第132話 「ソフィアの復活」
観覧席でがっくりと項垂れるアウグスト・エイルトヴァーラとアールヴ巨人ズ。
その傍らに居る真ガルドルド魔法帝国宰相テオフラストゥス・ビスマルク――テオちゃんは、打ち合せ通りに事が運んでホッとした表情をしている。
いくら神の使いだと言っても、俺の真の実力をテオちゃんは知らない。
圧倒的に有利な作戦を立てたからといって、俺が必ず勝つという確約はなく、上手くいくかどうか半信半疑だっただろう。
それが蓋を開けたら俺の圧勝であったのだから、未来が繋がった!というのが本音なのに違いない。
一方、反対側の観覧席では嫁ズや人間のガーゴイルズ、悪魔のアールヴズが手を振っている。
俺はそんな『観客』達に手を振って応えた。
声援の中で手を振るのは結構気分が良い。
古の剣闘士もこのような気持ちだったのだろうか?
嫁ズの中ではフレデリカも大きく手を振って、何か叫んでいる。
俺は、いきなり念話で話し掛けてやった。
『おおい! フレデリカ!』
『ななな、だだだ、誰!?』
突然、頭の中で声がしてフレデリカは驚き、戸惑っている。
初めて念話で話す時は皆、同じ反応だ。
魂と魂の会話である念話――直接、頭の中に響いて来るような感覚なのである。
初めての感覚に吃驚しない方がおかしい。
余り驚かせても可哀想なので俺は、ここで正体を明かしてやる。
『ははは、俺だよ! お兄ちゃんだ』
『えええ、おお、お兄ちゃん!? こここ、これ!? 何?』
『念話さ! 今、俺とお前の魂同士で話をしているんだよ。まあ落ち着いて話を聞きなさい』
『はは、はいっ!』
フレデリカは俺とこのような関係になってから、ツンデレ振りはすっかり影を潜めている。
ここでも素直に大きな声で返事をしたのだ。
『アウグストが無条件降伏を約束したから、彼を元の身体に戻して地上に連れて帰れる。そうしたら父上も喜ぶし、お前とも晴れて結婚出来るな』
俺はもう覚悟を決めている。
こんなに可愛い女が俺なんかと結婚したいと宣言したのだ。
しかもあんな大勢の前で、だ。
ここは決めないと男ではない。
俺のプロポーズともとれる言葉に、フレデリカは胸が一杯になったようだ。
『う、うんっ! お、お兄ちゃん……ありがとう! 私、改めて思った! 貴方が強くて頼れるって! 大好きだよ、お兄ちゃん! 私、お兄ちゃんにとって絶対に最高のお嫁さんになるよ! すご~く尽くすからね!』
『ありがとう! 俺はお前みたいな可愛い嫁が貰えて幸せ者さ。但し、まずソフィアを本当の身体に戻すのが先だ。分かってくれるな?』
『うんっ! 私、ジュリア姉達から色々と話を聞いたよ。ソフィア姉の事もね。多分私だったら耐え切れなくて、泣き叫ぶもの。早く彼女を助けてあげて!』
『おっし! じゃあこれから今後の相談をしなきゃな!』
俺が知らない間にフレデリカは嫁ズともコミュニケーションを取って、確りと絆を作っていたみたいだ。
そして他者に対する思いやりもあって、優しい性格。
兄思いの事実から分かってはいたが、元々この抜きん出た美少女振りだし、本来のフレデリカは最高の女の1人と言えるだろう。
俺はフレデリカと話し終えると、改めてテオちゃんに対して念話で呼び掛けたのであった。
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フレデリカに伝えたように、まず優先するのはソフィアを元の身体に戻す処置である。
その為にはこのペルデレ迷宮から遥かに離れたコーンウォール迷宮にある身体維持装置の修復をしなければならない。
ただ、このままアウグストを放置して出発するわけにはいかない。
今後の明るい展望を提示して気持ち良く元の身体に戻って貰う必要がある。
それに無条件降伏と言っても彼の反感を買わない為に、一方通行的な物言いは避けるべきだろう。
だから俺はアウグストに新たな仕事を持ち掛けた。
詳細は後に話すとして、基本的には俺と同様に冒険者兼商人となって世界を股にかけて仕事をするのだと。
アールヴとして誇り高いアウグストではあったが、そもそも堅苦しい生活を嫌って冒険者になったくらいだから異存がある筈もない。
俺の提案を受け入れたアウグストは元の身体に戻る事もあっさり了解してくれたのである。
こうしてひと息ついた俺は改めてテオちゃんと相談をする。
結果、俺とクランバトルブローカーのメンバー、そしてテオちゃん+魔法工学師5名でコーンウォール迷宮へ赴く事となった。
コーンウォール迷宮への移動はテオちゃんの作った転移門によって時間も手間もかからず行ける事が判明した。
元々、テオちゃんは真ガルドルド帝国が軌道に乗ったら、ソフィアを正統な女王として迎えに行くつもりだったらしい。
これはとても幸運な事である。
「テオフラストゥス! お前がこうやって生きていてくれたとは! そして良くぞ、ここまでやってくれた。もうひと頑張りして妾を助けてたもれ」
「ははっ! 姫様にそう仰られて、このテオフラストゥス、ありがたき幸せにございます!」
改めてソフィアが労らうと、感無量といったテオちゃん。
さあ、そうはいっても愚図愚図してはいられない。
「クランバトルブローカー、出発だ!」
「「「「「「「はいっ!」」」」」」
俺の頃合を見た呼び掛けに嫁ズが答え、俺達は転移門に足を踏み入れたのであった。
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あっと言う間に到着したコーンウォール迷宮ではゴッドハルト麾下第7騎士団の鋼鉄の巨人達が出迎えてくれた。
「おおっ、まさか貴方が生きていらしたとは、テオフラストゥス殿!」
「ゴッドハルトよ! それはこちらの台詞でもある。良くぞ、姫様をここまで守り抜いた。礼を言うぞ!」
再会を喜び合う2人であったが、俺は魂を鬼にして促す。
「さあさあ、挨拶は後だ。申し訳ないが、早くソフィアを元の身体に戻してやってくれ」
「そうですね! テオフラストゥス殿、墓所の警備装置の解除はいかがする?」
「ああ、我々に任せて頂きたい」
そんな会話の後、俺達はソフィアの本当の身体が眠る墓所へ向ったのである。
そして……身体維持装置の部屋へ……
中にはソフィアと、テオちゃんを含めた魔法工学師達が入り、俺は嫁ズやゴッドハルトと共に維持装置の部屋の前で待っていた。
何となく、奥さんの出産を待つ旦那といった図式だ。
……1時間後
「だ、旦那様!」
維持装置の部屋の扉が開いて現れたのは、今迄一緒に居た自動人形を遥かに上回る可憐さで微笑みかける美少女である。
背中まで伸ばした美しい金髪を持つ彼女こそ俺の嫁、ソフィア・ガルドルドその人であったのだ。
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