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第140話 「嫁ズの共同作戦」

 俺がイザベラとアモンを納得させたやり方……

 それはシンプルで決着の分かり易いパワーゲーム、すなわち腕相撲である。


「お父さん! 私達の夫トールと腕相撲で勝負してくれない? 絶対納得するから!」


「う、腕相撲だとぉ!?」


 イザベラの意外な提案に、面食らうエドヴァルド。

 エドヴァルドの脳裏には可愛い愛娘ジュリアを賭け、俺との、もっと血生臭いシーンが浮かんでいたのに違いない。


「あ、勘違いしないで欲しいけど、万が一お父さんが勝っても、ジュリアを含めて私達はトールと絶対に別れませんからね」


 エドヴァルドが変な期待をしない為に、きっちりと釘を刺すイザベラ。

 やはり姉レイラと同じくしっかりした女の子だ。


『約束』をさせられるエドヴァルドは辛そうに口篭ってしまう。


「うくくくく……」


「ねぇ、嫌なのぉ? お父様ったら」


「う!」


 いつの間にかイザベラの言葉遣いが変わっている。


 ジュリアの父であるエドヴァルドの呼び方が、『おっさん』から『お父さん』や『お父様』へ昇格しているのだ。

 口調だってずっと優しくなっているし、これは男なら、それも父親としては断り難い雰囲気である。

 先程までの蓮っ葉できつい物言いが一変し、超絶美少女といえるイザベラが熱い眼差しで見詰めているのだ。


 俺がそっと観察してみると……

 

 やはり――エドヴァルドはデレていた。

 頬が少し赤くなり、イザベラと視線を合わせていない。

 目が完全に泳いでいるのだ。

 これは……間違い無い、確実にデレている。


 このような時に、機を見るに敏な我が嫁ズが、黙って指をくわえて見ているなんて筈はない。

 まず口火を切ったのはアマンダである。


「ねぇ! 勝負して下さいませ、お父様ぁ」


 鈴を転がすような美声のワンツージャブ!


「は、う!」


 アマンダがこうなれば、妹のフレデリカも黙っていない。


「お父様わぁん! お・ね・が・い!」


 うわあ、アニメ声の容赦ない萌えストレート!


「はうううっ!」


 フレデリカが行けばハンナも続く!


「ご主人様ぁ! お願いですぅ」


 おおっと、地味ながら効いて来るお願い目線のブロークンハートブロー!


「うわああ!」


 とうとうロープ際に追い詰められたエドヴァルド……

 彼にはもう後が無い。


 そして最後は――ソフィアであった。


「父上ぇ! 四の五の言わずにわらわの頼みを聞いてたもれぇ」


 これは止めの強引な女王様系アッパーカットだあっ!


「は、はい~っ!」


 エドヴァルドは抵抗するすべも無く、硬直して思い切り、頷いていた……


 カンカンカンカン!


 俺の耳には幻のテンカウントゴングが聞こえている。


 あ~あ!

 エドヴァルド、見事にノックアウトされたぁ!


 そりゃ、全員が超絶美少女の嫁ズに、うるうる目でお願いされたら、断れる男なんて皆無に等しいだろう。


「うふふ……お父さん、可愛いよ」


 最後はデレる父の姿を見たジュリアが慈愛の笑みを浮かべて、俺とエドヴァルドは、ノンタイトルマッチの腕相撲をする事が決定したのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 直接の敵であるこの俺ではなく、見た目は華奢な美少女軍団の嫁ズに押し切られてしまったエドヴァルド。


 さすがにバツが悪そうだ。

 しかし約束は約束である。


「うぐぐ……分かった! とりあえずその条件でトールと勝負しよう!」


 歯切れが悪いながらも確りと約束したエドヴァルドを見て、イザベラは親指を立てた。

 相手は当然ジュリアである。


「よっし! 決まりよ! ジュリア、これで良いわね?」


 勝っても負けても、家族関係に影響が無ければジュリアも当然異存はない。

 それにイザベラは勿論、ジュリアにも俺の勝利は確定であるという自信があるようだ。


「うふふ……イザベラ、ありがとう! お父さん、頑張って!」


 ここで父にもエールを送ったジュリアに対して、エドヴァルドは不思議そうな顔をする。

 先程まで無理矢理連れて行こうとした父に対して、優しく励ます言葉を掛けてくれたのだから。


「……ジュリア! お前はこの私を応援してくれるのか?」


「うんっ! だってあたしのお父さんじゃない! まあ、あたしはトールとお父さん両方応援するけどね」


「…………」


 エドヴァルドは黙ってしまった。

 唇を噛み締めているところをみると、健気な愛娘の言葉に胸をうたれているようだ。


「あたし、お父さんが生きていてくれて本当に嬉しいんだ! お母さんは残念だったけど、天国で絶対に喜んでいるよ」


 ああ、これって――完全にとどめって奴だ。

 俺に娘が居てこんな事を言われたら――号泣確定だ。


 俺がちらっとエドヴァルドを見ると、やはり少々目が赤くなっている。


「……ははは、負けた! お前達には、な。トール、勝負だ!」


「ああ、宜しく!」


 こうなれば、早速勝負開始だ。

 腕相撲の良い所はテーブルとそれに準ずるものがあれば、簡単に行える事である。

 当然、戦う『リング』はここ大空亭食堂のテーブルだ。


「ようし! 私もぜひエドとトールの勝負を見させて貰うよ!」


 イザベラが悪魔だと聞いて腰を抜かしたジェマさんも復活している。

 最初は怯えの目で見ていたイザベラに対しても、ジュリアを守る度胸と気っ風(きっぷ)の良さを見て、逆に惚れ込んでしまったようだ。

 その証拠にジェマさんは審判役のイザベラに近付き、厚く礼を言うと彼女の隣に控えたからである。

 俺とエドヴァルドの勝負を間近で見る為なのはいうまでもない。


 準備が出来ると、俺とエドヴァルドはテーブルに右腕の肘を載せ、がっちりと右手を組み合った。


 ああ、さすがに竜神族の王様だ。

 イザベラの父、悪魔王アルフレードルに勝るとも劣らない凄い魔力波オーラを出している。

 ここでエドヴァルドがどこまで本気を出すのか分からないが、油断は禁物だ。

 だが、俺も邪神様の使徒である。

 この世界では『闘神』を司るスパイラルの力を信じるしかない。


「よ~い……」


 さあ、いよいよ勝負だ。

 審判役のイザベラの声が食堂に響く。

 何も賭けていないとはいえ、勝負は勝負――今後のクランバトルブローカーのモチベーションの問題もある。

 ここは必ず勝たなくてはならない!


「どん!」


 俺はエドヴァルドと組んだ右手に力を込めるとぐっと、力強く押したのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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