表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/150

第119話 「ペルデレの迷宮⑦」

 押し寄せるガーゴイルの群れは更に数を増している。

 最初は数十体だったのが、今ではもう百を超える勢いだ。


 俺はとりあえず撤退する事にした。

 相手をまず殺さないのなら、じっくり作戦を練る必要がある。


「よし! ここは一旦引こう。クランバトルブローカー、撤退だ」


「了解! 旦那様! じゃあ転移門から直ぐ上の4階層に撤退だね」


「おう、ジュリア! 悪いが、先導役を頼むぞ」


「任せといてっ!」


 さすが、ジュリア。

 俺の意図をきちんと読み取ってくれる。

 ここは大きな理由があって、俺がやらず彼女に先導役を任せたのだ。


 ちなみにヴォラクは俺が声を掛ける前に、とっくの昔に逃げている。

 もう、あいつめ!


「フレデリカ、大丈夫か?」


「お兄ちゃん、大丈夫! 撤退だね」


「アマンダ、ハンナ!」


「大丈夫よ! 旦那様!」


「ご主人様マスター、かしこまりました!」


 ご主人様(マスター)


 ハンナが初めて俺を呼んだ表現が気になったが、確かめるのは後で良い。


 ここで俺は魔法使い2人に指示を出した。

 イザベラとソフィアのコンビである。


「2人とも一過性の魔法障壁は使えるな?」


「大丈夫!」


「任せておくのじゃ!」


「ようし、奴等を対物理の魔法障壁で足止めしてくれ。魔法が発動したら俺が殿しんがりを務めるから、お前達も撤退しろ」


 殿とは軍事用語において最後方で戦う部隊の事を指す。

 特に後退や撤退する際に攻め寄せる敵を防ぎながら、本隊を逃がす防波堤の役割もする部隊である。

 すなわち敵を一手に引き受けるので1番リスクを背負う事になるのだ。


「駄目だよ、トール! 一緒に逃げるんだ」


「そうじゃ! 夫と妻はいつも一緒じゃぞ!」


 2人とも俺の身を案じて嬉しい事を言ってくれる!

 これが家族の絆って奴だろう。


「大丈夫さ、念の為に一瞬だけ残るんだ。直ぐ追い着く。俺の素早さは知っているだろう?」


「……分かった、絶対に無理しないでね!」


「約束じゃぞ!」


 そう言っている間にガーゴイル達が押し寄せて来た。

 他の嫁ズ+@はジュリアの先導でとっくに撤退している。


「「城壁ランパート!」」


 間を置かず2人の魔法が発動した。


 ようし!


 放出された魔力波オーラを見る限り、間違いなく強固な魔法障壁が張り巡らされている。

 当然、魔法障壁は常人の目には見えない。

 ガーゴイル達も止まらない所を見るとどうやらそのようだ。

 障壁に突っ込んで来た先頭のガーゴイル達がぶつかってこけ、その後ろの奴等も将棋倒し状態になっている。


「ようし! イザベラ、ソフィア、2人とも撤退してくれ!」


「はいっ!」


「了解じゃ! よいか、トール! 直ぐ来るのじゃぞ!」


 2人はそう言い残すと俺の指示通り、撤退して行った。

 俺はそれを見届けると魔法障壁の方に向き直る。


 ええと……魔法障壁の隙間から1体くらい来ないかな?


 彼を知り己を知れば百戦殆うからず……


 これは有名な兵法書である孫子の一節である。


 すなわち敵と味方の実情を熟知していれば、百回戦っても負けることはないという意味だ。

 逆に言えば、相手を知らないで戦うと負ける可能性も大きくなると俺は理解している。


 今迄は既に戦った相手が多く、新たな敵が出現しても戦の生き字引であるアモンがアドバイスをくれたから敵をいい意味で見切る事が出来たが、今後はそうはいかないのだ。

 俺や嫁ズが経験を積んで行くしか無いが、全員を危険な目に遭わせるわけにはいかない。


 おおっ!

 上手い事、障壁を掻い潜って2体、こちらへ向かって来る。

 慎重に!

 慎重に、だぞ!


 俺は自分に言い聞かせながら、魔剣を抜くと相手に突進して行った。

 最初から倒すつもりは無い。

 相手がやばそうな攻撃をして来たら直ぐ逃げる態勢だ。


 果たしてガーゴイルはどんな奴なのか?


 まずは話しかけてみる。

 最初は肉声、それに反応しなかったら念話でいくつもりだ。


「おいっ! お前等、元は人間だろう?」


 俺の声はその気になればでかい!

 先日、冒険者ギルドで怒鳴った時も相当なものだ。


「!」


 2体駆けて来るうちの1体が止まる。

 どうやら言葉が通じたらしい。


 1体は襲い掛かって来たが、やはり俺の動きの前では敵ではない。

 俺は襲って来た奴を楽々と躱し、間近で相手を見た。

 やはり欧州某有名寺院のガーゴイルと一緒である。

 元々、ガーゴイルには色々なタイプが居るが、またしても俺の知識が反映されてしまったのかもしれない。


 果たして奴は……

 一見、石像風だが良く見ると違う。


 表面の色こそは大理石そのものだが、俺の見る所、決して石などではなく、もっとしなやかな雰囲気の謎の素材である。


 ソフィアの魂を宿した自動人形の素材だって人間の肌そっくりだ。

 多分、ガルドルド魔法帝国の魔法工学師達は様々な素材を研究していたのであろう。


 その時であった。


「待て!」


 俺の声に反応した1体のガーゴイルが、はっきりとした言葉を発して、俺を攻撃しようとする仲間を止めたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ