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第30話 「名品・珍品の店③」

「店主さん、これって鍵でしょう?」


「おいおい、お前良くこれが鍵って分ったな? 大したもんだ」


 目の前に置かれた物に対して俺が咄嗟に頭に浮かんだ印象で指摘すると店主のダックヴァルは吃驚びっくりしたような顔をした。

 彼が言う通り、確かに目の前にあるのは普通の鍵みたいに歯があるわけではなく単に小さな細い金属棒であったからだ。


「だって! あたしの彼だもん」


「私のダーリンであるぞ」


 ジュリアが誇らしげに叫ぶとイザベラも黙ってはいない。

 どうやらさっきのキスで完全に彼女モードに入ってしまったようだ。

 チョロイン増産と言われてもこれが、現実なら嬉しい悲鳴である。

 

 そんな2人が、睨み合って何か微妙な雰囲気だけど、まあ仕方がない。


「これって、魔力を込めて魔法錠前に差し込んで開ける鍵でしょう? いわゆる魔法鍵(マジックキー)じゃないかな」


 俺は何気に浮かんだ知識を言ってみた。

 魔法鍵だという俺にジュリアとイザベラも追随する。


「確かにトールの言う通りかも。でもあたしもこんな形の鍵は初めて見るよ」


「私の国のものとは違うけど……言われて見ればこのような鍵は見たことあるかな」


 そんな俺達3人にダックヴァルは改めて説明した。

 彼の言う所によればこの鍵は先日コーンウォールにある迷宮に潜ったあるクランが発見して持ち帰って来たらしい。


「これはよぉ、今巷で噂の旧ガルドルド魔法帝国の遺跡コーンウォールの迷宮で見付かったものよ。ほら! 先日、オリハルコンが見つかった迷宮さ」


 おお!

 そういえば思い出した。

 確かにオリハルコンの発見場所は、コーンウォールの迷宮だった。


 納得したらしい俺達を見て、ダックヴァルは説明を続ける。


「あの迷宮の最深部にはいくつか開かずの扉があってな。常人には見えない禁断の扉らしいんだ。この鍵はそのような扉の錠前に合う鍵のひとつだと言うぜ」


「でも……常人には見えないたって、この鍵を見つけたクランの奴等は扉を開けようとしたんだよな?」


 俺が当然思うであろう疑問をぶつけると、ダックヴァルは大きく首を横に振った。


「だからよ、その扉自体が見付からなかったんだ、散々探したらしいけど仕方なく諦めて俺に売った……どうだい、見えない扉の奥にはオリハルコンを始めとして、旧ガルドルド魔法帝国の未知の財宝が眠っているというぜ」


 未知の財宝?

 駄目だ、俺の中の中二病がどんどん迷宮に行こうって言っているよ!

 冷静になれ! 俺……


「でもさ……この魔法鍵自体がその旧ガルドルド魔法帝国のものかどうか分らないじゃないか」


 今度はイザベラがダックヴァルに対して疑問を投げ掛ける。

 その落ち着いて話す様子を見た俺はホッとした。


 イザベラも……

 ……無事にクールダウンしたのか、よかったぁ!


 そんな俺の気持ちも知らず、傍らで髭店主ダックヴァルは自信たっぷりに言い切った。


「俺はこのような鍵を何回か取り扱った事がある。これは確かに旧ガルドルド魔法帝国で使われていた魔法鍵だ、間違い無い」


 ダックヴァルの言葉を聞いていたジュリアも興味深そうに頷いている。

 こちらもやっと落ち着いたようだ。

 

 よかった!


「イザベラ、どうするの? もしダックヴァルさんと交渉するのなら私が代わりにしてあげるよ」


 おお、ジュリア!

 さすがプロだ。

 一旦、引き受けた仕事だから、感情を抜きにして代行するっていうんだな。


「何を! 偉そうにこの女は「イザベラ駄目だぞ!」」


 ジュリアの物言いを聞いて、また怒りに点火しそうになったイザベラを俺が軽く睨んで注意した。

 すると、どういう事か彼女は小さく「御免」と言って引き下がったのだ。


「イザベラ、ジュリアは客であるお前の為に交渉すると言っている、良いよな?」


「あ、ああ……」


「ああ、じゃない。お願いします……だろ?」


 俺はにっこり笑ってイザベラを促すと切なそうな表情でまたもや「うん」と彼女は頷いたのである。

 それを見たジュリアもにっこり笑って「引き受けた」と答えたのだ。


「おっちゃん、この娘は私の大事な客で仲間なんだ。交渉はさせて貰うよ」


 仲間!?

 改めてジュリアの口から出た言葉にイザベラは吃驚している。


「ああ、話だけは聞いてやる。だがな、800万アウルムと魔法鍵で大サービスだと思うぜ。これ以上の条件は他に行ったらまず無い」


「ふふふ、そうかな? この娘が言った1千万アウルムってのは、実はあたしが鑑定した金額なんだ。それも結構少めにね」


「…………」


 ジュリアの指摘に対して図星だったのか、ダックヴァルは黙り込んだ。

 彼が黙ったのを見たジュリアはここぞとばかりに攻め込んで行く。


「確かに宝石として売るならその上代で良心的と言えるだろうけど……いくつかの宝石を魔道具用に別で売るとしたらもっと利益が出ると思うけどね」


「な、何!?」


「悪魔王の石と言われる緑玉(エメラルド)に、海の精の魔力が篭もった真珠(パール)、魔法使いが予知に使う水晶(ロッククリスタル)、そして創世神の巫女が豊穣を祈願する柘榴石(ガーネット)……これ以外にも結構あると思うんだけど」


 凄いな!

 俺はそう思いながら以前に聞いたイザベラの言葉を思い出した。


『竜っていうのは一般的に宝石(ジェム)貴金属(プレシャスメタル)を始めとしたお宝が好きって事くらいは常識として知っているよね。ほら住処すみかに溜め込むってあれさ。竜神族も例外じゃなくて宝石や貴金属には目がなくて特に鑑定に関しては抜群に優れているという話だよ』


 確かに結構な量の宝石を僅かな時間で鑑定したり、今言った知識は生半可なものではなかった。

 間違い無い。

 ジュリアの竜神族としての血が彼女の素晴らしい才能を開花させつつあるんだ。


 ジュリアに突っ込まれたダックヴァルは呆気に取られたように目を見開いている。


「どうやら……お前はただの小娘ではないようだ、ジュリア」


 おお、この偏屈親爺が初めてジュリアをまともに呼んだ。

 今までは名前を呼ばずに『村の小娘』とか、『やせっぽち』とか散々な言い方をしていたが……


「ははは、仕方がない。じゃあ800万に少し色をつけてやる。プラス50万アウルムでどうだ?」


 ダックヴァルはやはりイザベラの宝石を買い取りたいらしい。

 結構な上乗せ分を提示して来たのだ。

 しかしジュリアはあっさりと『瞬殺』した。


「全然話にならないね。一旦はこの店で売ろうと思ったがフルールさんのお店やキングスレー商会に持って行った方が高く買って貰えそうだ。じゃあ引き上げるよ」


 凄い!

 華奢なジュリアが、貫禄たっぷりの店主ダックヴァルに対して一歩も引いていない。

 いや!

 逆にダックヴァルを押し始めているのだ。


「うぐぐ……じゃあ思い切ってプラス80万だ。でないとウチの経費が賄えない。ど、どうだよ?」


「ふふふ、もうひと声! お・ね・が・い!」


 ああ、ここでいきなり変化球だ。

 最後の止めはあの甘えん坊なジュリアの声である。


「くうう! じゃあプラス100万!」


「ようしプラス120万の920万アウルム&魔法鍵で決定よ! 当然税金はそっち持ちだ。 それで良いよね?」


 うっわ~!

 何気に20万増やしているし、ぱねぇぜ! ジュリア。

 ジュリアはそう言うとモーリスさんの店でやったように右手を差し出した。

 交渉成立可否の打診だ。


「うおおお! 勝手に値段をあげやがって! まあ良い! 買った、買ったよ!」


 脂汗をにじませながら手を差し出すダックヴァルを見ながらジュリアは可愛らしく「ありがとうございます」と言う。

 

 がっちりと握手をした竜神族の少女は、笑顔を浮かべて、ぺこりと頭を下げたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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