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第143話 「モーリスさんの告白」

 今、モーリスさんの店で彼の打ち明け話を聞いている俺達……

 当然の事ながら店内に他の客は居ない。


 モーリスさんが話すのはこの世界の古代史そのものだ。


「我がガルドルドと悪魔との大戦の末期、反撃に転じた悪魔軍の猛攻撃を受け、我がガルドルド魔法帝国軍は防戦一方、その上連戦連敗であった……ガルドルド王都まで撤退して態勢を立て直そうとしていた矢先、俺と皇帝専属の帝国親衛隊は奇襲を受けてしまった」


 モーリスさんは遠い目をして「ふう」と息を吐いた。

 余程、怖ろしい経験だったに違いない。


「帝国親衛隊はほぼ壊滅……俺は残った僅かな供に守られていたが、いきなり大悪魔の攻撃魔法を受けてしまい、全身に激痛を感じて、そこで意識が無くなった……多分あっさりと死んだのであろう」


 『兄』から、彼が死んだという部分を聞いた時、やはり辛く無念だと感じたらしい。

 ソフィアの目には大粒の涙が溢れていた。


「それから……俺はどうなったのか……意識が戻って気が付くと見知らぬ国の平民の、幼い子供として暮らしていた」


「見知らぬ国の平民?」


 思わず俺が聞くと、モーリスさんはにっこりと笑う。


「ああ、数千年後の未来……ここヴァレンタイン王国の王都セントヘレナの市民街だったのさ」


 これって……

 俺とはまた違った転生の経験だな。

 今度、邪神様の許可を貰って、モーリスさんへ俺の経験をカミングアウトするのも良いかもしれない。

 俺にとってモーリスさんは『兄さん』であり、『転生の先輩』なのだから。


「何故か……幼い子供の俺に前世の記憶と知識はそのままあった。だが平凡な平民の子供に何が出来る?」


 皇帝としてガルドルド魔法帝国の再興という使命も頭をぎったのだろう。

 しかし、それをやるには環境が伴っていなかったという事だ。


「だから前世とは全く違う人生を歩もうと決めたんだ。しかし、ただ平凡な人生も御免だった」


 以前、ソフィアから聞いた事があった。

 兄の帝国皇帝は魔法の能力はそこそこだったが、非常に優れた錬金術師であった事を。

 だが、まさかモーリスさんがソフィアの兄だなんて、俺は思いも及ばなかった。


 俺がそんな事を考える中、モーリスさんの話は淡々と続いている。


「だから俺は持っていた錬金術の知識を活かしてセントヘレナで錬金術師になった。現在の錬金術は、ガルドルドの頃と比べはっきり言って退化していた。だから俺は行けると思った」


 確かに!

 某タイムスリップ医療漫画みたいなものだ!


「目立ち過ぎても不味いから俺は不自然にならないように知識を小出しにしながら、高みを目指して行った」


 転生したアレクサンドル少年の優れた才能を知った両親は素直に喜んでくれたらしい。


「俺は地道に頑張ったよ。そうしたらある程度の財産を作る事が出来たんだ。その金で俺を可愛がってくれた『こちらの両親』には充分に恩が返せた。2人とも豊かで充実した人生を自慢の息子から与えて貰って満足して亡くなった」


 しかし、両親が亡くなると、アレクサンドル青年の目的は無くなってしまったらしい。

 いわゆる生きがいが無くなってしまったという奴だ。


「当時は愛する人も居らず、もし居ても自分の秘密を告げる事が出来る人など現れないと思っていた。そうしてこうして時が過ぎ……あっという間に15年……俺は虚しくなったのさ」


 無為に時間だけが過ぎて行く。

 そんな毎日が嫌で厭世的になったのだろうな、モーリスさん。


「それでこの村へ?」


「ああ、転生したこちらの母親の出身地が、このタトラ村だった。俺は王都での生活に疲れて、もうただただ静かに暮らしたいと思っていた。だから村へ貢献出来る万屋よろずやを開いて、世捨て人みたいに暮らし始めたのさ」


 ふ~ん……

 この村で万屋をやっているのは、そんな理由わけだったんだ。


「ああ、この村の暮らしはそれなりに面白かった。地味で平凡ながら平和で……何気ない村人とのやりとりも楽しくて、な」


 そんなモーリスさんの日々に変化が生じたのはどうしても処分出来なかった錬金術の道具を見てからだという。


「だけど……このままで良いのか?と考えて、錬金術の実験を再開した。もっともっと村の役に立とうと、な。俺がこの時代に転生した意味を改めて考え出したのさ」


 投げ遣りになっていたモーリスさんは再び生きる意味を見出そうとしていたのだ。


「そこへ……トール。お前がジュリアちゃんと一緒に現れた。覚えているかい?」


 確かジュリアは……「人生を投げ捨てる人なんて嫌いだ!」と言ったっけ。

 俺がそう言うとモーリスさんは頭を掻いた。

 そして恥ずかしそうに笑ったのである。


「ジュリアちゃんのきついひと言で完全に目が覚めた。俺は絶対にやり直そうと決めたんだ」


 モーリスさんの顔は晴々していた。


「ありがとうございます! お話して頂いて!」


 その瞬間であった。


「あああ、兄上ぇ!!! あおう、あおう! うわああああん!」


 ソフィアが大声で泣き出すと、モーリスさんに飛びついたのである。

 本当の身体が復活して俺に縋って号泣した時と同じだった。

 この世界でたった1人の肉親の兄が……姿形は違えど生きていたのだ。

 こうなるのは……当り前だろう。


「今度は俺の話を聞いて貰えますか? ソフィアと出会った時の事、そしてこれからの事……」


 そんな俺の問い掛けに対して、泣きじゃくるソフィアの背中を優しくさすりながら、モーリスさんは笑顔で頷いたのである。


 ――1時間後


「そうか……ありがとう、トール! そして皆さん! 改めて礼を言おう。本当にありがとう!」


 モーリスさんは俺と嫁ズへ深く頭を下げた。

 そして前世での怨みつらみや蟠りを捨てて、この世界の為に協力してくれる事を約束してくれたのである。

 その証拠が悪魔であるイザベラとの握手と約束だ。


「俺も仲間に入れて欲しい! 宜しく、イザベラ!」


「ああ、こちらこそ! お兄様」


 ああ、良かった!

 当事者同士は大変だろうが……

 やはり歩み寄らないと!

 争い続けていては何も生まれない。

 現在のような世界の危機みたいな緊急時には尚更だ。


 トントントン!


 あれ? 誰かが店の扉をノックしている。

 閉店中の看板を出して置いた筈なのだが……

 この魔力波オーラは?


 扉を開けてそこに立っていたのは……俺達を呼びに来た?ジェマさんであった。


 しかし少し様子がおかしい?

 俯いたジェマさんの顔が何故か赤いのである。


「ああ、俺達……実は結婚したんだ」


 今度はモーリスさんがさっきとはまた違った衝撃の告白をした。

 ジェマさんも黙って、こくりと頷く。


 ななな、何ですと!?


 俺達はいきなりのとんでもない展開に驚いて、全員口をあんぐりと開けていたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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