第41話 「夫婦宣言」
結局、役割分担は下記のようになった。
各自の能力の自己申請を元にして俺が最終的に決めた結果である。
攻撃役:俺、トール・ユーキ。攻撃魔法は使えないが素早い動きで敵を瞬殺する……筈。
盾役:アモン。頑健な肉体とパワフルな攻撃は他の追随を許さない、文句無しの盾役。
強化役:イザベラ。支援魔法や攻撃魔法を発動出来る万能魔法使い。
回復役:ジュリア。回復の魔法は使えないが、治癒草などを使ってクランを癒す役回り。
具体的にお互いにどのような魔法が使えるかも一応オープンにする。
魔法に関して言えば俺はしょぼい生活魔法しか使えない。
アモンも魔法は多少使え、灼熱の炎も吐くが、基本は戦士である。
なので、このクランでの魔法使い役は基本的にイザベラだ。
俺を伴侶と認めた彼女は隠す事もなく、自分の行使出来る魔法を明らかにした。
唯一の難点は回復魔法が一切使えない事だが、攻撃魔法と支援魔法の使用可能なものは半端ない。
そしてジュリアは戦闘よりは裏方でクランを支えて貰う。
訓練を積めば強くなる要素はあるというが、現状で戦闘向きでもなく、魔法も使えないジュリアに受け持って貰いたいのは回復を中心にした後方支援役だ。
手段は回復及び治癒魔法の代わりとも言える種々の薬草である。
「明日、買いに行こうな」
「うん! トール、あたし頑張るよ」
昼間の事もあって俺から絶対に離れないという事を強くアピールするジュリア。
こうして明日の相談が終わり、夜も更けて来たので3人と1人はそれぞれ部屋に別れたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その夜……
当然の事ながら、ジュリアは狂ったように俺を求めた。
動物のように何度も、何度も……
やはり昼間のトラウマがあったに違いない。
泣きながら「離さないで」と叫び、俺の名を呼び続け、事が終わった後には満足して深い眠りについたのだ。
そんな様子を見てイザベラが平気なわけがない。
ジュリアが寝入ってから、自分のベッドに俺を呼ぶと優しく迎え入れたのだ。
当然俺はイザベラも抱いた。
見た目が派手な彼女も、究極の深窓令嬢の代名詞の王女様なだけあって今迄男性体験が無く、俺が初めての男であるそうだ。
抱いてみて分かった事は女の子って皆、違うんだなって事だ。
ちなみに俺は人間で、相手は悪魔であったが、アレの方は全然問題無かった事も付け加えておく。
そんな夜を経て俺達3人は単なる形だけでは無く色々な意味で本当の夫婦となったのだ。
翌朝……
アモンも加えた俺達4人は連れ立ってジェトレ村の中央広場を歩いている。
絆亭で朝食を摂った後、俺の提案で迷宮に潜る準備の為の買い物に出掛けたのだ。
当然、案内はジュリアであり、昨夜得た安心感から張り切って先頭を歩いていた。
まずは俺達が向ったのは『ギルデンの店』というドヴェルグ(ドワーフ)が経営する武器防具屋である。
この店の主人はアンテロ・ギルデンと言って兄のオルヴォが冒険者の街バートランドにおいてやはり武器防具店を経営しているそうだ。
まずはイザベラの兜を購入するのが目的だ。
俺が買いたいものを伝えると店員のドヴェルグが直ぐに商品を用意してくれた。
「この兜など如何でございましょう。こちらの可愛いお嬢様にぴったりでございますよ」
イザベラの黒い革鎧と同色の兜を持って来たドヴェルグは満面の笑みを浮かべている。
俺が資料本等で知っているドヴェルグは無愛想がお約束なので、まるで「らしくない」愛想の良さである。
兜はジュリアが褒め、アモンも納得しているようなので結構良い品らしい。
だが、イザベラは兜を装着したくないようだ。
「嫌よ、あたしの綺麗な髪が隠れちゃうじゃない!」
成る程!
そういう理由か!
やっぱりお年頃の女の子だ。
そんなイザベラの言葉に不思議そうな声で返したのはアモンである。
「イザベラ様、どうして嫌がる? 何事も安全の為だ」
「アモン! 貴方のそんな所が……」
嫌なのだと、言いたかったのであろう。
イザベラは辛そうに顔を歪めた。
親が決めた許婚とはいえ、相手を知り、好きになろうとしたに違いない。
「イザベラ、お前の綺麗な髪と美しい顔を守る為さ。我慢してくれないか?」
アモンの失敗を目の当たりにした俺は、兜を買うという目的は一緒でも違うお願いの仕方をする。
俺の言い方を聞いてイザベラはすっかり機嫌を直してくれた。
悪魔でも人間でも、女の子への気配りのやり方は変わらないのだ。
「うん、トール。貴方がそう言うなら……私、我慢するよ。ところで兜……似合うかな?」
「ああ、ばっちりさ! 我慢どころか、似合っていて、俺はとても可愛いと思うぞ」
「とても? か、可愛い!?」
可愛いって言葉は不思議だ。
女性はどのような世代になってもこの言葉を気にせず使う。
「うふふ、そ、そう? じゃあ買う! そして兜を被るわよ」
よ~し! 兜の購入終了っと!
すっかり機嫌を直したイザベラを見て傍らではアモンが首を捻っている。
自分が発した言葉とどこが違うのか? という疑問の表情だ。
だから!
言い方ひとつなんだってば。
俺は苦笑し、次の店に買い物に行くと宣言し、この店を出た。
次に俺達が向かったのはモーリスさんの店と同様の雑貨店である。
ここで水筒を4つ、食料品を2週間分、磁石付き携帯魔導ランプをこれまた4つ、治癒草、解毒草など薬草も結構多めに買い込んだのだ。
「トール、水は貴方の生活魔法で、明かりは私の魔導灯の魔法で間に合っていると思うけど……」
魔導灯の魔法の事を聞いたら、暗所で使う魔力で灯す明かりの事だそうだ。
「いやいやイザベラ、万が一魔法が使えない場合とか、ばらばらにはぐれた時とかを考えると必要だぜ。備えあれば憂い無しと言うからな」
「そうか! 万が一の場合ね」
納得するイザベラを見てジュリアも微笑む。
「さすがトール! 皆の安全に気を遣ってくれているのね。やっぱりリーダーだわ」
今度はジュリアに褒められた。
普通に嬉しい。
俺は水筒と魔導ランプ、食料品=乾し肉を少々を皆に渡したのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
街角の衛兵に聞くとジェトレの村から旧ガルドルド魔法帝国の遺跡コーンウォールの迷宮までは歩いて1日の距離だと言う。
「歩いて行くなんてかったるいさ。転移魔法で行こうよ」
歩くなど、さも面倒とばかりにイザベラが訴える。
俺はそんなイザベラを逆に問い質した。
「あのさ……転移魔法なんて誰が使えるの? イザベラが使えるの?」
「えっと、トールは使えないのかな?」
そんなの使える訳がない。
俺は苦笑して全員に対して歩いて行くぞと宣言したのであった。
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