第２２話 「皆の素性」
俺は思わずジュリアの傍に駆け寄った。
何故、イザベラが居る？
約束が違うじゃないか！
俺はそう言おうとして喉まで出かかった言葉を押し留める。
何とジュリアがにっこりと笑っていたからだ。
状況が変わったのだろうか？
だが、きっとこれには何か理由があるに違いない。
しかしジュリアは何事も無かったかのように笑う。
「トール！ ギルドマスターの用って何だった？」
ジュリアは逆に俺がギルドマスターに呼ばれた事の方が気になっていたようだ。
とりあえずジュリアを安心させてやろう。
「ああ、ランク判定だったよ。俺は冒険者ギルドのＢランクだってさ」
ジュリアは俺がＢランクになれた事を我が事のように喜ぶ。
「凄いじゃないか！ あたしはＥランクだし、イザベラはＤランクだよ。Ｂランクだなんて普通じゃないよ」
この娘は本当に良い子だ。
しかし俺はBランクになれた原因を知っているから一応平静だし、心の中で自嘲気味に呟く。
普通じゃないって？
そりゃそうだ……
俺はその……『ずる』しているから。
いや！
そんな事よりイザベラだ！
魔族の彼女が何故一緒に居る！？
俺の食い入るような視線の意味を理解したのだろう。
ジュリアがすかさずフォローする。
「イザベラ……あたし達に謝りたいんだって」
はぁ……
良いけど……
「この度はお前……いや貴方に本当に失礼な事を……申し訳なかった」
イザベラの言葉遣いが一変している。
お前、実はそんなに礼儀正しかったのかい？
そんなイザベラの豹変が俺には却って不気味であった。
彼女はクールビューティタイプの美少女だが、あの黒く禍々しい魔力波を見てしまうと素直になれない。
だから俺はつい聞いてしまう。
「いや……どうしたんだよ。ただ謝る為だけに待っていたのか？」
俺の問いに対してイザベラは俯いて答えない。
彼女の様子を見た上でジュリアが代わりに用件を明かしてくれた。
「それがね、トール。イザベラはあたし達に『依頼』をしたいんだって」
依頼って、何だ？
仕事を頼みたいって事か？
何かどこかの怖ろしい怪物退治とかだろうか？
いや、この子が怖ろしそうな魔族だから絶対にありえないか……
「何だい？ 依頼って」
「それはイザベラ本人から話して貰うよ。ここじゃ何だからとりあえず絆亭に戻ろうか？」
おいおい、良いのか？
だってこいつは……
俺の戸惑いもどこへやら、ジュリアは先頭を切って歩き出したのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夕闇迫るジェトレの村を歩く俺達3人。
先頭を切って歩く俺はともかく、後ろで仲良く話す可憐な少女2人はやけに目立つ存在だ。
さらさらの栗色の髪をショートカットにして大きな鳶色の瞳が魅力的な健康的美少女ジュリア。
一方、肩まで伸びた美しい銀色の髪が目立つクール系の美少女イザベラ。
超絶美少女な2人を引き連れて歩く俺には、村の全ての男達から容赦ない羨望の視線が突き刺さる。
でもさ、不思議だよ。
2人ともどうしてこんなに仲良くなったんだ？
まあ良い。
宿でイザベラの話を聞けばはっきりするだろう。
やがて絆亭が見えて来て俺はやっと嫉妬の視線から解放されると思ってホッとしたのだ。
宿に入ると食堂に居た男性客達も2人の可憐さを見て、勘に耐えないといった面持ちでこちらを見る。
カウンターに居るドーラさんも興味深そうにこちらを見ていた。
そして俺達3人がカウンターに行くと面白そうに笑っているのだ。
「あらあら新しいお客さんかい、でもこの宿は商人専用の宿だよ」
そうか……
確かに絆亭はそういう宿だと、ジュリアから教えられているぞ。
「見た所そこのお姉ちゃんはごつい革鎧にショートソードの冒険者仕様だ。そっちのトールも同じ様な恰好だけど、ジュリアという確りした身元引き受け人が居るからね。商人って保証されているんだよ」
成る程……
商人じゃない俺が宿泊出来るのはそういう事か。
俺は思わず期待半分で聞いてしまう。
「どうする？ イザベラ。別の宿に泊まるかい？」
「いや……2人と一緒の部屋で私の身元引受人も頼みたい。どうだろう、ジュリア」
2人と一緒の部屋だってぇ！？
な、何ですと！
と、いう事は……
「私も商人になるぞ。良いだろう？ トール」
いきなり俺に振るか？ もう！
それに魔族の冒険者志願者が何故商人になるんだ？
むう……まあ考えても仕方無い。
そこで俺はひとつ条件を出した。
「イザベラ、俺と君が対等な関係であり、君の下僕じゃなければ良いよ。ジュリアはどうだ？」
俺の問いにジュリアも同調した。
「あたしもトールと一緒。イザベラの下僕じゃなきゃ良いよ」
「分った！ もうそんな事は言わないよ」
何か変な事になってしまったが……こうしてイザベラは俺達の仲間になったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ドーラさんの旦那が俺達の部屋にベッドをひとつ運び込んで3人部屋にしてくれた。
でもこれって何なんだ。
ジュリアと夜に××××出来ないじゃないか！
俺がムッとしたのが伝わったのか、イザベラはしおらしい。
魔族ながら彼女は一応、空気は読める女の子のようだ。
まあ仕事を請ける便宜上、3人一緒も暫くの間だけだろう。
我慢、我慢。
俺はドアを閉めると2人に向き直った。
「イザベラ、話の続きをしてくれないか」
俺は努めて冷静に彼女に問う。
「その前に私の事……分っているんだろう？ お前は私の魔力波を見た筈だ」
「へ！？」
イザベラの言葉を聞いたジュリアがポカンとしてしまう。
こうなったら、ここははっきり言った方が良いだろう。
「イザベラ、お前は魔族だ。それもかなり上位のな」
「ま、魔族ぅ！？ う、嘘！」
やはりジュリアはイザベラの正体を知らなかったようだ。
「そしてトール、あんたも不思議な魔力波をしている。一体何者？」
さすがにそれは言えないだろう。
どんな神罰が下るかもしれない。
俺が黙ってしまったのでイザベラは苦笑した。
そんな俺とイザベラの顔を交互に見ているジュリアも困り顔だ。
「あんたもだよ、ジュリア。あんただって竜神族の血を引いているじゃないか」
ななな、何ですと！
ジュリアが……竜神族！？
「あたしが！？ りゅ、竜神族！？ 両親は普通の人間だったよ」
いまいちピンと来ないようで可愛く首を傾げるジュリア。
そんなジュリアにイザベラも不思議そうに首を傾げる。
「どうやら純粋の竜神族ではないようだ。人間族とのハーフかクォーターのようだね。しかし変だよ。ハーフでもクォーターでも竜神族の血を引く者は15歳になると覚醒して能力が発揮出来るようになるのだけれど……」
まさか？
ジュリア？
「トール、御免。あたし未だ14歳なんだ。でも後、ほんの10日だから！」
「てへっ」と笑うジュリアに俺は脱力してほうと息を吐いたのであった。
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