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第123話 「ペルデレの迷宮⑪」

 アールヴの超美男子を模して創られた自動人形オートマタ……

 その中身が実は怖ろしい悪魔だとは、はたで見たら絶対に分からないであろう。


「…………」


 相手が黙り込んでいるので、イザベラは声を張り上げた。


「そこの貴方! ちゃんと名乗りなさい! 私は確りと名乗ったわ」


 古今東西、名乗りを上げるというのは重要な行為である。

 戦闘中に名乗りを上げて、その間に攻撃され命を落とすのは虚しいが、戦う前に、正々堂々と出自と所属を明かす事はとても大事だ。


「…………」


 だが、イザベラが促しても相手はまだ黙り込んでいる。

 こうなると短気なイザベラは焦れてしまう。


「イザベラ、任せろ!」


 俺の声にハッとするイザベラ。


 誇り高い妻の立場を台無しにしないようにフォローするのも夫の義務だ。

 ホッとしたイザベラの顔が結構可愛い。

 俺は彼女の代わりに声を張り上げた。

 当然、奴の魔力波オーラを読み込んだ上である。


「そこの悪魔! お前は学生だな。ディアボルス悪魔大学の3回生でオロバスゼミ所属だ!」


 俺の大声での指摘にアールヴ自動人形はびくりと身体を震わせた。


「ええと名前は……」


 続いて名前を読み上げようとした俺を奴は必死に制止する。


「ま、待て! 待ってくれ! な、何故分かるんだ、僕の事が!?」


「イザベラの言う通り、正々堂々と名乗れよ! 俺の能力ちからが、お前の素性を伝えてくれる。隠し立てしても無駄だ」


 暗に魔力波読みの能力者だと告げると奴は覚悟を決めたようだ。


「ううう……わ、分かった! セーレだ。ディアボルス悪魔大学の3回生でオロバスゼミ所属のセーレだ」


 セーレ?

 聞いた事がある。

 ああ、思い出したぞ!

 スピードに長けた美男子悪魔だ。

 元々美男子なのに、何故アールヴになるんだ?


 俺が物思いに耽っていると、ここでイザベラがずいっと前に出た。


「旦那様、ありがとう。ここからは私が代わろう」


 イザベラはそう言い放つと、息を軽く吸い込んで大きく吐いた。


「セーレとやら!」


「は!」


 セーレは直ぐに跪いた。


 自分の素性を明かしてしまえば、悪魔の世界は完全な縦型社会である。

 王族、それもイザベラ以上の地位の者は両親と姉以外居ないのだ。


「よし! この人間達から私は既に話を聞いた。その前提で話をしよう。手っ取り早いからな」


「は、ははっ!」


 イザベラは背後に控えるガーゴイルズを指し示した。

 ガーゴイルズが仲間になったという事はどのような事か、セーレは直ぐに理解したようである。


「お前達がその身体と引き換えに真ガルドルド魔法帝国の民となったのはこの人間達と同じ理由以外に、美の価値観の転換及び悪魔王国への厭世観、いや絶望からだな?」


 ずばりと言い切ったイザベラの言葉にセーレは俯いてしまう。


「イザベラ様、 やはり……お見通しなのですね」


 俺がソドムの街で感じた街の雰囲気……

 やはり悪魔王国全体が既に末期の様相を呈していたのだ。


「いや……王族の私も……今迄確りと自覚していなかった。済まない!」


 イザベラがまるで自分の責任のように、深く一礼したので、まだ学生に過ぎないセーレは吃驚したようである。


「イザベラ……様」


「豊かな国で楽しそうに暮らす美しい民……アールヴの国イェーラにお前達が憧れたのも無理はない。私もこの世界を旅してみて良く分かった」


「…………」


セーレは俯いて黙ったままだ。

沈黙は肯定の証であろう。

イザベラの話はそのまま続いている。


「比較すれば一目瞭然だな。片や美しい白樺の林に囲まれた美しい街……それに引き換え我がディアボルスは岩だらけの砂漠……そして国民は貧しく皆、俯いて暮らしている」


「…………」


「かといって創世神やスパイラルの厳しい監視の中、地上にて堂々と悪魔として暮らす事は出来ない。悪魔としての美しさという価値観もお前の中では変わったのだろう」


「…………」


「たまたま大学にて募集のあった、この遺跡の探索隊に志願したお前を含む仲間達は、遭難すると思った矢先に甘い誘いを受けた。擬似とはいえ美しいアールヴの身体と永遠の命を与えられ、新しい国を建国する中軸となって欲しいという甘美な要請を、な」


ここでセーレが言葉を発した。

自分の思いや境遇をイザベラが理解してくれたと感じたに違いない。


「僕達にはずっと閉塞感しか無かったのです。我が祖国ディアボルスには未来がない! まだ若い僕達は前を向いて、生きたかった!」


セーレの魂の叫びといって良いだろう。

イザベラも当然、理解しているようだ。


「分かるわ……でもね、とうとう王国の変革、つまり国を変えて行こうという意思が芽生えたのよ」


「王国の変革!? 国を変えて行こうという意思……」


 イザベラの言葉に敏感に反応したセーレは跪いたまま、顔をぱっと上げる。

 そんなセーレをイザベラは真っ直ぐに見詰めていた。


「お前の素性を見通した男……彼は人間だけど悪魔の私と結婚してくれて、私達の国を変えようと決心してくれた。それを父アルフレードルや官僚も認めてくれて、既に計画は動き出しているの!」


「人間が……イザベラ様と結婚!? 計画は動き出している!?」


 次々と明かされる衝撃の事実……

 セーレの驚きは並大抵ではないようだ。


「ええ、この彼……トール・ユーキは私の旦那様よ!」


 イザベラが俺の事を改めて紹介する。

 俺もここぞとばかりに、オロバスの気持ちを伝えたのだ。


「ああ、オロバス学長も、お前達の事をとても心配している。無事な姿を見せた上で、一緒にディアボルスを豊かにする手助けをしてくれないか?」


「が、学長が!?」


 学長が心配していると聞いて、案の定、声のトーンが高くなったセーレ。

 だが、後ろで話を聞いていた銀髪のアールヴ自動人形がいきなり異を唱えたのである。


「お、俺は反対だ!」


「ロ、ロノウェ!?」


「いくらイザベラ様の夫とはいえ、いきなり会った人間を信じられるか!?」


 ロノウェと呼ばれた銀髪のアールヴと化した悪魔は疑惑の眼差しで俺を睨むと憎々しげに言い放ったのだ。

 しかし、イザベラは全く動じなかった。

 それどころか、次回の新しい提案も堂々と示したのである。


「ふふふ、ロノウェとやら……こちらに正統なガルドルドの末裔が居るといってもか?」


「な、何!?」


「紹介するぞ! 正統なるガルドルド魔法帝国の末裔ソフィア・ガルドルド王女……今や私と同様にトール・ユーキの妻、ソフィア・ユーキだ!」


 ソフィアが誇らしげに俺達と並ぶと、自動人形軍団からは驚愕の視線が投げ掛けられたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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