第102話 「啓示」
「トールさん、話があるのです。お部屋に入れて頂けませんか?」
俺達が初めて見たアマンダさんは、カートルという婦人用筒型衣装を着用していた。
白鳥亭の女将としての出で立ちにはぴったりの衣装であり、とても似合っていた。
ちなみにカートルとは俺の見た資料本で中世西洋において長く女性に愛用された服である。
だが美人は何を着ても似合うという言葉通り、革鎧姿のアマンダさんも凛々しくて恰好良い。
相変わらず大きい胸も美味しそうだ。
いや、いかん!
見とれていては!
アマンダさんは微笑みを浮かべていた優しそうな表情とは違い、真剣な表情である。
だが俺の嫁ズは一体何と言うだろうか?
俺が恐る恐るジュリア、イザベラ、ソフィアの3人を見ると、やはり俺をじと目で睨んでいる。
3人は外見こそ違えど、結構似たタイプだ。
可愛いがとても気が強くて、実は俺だけには超優しい美少女――いわゆるツンデレ系である。
しかしアマンダさんは違う。
巨乳且つ優しい笑顔が魅力的な癒し系美人で、俺のどストライクゾーンだ。
「お願いします。まずは話を!」
元女将の懇願を見て、他の客達も何が起こったかと、俺達に注目している。
やばい!
凄く目立っている!
このままでは絶対に不味いだろう。
俺の顔を見てジュリアが不承不承といった感じで頷いた。
こうして俺達はアマンダさんと共に部屋に入ったのである。
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部屋に入った俺はまず今の状況から聞く事にした。
1番気になっている事は、アマンダさんがこの白鳥亭の『女将』じゃなくなった事だ。
そんな俺の疑問に、アマンダさんはあっさりと答えてくれた。
「はい! このお宿は……エリナに譲りました」
譲った!?
な、何故?
思わずそう言い掛けた俺は深呼吸をすると改めて聞き直した。
「と、いう事はすっぱりと売ってしまわれたのですか?」
「はい! すっぱりと売りました。これから旅に出るつもりですので!」
この白鳥亭を売って旅に出るって……
その事がこの俺達と、何の関わりがあるのだろう?
「そりゃ驚きましたね。で、俺達に話とは?」
「はい! 私、啓示を受けたのです」
啓示!?
それって何?
そりゃ俺だって啓示の意味くらいは知っている。
啓示とは神様やそれに準ずる存在から告げられる真理って事だ。
でもそれがどうして、アマンダさんに?
「私が仮眠していましたら、夢枕にスパイラル様が立たれたのです」
ああ、出たな、邪神!
そうか!
読めてきたぞ、話が!
「それで……そのスパイラル様は何と仰ったのです?」
「何と純粋無垢で美しい少年のお姿で現れました。そして、こう仰ったのです。我が使徒であるトール・ユーキが率いるクランバトルブローカーに加わり、彼等と共に失われた地、ペルデレを探索せよ、と! まずはそう言われました」
「まずは?」
俺はつい言葉尻を捉えてしまう。
「まずは」とは、他にも啓示があったという事だ。
しかしアマンダさんは何気にはぐらかそうとした。
「いえ! 何でもありません。起きたらフレデリカ様の失踪騒ぎが起こっていましたから――これは絶対神の啓示だと、確信しました」
しかし口篭るアマンダさんの魔力波を反射的に俺は読んだ。
それは何と……凄い事であり、俺は魂の内で叫ぶ。
これを隠しちゃ、不味いだろう!
俺と貴女のとても大事な事を!
『ははっ、良かったねぇ! トール』
やっぱり出た!
この絶妙なタイミングで、邪神様のお出ましだ。
『僕にとても貢献してくれている君にほんのご褒美さ。このアマンダって娘は、もろに君の好みなんだろう? だから君の妻になれって言っておいたから! ついでに良い子を生めよって。まあこれは神様らしい台詞だろう?』
そういう啓示って良いの?
彼女の信仰心につけ込むというか……
良心が咎めるけど……
『良いの、良いの。悪魔達にまで僕の信者候補を増やしてくれたから、ほんの御礼さ』
悪魔の信者候補達?
『ふふふ、悪魔王アルフレードルと彼の家族、そして部下の悪魔達さ。当然君の妻イザベラも入っているよ。先の戦いで僕から酷い目に遭って憎悪の塊だったけど君のお陰で和らいだどころか、信仰心まで芽生えたんだ』
神とは真逆な悪魔に信仰心が?
そりゃ凄いや!
俺が思わず納得すると、話は終わったとばかりにスパイラルは言う。
『君の功績はとても大きいよ。だから引き続き頑張ってね。頑張ってくれたら世界滅亡も再検討するからさ。 じゃあね、バーイ』
やっぱりいつものパターンだ。
さっと来て言いたい事だけ言うと、さっと去って行く。
それが邪神、スパイラル。
でも……この娘、アマンダさん……どうしよう?
「というわけで! 私もクランバトルブローカーに入れて下さい」
「入れて下さいって……なぁ、ジュリアどうする?」
情けないが、俺は嫁ズの筆頭であるジュリアに確認を取った。
完璧な亭主関白ならいざ知らず、俺は一応民主主義だから。
「どうするって……幾ら何でもスパイラル様の啓示に逆らうなんて……私、出来ないよ」
ジュリアはさっきから不承不承という表情を変えていない。
それは他の嫁ズも一緒だ。
やはり俺の前世と違って神が具現化するこの異世界では邪神様という存在は絶対的なものなのである。
そんな状況を理解した俺は他の嫁達も含めて再度確認を取る。
「じゃあ皆、良いな?」
「「「はい!」」」
「ヴォーラも良いな?」
俺は一応、舎弟にも確認する。
こういう時は彼も身内だと認識して貰った方が良い。
「俺はぁ、兄貴に美人の奥さんが何人居ようが大歓迎だぁ! まあ兄貴は夜、大変になるけどな」
ヴォラクは何となく話を読み切ったみたいだ。
思わず先走った言葉に反応してアマンダさんが真っ赤になって俯いた。
こら! ヴォラク!
この野郎!
他人事だと思いやがって!
とりあえず、この流れを断ち切らねば。
「ようし! じゃあ早速明日以降の相談だ。アマンダさん、明日冒険者ギルドへクランメンバーの登録をしておこう!」
俺が声を掛けるとアマンダさんは慌てて顔をあげた。
「は、はい! 冒険者登録は以前に済ませてありますので……」
「へぇ! ちなみにアマンダさんの冒険者ランクとか聞いて良い?」
「Bランクです!」
Bランク!?
そりゃ俺と同じだ。
で、あればレベル的には問題無いだろう。
こうして俺達は新たな仲間を加えて『失われた地』を探索する相談を始めたのであった。
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