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第32話 「名品・珍品の店⑤」

申し訳有りませんが、第31話から呪われた商品販売の設定を少々変更しました。

 未鑑定商品の部屋に置いてある商品棚を見た俺達は結局、真鍮製の指輪1つ、銅製の指輪1つ、銀製の指輪とアミュレットを各1つずつ、そして正体不明の香のようなものを1つ購入した。

 金額はしめて40万5千アウルム、金貨40枚と大銀貨5枚となる。

 ちなみに謎の香は大量購入の特典としておまけで付けて貰ったものだ。


 支払いは俺とジュリアの有り金、ほぼ全部でまかなう。

 これは全財産を使って行った思い切った賭けである。

 当然、イザベラの解呪魔法ディスペルがあっての勝算だ。


「ふふふ。で、どうするね。俺が鑑定と解呪(ディスペル)をやろうか? 当然の事ながら別料金だがよ」


 店主のダックヴァルは意味ありげな笑いを浮かべている。

 

 ああ、こいつの鑑定料と解呪魔法の発動料金って法外なんだろうなぁ……

 

 未鑑定で呪われた商品という事で持ち込んだ冒険者から安価な値段で買い叩いている筈なので彼が損をする事はまず無い。


「冗談じゃない! 鑑定はあたしとトールが受け持って、解呪の方はイザベラがやるよ」 


 ジュリアが憮然とした顔で返事をするとダックヴァルは興味深そうに笑う。


「ほう! 若いお前達3人がやるのかね。大丈夫かよ? 鑑定はともかくとして、解呪に失敗して呪われても俺は責任を持たないからな」


「あたし達なら、絶対に大丈夫さ」


 念を押して聞くダックヴァルに対してジュリアは強気で返す。

 俺はともかくイザベラの解呪は心配な筈なのだが、ここで弱気は見せられない。

 ダックヴァルに容赦なくつけ込まれてしまうからだ。

 

 事が決まってからは『儀式』が俺達を待っていた。

 後で揉めない様に恒例の事として行っているのだろう。

 ダックヴァルから念書にサインするように求められる。

 客が自ら行った解呪に失敗して、最悪の場合に死亡したとしても店を絶対に訴えないという凄い念書だ。

 念書に代表で俺の名前を入れた後にイザベラが口を開く。


「さあて解呪して良いのかな?」


 イザベラは待たされて手持ち無沙汰にしていたせいか、彼女独特の赤色の瞳を輝かせている。

 やる気満々という感じだ。


「よし……今、魔法の掛かったトレイの上に運ぶからそこでやってくれ」


 どうやって商品を運ぶのかと思ったら、ダックヴァルは分厚い革製の手袋を装着して商品を掴んでいる。

 何か、強力な防御魔法が付呪してあるようだ。

 彼はそのまま俺達が選んだ商品をトレイの上に載せたのである。


 成る程……

 あのような手袋があるのか。

 

 商品は丁寧にトレイに置かれた。

 ダックヴァルは俺達に向き直る。

 その瞬間いかにも俺達の失敗を望んでいるような奴の下卑た笑いが部屋に響いたのであった。


「準備は出来たぞ。さあ、どうなるかな? へへへへへ」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法障壁の付呪(エンチャント)された分厚い壁に囲まれ、呪われた商品と粗末なテーブルと椅子しか無い奇妙な部屋。

 その部屋で今、驚くべき光景が繰り広げられている。


「お、俺とはやり方が全く違うけどよ……す、すっげーな! 瘴気や呪われた魔力波があっという間に消えて行くぜ」


 ダックヴァルは目を見張り、俺達も吃驚していた。


 先頬からイザベラが細く白い手を(かざ)し、悪魔族特有の無詠唱で溜めの無い魔法発動から次々と購入した商品の呪いを解呪しているからである。

 但し、彼女の解呪魔法は特殊であった。


 何と!

 

 負の怨念らしき魂の残滓や禍々しく妖しい魔力波を自分の身体に吸収しているのだ。

 はっきり言おう、美味そうに食べていると!

 やがて解呪の魔法は終わったようだ。

 ぺろりと真っ赤な長い舌で満足そうに唇を舐めるイザベラ……怖すぎる!

 

「何か俺、お前を馬鹿にしたような事を言った記憶があるような、無いような……まあ良いや。す、済まなかったな」


「うん! 分かれば宜しい!」


 解呪を終了したイザベラはダックヴァルに謝って貰い、満面の笑みを浮かべて得意そうな表情だ。


「さあ、次はあたしとトールの番だ。指輪やアミュレットはあたしに任せてね」


 ジュリアも一層気合が入っている。

 有り金使って仕入れ買いしたのは勿論、自分の目の前でイザベラの驚異的な力を見せ付けられたから当然だろう。

 誇り高い竜神族の血が彼女にそう言わせているのだ。


 ―――15分後


 何と!

 ジュリアもこの短時間の間に指輪3つとアミュレット1つの商品鑑定を終えていたのである。

 そして俺も例の謎のお香の鑑定を終えていた。

 購入金額との差がはっきり出たのでジュリアの表情は晴々としている。


「うふふ。真鍮製の指輪は多分後世のレプリカだけど……何とルイ・サロモン作、悪魔召喚の指輪で金貨100枚の価値よ!これだけで大儲けね!」


 そんなジュリアの顔を見てしてやられたという感じのダックヴァルも苦笑している。


「だけどジュリアよ。それは悪魔を召喚して無事に従士にしてからの話だぞ。腕の良い召喚師サマナーが居ないと使うには無用の長物になる」


「へへ~ん、何もあたしが使うなんて考えていないもん。悪魔は既に1人居るから、もう充分間に合っているしね」


 思わず本音で語るジュリアをイザベラは、じと目で睨む。


「え!?」


 しかし驚いたのはダックヴァルだ。

 この世界の人間は『悪魔』と言う言葉に敏感みたいだ。

 多分、とても怖れているのであろう。


「へへへ、独り言だよ。……で銅製の指輪は守護の指輪で金貨10枚相当の価値、銀製の指輪は魔力強化の指輪で金貨50枚、そして同じく銀製のアミュレットは魔力吸収のアミュレットで金貨100枚と。都合金貨260枚、260万アウルムで購入金額の約40万アウルムを差し引いても、約220万アウルムの大儲けだわ。うっほ~い!」


 喚声をあげて喜ぶジュリア。

 確かにこれは大勝利だ。

 そして俺も鑑定結果を告げる。


「この香は多分『反魂香』だ。死線を彷徨さまよう重態の病人を回復させたり、魂が離れたばかりの死者の魂を呼び戻す魔道具(マジックアイテム)だよ……価値は時価じゃあないかな」


 俺にも鑑定の能力が徐々に目覚め始めていた。

 魔力波と中二病の知識が頭の中で不思議な感覚でマッチングされて即座に答えが出て来たのである。

 そして時価というのは簡単に価値がつけられないという俺なりの意味なのだ。

 オリハルコンと一緒で購入者によってつける金額も大幅に変わって来るだろう。


「ははは、やっぱりそれは反魂香かよ。持ち込んだ奴に聞いたら迷宮で行き倒れになっていたサムライらしい剣士から拝借したんだとよ」


 拝借……ねぇ。

 まあその人はもう使えないんだし、迷宮の奥で朽ち果てさせるよりはまし……っていうのが、この世界の常識、価値観なのだ。

 俺の前世なら信じられない考え方である。


「まあ、良いや。正直俺にも解呪出来なかったものも混ざっていたしな。買い取った元値を考えても俺だって倍以上の大儲けだもの」


 やっぱりか!

 転んでもただでは起きないダックヴァル。

 良いだろう、これからあんたの事は『鬼商人』って呼ぼう。


「で、どうする。これを売る気があるなら反魂香以外全て上代の60%で買うぞ」


 ……何だ、この親爺は……もとい! さっきの呼び名を訂正しよう。

 鬼の前に極悪と……『極悪鬼商人』と呼ぶのが、ぴったりだ。


 俺は呆れた顔で、この喰えない髭の親爺を見詰めていたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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