第33話 「良い奴じゃない?」
結局、ダックヴァル商店では純利益220万アウルム相当の商品と反魂香、そしてコーンウォール迷宮内のどこかの鍵らしい魔法鍵を得る事が出来た。
思いもかけない結果を見て、これに味をしめたイザベラがもっと『特別なこの部屋』にて商品を買いたがったが、意外にもダックヴァルが、きっぱりと断ったのである。
「悪いが、俺は店に来る奴へ公平にチャンスを与えたいのでな」
よくよく聞けばダックヴァルは道楽でこの部屋を運営しているという。
当初は極悪非道な酷いおっさんだと一方的に思っていたが、鑑定と解呪が出来れば大儲け出来るってのは嘘じゃなかったのだ。
「おっちゃん、最後の用事なんだけど、最近コーンウォール迷宮で見付かったオリハルコンについて聞きたいんだ」
この店に来た2つめの目的、オリハルコンの情報収集である。
「持ち込んだ冒険者の話とか知っている?」
「ああ、知っているぞ。奴等はクラン大狼というCランククランさ」
クラン大狼は、コーンウォール迷宮を拠点にして稼いでいる男性冒険者のクランであり、俺達が貰った魔法鍵を持ち帰ったのも彼等だという。
となるとオリハルコンはどこで見つけたのだろう?
「ああ、コーンウォールは地下5階まである迷宮だが、その最深部の宝箱にあったそうだ」
迷宮最深部の宝箱?
う~ん、本当かな?
何でもその宝箱は数日ごとに新たな中身が入れられているという。
それって、まるで誰かが趣味で入れているみたいだ。
続いて俺は魔法鍵の事も聞いてみる。
「さっきも言ったが見えないという扉を彼等も見つけられなくてな。仕方無く売ることにしたそうだ」
う~ん……
それって違和感ありありだ。
いつかは扉が見付かるかもしれないし、所持していれば良い話だ。
聞く事を聞いて満足した俺達はダックヴァルに別れを告げる事にする。
「おっちゃん、ありがとう!」
「世話になったな」
「いろいろ済みません」
ちなみに最後の言葉は俺……
俺は基本的に小心者だ。
謝らなくても良いのに、ついつい謝罪してから物を言う癖って何とかなりません?
一旦別れを告げた俺達だったが、ダックヴァルはいきなり俺だけを呼び戻した。
そしてジュリア達から見えない物陰に誘い、こう囁いたのだ。
「おい、トールと言ったな。俺に会ったのも何かの縁だ。餞にこれをやろう」
ダックヴァルから渡されたのは今回獲得した銅製の守護の指輪とほぼ同じものであった。
「あの銅の魔法指輪を売らないでおけ……ほら……あの可愛い2人と上手くやれよ」
ああ、ジュリア、イザベラの2人と上手くね……
気を遣ってくれるなんて、おっさん……結構良い奴じゃあないか。
「お前達は商人としてこれから遠くへ旅をするんだろう? 実はな、このヴァレンタイン王国の王都セントヘレナと冒険者の街バートランドには俺の兄貴達がそれぞれ店を出しているんだ。よかったら訪ねてやってくれ。末弟のサイラスが宜しく言っていたとな」
はあ……ダックヴァルって3兄弟!?
凄そうだ……
「ありがとう、ダックヴァルさん」
「良いよ、サイラスって呼べ。暫く経ったらお前達にまたあの部屋を使わせてやろう」
俺はダックヴァルに改めて別れを告げるとジュリアとイザベラの下に戻ったのである。
「遅かったね、何か言われたの?」
ジュリアは勘が良い女の子だ。
俺がダックヴァルに何か言われたのか、気になるようである。
「後で話すさ……」
俺はそう答えてジュリアを安心させる為ににっこりと微笑んだのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次に俺達が向かったのはブリジット・フルールという女性が営む宝石店である。
ジュリアが言っていたフルールさんの店とはここである。
ここで主に扱っているのは迷宮などから持ち込まれたいわゆる『やばい』ものではない。
このヴァレンタイン王国の商業ギルド経由で売られた真っ当な宝石である。
ジュリアが何故ここに俺達を連れて来たか?
理由は2つある。
ひとつはダックヴァルに会わせたのと同じく顔見世、2つめは真っ当な宝石の小売価格を覚えて欲しい事だという。
俺がスパイラルに貰った身体は幸い頭も良く、記憶力など抜群だ。
この頭が前世でもしあったら、偏差値も凄い有名大学へ楽勝で行けただろうな……
しかしあの世界に生きていた俺は、はっきり言ってほぼ詰んでいた。
スパイラルが自分のお蔭だと勝ち誇るのは癪だが、このイケメン顔とこのスーパーチートな身体のお陰で2人の美少女をゲットし、お金も儲けられそうなのだから感謝しなくてはいけないだろう。
俺はフルールさんから宝石の特長を色々と聞き、小売価格の相場を覚えて行く。
こんな事……今の俺にとっては、もう楽勝だ。
ついでにモーリスから買ったガーネット……アルマンダイガーネットというのだそうだが、ついでに売却する。
ここでもダックヴァルが言っていた嘘発見器、もとい魔法水晶で盗品じゃないかを判断するという。
魔法水晶の検査の結果……当然、俺達はシロであり柘榴石は2つで金貨1枚という値段で売れたのであった。
しかし残念ながら、オリハルコンに関してフルールさんは何も知らなかったのである。
次に向ったのはこのジェトレでも比較的大きい店、キングスレーという商会だ。
ここは基本的に小売というより大口の取引をメインに行う店である。
前世で言えば商社という所だろう。
責任者は支社長のアメデラ・フォンティという奴で30歳くらいのやり手らしい男だ。
何でも商会トップの会頭であるチャールズ・キングスレーからこのジェトレ村で支店を開き、軌道に乗せるよう命じられたそうで、それまで故郷のバートランドには帰れないらしい。
ここの訪問の目的もやはり顔見世……人脈つくりだ。
ちなみにアメデラにもやはりマルコという兄が居て、キングスレー商会の番頭格だそうだ。
彼にもダックヴァル同様、もしバートランドに行くのであれば訪ねてくれと言われてしまう。
だがアメデラもオリハルコンに関しては一般的な事しか知らず、所有者の情報も持っていなかった。
オークションの時間も迫ったので俺達はこの3軒の店を回って商業ギルドに戻って来たのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
商業ギルド、午後3時……
まず俺達はオークション出品の申し込みをする。
ダックヴァルから仕入れた魔道具をオークションでの競売にかける為だ。
結局上代の65%で買い取ろうというダックヴァルの申し出はあったのだが、オークションでの経験を積むのとあわよくば上代以上の売却を狙うのが目的である。
ここで急に俺に対して例の勘が働きかけた。
その勘とは……
賢者の石と反魂香を売るな……という俺への警告だった。
いや、これは警告ではなくアドバイスか……
そういえば「売るな」で思い出したぞ。
ダックヴァルの忠告って奴だ。
俺はジュリアとイザベラに銅製の指輪のオークション出品中止を申し入れたのであった。
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