第107話 「全属性魔法使用者」
ここはベルカナの街にある冒険者ギルド、俺と嫁ズが居るのはそのギルドマスター室である。
ギルドマスターであるクリスティーナ・エイルトヴァーラ、彼女の姪にあたるアマンダが、新たに俺の妻となった事で展開がまた変わって来たのだ。
「それで今日は何の用?」
クリスティーナさんの口調がぞんざいと言うか、フランクと言うか、俺に対してまで身内への言い方になっている。
多分彼女は俺とアマンダの様子を見て、何か特別な絆が出来たと判断したのであろう。
こういう時はくどくどもったいぶらず、単刀直入に伝えるのが1番だ。
「単に俺のクラン、バトルブローカーに貴女の姪のアマンダを登録して欲しいだけさ……これは、一応報告だが、俺と彼女は結婚した。夫婦としてこれからの人生を共にする事となったんだ」
俺はきちんと報告する事で、アマンダの叔母であるクリスティーナさんに対して、しっかりと礼を尽くしたつもりであった。
だがクリスティーナさんの態度は素っ気無かった。
「あっそ……勝手にしたら……私はアマンダを姪だなんて思っていないし、彼女がどうしようが私には全く関係ないわ」
ああ、決定的な事を聞いてしまったな。
冒険者ギルドのマスターという要職を務め、分別のありそうなクリスティーナさんがこんなに冷たい言い方をするなんて……やはりアマンダが危惧していた通りである。
しかし、余りなクリスティーナさんの言い様に、控えている嫁ズからも怒りの波動が伝わって来た。
俺は本音を知りたくて、思わずクリスティーナさんの魔力波を読み込もうとするが……やめた。
何となく話がややこしそうだったからである。
まあ良い。
いずれはこのような不毛な関係は改善してやりたいが、今は直ぐにと言う訳には行かないのであろう。
俺はアマンダを見て苦笑いし、首を横に振る。
悲しそうな表情をしていたアマンダは、それだけで全てを理解してくれたのであった。
――30分後
アマンダの俺達クランへの登録作業はあくまでも事務的に行われた。
クリスティーナさんは間を置かず、直属の部下であるアールヴ男性のサブマスターを呼び、俺達を自室から出すように命じてしまったのである。
ここでクリスティーナさんへ反論したり抵抗しても、全く意味が無いので俺と嫁ズは大人しく指示に従った。
案内されたのは冒険者ギルドの一般会議室である。
暫くして書類が整えられ、冒険者ギルドBランクのアマンダ・ルフタサーリは俺達のクラン、バトルブローカーの正式なクランメンバーになったのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
冒険者ギルドを出た俺達は改めて買い物をする。
アマンダ自身に申告させ、彼女の為の装備や必要なものを買い揃えたのだ。
心配性の俺もついでに食糧や日用品及び回復薬等を大量に買い込んだ。
必要なものを購入した俺達は再び、白鳥亭に戻る事にした。
アマンダの冒険者としての資質やクランにおいてどのような立ち位置でやって貰うかを最終確認する為である。
「申し訳ありません、旦那様や皆様に不愉快な思いをさせてしまって」
アマンダがいきなり深々と頭を下げた。
先程のクリスティーナさんの非礼を詫びているのだろう。
でもそれってアマンダのせいじゃあない。
あの性悪ギルドマスターの狭量さが原因だろう。
しかし?
旦那様って?
誰、それ?
俺が不思議そうな顔をしてアマンダを見返すと彼女は悪戯っぽく笑った。
「トール様が……ですよ」
え?
俺!?
俺が『旦那様』だってぇ?
この会話にすかさず他の嫁ズが反応した。
「その呼び方って良いわよ、アマンダ!」
「良いでしょう? ジュリア」
ジュリアが「旦那様」という俺への呼び方に大賛成し、アマンダも微笑み返す。
他の嫁ズも追随する。
「何を言っている! 私は以前から呼んでいたのだぞ! まあ皆で呼ぶ事には当然賛成するぞ!」とイザベラ
「妾も大賛成じゃ」とソフィア
「俺は良く分からねぇけど、一応賛成!」ああ、ヴォラクよ……適当な事を言うお前は、一体どこの何者だ?
さっきの暗い雰囲気はどこへやら、切り替えの早いアマンダのお陰で俺達はいつもの明るさを取り戻す事が出来たのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
宿屋『白鳥亭』……
俺達は部屋に戻ると改めてクランバトルブローカーの戦力分析と個々の役割分担の再検討を始めていた。
役割は大まかに分けると攻撃役、盾役、強化役、回復役の4種類である。
アマンダという高位ランクの冒険者が加われば、あのアモンが抜けた戦力的に大きな穴も、立ち回り次第で埋まると、俺は見ていたのだ。
ジュリアを始めとした嫁ズの能力と立ち位置は頭の中にインプットしてある為、まずはアマンダの冒険者としての能力を確認する。
「私は幼い頃から父に剣技を習いました。現在でも時間を作って練習はしていますが、そこそこの腕であると認識しております」
ふうん……
剣ねぇ……まずは攻撃役って事か?
俺がそんな事を考えている間もアマンダの説明は続く。
「私は4大属性魔法全てが行使出来る全属性魔法使用者なのです。この事実は父以外には始めて告白しますが……」
アマンダの話を聞いて驚いたのはソフィアである。
「な!? 何じゃと? 全属性魔法使用者!? そんな者が実在するのか?」
首を振るソフィアは信じられないといった面持ちだ。
「地・水・風・火が4大元素と呼ばれるものじゃ。元素にはそれに紐ずく精霊がそれぞれ居る。地にはノーム、水はウンディーネ、風はシルフ、そして火はサラマンダーといった様にじゃ」
その事は俺もよ~く知っている。
資料本で何度読み込んだか、分からない程だ。
「創世神により人の子は基本、そのうちのひとつを生まれた際の祝福として授かるものとされている。いわゆる魔法属性、または魔法適性と呼ばれるものじゃ。まあ神のきまぐれでたまに2つの属性を持つものも居るが、それも複数属性魔法使用者と呼ばれるに留まっておる」
成る程!
ソフィアの解説は分かり易い。
なので俺は思わずソフィアへ質問した。
「じゃあ、全属性の魔法が行使出来る全属性魔法使用者って珍しいのか?」
俺の問いにソフィアは何故か胸を張って答える。
「そうじゃよ、旦那様! 珍しいも何もそんな者は我が帝国でも居らなかったわ! 大天才と呼ばれたこの妾でさえ水・風・火の3つを行使する複数属性魔法使用者だからの」
最後を自慢で締めくくる所がいかにもソフィアらしいが……
それも自ら大天才と言うのはこれいかに……
でもさ、俺も多分……全属性使える……ぞ!
だから俺はちょっともったいぶってソフィアに伝える
「てへ、ソフィア。でも俺も多分アマンダと同じだよ」
俺の告白にやはりソフィアから驚きの波動が伝わって来た。
「俺もって!? 旦那様、まさか?」
「ああ、俺も多分全属性魔法使用者さ。行使出来るのはしょぼい生活魔法のみだけど……」
ソフィアが今度は呆気に取られる波動が伝わって来た。
それをフォローしてくれたのはやはりアマンダだ。
「旦那様は闘神の使徒ですよ。おかしい事はありません、やれて当り前です」
きっぱりと言ってくれたアマンダは、俺に向って嬉しそうに片目を瞑ったのであった。
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