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第42話 「オークの群れを倒せ」

 旅の準備を整えた俺達はジェトレの村を出発し、旧ガルドルド魔法帝国の遺跡コーンウォールに向う。

 コーンウォール遺跡は西の街道に出て、バートランド方面へ1日ほど歩いた所にあるらしい。

 

 数千年ほど前に栄えた旧ガルドルド魔法帝国はこの大陸の殆どを支配したと伝えられている。

 現在あるガルドルド帝国領の約10倍もある広大な国だったらしい。

 俺の前世で言えば古代ローマ帝国のような存在なのだろう。

 ちなみに現在のガルドルド帝国は以前の魔法帝国とは血筋的に全く関係が無いのだそうだ。


 高度な魔法文明を持ちながら国家が滅んだ原因が分からないのは、もしかしたらアトランティスとかムーとか、俺の中二病的な要素がこの世界に反映されているかもしれない。


 ところで俺は不安にかられている。

 何がって?

 正直言って迷宮に潜る事に……だ。

 

 今更感が半端ないが、最初は戦いを結構、楽観的に考えていたのである。

 だが俺は徐々に怖くなって来たのだ。

 戦いに負ければ、引き裂かれ、喰われて死ぬ。

 そんな現実の話を聞けば、幾らファンタジー大好きな中二病患者と言っても、戦いは甘い空想や夢とは全く違うものだと分かって結構びびる。

 アモンに戦闘の経験談を聞いたり、居酒屋店主のバリーさんに散々言われた影響もあった。


 空調が効いた安全な部屋で、ゲーム機のコントローラーを握ってTVモニターを見ながらプログラミングされた敵と戦うのとはわけが違うのだ。

 これまで戦った経験がジュリアを助けた時の、雑魚であるゴブ戦たった1回の俺。

 出来るならもう少し場数を踏んでおきたいというのが切実な願いである。


 今日も天気は快晴で雲ひとつ無い。

 

 ジェトレ村からバートランドに向かう道もタトラ村からジェトレ村に向う様相とほぼ一緒だ。

 見渡す限りの大草原と点在する雑木林……ずっと変わり映えしない風景が続くのである。

 クランには唯一まともな人間のジュリアが居る。

 2時間歩いて休憩し、それを2回繰り返してまた歩き始めた時であった。

 ジュリアがまた例の勘というか、危機回避能力を発揮して前方に危険がある事を俺達に報せたのである。


 危険!?

 ふうむ、危険ね……

 相手にもよるが、どんなものなのか?

 俺はジュリアに聞いてみる。


「……怖ろしい魔物だよ、きっと! 少なく見てもざっと40匹以上は居るね」


 40匹以上!?

 そりゃ、凄い数だし、はっきり言ってやばい!

 

 ジュリアが感じた危険な気配をイザベラも感じていたようだ。

 こちらははっきりと相手を認識しているらしい。

 何故ならばイザベラは魔法使いらしく索敵の魔法を使っていたからである。


「私も感じるよ。ジュリアの言う通りだ」


 自信満々に言うイザベラ。


 「早速、支援役(バファー)の本領発揮か?」と茶化すとイザベラは嬉しそうにぺろりと長く赤い舌を出した。


「ふむ、この面子なら多分問題は無い……進もう」


 この中で『クラン』の戦力を1番把握しているアモンが発した最後のひと言で俺達は注意しながら進む事になったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 それからまた20分くらい歩いただろうか。

 ジュリアとイザベラがいきなり敵の襲来予告を告げた。


「近いわ! この先、10分くらい歩くと奴等に遭遇する。もう襲われている人が居るよ」


「ジュリアの言う通りね。確かに血の臭いがするよ……相手はオーク辺りかな。大群で人間を襲っている」


 血の臭いか……

 確かに俺のチートな鼻腔びこうにも、甘酸っぱく生臭い嫌な香りが漂って来る。


 だが……

 ああ、可哀想な人が襲われている!

 よっしゃ、助けるぞ!

 などと俺は絶対にそんな事は言わない。


 前にも言ったが、俺は清廉潔白な正義の味方ではないのだ。

 それに今の俺はもはや1人ではない。

 戦鬼アモンは置いといても、俺には愛する可愛い妻が2人も居る。

 

 ジュリアは戦えるタイプではないし、イザベラだって戦闘経験はさほど無さそうだ。

 2人とも俺が抱いた責任を取らねばならない。

 そのような状況で自分から危険を呼び込むような愚かな行動などありえない。

 しかしアモンが何かを期待するように俺を見た。


「トール、どっちにしてもこのまま行けば奴等と遭遇する。俺に楽勝したお前の実力、じっくりと見せて貰おう」


 俺に楽勝した実力って……あのね。

 腕相撲なのよ、分っている?

 でもアモンは「楽勝だ」という。

 

 相手はオークらしいが、こいつらはファンタジーの世界ではゴブリンと並んで、お馴染みの連中だ。

 実力的にはゴブの3倍から4倍増しだと考えておけば良いのだろうか?

 いくつもの資料本で読んだ限りでは、そこそこの膂力のみで戦うだけで、利口でも俊敏な魔物でもない。


「トール、俺が援護してやる。行くぞ!」 


 アモンにあおられた俺はもう戦う覚悟を決めるしかない。

 

「イザベラ! 俺とアモンで敵を殲滅する。ジュリアを守りながら魔法を撃てるか?」


「まっかせといて! 2人共頼りにしてるよ」


 イザベラがジュリアの腰に手を回して、かばうような仕草を見せる。

 俺はジュリアへイザベラを抱いた事を伝えたが、イザベラはイザベラで昨夜の出来事を自らジュリアに伝えたらしい。

 

 その為だろうか……

 俺の妻同士という立ち位置で、ジュリアとイザベラの間には絆と言うか連帯感が生まれているようだ。


 敵に遭遇した時の作戦をどうするか、俺は改めてアモンと相談した。

 素人の俺が出した指示にアモンは吃驚びっくりしながらも「言われた通りにする」と約束してくれたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 やがて……


 俺達はジュリアとイザベラが察知したオークの群れに遭遇していた。

 ざっと見てジュリアの予想を遥かに超えた50匹以上は居る!

 

 こりゃ……結構な数だ。

 

 オーク共は先日の山賊同様、商人を襲ったらしく馬車が倒れていた。

 獰猛な肉食のオークは哀れな犠牲者は勿論、馬車を引っ張っていた馬までも喰らっていたのである。

 奴等は離れた場所に現れた俺達を認めたようで、新たな獲物の出現に(よだれ)をたらして喜んでいた。

 

 俺は基本ヘタレだ。

 口の周りを真っ赤にして人肉を喰らうオークを目の当たりに見て、身体が震えている。

 俺のこころの中では葛藤が生まれていた。


 この凶暴なオーク達に果たして俺の剣の腕は通用するのか?

 スパイラル神から授かったチート能力はどこまで奴等に通用するのだろうか?


 だが、ここまで来たらやるしかない。

 

 この世界でこれから生き抜く為に!

 ジュリアとイザベラという妻達、そう俺の新しい家族を守る為に!


 ……俺の立てた作戦はこうだ。

 並びは前衛に俺、中段にアモン、そして後衛にイザベラとジュリアという布陣である。

 俺が前衛で戦い、前衛の俺が討ち洩らした敵をアモンが掃討しならがイザベラとジュリアの盾になる。

 最後方では、イザベラがジュリアを守りながら攻撃魔法で俺を援護する。


 50匹を超えるオークはさすがに多い。

 俺は深呼吸をして武者震いを止めると、気合を入れてオークの群れの真っ只中に飛び込んで行ったのである。


「トール! 死なないで!」


 ジュリアが小さく叫び、傍らのイザベラはオークの群れに突っ込んで行く俺を見ながら魔法発動のタイミングをじっと計っていた。


爆炎エクスプロシヴフレイム!』


 俺が群れに突っ込む少し前にイザベラの念話による言霊が俺聞えるように発せられた。

 悪魔族は無詠唱で容易に魔法を発動する事が出来るが、敢えて声を出すのは魔法の発動を全員が知り、味方の攻撃魔法を受けないようにする、つまり誤爆しない為の措置である。

 

 イザベラの言霊と同時に爆炎の魔法が発動し、大きな火球がオークの群れの中に着弾しで炸裂した。

 魔法の威力はもっと上げられるらしいが、今回は俺が連携して戦うので意図的に威力を下げてある。


 威力を下げたというが、それでも大きな爆音と共に赤黒い炎が高く立ち昇り、オークの叫び声と悲鳴があがる

 奴等は少なくとも10匹以上は斃れ、残りは大混乱に陥っていた。


 いっけ~!


 俺はスパイラルから授かった魔剣を振りかざすと奴等の群れに飛び込んで行ったのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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