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第124話 「ペルデレの迷宮⑫」

 しかし、ここでソフィアの身分をカミングアウトするのは俺の書いたシナリオにはなかった事だ。

 俺がちらりとイザベラを見ると、彼女は悪戯っぽく片目を瞑った。


 イザベラは元々博打的というか、勝負師の傾向がある。

 商人としては、悪くない才能であり、普段理詰めで行くジュリアとは対照的だ。

 そのジュリアはと俺が見ると、何と微笑んでいる。

 どうやらこの賭けは、彼女達の確信に裏付けされたものらしい。


 イザベラは俺へ、ぺこりと頭を下げる。


「御免、トール。勝手にソフィアを使って! でもここは勝負だと思ったの!」


 ここで嫁達のやる気を削ぐのは旦那のやる事ではない。

 例の俺の勘もここは勝負だと告げていた事もある。


「分かった! 今回だけはお前の勘に賭けよう」


「ありがとう! 私達で確り責任を持つよ」


 私達?

 ああ、そうか!

 イザベラ、ソフィア、そしてジュリアの連合軍だ。

 どうやら彼女達は普段から色々、話をしていたらしい。

 俺に相談がなかったのは癪だが、まあお手並み拝見と行こう。


「正統なガルドルドの血筋……ソフィア王女……僕には分からない……」


 セーレは迷っているようだ。

 彼は優柔不断の傾向がある。

 即座の決断が求められる商人には向いていないかもしれない。


 一方、ロノウェは何とか食い下がろうとしている。


「この国の指導者達は大義の為と言った。新たな国を創ると……」


 それを聞いたイザベラは鼻で笑う。


「この地下都市で? モグラの様に暮らしながら?」


 イザベラと同じ考えなのであろう。

 ソフィアとジュリアも追随する。


わらわも御免じゃな! 絶対に明るい太陽のもとが良いわ」


「当然、あたしも!」


「…………」


 3人の強力嫁ズにこう言われては大抵の奴は何も言えない。

 ロノウェは力なく俯いてしまう。

 必殺ともいえる、反論の無効化である。


 相手から反論がないと見るや、イザベラの『追い込み』が始まった。


「よ~く見なさいよ! 私を含めたトールの妻達を!」


 アールヴの自動人形オートマタに魂を宿した悪魔達は興味深そうに嫁ズを眺める。

 ベルカナの街では散々、美男のアールヴ達を見たが、こうやって集団でウチの嫁ズをじっと見られると……微妙だ。

 そんな俺の気持ちはさておき、イザベラは話を続けた。


「悪魔、人間、そしてアールヴ……これが何を意味しているか、分かる?」


 本当は竜神族に、ハーフアールヴも居るけど……

 まあ、余計な事は言わなくて良いだろう。


「ソフィアの目指す国なら種族として個々の誇りを捨てずに済むのよ」


 イザベラはどうやら俺達が全く異なる種族で構成されたクランでありながら、互いに補い協力し合っている事を伝えたいようである。

 そして自分達が何者であろうが、それを全く恥じたりしていない事もだ。


「種族としての誇り?」


「ええ、あくまで私見だけど、私は種族にはそれぞれ美しさと品格があると思う」


「美しさと品格?」


「ええ、そうよ。様々な種族が混在しながら排他的にならず、お互いの美しさと価値観を認めながら切磋琢磨して生きて行く。当然何かあれば助け合い、慈しむ……そんな国よ」


「ふふふ、イザベラ少しだけ訂正させて貰おうかの」


 ここでソフィアがさっと手を挙げたのである。


わらわはの、最初はそう考えていた。ガルドルド魔法帝国の後継者として滅んでしまった祖国を再興しようと、な」


 大きな声を張り上げるソフィアの話を聞いているのは自動人形軍団だけではない。

 俺達の背後に控えたガーゴイルズもじっと聞き入っているようだ。


「しかし地上に出て考えを変えた。何故か? 地上には新たな国が出来ていたからじゃ。祖国の領土であった所全てに、な」


 例えば……とソフィアは指摘する。


「ここペルデレはアールヴの国イェーラの領地だとマティアス・エイルトヴァーラ殿に断言された。もしそれを奪還するとなると……全面戦争になるじゃろう、アールヴとの、な」


 そう言うとソフィアは目を閉じた。


「妾はそんなのは御免じゃ! 折角、ここに居るアマンダやフレデリカ、ハンナと仲良くなり、大きな事を成し遂げようとする時にな」


 ソフィアはこう言うと目を開けた。

 蒼い宝石で出来た瞳には強い意思が宿っている。


「妾は国にはこだわらない。逆に国ではなく、様々な種族がお互いに協力し合って、この世界全体を豊かにする、そのような共同体を作りたいのじゃ。その核となり、見本となるのが今、妾が所属しているクランバトルブローカーとなる。具体的にはな、血を流す戦いなどではなく、お互いに『商売』で戦い、且つ協力し合うのじゃ!」


「すすす、素晴らしい!」


 大きな声で叫んだのは今迄、優柔不断さを露見させていたセーレであった。


「ぼぼぼ、僕は支持します! ソフィア様の意思を! ロノウェ、君はっ!?」


「ま、まあ俺も同じ……かな」


 セーレに促されたロノウェもぎこちなく頷いた。


「ほほほ、悪魔の若人達よ! 妾はそなた達の国も見て来た! 悪魔にも素晴らしい意思を持ち、国を良くしようとする者達が居る。妾は協力を惜しまぬつもりじゃ!」


 おおおおおおっ!


 ソフィアの言葉を聞いた自動人形軍団=悪魔達から歓声があがり、全員が両手を突き上げる。

 そして……ずいっと前に出たのはフレデリカであった。


「私もソフィアに大賛成! 今はまだ夢だし、実現するにはとても頑張らないといけないと思う! だけどやりがいもあるし、満足出来る人生になる筈よ! さあ私達と世界を駆け巡る旅に出ない? こんな穴蔵に居ちゃいけないわ!」


 フレデリカの言葉を聞いたガーゴイルズは納得の表情である。


「フリッカァ! 君の言う通りだぁ!」


「俺達もソフィア様とフリッカを支持するぞぉ! 皆、そうだろう?」


「「「「「「「「「「ソフィア! ソフィア! ソフィア!」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「フリッカ! フリッカ! フリッカ!」」」」」」」」」」


 最初にガーゴイルズが声をあげると、負けじと自動人形軍団も大声を出し始めた。


 ペルデレの迷宮地下5階には、これからの人生を改めて決意した者達の叫びが木霊していたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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