第137話 「タトラ村への帰還」
こうして俺の嫁は6人となった。
皆、超絶美少女ばかりなのだが、何というか普通の子は1人も居ない。
竜神族のハーフに、悪魔王女、数千年前の失われた王国の王女に、神秘的なアールヴの女達である。
だが全員優しいし、何よりも俺をとても愛してくれているのが嬉しいのだ。
アマンダとフレデリカの父マティアス・エイルトヴァーラとは相変わらず微妙な間柄ではあるが、今回の最大の戦果は一番の難関と思われたマティアスの妻フローラが味方についた事である。
彼女はエイルトヴァーラ家の実質的な支配者であり、女帝といっても過言ではない。
そんなフローラの前では夫マティアスの不満など粉微塵に吹き飛んでしまった。
そして俺が1番嬉しかったのは俺の説得により、フローラが憎しみの象徴として見ていたアマンダを認めてくれた事である。
マティアスの正妻フローラにしてみれば、認められない夫の過去を思い出させる象徴ともいえる存在がアマンダであった。
フレデリカと同等の実の娘扱いとまではいかないが、俺の妻としては認めてくれたようで何と和解の握手をしてくれたのだ。
この成果のきっかけとなったのは神力波が俺の気持ちをフローラへ伝えてくれたお陰である。
ああ、神力波よ、偉大なれ!
俺はこのチート能力を与えてくれた邪神様に感謝しきりであった。
だが、意外にもここで1番上手く立ち回ったのがフレデリカの兄アウグストである。
どさくさ紛れにしれっと『商人宣言』して、あたふたしていた両親にOKを貰ってしまったのだ。
まあ、このベルカナの街に残って指揮を執る人材が必要なので渡りに船ではあるが……
こうして俺達はエイルトヴァーラ家の全面的な援助を受けられる事となった。
このベルカナの街で最大の有力者エイルトヴァーラ家と組む事が出来れば話は早い。
俺はマティアスに対して早速、廃墟となっているペルデレの街及び迷宮の再開発を申し込んだ。
当然アウグストも一緒になり、両親に対して強力にプッシュする。
元来アールヴの国イェーラはその民族的性格から排他的な国であったが、現在の長になってから、外貨を稼ぐ為にこのベルカナの街を開放したという。
だから、かつてのガルドルド魔法帝国の街であったペルデレの街を再開発し、魔の迷宮を名物とした観光と商業の都市にする事は、この国の現在の方針にぴったり合っているのだ。
ペルデレを再興し、このベルカナの街の衛星都市として外貨を稼ぐ計画にはマティアスも興味を持った。
それも愛する息子アウグストからの献策ともあれば好意的に聞いてくれるのは当然である。
こうして暫しの検討の後、俺達のペルデレ再開発はアールヴ達の了解を得た。
名前も失われた地などという不吉なものから、元々の名である創造の地という変更も了解となる。
ただマティアスを始めとしたアールヴ達は行方不明者を大量に出した忌まわしい街に関わりたくないらしい。
それが今回は幸いした。
アールヴから必要な金は出資して貰えたが、街の計画立案と工事は俺達に任せて貰えたのである。
俺はソフィアは勿論、表向きの指導者であるアウグスト、実質的な指導者である宰相テオフラストゥス・ビスマルクと相談して基本的な街の仕組みを決め、後は大体任せてしまう。
いくら俺が中二病でも建築に関して専門的な知識は皆無だからだ。
迷宮は一旦入り口を閉め、各エリアの面積を拡大工事した上で地下1階から5階までのみを一般開放する事にした。
当然工事するのは迷宮では無敵な存在である鋼鉄の巨人である。
俺達が戦った魔物はそのまま配置してあるので、冒険者にとっては命を懸けた訓練場という事になるのだが。
冒険者を誘う肝心の『人参』であるが、各階に鍵の掛かった宝箱を固定設置する。
中身は魔道具などある程度金額的な価値のある『賞品』にした。
ちなみに魔道具自体は、ガルドルドの魔法工学師達が普通の武器防具道具などに付呪魔法して造るのでコストも余りかからない。
賞品の入れ替えは宝箱自体の底に転移門の出口を設けて、箱が開けられて中身が抜き取られる度に新たに送り込む仕組みだ。
賞品の質が良いと口コミで広がれば、それを目当てにした輩が殺到するのは予想出来る。
そうなれば、魔道具を目指してひとやま当てようとする冒険者で街はにぎわうという計算だ。
最後にどこぞの国の迷宮のように、お尋ね者の悪の魔法使いを最下層に配置して懸賞金を懸けようという冗談が出たのは愛嬌であった。
こうして……新生ゲネシスは急速にその建設が進められた。
昼間は通常の工事、そして夜間はこちらも鋼鉄の巨人を使った秘密の工事の必殺2段階工事方式なのは内緒である。
こうしてゲネシスの再開発に目処がついたので、俺達はジュリアの故郷であるタトラ村へ久々に帰る事を決めたのであった。
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今、俺達はタトラ村への街道を歩いている。
タトラ村への直行便的な転移門を置くとはと言っても、さすがに村の中には設置出来なかった。
いくらジュリアの故郷とはいえ、そこまでのカミングアウトは無理だからだ。
そんなわけで転移門の設置場所はタトラ村から少し離れた、とある雑木林の中である。
ただジュリアと初めて出会った時と同様、いきなりゴブやオークの襲撃があってもおかしくない場所だから、奴等を完全に防ぐにはやはり特別な場所を設定する必要がある。
はっきり言って襲われる心配のない、簡易だが頑丈な地下室を作ったのだ。
地下室の入り口は特定の魔法でしか開錠出来ないので、他人が無理矢理侵入する可能性はほぼゼロである。
ついでにある程度の人数が宿泊&生活出来る部屋と倉庫も作って貰ったので、今後使い勝手は相当良くなる筈だ。
転移門のある地下室を出て15分程度歩けばタトラ村へ着くので、ジュリアは浮き浮きしている。
「うふふふ! トール! 久し振りの里帰りだよ! いきなり訪ねたら皆、吃驚するよね!」
「ああ、確かにな」
ジュリアとそんな会話をしながら、俺はふと心配になった。
あのジェマさんが何と言うか、である。
ジュリアの叔母であるジェマさんが今の俺のハーレム状態を見て怒るのだろうか?
こんなふしだらな男とは直ぐ別れなさいとか……
タトラの村を出た時は俺とジュリアのカップルだったのが、今や俺の妻は6人も居るのだ。
「ジュリア……ジェマさん、何か言うかなぁ……」
「叔母さんがどうかしたの?」
ジュリアはいつものポーズで可愛らしく首を傾げる。
ああ、俺をいきなりノックアウトした必殺の胸キュンポーズだ
「う~ん……ほら、ジュリアは第一夫人だけどさ。今や……」
「あはは! そんな事を気にしているの?」
ジュリアは俺の言葉を聞いて直ぐピンと来たようだ。
「大丈夫だよ! あたしを含めて超美形ばっかりだから、凄く甲斐性のある男だって喜んでくれるよ」
はぁ……甲斐性があるかぁ……
そんなものですかねぇ……
何となく俺は嫌な予感がして、あのエイルトヴァーラの女帝様に対面する時より陰鬱な気分だったのだ。
「大丈夫だって! あたしがトールから凄く大事にされているって、確り言うから!」
そうか!
まあ、それなら安心だ!
ああ、まもなく懐かしいタトラ村の正門に着く。
ええと、門の前で頑張っているのは……やはりあのラリーである。
「ラリー、只今ぁ! だいぶご無沙汰だったねぇ!」
「おおっと、ジュリア! お前、生きていたのか? ずっと戻らないからてっきり死んだのかと思ったぜ、ああ、痛ぁ!」
ラリーは相変わらず軽口を叩くが、死んだ?は言い過ぎだろう。
案の定、ジュリアの蹴りが炸裂した。
「あごおおおおお……」
「あ、ごめ~ん!」
ジュリアは竜神族として覚醒しているのを、つい忘れていたようだ。
以前の、か弱い少女の頃と違って、単なる蹴りも数倍の威力がある。
蹴られて痛む足を擦りながら、ラリーは恨めしそうにジュリアを見詰めていたのであった。
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