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第129話 「ペルデレの迷宮⑰」

  真ガルドルド魔法帝国宰相テオフラストゥス・ビスマルクは手と膝を突いたまま動かない。


 降臨したスパイラル神から――お前は愚かで思いあがったガルドルド人だ!と罵られた上に、もたらされた世界滅亡の啓示は彼にとって相当ショックが大きかったようだ。

 単に転生先の神様という印象イメージしかない俺と比べて、生き方を託すくらい信仰心の深い彼等にとってはインパクトがでか過ぎるのであろう。


 だが……


 俺はここで何とかこのテオちゃんを説得しなくてはならない。

 彼のフォロー無くしては、最新の巨人にバージョンアップされたアウグスト・エイルトヴァーラと戦うのは不可能だからだ。


 もとい!


 アウグストと単純に、正面から戦うなら何ら問題はない。

 だがアウグストが俺の本当の力を知って能力を全開し、そして俺もやむを得ない状況において、お互いに全力で戦ったらこの場はただでは済まないだろう。


 まずアウグスト本人を倒して命を奪ってしまうのは不味い!

 非常に不味い!

 アウグストを無事に連れて帰る事で、アマンダとフレデリカの父でもあるマティアス・エイルトヴァーラとは今後も協力関係を築きたいからだ。

 それがアールヴ族全体との友好関係にも直結する事だろうから。

 

 アウグストの姉妹であるアマンダとフレデリカの、俺への気持ちの問題も勿論ある。

 彼を上手く助ければ、今のラブラブ状態も文句無く継続確定間違い無しだ。


 それにアウグストが俺との戦いの際に、万が一『暴走』したら巻き添えで、自分の姉妹を含んだ嫁ズさえ殺しかねない。

 それ故アウグストとの戦いは正々堂々としたフェアな戦いに持ち込み、彼が無傷な状態で俺が完璧に勝たないといけないのだ。


 先程と同様に俺は念話でテオちゃんへ呼び掛ける。

 嫁ズも含めて周囲にやりとりを知られずに進めたいからだ。


『テオフラストゥスさん! スパイラル神の使徒トールだ。俺の声が聞えているか?』


『…………』


 俺の呼び掛けに無言を貫く宰相テオフラストゥス。

 熱心な創世神教信者だけあって、まだ立ち直れてはいないらしい。

 神そのものから信仰心を否定されて落ち込むのはとても分かるけど、さ。

  

 俺は再度テオちゃんへ呼び掛ける。


『おいおい! いつまで落ち込んでいても仕方が無いぞ。スパイラル神は浄化と再生の為にはこの世界を一旦滅ぼすと言っているんだぜ』


『う…………』


 あ、反応があった!

 もうひと押しか?


『このまま何もしなければ彼の浄化とやらで全員死ぬ。俺もあんたもここに居る皆も……いや全世界の全種族が、な』


『くくく…………むうう』


『唯一助かる道は貴方が使徒である俺に全面的に協力する事だ。この世界に貢献し、スパイラル神の望む世界に修正し、彼への信仰心をあげる事をするしかないのさ』


『どどど、どうしたら良いのだ』


 おお!

 来た、来た!

 俺の提案を受け入れる声が!


『まずは、この場を上手く切り抜けて、ソフィアを助けないといけない。その後で貴方とゆっくり相談したい。なあに作戦は立ててある』


 絶望状態であったテオちゃんには俺の言葉がとても頼もしく聞こえたようだ。

 暫し考えた後に、テオちゃんは縋るような声で俺に助けを求めたのである。


『わわ、分かった! 情けないが……今はショックが余りにも大きくてまともに考えられないのだ。確かに神の使徒である……お、お前……い、いや、貴方様が頼りだ』


 よかった!

 これなら俺に協力してくれそうだ。

 しかし……ここでしっかりと伝えておかなくてはならない。


『テオフラストゥスさん、まずアウグストに暫し、決闘を待つようにストップを掛けてくれないか……そして、辛いかもしれないが、ひとつだけ約束してくれ、俺も同じ約束をするからな! 必ずだぞ』


 俺は何度も念を押した。

 必死に念を押した。


 そして……


『……分かった! 貴方がそこまで言うなら約束する! 必ずだ!』


 俺はとうとうテオちゃんの協力の約束を『完全』に取り付ける事が出来たのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺と宰相テオちゃんの念話による綿密な打ち合わせの後……


 俺は遂にアウグストからの決闘申し込みを受けた。

 アウグストは眩く輝く金属製の巨体を震わせて喜んでいる。

 宰相の指示を渋々聞いて、『決闘』を暫し待たされた彼にとってみればやっと俺を殺せると確信しているのだろう。


「ようし! 薄汚い人間め! 漸く戦う気になったか! 殺してやる! 殺してやるぞ!」


 吼えるアウグストをアマンダとフレデリカは悲しそうに、他の嫁ズは冷ややかに眺めている。

 俺はテオちゃんと目配せした。

 いよいよ作戦発動だ。


「まあ、待てよ。今、宰相閣下から貴方に話があるみたいだぞ」


 テオフラストゥスは興奮するアウグストを手で制した。


「エイルトヴァーラ騎士団長! 宜しいか! 私が決闘の立会人となる。騎士として決闘するのであればガルドルドの規則には従って貰うぞ」


「立会人だと!? 宰相! そんなものは不要だ。僕はその軽薄人間をミンチのように叩き潰すだけだ」


 最新の機体を誇示し、俺を殺すと息巻くアウグスト。

 しかし、テオちゃんはそんなアウグストに対して致命的な言葉を投げ掛けたのだ。


「馬鹿な! 誇り高きガルドルド騎士としての精神に背くつもりなのか? それでは騎士団長を解任しなければならないし、その機体も返して貰うが宜しいか?」


「ええええっ!?」


 これは効いた!


 巨人の強さに酔うアウグストから、その地位と名誉を剥奪する言葉なのだから。

 どうやら、この場に居ない残り5人の魔法工学師により、全ての機体の動作は遠隔操作出来るらしい。

 これは万が一、アウグストを含めた者が叛乱を起こした際の備えであるようだ。

 だが単純に機体を停止させてもアウグストは俺を認めないだろう。

 やはり決闘により正々堂々と戦って納得させるしかないのである。


「うぐぐぐ……わ、分かった」


 ようし!

 まず第一段階成功だ!


「騎士団長! それで決闘の方法だが……」


 テオちゃんから俺とアウグストの決闘方法が説明されて行く。

 打ち合せどおりの展開に俺は黙って目を閉じる。


「ええっ! なな、何だと!」


 一方……吃驚したのはアウグストである。

 驚く彼の声は迷宮が空気がびりびりと振動するほど大きく響いていたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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