第24話 「ジュリアの怒り」
混乱して号泣しているイザベラに俺は少し落ち着くように言い聞かせた。
すると……何という事でしょう。
「トール! ありがとう、貴方はとても強いし、悪魔より全然優しいわ」
俺の言葉が余程、魂に沁みたのか、イザベラは感極まった様子で抱きついて来たのである。
細身のスレンダーながら、ジュリアと違ってぷっくりと大きく盛り上がった胸が俺に当る!
おお、堪らないぜ!
この感触!
○○○○星人、バンザーイ!
「お願い! トール! 私の力になって!」
おいおい!
嬉しいけど、これじゃあ誇り高い悪魔王某の娘なのに全くの『チョロイン』だよ。
ぞくり!
この瞬間……とんでもなく酷い悪寒が俺の全身を襲う。
何、この背後から来る凄まじい殺気は?
俺が恐る恐る振り向いて見ると「ああ、怖ろしや」殺気の主はジュリアであった。
彼女は抱き合っている俺とイザベラを燃えるような目で睨んでおり、口をきりりと食いしばり、拳を握り締めていたのだ。
そして何と!
悪魔王女のイザベラに負けないくらい? いや神々しいと言った方が良いだろうか。
真っ赤に燃え上がる爆炎のような巨大な魔力波が立ち昇っていたのである。
まさに『ごごごごご』と擬音が出るような凄まじさだ。
これはまさか嫉妬の波動!?
「トール、駄目よ……それにイザベラ、トールは『あたしの』よ! 直ぐ離れて!」
「え、ええっ! ジュリア! 貴女……」
さすがのイザベラも吃驚したようである。
彼女にもどうやらジュリアの巨大な魔力波が見えたようだ。
俺からさっと離れて「御免」と頭を下げたのである。
「イザベラ、……分れば良いのよ。トールも浮気は絶対に駄目よ……」
ジュリアの抑揚の無い口調に感情の篭もっていない眼差し。
俺とイザベラはお互い顔を見合わせるとジュリアに向き直って頭を大きく下げたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ジュリアの怒りが収まってから俺達3人は改めてオリハルコンの入手について話し合っていた。
仲買人でもあるジュリアが話の口火を切る。
「トール、あたしはオリハルコンってあまり良く知らないんだ。説明してくれる?」
おお、任せてくれ。
オリハルコンの事はある程度知っているぜ!(多分……)
コホン!
ひとつ咳払いをした後に俺は語り始めた。
「オリハルコンは幻の大陸にあるといわれた金属で、その正体は特定されておらずにいくつかの金属が候補として考えられている。俺が知る所では青銅や赤銅など銅と何かの合金だと言われる説が最も有力だ。でも今のイザベラの話だと全く別の金属っぽいな。色は炎のような色で輝く質感の金属という事は変わらないだろう」
ジュリアは納得したように頷いていたが、何故かイザベラが喰って掛かる。
どうやらそのような事は常識だったようだ。
「そ、それくらいは教えて貰わなくとも知っているよ。それより肝心なのはそのオリハルコンがどこにあるかだよ」
いかん!
イザベラの目が本気で怒っている。
ほ、他に情報は無かったっけ!
俺は焦って頭の片隅にあった知識を引っ張り出した。
「ああ、ええと……幻の大陸アトランティスとかって伝説は無いの?」
「アトランティス? 何、言っているの? そんな国聞いた事が無いよ!」
ああ、余計な事を言わなきゃよかった。
この世界で俺の中二病的知識はどうやら役に立つものとそうでないものがあるようだ。
これはどうやら後者である。
何故ならば瞬殺……だからである。
その上、ジュリアにも止めを刺されてしまう。
「トールったら、そんな国なんて存在しないって! 数千年前、確かこの辺りにあったのは今の神聖ガルドルド帝国の前身である魔法帝国ガルドルドさ」
今の神聖ガルドルド帝国?
古の魔法帝国ガルドルド?
そんなの全然聞き覚えが無い。
うわあああ、これじゃあ俺の知識が全然役に立たないよぉ!
「ジュリアの言う通りだよ。アトランティス!? そんな国なんて……え、待って!?」
イザベラは何か思い出したようだ。
「ええとそれって国の名前じゃあないよ。魔法帝国ガルドルドの初代皇帝が確かアトランティス・ガルドルドだ。悪魔王国の古文書に載っていたよ」
それを聞いたジュリアが感心したように言う。
「さすが悪魔族。魔法帝国ガルドルドの初代皇帝なんて資料は人間界には無い物よ」
はぁ?
初代皇帝の名前がアトランティスだって?
……何となく俺の知識が適当に反映されている気がするが……
ジュリアの言葉を受けて今度はイザベラが考え込む。
「うう~ん、トールの知っているアトランティスって名前がキーワードかも……という事は昔この辺にオリハルコンがあったかもしれないって事かな」
暫し、経った後にイザベラは決心したようだ。
「不確かだけど今は手懸かりが全く無いから藁にでもすがるつもりだよ。それに私は勘が良い方なんだ。明日この村を中心に探してみよう……誰かがお宝として持っているかもしれないし、万が一オリハルコンがあれば買い取ろうと思う」
そうか!
古代人口遺物としてこの村や周辺に住んでいる誰かが先祖代々伝わるお宝として所有しているかもしれないとイザベラは言う。
「基本は買い取ろうと思う……もし譲渡が拒否されたら強引に奪っても良いのだけれども……」
強奪する……そう言いかけたイザベラはジュリアの冷たい視線を受けて思わず顔を伏せた。
ジュリアの口調には先程の抑揚の無い怒りの口調が戻っていたからである。
「イザベラ……商人として、それだけは駄目。そんな酷い事は強盗のやる事だ……もしそれをやるのなら貴女は即商人失格だし、もうあたし達の仲間なんかじゃない。それにこの宿も直ぐに出て行って貰うよ」
思いがけなく厳しいジュリアの言葉。
これでジュリアが商人という仕事に誇りを持って臨んでいる事が俺にもしっかりと理解出来たのだ。
先程と同じくらいのジュリアの怒りにイザベラはまたもや吃驚してしまう。
「わ、分ったよ……悪かったよ。そのような事は絶対にしないから私を追い出さないでくれないか、お願いします」
イザベラの謝罪を聞いたジュリアの表情は一変する。
「分ったら良いよ。そうだ、買い取るにしても資金はあるのかい?」
「ああ、私物だが宝石を出来る限り持って来た。こ、これで足りるだろうか?」
イザベラは懐から小さな革袋を出すと口を開け中身をテーブルの上に広げて見せた。
「へぇ、凄いね。これは逸品揃いじゃない」
ジュリアはそう言うとイザベラの持っている宝石を熱心にチェックし出したのであった。
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