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第27話 「オークションって、なに?」

「ああ、そのおっさんの話が本当なら終わったぁ! はああ、よかったぁ……」


「そうだな、終わったな」


 イザベラが安堵して大きく息を吐く。

 俺も釣られて同意すると、思い切り伸びをした。

 ああ、俺とイザベラったら解放感を共有しているぞ。

 

 しかし俺達を見(とが)めて、非難の声を出したのはジュリアである。


「ちょっと! 終わったって、あんた達何言ってるの?」


「え、だってこのおっさ……い、いやチェスターさんの言う通りなら探しているオリハルコンが今夜のオークションに出品されるんだろう。それを落札すれば終わりじゃないのか?」


「そうそう」


 もう課題は解決したとばかりにのんびり構える俺とイザベラ。

 そんな2人をジュリアは呆れたように見詰めた。


「もう! 考えてごらんよ、もし誰かがイザベラの所持金以上で落札したらどうするのさ」


「所持金以上で? あ、ああ~っ!」


 そうか!

 高い金で競り落とされてしまったら、こちらからは手が出せない。

 馬鹿だな、俺は……

 一方、イザベラも言葉に詰まった上で物騒な事を言い出した。


「ううう! で、でもさ……万が一そうなったら落札した奴を暗闇で待ち伏せして無理矢理……あうっ!」


 イザベラがそう言いかけて悲鳴をあげた。

 ジュリアがイザベラの足を思い切り踏んだのである。


「そういうのは駄目って言ったでしょう? チェスターさんもこの()をじろじろ見ていないでいいの! この娘はほんの少し世間知らずなだけ……ジョークよ、ジャストアジョークだってば」


「す、少し世間知らず? だいぶ世間知らずな気がするけど……わ、分かった! だけど本当に強盗とか物騒なのは……勘弁だぜ」


 チェスターは未だ心配そうにイザベラを見詰めている。

 もし犯罪が起これば情報提供した自分に害が及ぶのではと心配しているに違いない。

 そんなチェスターの懸念けねんを紛らわせるようにジュリアが質問した。


「分ってるって! 絶対に大丈夫さ。それでさ、他に情報は無いのかな?」


「情報、う~ん、情報ねぇ……そうだ! さっき言っていたコーンウォールの迷宮には冒険者が殺到していて、少なくともいつもの倍の人数が潜っているそうだよ」


 2匹目のどじょうを狙うって事ね……

 よ~く分ります。

 チェスターの話を聞いたジュリアはふうと息を吐いた。


「まあオリハルコンはいくらの値がつくか分からないからね。皆、未だ有るんじゃないかと探すのも無理はないよ。後さ、チェスターさん。オリハルコンって本来貴重な古代人口遺物(アーティファクト)じゃないか。誰かが家宝として持っているとか、そんな話は耳にしないの?」


 ジュリアにそう言われたチェスターは暫し考え込んでいるようであった。


「う~ん、お宝自慢ばかりするここいらの金持ち連中の顔を思い出してみたが、オリハルコンって話は聞かないな。彼等が手に入れたら自慢しまくるから俺達商業ギルドの耳に入らない筈はない」


「そうか……そうだよね、どうもありがとう!」


 ジュリアはチェスターの答えを聞くと可愛くお辞儀をした。

 そして俺達を振り返るとチェスターに対して他に何か聞く事がないかどうか確認を求めて来たのである。


 ううむ。

 聞く事ね?

 俺は、ぱぱっと質問を考えてチェスターに投げ掛ける。


「チェスターさん、オリハルコンの落札想定価格って分るかな?」


「う~ん。それがな、残念ながら分からない。ただこれだけははっきりと言えるぞ。オリハルコンのような稀少な金属は普通のお宝より圧倒的に需要が多いんだ」


「需要……ですか?」


「ああ、美しいお宝として鑑賞するだけでなく、人間やドヴェルグの鍛冶師が武器防具の貴重なレア素材として調達しに来る。彼等は抱えている大口の客から競り落とすように言われて参加する場合も多いしな」


 そうか……

 オークションって代理参加もありって事なんだ。


 ここでジュリアが補足説明してくれる。


「トール、基本的な事を教えるね。オークションは街や村によって相違はあるけど出品するにはまず保証金が必要よ。そして落札価格の10%~30%を手数料としてオークション開催側が徴収するのさ。だから出品して売り上げを見込む場合は注意しないといけないよ」


 ええっ!

 そんなに取るの?

 オークションって楽しそうだし、値段が天井知らずの場合もあってワクワクしていたのでそこまで手数料を取るとはなぁ……


 そんな俺の恨みがましい目を見たチェスターは狼狽する。


「おいおい商業ギルドのオークションの運営はあらゆる面で大変なんだ。会場使用費、人件費、商品管理費等々、コストも凄くかかるんだよ。それにウチだけじゃなくて冒険者ギルドや他の団体、果ては王国が運営するいずれのオークション事務局も皆、仕組みは一緒さ」


 そうか!

 そりゃそうだよな。

 彼等だって儲ける為にやっているんだから。


「未だウチは良心的な方さ。出品する為の保証金は金貨1枚、すなわち一律1万アウルムで落札手数料は15%だからね……今、ジュリアちゃんが言った通り、街によっちゃ保証金は商品ごとの設定で落札手数料は30%以上を取る所もあるからな」


 成る程!

 勉強になった。


 片やイザベラはというと隣でつまらなそうにしていた。

 自分の興味がある事以外は真剣になれない……そういうタイプの女の子かもしれない。


 おっと、未だ質問をしなきゃね。


「ええと、出品する商品の鑑定額ってあるじゃないですか。それは多分、上代なんだろうけどこちらとしては当然、それ以上で売りたい。そんな時はどうするのかな? いわゆる安値で売りたく無い時とか」


「そうだなあ、出品する時には一応こちらでも鑑定するから何も希望が無ければその金額からスタートする。こちらとしては売らない事には話にならないからね。出品者に希望があれば最低入札希望額を設定してその金額以上で落札されるように着地させるよ」


 そうか!

 じゃあイザベラの宝石(ジェム)は最低でも1千万アウルム受け取れるように相談すれば良いのかな?


「出品商品には人気、不人気それぞれの傾向がある。すなわち商品に対してどこまで買いたい人が居るかって事。当然の事ながら人気商品は相場より高く売れるし、不人気商品はその逆の傾向だな」


 ほうほう!

 面白そうだ!

 今夜が楽しみだな。


 後は、出品の締め切り時間等々教えて貰って俺が満足しているのを見たジュリアはそろそろ移動しようと切り出した。


「そろそろここを出よう。他にも行く所があるからね」


「中々その彼は良いじゃないか。やる気満々だね」


 半分以上お世辞なのは一目瞭然だが、ジュリアは俺が褒められて悪い気はしないようだ。


「ふふふ、そう? 何たってあたしの『彼』だからさ。 こう見えて冒険者ランクもBなんだよ」


ジュリアはついそう言うとさすがにチェスターも吃驚する。


「そりゃ、凄い。でもそれなら商人より冒険者ギルドで高額の依頼を完遂した方が儲かるんじゃないか?」


「それを蹴って商人になってくれるのはあたしの為なんだ」


 ジュリアの、のろけとも言えるその言葉を聞いたチェスターはにっこりと笑顔を見せた。


「ははは、ジュリアちゃんが凄く幸せで、俺も嬉しくてご馳走様って感じだな」


 チェスター……結構、いい奴かもしれないな。


 イザベラがしかめっ面をする中で、俺とジュリアは見詰め合っていたのであった。


 ※作者注:文中の説明が実際のオークションと違いがある場合はご容赦頂きます。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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