第125話 「ペルデレの迷宮⑬」
悪魔の魂を宿したアールヴの自動人形軍団を加えた俺達クランバトルブローカーは更に地下5階を探索し続けた。
だが地下5階を守護していたのはこの2つの軍団だけで、事前の情報にあった鋼鉄の巨人タイプの敵は居なかったのである。
各所に仕掛けられた多くの罠も2つの軍団からの情報と罠を熟知したソフィアのフォロー、クランバトルブローカー所属の優秀なメンバーによる撤去作業により、無効化された。
見つけた地下6階への転移門も地図通りの場所にあり、何故か封鎖はされていなかった。
こうなると地下5階は俺達にとって完全な安全地帯となり、次に向う地下6階への攻略の為の拠点となったのである。
情報屋サンドラさんこと、アマンダの母ミルヴァさんはここから先の詳細な情報を持っておらず、俺達は現時点でこの先がどうなっているか知り得ていない。
そこで俺と嫁ズは仲間となった2つの軍団から、改めてこの先の情報収集をする事にしたのだ。
ソフィアと巡り会ったコーンウォールの迷宮でも同様の感想を持ったが、相変わらずこの地下都市は凄い。
ちなみに安全になった地下5階を少し探索したが、魔力を使ったライフラインが完璧に備えられており、いつでも人が住める状態になっていたのだ。
俺はガーゴイルAことアラン・ボワロー、そして自動人形化した悪魔セーレを呼んだ。
2人はとても仲が良いというわけではないが、お互いを知っているらしくぎこちなく一礼をした。
俺は2人に対して質問を開始する。
「まず地下6階以降の構造について聞きたい」
「じゃあまず俺から話そう……」
最初に口を開いたのはアランである。
「地下6階はここ地下5階と同じ造りの居住区さ。だが地下7階は様相が、がらりと変わって自然溢れる領域となっている……この迷宮における生産区域なんだ」
「生産区域?」
「ああ、魔力を使った人口農場さ。生活魔法で水を生み出し、強力な魔導灯を太陽代わりにして麦や野菜が特殊な形態で栽培され、家畜を主とした地上の動物が実験的に育成されている」
へぇ!
それって俺が居た過去の世界の植物工場みたいじゃないか!
ちなみに植物工場とは、無菌を前提に人工的な水耕栽培等で作られる安全、安定供給を目指した野菜などの生産システムだったと思う。
まあ、もっと凄いものなんだろうが、その上動物まで飼われているんだ……
「人口農場? それは……凄いな!」
色々な想像をした俺が思わず大きな声を出すと、今度はセーレが口を開く。
「ああ、彼の言う通りだ。この美しい身体もそうだが、あの素晴らしい技術が僕達を魅了した大きな原因なのさ」
セーレの目は遠くを見詰めていた。
自分の故郷である魔界は、基本的に砂漠と岩の荒れ果てた世界である。
全く同じとはいえないが、陽も射さない地下深き迷宮で魔力を使用した豊かな人口農場を目の当たりにしたら……
俺はそう考えてはたと、手を叩いた。
そうか!
こいつ、真ガルドルド帝国の国民になると宣言しながら、頭の片隅には故国の事がしっかりインプットされていたんだ。
「地下7階が農場なのは分かった! そこから先は?」
俺が質問すると再びアランが話し始める。
「地下8階は指導者達の業務用兼居住区域だ。いわゆる役所と宿舎になっている。構造はこの街並みと基本同じさ」
ううむ、成る程!
官邸と公務員宿舎って奴ね!
「そして地下9階は高貴なる方々をお迎えする為の階だと彼等指導者は言っていた。だから俺は立ち入った事がない」
「ああ、僕もさ」
高貴なる方々?
ああ、ソフィアや彼の兄である皇帝など……ガルドルド王家の人達なんだろう。
多分、王宮などがそびえたっているに違いない。
「最下層の地下10階は?」
俺が質問するとアランとセーレは顔を見合わせた。
「それがなあ……」
「そうなんですよ……」
口篭る2人……
「国民でも国家機密はあると言われて、一切教えて貰ってないんだ」
「そうそう! そうなんです」
ふ~ん……
一切教えてくれないのか。
でも俺には、ほぼ想像がついていた。
多分、地下10階はこの迷宮の心臓部であり、迷宮自体を運営、保全する装置……ダンジョンコアとかがあるのに違いない。
ダンジョンコアに興味は凄くあるけど、とりあえず今は認識するくらいで良いだろう。
次はフレデリカが探しているアウグストの行方を聞きたい。
「人間は悪魔の持つ誰にも負けぬ猛々しさを、悪魔はアールヴの持つ透明な美しさを求めた。と、なるとアールヴ達は究極の人間ともいえる人工巨人の、逞しい身体と揺ぎ無い強さを求めたのだな?」
俺がずばり切り込むと、アランとセーレはとても吃驚した様子であった。
「何故?」
「分かるのですか?」
「分かるよ! それでアウグストは?」
目の色を変えてこちらへ質問する2人を軽くスルーして、俺は逆に問い質した。
「はい! アウグスト様は地下6階で帝国騎士団を率いる騎士団長を務められておいでです」
「そうなんだ! あいつ、白金色の神々しい巨人に魂を宿しているぜ」
「あ、ああ……ううう」
アランとセーレの言葉を聞いてショックを受けたのはフレデリカであった。
俯いてしまったフレデリカは小柄な身体を震わせ、嗚咽している。
敬愛する兄は、生命こそ落としてはいなかったが、真ガルドルド魔法帝国の騎士として、あの滅ぼす者に相当する巨人の身にその魂を移していたのだ。
肉親の彼女としてはとても複雑な思いであろう。
俺はその時、決めた。
超ツンデレではねっかえりの我儘娘だが、甘えん坊で兄思いの優しいアールヴ美少女を引き受けようと!
「フレデリカ、おいで!」
「あううううう、お兄ちゃ~ん!!!」
目に涙を一杯にしたフレデリカは、俺が呼ぶと一目散に駆け寄って来る。
俺は号泣するフレデリカを確りと受け止めると、震える小さな背中を優しくさすっていたのであった。
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