第23話 「イザベラの依頼」
イザベラはジュリアを見て苦笑する。
しかしその笑顔は最初に会った時とは違い、情の篭もった優しいものだ。
「じゃあ今回の私の依頼を話そうか?」
いよいよイザベラの依頼って奴が聞けるのか。
依頼を聞いたジュリアが彼女と打ち解けたって事は、何か女性が同情するような気の毒な依頼に違いない。
「単刀直入に言うと私はオリハルコンを探している。それを探す手伝いをして欲しいのさ」
おおっ、ははは!
ついに『オ・リ・ハ・ル・コ・ン』来た~っ!
幻のアトランティス大陸産の超合金!
定番のミスリルと並んで中二病必須の金属の筆頭だぁ!
俺は期待にわくわくすると同時に何故オリハルコンを探しているのかイザベラに理由を聞いてみた。
「オリハルコンって、凄い素材なんだろう? どうしてそんな物が要るんだい?」
「実はさ。私の姉が嫁ぐ事になったんだけど。輿入れの際にティアラと短剣を携えて行くんだよ」
へぇ~。
お姉さんの嫁入り道具か。
成る程ね!
「ティアラと短剣、それをオリハルコンで作ろうって事か」
「そうなんだよ。だけど私の国には他の金属はあってもこれだけは無くてね。姉は困っていたんだ、このままじゃあ好きな相手と結婚出来ないって」
成る程!
お互いが好きなら問題なんてとも思うけど、そのような慣習が残っていればそりゃ困るだろう。
でもどうして……オリハルコン?
豪華さだけをアピールしたいのであれば黄金なんかでも良い筈だけど。
「オリハルコンじゃなきゃ駄目なんだ。我が家の面子に関わる事なのさ」
ふ~ん、家の面子ね。
きっと身分の高い、魔族の中でもさぞ立派な家柄なんでしょうね。
俺がそんな事を考えているといきなりイザベラが爆弾を投下した。
「私の父は悪魔王アルフレードルさ。私は次女のイザベラなの」
あ、あ、あ、あくま!?
悪魔王アルフレードル!?
す、凄いカミングアウトを聞いてしまった。
俺が読んだ本の中には名前は無いが凄く怖そうな感じだ。
驚いたのはジュリアも同様のようで鳶色の目を一杯に見開き、可愛い口をあんぐりと開けている。
「では……そういう事で」
俺はさっさと話を切り上げようとした。
だってそうだろう。
俺は仮にもこの世界の管理神、スパイラルの使徒。
怖ろしい悪魔王とでは真逆過ぎる存在だもの。
「何だい? 名乗っただけでちゃんと話も聞いて貰えないの? そんなの酷いよ」
いや他の素性は良いとしてその名乗りだけは皆、引きますって!
そんな時、ジュリアが信じられない事を言う。
「ねぇ、トール。イザベラは本当に困っているようなんだ。ここは相手の素性は置いといて話をまず聞こうよ」
いや素性は置いといてって……ジュリアさん、その素性が肝心なんだよ。
だがジュリアは俺に対して必死に懇願し、何とイザベラは目に涙まで溜めている。
はああ……困ったなぁ。
だって俺は神スパイラルの使徒だし、悪魔を助けて神罰とか喰らったら嫌だから。
『ははは、それ、面白いじゃない! やってみなよ』
いきなり俺の魂に声が響く。
例の『邪神』である。
『おお、君に邪神って呼ばれるとゾクゾクするね! 恰好良いよ、それ!』
もう!
相変わらずだ、この御方は。
『ふふふ、神の使徒が悪魔王を助けて『貸しひとつ』っていうのも傑作だよ。僕の方は全然問題無いから』
良いのかな?
万が一、上級神って方々に知られたら不味くない?
『おっとそれは内緒だ。もし言ったらそれこそ君に神罰喰らわせちゃうよ、じゃあね~』
事の経緯を散々面白がったスパイラルは俺に対して悪魔王の娘であるイザベラを助力するようにと言い残し去って行った。
もう!
こうなると俺はもう腹を括るしかないだろう。
「トール? 大丈夫?」「どうした? ぼーっとして?」
竜神族の血を受け継ぐ娘と悪魔王の娘……
さすがの2人にも俺とスパイラルの会話は聞こえないらしい。
『念話』の最中は俺が単にぼうっとしているようにしか見えなかったようだ。
「だ、大丈夫だ。分った! イザベラ、もう少し話を聞かせてくれ」
こう言うと俺は改めてイザベラに向き直ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「じゃあ最初から話すよ。姉のレイラは隣国の悪魔王ザインの息子エフィム王子のもとに嫁ぐ事になったんだ。2人は幼馴染で昔から仲が良かったからお互いの国に異存は無い」
ふうん……
悪魔の王国ってのもたくさんあるのね……
何か凄そう……
「私達の悪魔王家の習慣では花婿が広大で豪奢な宮殿を築いて花嫁を迎え、花嫁は光り輝くオリハルコンのティアラと短剣を携えて嫁入りするのさ」
「何故、オリハルコンなんだ?」
「オリハルコンはとても入手が困難な金属でね。それに降魔の効果があるから我々悪魔族を始めとした魔族の力の象徴でもあるんだ」
オリハルコンに降魔の効果?
それは俺の知識には無い。
確か資料本にそのような事は載っていなかった気がするが……
「そのオリハルコンがどうしても手に入らない。父上や母上、そして姉上本人も懸命に手を尽くして探させたんだけど、未だ見つかっていないのさ」
「で……婚礼はいつなんだ?」
「それが……もう2ヶ月後に迫っているんだよ」
「何だ、それ!? 全然時間が無いじゃないか!」
「だからだよ、だから困って私が人間界にまで探しに来たんだ。何とか力になってよ! うわああああん! このままじゃあ姉上が可哀想そうだぁ!」
イザベラはとうとう泣き出してしまった。
ここまで切羽詰っていたら、確かに厳しいな。
これではジュリアが同情するわけのも納得だ。
姉思いの健気な妹……だものな。
更に聞けば家出同然で来た為、供も連れておらず冒険者ギルドで下僕を探そうとしていたらしい。
「トール、力になってやろうよ。このままじゃあイザベラ……可愛そうじゃない」
協力を促すジュリアの言葉に俺は思わず同意して大きく頷いていたのであった。
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