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掌編『なつまつり』

作者: 左右田 卡太

 季節はめぐって、また夏が来た。ぼくの身長が少しだけのびて、でも目は少し悪くなって、ぼくはメガネをかけるようになった。ぼくはメガネの小学五年生になった。その日は近所の神社の夏祭りの日だった。

 つまり、あの子がとつぜん転校してぴったり一年目なのでした。

 いつもはしょぼい公園と、神社っぽい水をぽたぽたはき出す竜の水飲み場と、態度がでかい『おやしろ』しかなくてだーれもいないくせに、その日は、道の脇にお店がいっぱい並んで、大人も子供もたくさん集まってきて、へんてこな光と、へんてこな人たちであふれていました。

 ぼくはとっても『こまって』いました。

 いっしょに来ていた友達がはぐれてしまったのです。お祭りの日は、『神かくし』といって、ぼくみたいな子どもを神さまが連れ去ってしまうと本で読んでいたので、ぼくは友達が神さまにさらわれてしまっていないか心配なのでした。

 神さまなのにそんなイタズラをするなんて、信じられません。

 

 人はたくさんいるのに、ぼくは『ひとりぼっち』になってしまいました。

 前の夏祭りでも、ぼくは、ひとりぼっちでした。いっしょに回ろうって約束していたのに、あの子は神さまにさらわれちゃったようでしたので、ぼくは一人で鳥居の前でずっと待たされてしまったのでした。

 いえ、ほんとは知ってます。あの子はぼくに内緒でとなりのとなりの町に引っ越していたのです。電車で駅を三つ通り過ぎないとその町には行けないので、とても遠いところです。

 あの子は神さまよりもずっとずっとイジワルです。

 それから一年もたって、ぼくはあまりあの子のことを思い出せなくなりました。

 

 なんども神社の向こう側とこっち側を探したけど友達は見つからないので、ぼくは『いさぎ』よくあきらめることにしました。

 鳥居の横にてきとーにならんだ自転車の中から自分のを引き出します。

 鳥居の外は人が急に少なくなって、それと内側がふわふわ明るいせいで、ぐっと暗くなってしまったようです。

 なんだか、かなしくなって、もう一回友達を探しに行こうか、となんだか『いさぎ』よくない感じでした。

 その時でした。


「たっくん?」

 

 ぼくは名前を呼ばれました。ぼくのあだ名を呼ばれました。

 鳥居の前に、女の子が立っていました。神社の明かりで、顔がよく見えなかったけど、女の子の声です。

「メガネかけてる。変なの。でも、たっくんでしょ」

 女の子は笑いました。とっても『聞き覚え』のある声です。

 まるで、あの子のような声でした。

「いっしょに、神社を回ろう?」

 ああ、ぼくは『神かくし』にあったんだと思って、いやそうじゃなくて、かなしくて、ドキドキして、泣き顔を見せたくなくて、自転車をこぎました。

 後ろから、あの子の声が追いかけてきます。


「あッ、もうッ! 来年! 絶対だよッ!」


 その日の布団の中でぼくはとても後悔して、あと、六年生の夏休みがとても楽しみになったのでした。

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