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第145話 「レベル99への覚醒」

 俺達を迎えに来たジェマさんは、夫であるモーリスさんを伴って大空亭へ戻った。

 ジェマさんが結婚した事を敢えて言わなかったのは、やはりエドヴァルド父がジュリアを故国へ連れ戻す話が重すぎて言えなかったようである。

 そもそもジェマさんは寡黙で控えめな女性だ。

 自分が幸せになった事を自らひけらかしたりしないのである。


 大空亭ではエドヴァルド父が部下の竜神族10名と俺達の帰りを待っていた。

 部下達は男女取り混ぜて10名――老若男女全員が美形且つ精悍であった。

 この方々の正体が全員怖ろしい竜だとは信じられない事である……


 モーリスさんは改めてエドヴァルド父に挨拶した。

 ジェマさんの亡くなった姉ミレーヌさんの夫であるエドヴァルド父は、モーリスさんの義理の兄に当たる。

 深呼吸した上で自分の出自を伝えたモーリスさんに対して、さすがにエドヴァルド父も吃驚した。

 だが、これからジェマさんと共に生きて行く決意を告げたモーリスさんを、エドヴァルド父も歓迎したのである。


 でも……凄いな、俺の家族って!

 義理父が竜神王、悪魔王、そしてアールヴの上級貴族

 義理兄が、次期悪魔王と帝国皇帝、義理姉が悪魔王妃……

 普通の人間はジェマさんくらいか。

 でも俺自身は何も変わらないし、嫁は全員美人で可愛い。

 楽しいぜ、これって!


 イザベラがにこにこして話し掛けて来た。


「トール、これって仮結婚式だよ。改めて本結婚式を悪魔王国でもやるからね」


「そ、そうか!」


 俺はイザベラの姉の結婚式を思い出して少し脱力した。

 あの時は6時間コースだったからだ。

 しかしこうなるとフレデリカも負けてはいない。


「お兄ちゃわん! 私達も素敵な結婚式をあげようねっ!」


「あ、ああ、そうだな」


「一族の長であるお祖父様も絶対来るよ! 私の事、大のお気に入りなんだもの」


「ふ~ん」


 フレデリカからは彼女の祖父であるシュルヴェステル・エイルトヴァーラ

の事は何度も聞かされている。

 アールヴの長であるソウェルで、御年7,000歳になるという。

 凄い!

 信じられないくらいの長命だ。

 そもそもアールヴの平均年齢は2,000年くらいらしい。

 それでも凄いのに一気に3,5倍。

 本人曰く彼が生まれた頃には神や精霊などがそこら辺を歩いていたというから驚きだ。


 アマンダやフレデリカによると、シュルヴェステルの実力は神や精霊に近いという噂である。

 ちょっと想像しただけでも、おっかない爺ちゃんだ。


 もしアマンダ、フレデリカとの結婚を許して貰えなかったらどうしよう…… 

 そんな事を考えると俺はガクブル状態全開である。


 まぁ、良い。

 宴がそろそろ始まる。

 俺達が持ち込んだ様々な食材で貧しいタトラ村では考えられないくらい豪勢だ。


 さあ、いよいよ乾杯!


 その時であった。


 禍々しい殺意の渦が大量にこの村へ向かって来るのを感じたのである。

 今迄に感じた事のない怖ろしい気配。

 あの魔界での悪魔軍団を遥かに凌ぐ凄まじい力。

 

 こ、これは!?


「きゃああっ! こここ、これはっ!」


 俺に続いてジュリアもこの気配を察知したようである。

 大きな悲鳴をあげて、身体を震わせている。


「むううっ! そ、そんな!?」


 いつもは強気なイザベラでさえ、顔色が蒼ざめているのだ。


「うおっ!」 


 続いて大声をあげたエドヴァルド父が悔しそうに唇を噛んだ。


「閣下!」


 エドヴァルドさんの部下の長である老齢の竜神が拳を握り締めている。


「むう! こうなったら俺達、竜神族が責任を持って、この身を盾にし、村を守らなくてはならぬ。どうせ奴等の狙いは俺達だろうからな」


「「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」」


 エドヴァルドさんと部下10名が一斉に立ち上がった。

 もしかして……彼等は自分達だけで戦うつもりなのだ。


 この場の全員がこれほど怖ろしいという相手……

 それは……考えられない竜の大群である。

 

 5年前にタトラ村を襲い、ジュリアの母を無残に殺した竜神族の宿敵がまたもこの村を襲おうとしているのだ。

 その時の数は約100体だった。

 エドヴァルドさんが1人で戦い、瀕死の重傷を負いながら、何とか村を守り抜いたのである。

 

 しかしこれから襲い来る竜の数は桁が違う。

 何とその数は楽に1,000体! を超えているのだ。

 軽く10倍以上なのである。

 竜神族は桁外れに強い。

 しかし単純に1人で100体以上の竜を相手に戦って倒すなど……無理だ、不可能なのだ。


 勝算は……全く無い!


 多分、今の時点で竜神族のみなら飛翔して逃げられるであろう。

 しかし、愛娘も含めて新たな家族を捨てて逃げるなど、誇り高い竜神族に出来る筈も無い。


「済まない! 俺達が少人数でここへ訪れたのが奴等に漏れたようだ」


 項垂れたエドヴァルド父であったが、何かを決意したようだ。

 それは5年前の決意と同じである。


「安心しろ! ジュリア、トール! 俺達は死んでも家族とこの村を守り抜く」


 そんな!

 死んでも?

 死んでもって!!!


 今の俺には分かる。

 普段、こんな事を誇り高い竜神族は決して言わない。

 この人は……死ぬ気なんだ。

 あの時、自分の力が及ばず、最愛の妻を死なせてしまった償いをする気なのだ。


 俺はもう……いつもの臆病な俺ではなかった。


「親父さん! 貴方だけを戦わせるわけにはいかない。俺の家族だ! 俺も戦うよ、全力で!」


「トール! 駄目だ。俺達が敗れれば奴等は満足して去って行く。ジュリアだけ守ってくれれば良い」


 そんな事は!

 そんな事は決して――俺がさせない!

 させやしない。

 母に続いて父までも死ねばジュリアが悲しむ。

 愛する妻を悲しませない!

 皆も悲しませるものかっ!


 俺が強くそう決意した瞬間である。


 ぱらららっぱぱっぱ~!


 何ともこの場に似合わないゆるい音楽が鳴り響く。

 それもこれ誰かの口真似だ。


『ははっ! 僕ね、すっかり忘れていたんだよぉ!』


 ああ、こんな時に、スパイラル様の登場だ!

 でも、忘れてたって?

 何を!?


『ふふふ、どっかのラノべみたいに主人公へのレベルアップ告知をさ!』


 レベルアップ告知?

 ああ、ラノベで良くある奴ね。


『君がさ、この世界で僕の信仰心をぐんと上げてくれたのは凄い功績なんだよ。そして君自身、戦闘経験を積んで滅茶苦茶レベルアップしたんだ』


 ななな、何ですと!!!


『今までさ、普通の戦いは勿論、君って悪魔や竜神と散々腕相撲しただろう? あれも結構な経験値稼ぎになったんだよ、ラッキーだねぇ!』


 へ!

 腕相撲も戦闘扱い……なの?


『そう! それでね! 君は僕の使徒から、晴れて騎士へ昇格! オメデト~!』


 騎士!?

 騎士って……ピンと来ないなぁ。


『うん、分かる! じゃあ言うね。君がこの世界に来た時がレベル1、ゴブリンを倒した時のレベルさ。それが今や……レベル99!』


 はぁ!?

 一気にレベル99???

 何といういい加減なご都合主義だ!


『ま、良いじゃない、細かい事はさ。だから君、空も飛べるよぉ! 飛翔フライトって、言えばね。そして君が神力波ゴッドオーラを使う度に倒れて、気にしていた魔力量も一気に100倍に増量さ』


 うおおっ!

 何、それ!


『そして更にスペシャル大サービス! 僕からの応援として超大物従士を2人も派遣しちゃうよぉ! さあ、どうぞ!』


 邪神様の声がそう言うと、大空亭の床が2箇所円形に、眩く輝き始めたのである。

 これは……邪神様が発動した召喚魔法だ。


 やがて2人の人影が現れる。


 1人は……ごつい大柄なシルエットである。

 この影は!

 えええっ!?

 こ、これは!

 もしかして!


 輪郭がはっきりすると、見覚えのある寡黙な男がにやりと笑う。


「久し振りだな、トール! 不出来な弟のピンチとなったら仕方がない、兄として来てやったぞ!」


 アモン!!!

 アモンが!!!

 来てくれた!!!

 邪神様が送った超大物従士の1人はアモンだったのである。


 そして、もう1人!

 こちらは俺の知らない気配だ。

 アマンダとフレデリカに良く似たこの気配、そして小柄で華奢な体格ながら悪魔王や竜神王を凌ぐこの魔力量って、いったい何!?


「おおお、お祖父様!!!」


「ああ、偉大なるソウェル様!!!」


「ほほう! それがお前達の婿か? 頼もしそうな奴じゃ!」


 フレデリカが手を伸ばして親しげに祖父と叫び、アマンダがいきなり跪いた人物の、その正体!


 何と!

 彼は……噂のシュルヴェステル・エイルトヴァーラ

 現れたのは全世界のアールヴの長である。

 

 アモンとシュルヴェステル・エイルトヴァーラ――邪神様が送り込んだ2人の超強力助っ人は、いかにも面白そうに、にやりと笑ったのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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