第146話 「決戦前」
人間の俺と各種族の嫁ズ、そして竜神王エドヴァルド父と配下の竜神族10名、超強力助っ人大悪魔アモンとアールヴの長であるソウェル、シュルヴェステル・エイルトヴァーラ。
これだけの布陣はエドヴァルド父によれば今迄に無いという。
いくら闘神が派遣したからといって、この戦いは本来、竜神族対竜の戦いである。
だからエドヴァルド父は赴いてくれた他種族の猛者に対して礼を尽くさなければならない。
「ご無沙汰しております、ソウェル! この度はお力添え頂き、忝く思っております」
跪き、頭を下げるエドヴァルド父に対して、シュルヴェステルは頭を横に振り、無理矢理立たせたのである。
自然体でOKという意思表示だ。
「いやいや、竜神王。ああ、エドヴァルドと呼んだ方が良いか。トールは儂の可愛い孫2人の婿でもあり、お前の娘婿でもある、あ奴の為に戦うのは決してやぶさかではないぞ」
お前は身内だぞ! と強調するシュルヴェステルに、エドヴァルド父は嬉しそうに笑顔を見せる。
「ははっ! ありがたき幸せ。トールは……我が息子は良い男です……奴が戦うと言った時に「お前を決して死なせはしない」という魔力波がはっきりと伝わって来ました。俺は……嬉しかったのですよ、ソウェル」
「そうか……儂もじゃ、息子夫婦の恩人、孫アウグストの生命の恩人、そしてアマンダとフレデリカの婿。闘神様に命じられ、この地に赴いたが、戦う理由は寧ろ儂自身にある」
シュルヴェステルは、そう言うと悪戯っぽく笑う。
「それよりお前達、何やら世界を股に掛けて面白そうな事をしようとしているではないか? 儂も当然、混ぜて貰うからな」
「は?」
それより面白い事?
エドヴァルドは唖然とした。
これからとてつもない竜の大群と命を懸けた戦いに臨むのに……
このアールヴの長は全く臆していないのである。
「ああ、そうじゃ! この戦いに参加するのは種族同士の絆を深め、新たな世界を構築せよという闘神様の啓示によるものじゃ。だが、実際は種族間において様々な商売で戦う為の準備だという、面白可笑しいものではないか。ふはははは!」
シュルヴェステルは呆気に取られているエドヴァルドを促す。
「さて、時間が無い。竜との戦いの前に、我々より永き刻を生きる悪魔侯爵――いや戦鬼へ一緒に挨拶をしようか、エドヴァルドよ」
「は! ソウェル様」
エドヴァルドとシュルヴェステルの2人は椅子に座って、腕組みをしているアモンに近付いた。
今迄目を閉じていたアモンは2人が近付くと、すっと目を開き、にやりと笑う。
「悪魔の俺に竜神王、そしてアールヴのソウェルかよ……トールが縁とはいえ、不思議な組み合わせだな、くくく」
エドヴァルドは皮肉をいうアモンをスルーして、軽く一礼する。
傍らではシュルヴェステルが興味深そうに見詰めていた。
「悪魔侯爵アモン殿、この度は闘神様の啓示により、よく馳せ参じてくれた。礼を言いたい」
エドヴァルドがそう言うと、アモンは手をひらひらと横に振った。
「ははは! 俺はそう思っていない」
「な、何!」
闘神の命令で来たのではない?
アモンの台詞にエドヴァルドは目を丸くして驚き、シュルヴェステルは「ほう」と面白そうに呟いた。
「闘神と悪魔は所詮そりが合わない。俺は今でもそう思っている。だがトールは闘神の使徒とはいえ、大事な我が弟。そしてジュリアは大事な我が妹だ。俺にとって大事な2人が苦境に立ったと聞けば、助けるのは兄として当然の事だ」
「…………」
相変わらずぶっきらぼうなアモンの物言いであったが、言っている事はとても熱い。
エドヴァルドは思わず胸が一杯になる。
「では俺も……この戦いの責任者、竜神族の長である前に! トールとジュリアの父としてそなたへぜひ礼を言いたい……2人が世話になった! そなたに戦い生き抜く術を教授していただいたと聞いたので、な」
エドヴァルドは改めて深々と頭を下げた。
「ほう! 誇り高き竜神王がここまで悪魔に頭を下げるのか? だがこれが新たな時代の幕開けかも知れぬ」
ここでシュルヴェステルがアモンに声を掛ける。
「儂とも宜しくな、戦鬼よ」
「くくく! 久し振りだな、アールヴ」
このやりとりを見ると、どうやらアモンとシュルヴェステルは旧知の仲らしい。
「もうサシでの力比べは出来そうもないが……それ以上に面白そうな事をさせて貰えそうじゃな。ちなみに儂はもう、瘴気の満ちた魔界でも自在に動けるぞ」
どうやらシュルヴェステルはかつて悪魔が巣食う魔界へ乗り込もうとして、いったんは断念したらしい。
しかし今現在は完全に克服し、いつでも戦えると意思表示をしたのである。
「相変わらずだな……まあ、世界はこれから大きく変わる。トールという異分子が変えるきっかけを作ったのだ。我が不出来な弟が、な。くくくく」
「不出来か、そうは聞こえないがな。……ふふふ」
シュルヴェステルはアモンの真意を見抜いているようだ。
「くくく! いや、言っている通りだ。だから確り面倒を見なくてはならぬ。確りと、な」
アモンとシュルヴェステルの会話を聞いていたエドヴァルドも、にやりと笑う。
全員の思いは一致している!
トールめ!
お前は大した奴だ、と。
そんなやり取りの後……
俺、トールは改めて皆を集めてこれからの戦いの算段をしている。
竜の大群はもう間近に迫っていたが、急いで作戦会議をしなくてはならない。
俺の気持ちは基本的に決まっていた。
嫁ズに村を守らせ、俺と竜神族、超強力助っ人軍団は打って出るのだ。
これは魔法障壁と属性の壁でタトラ村を防御させ、嫁ズに盾役として専守防衛で村を守って貰っているうちに、俺達が相手の首領格を倒して群れを瓦解させようとするピンポイント作戦である。
エドヴァルド父によれば今回も、ある古代竜が各種族の竜を纏め上げ、襲撃させているのではと推定している。
で、あればその首領を倒せば相手の士気は著しく下がり、群れは弱体化するというのが俺の見方なのだ。
こんな俺の意見にまず賛成してくれたのは、やはりアモンであった。
「いつもの一騎打ち……タイマンとかいうやり方だな。男らしくて俺は好きだ」
アモンが賛同したので、エドヴァルド父とシュルヴェステルに異存は無い。
「トール、お前は飛翔出来るようになったというが……竜化した我が背に乗れ! その方が戦い易いぞ! お前が闘神様の騎士なら俺が喜んで騎竜となろう」
エドヴァルド父が熱い視線を送って来るのを見て、俺は大きく頷いていたのであった。
ここまでお読み頂きありがとうございます!