表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/150

第31話 「名品・珍品の店④」

申し訳有りませんが、第31話から呪われた商品販売の設定を少々変更しました。

 イザベラの宝石(ジェム)を売った俺達は髭面の店主ダックヴァルの案内で店内を物色している。

 

 俺とジュリアにはイザベラの依頼以外にも仕事を請け負っている。

 タトラ村のモーリスからは錬金術用の金属素材の調達を頼まれていたのでダックヴァルと確認の上で交渉した。

 その結果、練金術用の素材は見付かったが結局、残念ながら俺達の提示した金額とは折り合わなかった。

 俺は金属の価値や相場は皆目見当がつかないが、ここでもやはりジュリアが冷静に判断してくれたのだ。


 商談が成立せず、錬金術用の金属を売る事が出来なかったダックヴァルは、どうにかして俺達に自分の店の商品を買わせたいらしい。

 意味ありげに頷くとこの店の1番奥の部屋に俺達を誘ったのである。

 ダックヴァルの表情には悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。


 その部屋は広さが15畳程の奇妙な部屋であった。

 強力な魔法障壁が付呪エンチャントされた壁で覆われた三方は商品棚で囲まれ、一見すると殺風景な部屋である。

 中央には粗末なテーブルがあり、商品をその上に置く為なのか、これまた銀製のトレイのような容器が置かれていた。


「ははは、ここの部屋の商品は俺が気に入った奴しか案内しないんだよ。というのも、はまれば大儲け、最低でも元は取れる掘り出し物ばっかりだからさ」


 でもなぁ……世の中にそのような美味い話があるわけがない。

 俺は気を引き締めてダックヴァルがどう切り出すか身構えている。


 ここは店に来る前にジュリアが言っていた、この店独特の未鑑定商品の販売コーナーであろう。

 山積みされている商品はどれもこれもやばそうな物ばかりだ。

 俺が見た所でも禍々しい瘴気が出ていたり、怪しい魔力波(オーラ)に覆われていたりする。

 中には何者かの怨念らしき魂の残滓(ざんし)が付着していたりする。


 魂の残滓って何かって?

 いわゆる怖い口調で「うらめしやぁ」って言って出てくる方々です。

 あれですよ、あれ!

 スパイラルめ!

 俺にこんなモノまで見える加護まで与えてくれちゃいました!

 はっきり言ってそんなモン見たくねぇ!


 俺が瘴気を我慢して何とか値札を見ると、質のわりには確かに安い。

 異常なほど安い。 


 しかしこれらを安く売る代わりに、この店では高い料金で鑑定したり、解呪魔法(ディスペル)を掛けたりして手間賃を稼ぎ、帳尻を合わせているのだろう。

 ちなみにダックヴァルによれば、彼が解呪するのは勿論、そうでなければ客が自ら解呪するかして、完全に無害な商品にしないと、もし買い上げても店外には持ち出せない決まりとなっているそうだ。


 ほらぁ!

 やっぱり店主が言っているほど美味しい話じゃない。

 あんな甘い言葉は真っ赤な嘘なのだ。


「ジュリア、この部屋の決まり(ルール)は知っているな」


 ダックヴァルは念を押すように聞く。

 しかしジュリアは顔を(しか)めて吐き捨てるように言った。


「ああ、知っているよ。でも悪趣味だ」


 ほら、ジュリアもそう思っている。

 そうだよな、まともな人間なら皆そう思う筈さ。


「ははは、褒め言葉と受け取っておこう」


 俺は自分とジュリアの価値観が同じでホッとしたが偏屈店主のダックヴァルは不敵に笑っていた。


 しかし割り切れば良い売り物を仕入れるチャンスなんだけど一体どうしようか?


 俺には何となく価値のあるものの見極め……鑑定なら出来るけど……解呪魔法(ディスペル)は全く出来ないし……

 無理して呪われた商品を仕入れるなんて、絶対何か悪影響を及ぼすし、そんなの真っ平御免だ。

 そこがA級魔法鑑定士であり、解呪魔法(ディスペル)も出来るらしいこの親爺の『手』だと思うが……


 そんな俺の(こころ)を読んだのだろうか?

 イザベラが含み笑いをしてしなだれかかって来たのである。


「トール……私に解呪をやらせて! 下手な呪いなんかは受け付けないし、解呪魔法(ディスペル)だって完璧に発動出来るよ」


「本当か!?」


 俺は思わず声が上ずってしまう。


「うん! 私は体質的に呪いに強いし、国では周りも皆、呪法が得意だから、この魔法に関しては小さい頃から徹底して教え込まれるんだよ、当然解呪もね」


 凄い!

 お前ってとても『使える女』じゃないか、イザベラ!


「ねえ、私って役に立つよね」


 大きく頷いたその瞬間、俺に向かって放たれた凄い殺気。


 ええと……ジュリアだな、これ……


 俺が振り返るとジュリアは唇を噛み締めながら何とか怒りを抑えていた。


 よしっ、こういう時はハグが一番だ!


「ジュリア、おいで」


「あ、ああ……」


 俺の呼びかけにジュリアは素直に応じて近付いて来た。

 すかさず片手を伸ばして俺は彼女の華奢な身体を抱き締める。


「きゃっ、トール……」


 俺は片やジュリア、こなたイザベラといった両手に花といった形でダックヴァルに向き直った。

 そんな俺の姿をダックヴァルは感心したように見詰めている。


「坊主、お前……やるなあ! 男の夢だよ、それ!」


「ダックヴァルさん、商品……ゆっくりと見させて貰いますよ」


 俺はにやりと笑って商品を見始めたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺はジュリアとイザベラの2人を連れて商品棚を見て行く。


 新旧の鎧に盾、魔法が付呪(エンチャント)されたらしい剣、短剣、杖……

 アミュレットやタリスマンなどの護符、そして真鍮製、銅製、銀製など様々な指輪。


 多種多様なものがあって、店主のダックヴァルによれば迷宮から冒険者達が持ち帰ったものが殆どだと言う。

 このような場合、持ち込んだ奴が殺して強奪したものか、そうでないかは店に置いてある魔力波オーラに反応する魔法水晶で判断されるそうだ。

 

 前世で例えれば嘘発見器みたいなものであろう。

 

 それでこの世界の倫理観ってコントロールされているんだな。

 確かに上級魔族と違って、普通の人間なんかに魔力波は裏操作出来ないからね。


 ちなみに魔物や他人によって既に殺された人の遺品を持ち帰るのはお咎めが無いらしい。

 確かに行き倒れの人間の装備品を剥いで頂いてしまうのは、実際にありだと俺はゲームでは学んで理解はしている。


 俺はもう1回、商品を見て回る。

 下手に触ると呪われてしまうらしいから、絶対に触らない。


 しかし見直すと未鑑定で呪われたりしているだけに店内の同じ様な商品に比べると格段に安い、滅茶苦茶安い!

 ジュリアも割り切ったようでこの機会を最大限に生かすらしい。


 気持ち悪いけど、解呪すれば……同じか……

 商人は割り切って稼がないといけない。


 俺は熱心に商品を見て回るジュリアを見て決意を新たにしたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ