛び散る中で身体を真っ赤に染め、戦う戦士……
それはもう戦鬼の名に相応しい、一方的な殺戮であった。
彼の戦いを見ているうちに俺の身体にも枯渇したらしい魔力が戻って来たようだ。
何とか立ち上がるとアモンの戦いをぼんやりと見ていたのである。
そこにジュリアとイザベラが駆け寄って来た。
「「トール!」」
「ああ、大丈夫だ。つい、へましちまった……だけどアモンのお陰で助かったよ」
戦いは終わった……
アモンが剣を一閃すると、巨大な刀身から血糊が消えた。
やはり凄い魔剣である。
俺達は戻って来る彼を労わる為に待ち受けたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
当然の事ながら、俺はアモンに怒られた。
それも滅茶苦茶に怒られた。
「馬鹿者が! お前は自分の魔力量を顧みずに大技を使い過ぎだ」
「すんません……」
「魔力枯渇で動けなくなった所を奴等に喰われる所だったんだぞ」
「はい……」
オークの群れを倒し、50匹以上の魔石を得た俺達はまたコーンウォールに向かって歩き出していた。
その道中、俺はアモンに叱られっぱなしであった。
どうやら俺は自分の魔力量を分からずに際限なくあの魔剣に吸わせていた為に、魔力枯渇を起こしたらしいのだ。
魔力とは血と共に巡るエネルギーとも言える物で、枯渇した場合どのような者でも行動不能に陥るようだ。
確かにあそこで動けなくなった俺はアモンが居なければ、今頃オークの腹の中だったに違いない。
「アモン、もう良いじゃない。トールはそれまでに少なくとも30匹のオークを倒しているんだよ」
散々怒られる俺に対してとうとうイザベラのフォローが入った。
「そうよ、アモンさん。あたしからも頼むよ、もうトールを許してあげてよ」
次いでジュリアのフォローも入り、俺は漸くアモンの説教から脱する事が出来たのである。
しかし今後は注意しないといけない。
やはり試した事もない大技をいきなり実戦で試すのは危険だという事が良く分った。
反省したぞ、俺。
「まあ2人の言う通り、戦い自体は素晴らしかったぞ」
「ぐう!」
俺の息がいきなり止まりそうになる。
アモンは俺をやっと褒めてくれたと同時に、思い切り背中を叩いていたのであった。
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