第147話 「決戦!!!」
タトラ村は小さな村だ。
RPGに出て来る始まりの村の様な、とても小さな村なのである。
だが今回は却ってそれが幸いした。
イザベラとソフィアの魔法障壁、そしてアマンダとフレデリカの水壁という2段構えで村を完全に囲う事が出来るのである。
当然、俺の嫁ズ達の類稀なる才能が無ければ実現は不可能であった。
俺達が今、居るこの場所は村の正門のすぐ外の農地である。
村人は各自、家の地下室に避難させているので村中に人影は無い。
戦いの前とあって、嫁ズがそれぞれ俺に対して決意を述べて行く。
「旦那様達が竜を倒すまでの間、私達が必ず守り抜きます! ……この村を!」とイザベラ。
「折角、兄上とも再会出来たのに冗談ではない! 妾の魔力が尽きても気持ちで守ってやるわぁ!」とソフィア。
「旦那様のお陰でエイルトヴァーラ家の奥様どころか、ソウェル様にも孫と認めて頂きました! 私は幸せです! 頑張りますよ!」とアマンダ。
「うふふふ! お祖父様が居ればもう大丈夫よぉ! お兄ちゃわん、悪い竜を叩き潰してね!」とフレデリカ。
「あの時、行く当てもないハンナに俺の下へ来いと仰って頂いた! 本当に嬉しかったです! ハンナは一生、旦那様に着いて行きます!」とハンナ。
そして、ここに来て必死だったのが、ジュリアである。
「お父さん! 私は何故竜化出来ないの!?」
娘の懸命な問い掛けに、父は残念そうに下を向く。
「ジュリア……」
そんな父の反応に愛娘は切々と訴えたのである。
「私も役に立ちたいの! 竜化して戦うわ! 死ぬなら一緒よ!」
「お前は竜神族と人間のハーフなんだ。残念ながら完全に純粋な竜神族でないと竜化は出来ないのさ」
「うううう……」
どうする事も出来ない事実を突きつけられ、泣き崩れるジュリアを、イザベラが、ソフィアが、そして嫁ズ全員がそっと抱き締めた。
「大丈夫! 旦那様やエドヴァルドお父様達は決して死なない! 私達は村を守るという自分の務めを果たし、信じて待ちましょう」
イザベラの慈愛溢れる言葉に、ジュリアは泣きながらも、こっくりと頷いたのである。
俺はそんな嫁ズを1人1人優しく抱き締め、情熱的にキスをした。
いわゆるベロチューだ。
このような時なので皆、恥ずかしがらず積極的である。
俺も凄く幸福を感じてしまう。
Hも良いけれど、やはりキスは格別のものがある。
魂の交歓を許し合った者同士が、愛を確かめ合う行為という趣きだ。
「さあ、そろそろ行くぞ……」
例によって、この甘い雰囲気を容赦なく断ち切るのはアモンである。
しかし意外な事にアモンの奴が相好を崩したのだ。
「ははは、トール。妻と仲良くするお前を見て、俺も急に魔界の妻に会いたくなった。優しく美しい2人の妻に、な」
おおおっ!
アモンが結婚していた!?
それも優しく美しい2人の妻!?
アモンが幸せそうでホッとしたぞ、俺。
そこへアールヴのソウェル、シュルヴェステル・エイルトヴァーラが声を掛ける。
「トール! お前、身体が発光しておるぞ」
「ああっ」
シュルヴェステルの言う通り、俺は確かに全身が光り輝いていた。
まるで某有名漫画の覚醒した超人バージョンである。
「ほほほ! 多分、闘神様によって増やされた魔力が神力波となって体外へ溢れ出ているのであろう。さすがは闘神の騎士じゃ」
シュルヴェステルはアモンにも言葉を掛けた。
「アモン! 今のトールには下手に触れるなよ。気をつけないと神力波で悪魔のお前は塵になってしまうぞ」
同士討ちにならないようにとのシュルヴェステルの気配りであったが、アモンは首を横に振った。
「ははは! アールヴ、忠告痛み入る。しかしその時はその時だ。戦いの中で下手に臆していたら、却って命を失う」
「ほう!」
「攻める時は大胆に攻める! 退く時は思い切りよく退く! これで良い」
ここでエドヴァルド父が竜化をすると宣言する。
俺達は急いで彼等から離れた。
すかさず聞いた事のない言霊が詠唱されると、辺りが真っ白くなるくらいの光に照らされる。
そして光が収まると……
美しく逞しい黄金の竜が一体、同じく銀色の竜が10体、その巨体を現したのである。
黄金の竜が俺をじっと見詰める。
そして巨大な口の奥から声が聞き覚えのある声が響いたのだ。
「トール、俺に跨るが良い」
これは間違いなくエドヴァルド父の声である。
凄く厳か且つエコーまで掛かっているが……
「旦那様、お父さん……」
戦闘に参加出来ないジュリアは、残念そうに唇を噛み締めている。
「来たぞ! 東だ!」
アモンの鋭い声が飛ぶ。
東方の空が真っ黒になっている。
いよいよ竜の大群が姿を見せたのだ。
アモンがいきなり背中から黒い翼を出して上昇すると、シュルヴェステルもふわりと飛び上がる。
こちらは飛翔の魔法であろう。
嫁ズ達も気を取り直したジュリアの指示で配置につき、防御魔法発動の準備をする。
俺はエドヴァルド父の背に跨り、嫁ズに手を振ると空高く上昇して行った。
先行するシュルヴェステルとアモンが攻め方を相談している。
「アモン、我々が先陣として露払いをしようかの」
『OK! アールヴ、了解だ。トール、構わないな?』
後方を進む俺へ、念話で攻め方を打診して来たアモン。
俺は問題無いと即座にOKを出した。
『助かる! じゃあ俺達はピンポイントで古代竜ヴェルザデーデを叩く』
古代竜ヴェルザデーデ……
それが敵の首魁の名だ。
エドヴァルド父10名の配下のうち、索敵に長けた1名が奴の魔力波をキャッチしたのである。
戦う相手が単に古代竜としか分からないので、俺は泥縄的にエドヴァルド父に質問した。
「親父さん、そのヴェル何とかってどんな敵なんだ?」
「ああ、俺と同じくらいの強さを持つ古代竜だ。元々、俺達と古代竜の祖先は同じだった。ある竜の兄弟のうち、兄が創世神の祝福を受け、弟は受けなかった。それ以来、奴等は俺達を目の敵にしている」
何だ!
敵対心って、兄弟間の嫉妬なんだ、それ!
でも神の祝福ありと無しじゃあ、天と地の差なんだろうなぁ……
「俺達は数え切れないくらい休戦を申し入れたが、相手は聞き入れてくれなかった。そのうち奴等は他の竜族を纏め上げ、我々竜神族に限らず、神と人への憎悪も増して行ったのだ」
「竜神族は平和の為にやるだけの事はやった! という事ですね……」
「うむ、そうだ! おお、見ろ、トール! ア、アモンが悪魔化するぞ!」
エドヴァルド父が驚きの声を上げ、周囲の竜神族の部下達が緊張する気配が伝わって来た。
俺がアモンを見ると、今迄人間の風貌をしていた彼の身体が一気に大きくなって行く。
そして巨大な梟の頭部と禍々しい翼の生えた狼の胴体、そして蛇の尾というアモン本来の姿になったのである。
しかし並んで飛翔しているシュルヴェステルに臆した所は全く無い。
それどころか、にっこりと笑っているのである。
戦う準備も完了し、もう竜の大群は目の前だ。
中二病である俺の気分は僅かな人数の小隊で最上の大軍と戦った、戦国時代のカブキ者、前田慶次である。
敵の先陣は、と見ると二足竜の群れであった。
こちらの先陣であるアモンとシュルヴェステルは頷き合うと、早速攻撃を開始した。
ごはああああっ!
灼熱の炎を吐き散らすアモンに数十体のワイバーンがあっという間に身体を焼かれ、炭化して四散する。
それを見たシュルヴェステルは両手を掲げると、攻撃魔法を連発し始めた。
爆炎!
巨大氷柱!
巨大岩石!
そして暴風!
顔色ひとつ変えずに無詠唱で全属性の大型魔法を連発するシュルヴェステル。
巨大な竜達が地獄の責め苦にあっているように悶え苦しみ死んで行く。
さすがに神に近いと言われる実力者だ。
意外な相手に吃驚したのは「一般の竜達」である。
こんな「化け物達」が待っていたなんて知る由もなかったであろう。
アモンとシュルヴェステルが、ど真ん中から突っ込んだので丁度、中心に道が開けた感がある。
「あ、居たぞ! ヴェルザデーデがっ! よし、行くぞ! トール!」
エドヴァルド父の視線を追うと、大群の一番奥に、真っ白な逞しい巨体を持つ1体の竜が、凄まじい魔力波を放射しているのが見えた。
あいつが!
ヴェルザデーデか!
俺は愛用の魔剣を振りかざす。
以前とは全く違う圧倒的な魔力の手応えがじんじん来ている。
ふん!
俺が少し力を入れると短い刀身から伸びた神力波が20mも伸びている。
どうやらヴェルザデーデも俺とエドヴァルド父を認識したようだ。
「とおおおおおりゃ~っ」
俺の気合と共にエドヴァルド父も灼熱の炎を吐きながら突っ込んで行く。
魔剣の刀身から伸びた、眩く輝く巨大な神力波を見たヴェルザデーデの驚愕の眼差しが俺を打つ。
しかし俺は容赦なく肉薄すると、奴の首筋へ魔剣を思い切り振るっていたのであった。
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