第34話 「オークション始まる!」
俺が銅製の指輪の出品中止を提案すると、ジュリアもイザベラも不思議そうな顔をした。
魔道具である『守護の指輪』を装着すると、さほど強力ではない対物理の魔法障壁の効果が発生し、僅かながらも敵の物理的攻撃から身を守る効力のある指輪だ。
余り高価なものではないので冒険者で所持している者は多く、ある意味、冒険の必須アイテムと言える。
「でも……これを売れば少しは利益になるのに何故売らないの?」
ダックヴァルが俺へもうひとつくれたという真意を測りかねているらしいジュリアがぽつりと言った。
勘の良い彼女もこのような事はピンと来ないようだ。
「あのおっさんがお前達2人を『彼女』として大事にしろって事さ」
「「彼女!?」」
2人共、いきなり俺の口から固有名詞が出て吃驚している。
そこで俺は黙って2人の薬指に守護の指輪を嵌めてやった。
これら魔法の指輪は不思議な能力を持っている。
普通の指輪と違い、指輪のサイズが所有者が変わる際に自由自在に変わるのだ。
今度はイザベラが首を傾げて不思議そうに言う。
「ト、トール……薬指に指輪を嵌めるのって……意味があるの?」
普段の彼女に似合わず、声が少し震えている。
綺麗なシルバーの髪が揺れ、潤んだ赤い瞳がじっと俺を見詰めた。
今度はジュリアが身を乗り出した。
こちらも美しい鳶色の瞳が濡れたように輝いている。
「薬指に嵌める指輪って……やっぱり特別な意味があるんだよね? 早く言って!」
「ああ、妻と言うか、彼女と言うか、男が贈った場合はぶっちゃけ『俺の特別な女』って意味だよ」
「「妻! 彼女! 俺の特別な女!?」」
またもやジュリアとイザベラの2人は全く同じ様に復唱し、何故か顔を見合わせた。
そして……
「「トール!」」
2人は俺の名を呼び、揃って抱きついてきたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それから……
俺の前で、ジュリアとイザベラ、2人の女の話し合いが行われた。
議題は俺に対する2人の立ち位置である。
議論は白熱したが、基本的には出会ったという順番という事でジュリアが正妻、イザベラが第二夫人という事で決着がついた。
正妻に第二夫人って俺はもう妻帯者かよ!?
しかしよくよく聞くとこの世界の正式な結婚は儀式的な事をやらなくてはならないので、この呼び方はあくまで便宜上の物だそうだ。
便宜上でも婚約に近いものなので他の男は基本的に手は出して来ないらしい。
あくまで基本的にという事だが……
「ちょっと妬けるけど……イザベラが礼を尽くしてくれたから……あたし、彼女を認めるよ」 とジュリア。
「私の一方的なひとめ惚れで真剣だと話したらジュリアに分って貰えたんだ。姉の為にオリハルコンを持ち帰る事が出来たら、父上と母上、そしてその姉上に話して許しを得るつもりだ」とイザベラ。
イザベラは重大な決意を固めたようだ。
よくよく聞けば、いずれ王族の地位を捨てるらしい。
えっと……イザベラってやっぱり単なるチョロインじゃあなかったんだ。
「何よ、それ! やっぱり意味分からない! 私はね強いのに偉ぶらなくて優しいトールが好きなんだ」
余計な事を考えた俺が念話でイザベラに怒られたのは言うまでも無い。
更に詳しく聞くと悪魔族は強さが全ての基本で強い者は弱者に対して徹底的に傲慢に振舞い相手を下僕のように扱うらしい。
夫から妻に対してでも例外ではなく……
圧倒的な強さでイザベラに勝ったのに、女に征服者として威張らないのが良いという。
何?
征服者って?
イザベラに言わせれば、俺の物言いと態度がとても優しいし、一緒に居ても楽しいのが好きになった理由だというのである。
当然、顔が恰好良い事も理由として大きいそうだ。
俺はそれを聞いて、こみあげる嬉しさを隠そうと無理に真面目な顔をして話を本題に戻す。
「じゃあ、改めてオークションに出品する商品を申請しよう」
ここでも俺の『勘』は2人に理解して貰い、売主として結局出品したのは下記の商品である。
☆魔法王ルイ・ソロモン製悪魔召喚の指輪(真鍮製・多分、レプリカ)
最低落札希望額:120万アウルム
☆魔力強化の指輪(銀製)
最低落札希望額:60万アウルム
☆魔力吸収のアミュレット(銀製)
最低落札希望額:120万アウルム
ちなみにゴブリンの魔石もオークションに出すようなものではないので当然申請しない。
これらを売って得た利益は俺とジュリアの出資金の割合、そして各自の鑑定と解呪の手間賃が考慮されて3人で分け合う話になっている。
事前に例の魔法水晶でチェックを受け、出品手数料を払い、最低落札金額を設定して申請は完了する。
そしてオリハルコンのオークションにも俺達は参加するのだ。
イザベラの為にこちらは何としても成功したい案件である。
こっちの方の資金は920万アウルム……
これはイザベラが国から持ち込んだ私物の宝石を売った資金だ。
先程の話し合いで女同士、何故か意気投合した2人だが、イザベラの私物の宝石売却の交渉もしてくれたジュリアに対してイザベラは感謝しきりであった。
そうこうしているうちにあまり時間がなくなったので俺達は急いで絆亭に戻り、早い夕食を摂った。
オークション会場で食べても良いが総じて高いものだし、絆亭は食事代込みだ。
こんな所で無駄遣いをするのは勿体無いというジュリアの意見に皆、同意したのである。
絆亭の女主人ドーラさんに午後10時までには帰ると告げて、慌しい中、俺達は商業ギルドのオークション会場に戻ったのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
午後6時……
今、俺達3人が居るのは、ジェトレ村商業ギルドのオークション用屋内会場である。
規模も凄くて千名ほども入れる大きなものだ。
ギルドの職員に聞いたら、これでも王都セントヘレナや冒険者の街バートランドからすればとても小規模なものだそうだ。
今夜の俺達は『売主』と『入札参加者』両方の立場だ。
入場参加料は鑑札を持っているから無料であり、全体が見やすくて目立たぬよう、一般席のやや後ろに陣取っていた。
手元には参加者の証である「パドル」を持っている。
遊びでは全くない真剣勝負である仕事の場なのにさっきから俺はワクワクのし通しだ。
何せ前世と転生後、通じてネットオークションも未経験の俺にとって初めてのオークションなのである。
まずは進行役の競売人が挨拶をした。
この商業ギルドのサブマスターで何と妙齢の女性だ。
「皆さん! ジェトレ村のオークションへようこそ! 私はこの商業ギルドのサブマスターで競売人のアメリア・ブルックと申します。今夜はオークションを楽しむと同時に皆様に有意義なものを適正価格でぜひ手に入れてお持ち帰り下さい」
金髪のロングヘアを後ろで束ね、流暢な口調で説明をするアメリア嬢は20代半ばくらい、ジュリアやイザベラの美少女タイプとはまた違う大人の美人だ。
前世で言えばアメリカンビューティといった所だろう。
当然、ボン! キュッ! ボン!
凄い身体である。
爆乳とも言える巨大なアメリアさんの胸が気になった俺は、ぼうっとして見とれていたらジュリアとイザベラに思い切り膝をつねられる。
ははは、不味い!
俺は誤魔化すように2人の肩に手を回し、確りと抱き寄せたのであった。
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