第141話 「父の容認」
だんっ!
ミシッ!
ピキン!
「ぐあうっ!」
それはかつて見た風景と同じであった。
俺があっさりとジュリアの父エドヴァルドの右手を押し込め、テーブルに叩き付けたのだ。
今回は相手の力の見当がつかなかったから、結構力を入れてしまった。
エドヴァルドの手がテーブルの天板に触れた瞬間、鈍い音と共にひびが入って割れてしまったのである。
「く、くそっ! も、もう1回だ! こ、今度は本気でやるぞ!」
「ああ、テーブルがっ!」
ジェマさんの、宿の備品を心配する声が飛ぶが……
「構わないっ! そんなもの俺が出すっ!」
ああ、やっぱりだ!
エドヴァルドの竜神としてのプライドが炸裂中……そんな感じである。
「もう! エドったら……昔っから変わらないよ! 負けず嫌いでさ」
ジェマさんは腕組みをして苦笑している。
「よ~い……どん!」
だんっ!
ミシッ!
ピキン!
「ぐあうっ!」
やっぱり……
結局、その後俺とエドヴァルドの腕相撲勝負は5回行われたが、使ったテーブルを全部壊した上で、全て俺の圧勝であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「どう? 納得した? エドヴァルドお父様?」
脱力して座り込んだエドヴァルドに対して、イザベラが悪戯っぽく笑う。
「ああ、悪魔王女イザベラよ。確かに……充分納得したぞ……もし私が竜化したとしても、力のみではあっさり負けるだろう! やはり闘神様の使徒は凄い!」
エドヴァルドは改めて笑顔で俺を見ると、立ち上がって頭を下げた。
さすがに竜神族の長だけあって潔い態度である。
謙虚な彼の姿を見た俺も吃驚してそれ以上に深く頭を下げた。
「トール、我が娘ジュリアを宜しく頼む! お前になら任せられる! 今迄同様可愛がってやってくれ!」
エドヴァルドは笑顔で右手を差し出した。
今度は腕相撲ではない。
和解と懇親の握手である。
「こ、こちらこそ! ジュリアには俺、凄く助けて貰っていますから! 一生! た、大切にします!」
そんな俺達に嫁ズが駆け寄って来た。
今度こそ、全員で仲良くなれるのだ。
そんな理由で会話の内容も一変している。
基本的には各種族間で懇親を深めようという前向き且つ建設的なものだ。
美少女に囲まれたエドヴァルドはやはり……デレていた。
「よっし! 今夜は全員で宴会だね! 外に待たしているエドの家来さん達も入れてさ!」
ジェマさんは上機嫌である。
俺も当然同じだ。
宴会か!
良いねぇ!
そういえば、嫁ズと結婚式をやっていなかったから、村での宴会を仮結婚式にしても良いかもしれない。
しかしそこへジュリアからストップが掛かる。
「トール! その前に頼まれていた仕事を済ませておこうよ!」
頼まれていた仕事?
仕事なんかあったっけ?
俺は思わず聞いてしまう。
「仕事って何?」
「ほら! モーリスから仕事を頼まれていただろう? 錬金術の素材購入さ!」
「ああ~っ、そうだった!!!」
ああ、そうだった!
村で万屋を営む元錬金術師モーリスさんから仕事を頼まれていたんだよな!
請け負ってから、相当待たせてしまったけど……
確か、俺の腕輪に金属塊で入っている筈だ。
傍らで腕組みして、俺達の話を聞いていたジェマさんが破顔する。
「あはは、何だ、仕事って相手はモーリスかい? じゃあ、皆で早く行ってきなよ。待っているからさ」
さっきイザベラと打ち解けてから、ジェマさんはずっと笑顔だ。
まるで今迄の無愛想さが嘘のようである。
俺はジェマさんのお言葉に甘える事にした。
「じゃあ皆で行こうか?」
「「「「「「了解!」」」」」」
じゃあ、早速出発だ。
俺は嫁ズを連れてモーリスさんの店へ出掛けたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺達は今、タトラ村の中を歩いている。
ジュリアが里帰りしたという話はあっという間に村中へ伝わったようだ。
何人もの男達が俺に寄り添って甘えるジュリアを悔しそうに眺めている。
その中には例のいじめっ子ダニーも居た。
ああ、あいつ……馬鹿だなぁ……
好きな女の子を苛める心理は理解出来ないでもないが限度がある。
俺みたいに転生したら、今度は幸せになってくれ。
ダニーから見たら、俺はリア充爆発しろと呪いたくなる対象中の対象だろう。
何せ、今や俺の嫁はジュリアを入れて6人も居るのだから。
そんなこんなで俺達は直ぐモーリスさんの店へ着いた。
ああ、懐かしい!
ここから俺の商人兼冒険者人生は始まったのだ。
そしてモーリスさんから買い取った『賢者の石』のお陰でソフィアも助かったのである。
さりげなく礼を言っても良いかもしれない。
モーリスさんはいつもの通り、店のカウンターに陣取っていた。
「こんちわぁ!」
「おう! トールじゃないか! ジュリアちゃんと一緒に里帰りしたって聞いたぞぉ! え、ええっ!」
俺達を見たモーリスさんが口をあんぐり開けている。
「おおお、お前は! ソ、ソフィア!?」
えええっ!
何だぁ!?
何故、この辺境の村の万屋主人がソフィアを知っているのだろう?
俺は驚愕するモーリスさんを見た後、思わずソフィアをじっと見詰めたのであった。
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