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第122話 「ペルデレの迷宮⑩」

 『妹ごっこ』に満足しなかったフレデリカが、俺の嫁になると宣言すると、その場はシーンとして、氷付いたように空気が強張こわばった。

 思わず俺はフレデリカをかばうようにして、身構えた!

 当のフレデリカは俺の行為に感激したらしく、相変わらず甘えている。


 これはとても不味い状況だ。

 熱狂的なアイドルファンは熱い分、このようなアイドルの『裏切り』に過剰反応する事も多い。

 いわゆる――可愛さ余って憎さ百倍という奴だ。


 しかしここでフレデリカが意外な行動に出た。

 庇われて隠れていた背後から俺の前に出ると、ガーゴイルズに向かって堂々と宣言したのだ。

 

 何を?って……

 

 何と!

 熱愛宣言だ。


「みんな~! 聞いてぇ!」


 おおおおおっ!


 例によってガーゴイルズからは凄いどよめきだ。


「私のトールはね~! 人間の平民なの! ギルドの制止を振り切ってまで、私の兄上を探しに来てくれたのよ……その前にこの迷宮に入っていた私も命懸けで助けてくれたのっ!」


 おおおおおっ!


 むむむ!

 ギルドの制止を振り切ったとか、フレデリカを命懸けで助けたとか、だいぶ話が違う気がするが、ここで訂正を求めるほど俺は馬鹿ではない。


 この異世界では地球の中世西洋と一緒で、囚われた『美しい姫君』を命懸けで助ける騎士ナイトが受けるのは同じらしい。


「みんな~! お願いだからトールを認めてあげてぇ! 私は絶対に幸せになるからぁ! それにトールはこれからお父様と対決して勝たなくてはいけないのよぉ!」


 おおおおおおおおおおっ!


 今度は凄い叫び声が迷宮内を埋め尽くした。

 ガーゴイルズは大声で叫び、足を踏み鳴らしている。

 だが何か……とんでもない話になっているような気がするぞ。

 自分の発言に対して完全に酔っているフレデリカに、俺はストップをかけた。


「おい! フレデリカ! ちょっと待て!」


「なぁに、お兄ちゃわん!」


「なぁに、お兄ちゃわん! じゃあない! 俺がマティアスさんと対決ってどういう事だ!」


 俺の糾弾にもフレデリカはしれっとした表情だ。


「だってぇ! アマンダ姉さんだけじゃなくて、私もお兄ちゃんのお嫁さんになったらお父様が黙っているわけないんだも~ん」


「確かに……愛娘2人とも旦那様のお嫁さんじゃあ、お父様は大爆発確定ね」


 アマンダまでじと目をしてしれっと言う。

 こちらは少し嫉妬の波動が感じられる。


 ああ、やばい!

 やばすぎる!

 いくら神の使徒の俺でもアールヴ全体を敵にまわしたくない。


 かといって……


「「「「「「「「「「フリッカ! フリッカ! フリッカ!」」」」」」」」」」


 またもや沸き起こるフリッカコール。


「フリッカァ! 幸せになれよぉ!」


「俺達、応援してるよぉ!」


「もし結婚してもフリッカは俺達冒険者の永遠のアイドルだぁ!」


「「「「「「「「「「フリッカ! フリッカ! フリッカ!」」」」」」」」」」


 ああ、これでは俺に拒否権は無い。

 絶対に無い!


 しらばっくれて、明後日あさっての方角を向くフレデリカを、俺は複雑な表情で見詰めていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 フレデリカ親衛隊という思わぬ展開から、ガーゴイル軍団100体余りを味方につけた俺達クランバトルブローカー。

 こうなれば勝手知ったる何とやら!

 迷宮を知り尽くしたガーゴイルズに先導して貰えば、奇襲を受けたり、酷い罠にはまるリスクも小さくなる。


 だけど俺は念には念を入れた。


 万が一何かあってもガーゴイルズに盾になって貰えば、俺達に害が及ぶ可能性が減る。

 その上で、俺は召喚したケルベロスを先行させ、ソフィアにも滅ぼす者(デストロイヤー)を出撃させた。

 ケルベロスと滅ぼす者(デストロイヤー)を盾役として俺達に直接の攻撃が及ばない2段構えとするのだ。

 当然の事ながら、ソフィアには罠の索敵も徹底させる。


 こうしてガルドルド魔法帝国の街並みを再現した迷宮を俺達は打てる手を全て打った状態で進んで行った。


 この街はやはりコーンウォールの街の造りと酷似している。

 そんな中、ジュリアの鋭い声が響く。


「旦那様! 何故かノイズがあって捕捉が遅れたけど……300m先に敵よ! 今度は自動人形オートマタ約50体! ええと、中身は多分悪魔達ね!」


 何!

 自動人形オートマタで、中身は悪魔!?

 ふうむ……

 悪魔が自動人形オートマタを選んだ理由は何となく分かる気がする。

 ジュリアの報告を聞いて、さっと前に出たのがイザベラだ。


「旦那様! 今度は私の出番だ! 任せといて!」


 いきなりイザベラを突出させるのは、とても危険だがここは彼女の意思を尊重してやりたい。

 まあ俺のフォローがあれば良いのだから。

 その証拠に俺がずいっと出て横に立つイザベラの顔を見たら、花が咲いたように微笑んだのである。


「うふふ、旦那様! 宜しくね」


 ――5分後


 俺とイザベラは自動人形オートマタ軍団と正対していた。

 やはり人間やアールヴ……それも美男ばかりを模した機体であった。

 暫しの沈黙の後、イザベラが声を張り上げる。


「私は悪魔王アルフレードルの次女イザベラよ! まずあんた達と話をしたいの! 受けるなら代表の者が挙手をしなさい!」


 イザベラの呼び掛けに対して、相手陣営は直ぐに動かなかった。


 待つこと5分……


 短気なイザベラが痺れを切らしそうになった瞬間、美しいアールヴ男性を模した自動人形オートマタがおずおずと手を挙げたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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