第25話 「俺がモテる!?」
イザベラによるとジュリアは竜神族の血を引くという。
竜神族か……
俺には良く分らないけど『竜』って言うからには……あの怖ろしい伝説の竜……だよな。
竜って言われてもあまりピンとは来ない。
ジュリアって外見は可憐な美少女だから……
俺はそんな事を考えながらイザベラの所持する宝石を熱心に調べるジュリアを見詰めていた。
そんな俺にイザベラが念話でこっそりと囁いて来る。
どうやら内緒話をしたいようだ。
俺が竜神族に関して知識がないと勘付いて、すかさず話を振って来たらしい。
『トール、貴方は竜神族の事って本当に知らないの?』
『ああ、殆ど知らないな』
『じゃあ教えてあげるよ。竜神族の先祖はね、創世神と竜神の姫君との間の子である聖なる竜、真竜王――この神の御子だと伝えられている誇り高い一族なのさ。彼等は一般的な竜の一族とは一線を画していて、その為に殆どの竜族とは敵対している。だから竜の中でも最強と言われる古代竜なんかは代表的な彼等の宿敵さ』
俺はそれを聞いて少しホッとした。
スパイラルから貰ったその革鎧は古代竜の皮で出来ていると聞いていたから。
もしジュリアの一族の皮で出来ている鎧など着ていたらまず『やばい事』になるのは間違い無い。
そんな事は子供でも分かる事だ。
『竜神族は15歳を境に『覚醒』するんだ。覚醒すると身体能力の著しい強化は勿論、性格は益々強気になり、押しがとても強くなる。加えて危機回避能力も著しく高くなるから、強気で大胆な性格ながら冷静さも併せ持ち、リスクを見極める判断能力が凄く高くなる』
成る程!
それってジュリアの力……そのものだ。
『竜っていうのは宝石や貴金属を始めとしたお宝が好きって事くらいは常識として知っているよね。ほら巷で言われる住処にお宝を溜め込むっていうあれさ。竜神族も例外じゃなくて宝石や貴金属には目がなくて特に鑑定に関しては抜群に優れているという話だよ』
そうか!
じゃあ、宝石だけじゃないけどお宝を扱う今の仕事はジュリアにとって天職なんだな。
念話で会話をする2人の傍らで熱心に宝石を見入るジュリア。
その真剣な表情を見ているといつもの軽口を叩ける雰囲気ではない。
それだけ真剣な雰囲気なのである。
しかしどうやらその確認も終わりそうだ。
「2人共、お待たせ。何とか確認が終わったよ。さっきも言ったけど、さすが悪魔族の王女様の持ち物だ。トータルで金貨1千枚、1千万アウルムはすると思う」
1千万アウルム!?
約1千万円か!
そりゃ、凄い。
しかしイザベラは不満顔だ。
「失敗した! そんなに少いなら、もっと持って来ればよかった」
す、少ない!?
約1千万円で何故少ないの!?
俺が不思議な表情をしているのを読み取ったんだろう。
ジュリアがイザベラの心配は当然と主張する。
「トール、オリハルコンは貴重な古代人口遺物さ。もし見付かって仮に持ち主が売ってくれたにしても多分市場価値を無視した高額な言い値だよ。それに万が一オークションに出品されても下手すりゃ直取引以上の値が付いてしまう。そうなるとイザベラの持っている1千万アウルムでも心もとないんだ」
そうか!
そうなんだ……
生半可な中二病の知識があっても俺なんかまだまだ……だな。
そんな俺とイザベラに、ジュリアの声が掛かる。
「明日は商業ギルドに行ってトールとイザベラの商人登録をしよう。時間が無いから朝早く行くよ、だからそろそろ寝よう」
やっぱり今夜、『アレ』は無しか……
露骨にがっかりする俺に苦笑したジュリアは「じゃあ添い寝してあげる」と優しく囁いたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝……
俺達は手早く支度を済ませて絆亭で朝食を摂るとジェトレの村を歩いていた。
俺はひとつ疑問に思った事を念話でイザベラに聞いてみる。
それは村に入る時のチェックの問題だ。
確か特別村民証を発行する魔法水晶は悪魔族だと真っ黒に反応する筈。
それに手を翳して良くイザベラの正体がばれなかったかという事に関してである。
『ああ、あれ?』
あんなのチョロイとイザベラは言う。
『下級魔族ならともかく私達くらいの上級悪魔になるとあんな子供騙しの魔法水晶なんか魔力を使った裏操作で何とでもなるのよ』
という事はだ。
様々な街や村にノーチェックで凶悪な上級魔族が入り込んでいるって事?
『当り~! その通りよ』
当りってイザベラさん、それって人間からしたら凄く怖い事なんですけど。
『大丈夫だよ、トール。今時の魔族って実は平和主義者の方が多いんだ。何故人間の街に入るかって言うと、魔界より人間の街の方が日々の暮らしが格段に楽しいからさ。それを悪戯に乱して壊すような事は滅多にしないよ』
ふ~ん……そうなんだ。
魔族が平和主義って、これも俺の趣味というか意向がこの世界に反映されているせいだろうか?
『それよりさ……折角こうして内緒で話せるんだからさ。ジュリアに内緒で今度、私とデートしてよ……ねえったら!』
『イザベラ……お前、それこそチョロインって言われるよ』
『何よ! チョロインって? 意味分らないよ! それより誘いを断わるなんてそんなに私は魅力無いかなぁ? これでも魔界では王女という立場だけじゃなくて色々な男達に言い寄られて困っていたんだけど』
不思議そうに言うイザベラ。
そりゃお前は超絶美少女さ。
だから俺には現実感が無いんだってば!
『はあ……でもさ……逆に俺がお前に好かれる理由が全く分らないんだけど……』
『何言っているの! トールが強くて格好良いからに決まっているじゃないか! 私達、悪魔族は力こそが正義……いや悪だから強い者は文句無しに人気があるんだ』
強い男ねえ……
どこがかね……
雑魚のゴブ数匹にしか勝った事のない男が……
あ、冒険者ギルドのおっさんにも一応勝ったっけ。
『トールが強いのはその凄過ぎる動態視力と底知れぬ膂力さ。動体視力は人間の男との試合、膂力の方は私との腕相撲でそれぞれの圧倒的勝利で明白だよ……総合的には父上である悪魔王に匹敵する力じゃないかと私は睨んでいるんだ。ジュリアがトールに惚れているのも多分同じ理由じゃあないかな』
悪魔王に匹敵!?
うわぁ、色々な意味でやばい響きだ。
管理神の使徒の俺がねぇ……だけどちょっとは格好良いじゃないか!
ちょっと嬉しくなって来たのは誰かさんには内緒にしたい。
でも自称『邪神』だから許してくれるかも……
『その上、イケメンで優しくて気配りも出来る……私はね、そんなトールにひと目惚れしたんだ。たとえジュリアが正妻でも良いのさ。いずれ彼女には頼み込んで許可を取るよ』
うわぁ!
イザベラが『依頼』だけじゃなくて俺達と居るのも、そして敢えて商人になったのもそれが理由か!
でもちょっと抱きついただけで怒り心頭のジュリアがイザベラの頼みを聞くだろうか?
覚醒したジュリアが竜になって悪魔イザベラと戦ったとしたら……
嬉しい反面、段々気が重くなってきた気分に俺は「はあ……」と大きく溜息を吐いたのであった。
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