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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

序曲、そして行進

作者: 夜来

お久しぶりです。夜来です。

アニメでも小説でも、もちろんこの小説家になろうさまでも、MMORPG小説は大人気ですね。

自分は決してその人気に乗っかろうとしたわけではありません。

嘘です。ちょっとそんな気持ちがありました。

しかし、こういったものを書きたいなと思った心は純粋です。そう信じます。


それでは、本文どうぞ。

 ―――――――――……。





「っ……ぁっ……は、ぁっ……!!」



 苦悶に満ちた声がする。俺の声だ。内部から漏れ出そうとするのは物は、此処には無いはずなのに。なのに、吐き出しそうだ。紅い紅い、熱い血を。

 やられた。誰だ、誰が俺を、刺した――――――?



 注意してたつもりだった。故意・過失問わずFF(フレンドリーファイア)が認められたこのゲーム。俺達のような攻略組最前線を狙うPKの奴らも現れるだろうと、思わなかったことなど一度も無かった。けれども、それでも何処か心に隙が出来ていたんだなと今更感じる。


 動けなかった。胸元に刃―――白銀に輝く、短剣―――が突き立てられているこんな状況じゃ、そりゃ、無理か。左上のライフゲージの減少は留まる所を知らない。急所(クリティカル)への攻撃、一撃死(ワンショット)だろう。安全域(グリーン)注意域(イエロー)、そして危険域(レッド)―――グングン下がっていく。あぁ、ダメだ。死ぬ。



「――――――ッ!!」



 仲間の一人が俺に回復薬を投げる。間に合わない。悟る。仮に間に合っても、瓶が俺に当たって、綺麗な半透明緑色の中身が効果を発揮して、俺のライフが半分まで回復してたとしても。この胸から生えた短剣は、容赦なく俺のライフを切り取って、抉り取って。そして、削り切るだろう。

 ……いや、そんな予想、する必要は無かった。俺の両脚は、蛍の様な淡い光の粒子になって既に消えていた。死亡を表すエフェクト。再起不能という前段階は、急激なライフの低下によりすっ飛ばされたようだ。



 あぁ。



 あぁ。



 言葉が出ない。残される仲間に対しての、最期の言葉が。俺の、気持ちが。



 全感覚没入。それにより精神を運営に乗っ取られたようなものだ。だから、「此処で死ぬと現実の自分も死ぬ」なんて嘘には聞こえなかった。死にたくないから、脱出条件―――このゲームのクリアだけを目指して、此処まで来たのに。外界から隔絶されたデスゲームで、皆を救いたかったから此処まで来たのに。親友と一緒に、此処まで来たのに。



 死にたくない。



 死にたくない。



 拒否する。出来ない。もう胸まで粒子化は進んでいた。痛みは無い。いや、有った。無い筈の胸が痛い。

 何の痛みだろうか? 志半ばで散る後悔の念か? 油断した隙を突かれた自虐の念か? それとも―――仲間達の後ろに見える、20人ばかりのPK集団から彼らを守ってやれなかった悲哀の念、だろうか。

 リーダーが真っ先に死ぬなんて、強引に決められた役職とは言えども予想だにしなかっただろう。実際俺も、考えていなかった。



 ごめん、ごめん。皆ごめん。俺のせいだ。俺の。全部、全部俺の。



 出来る事なんて、殆ど無かった。口を必死に動かして、伝えようとする。「うしろ」。仲間達が気づけば、まだ、一寸でも勝機は有るかも知れない。雀の涙ほどの、小さな希望。俺は其れに賭けた。人生一度の大勝負。

 彼らが無事に生き延びられますように。そして、現実世界へと帰ることが出来ますように。小学生が短冊に書いて笹に吊るすような幼稚な物だったが、自分には其れしか出来なかった。目が霞んでくる。視界が消える。



 怖い。今から始まる事が、異様に怖い。



 怖い。



 あ。




















 ――――――――――――《あなたは死亡しました。》



 ――――――――――――《あなmくyvd亡しまfbty。》



 ――――――――――――《場bthgkjjkh武vrオらhjk》





 ――――――――――――《称号:《死してなお》が与えられました。》



 ――――――――――――《種族が変化しました!》



 ――――――――――――《種族:《腐死者(ゾンビ)》になりました。》



 ――――――――――――《種族が進化しました!》



 ――――――――――――《                    》













 ――――














 ―――――――――……ガアアアアあアアアあアアア亜アアアアアアAアアアアあアあAアアアアアア!!







 耳の鼓膜が弾け飛ぶような、轟音が響いた。両手に持ち、腰だめに構える緋色の長剣に、否が応にも力が込められる。




 エリア13、《ペリドットジャングル》の隠しクエスト、《神林に潜む暴君》のクエストボスであるコイツ―――《暴巨猿 アトルヴァレス》は、その名が示すが如く怒り狂う体長5mほどの巨大な猿だ。

 体毛は赤銀、ゴリラのような太い腕、血走った眼が特徴的。スキルは常時発動系の《巨猿の風格》―――自分よりレベルが低い者のステータスをある程度ダウンさせる、よくある《威圧》系のそれ。

 攻撃方法は、あの巨体からは想像も出来ない素早さからのタックル、接近してのパンチ、鋭い爪での引っ掻き、突き、そして腕での薙ぎ払い。

 運悪く薙ぎ払い時に猿の手に触れてしまえば、レベルに関係なく現在のライフの4分の1を奪い去るという非道の握りつぶしが待っている。後は、最大攻撃力を誇る両拳での叩き潰し(アームハンマー)


 ゲームも中盤に差し掛かったエリア13では少し強すぎると思われる高めのSTRとAGI。INTは無いに等しいが、無数に襲い来るラッシュは暴力の嵐と形容するのが最も正しいのだろう。

 ……まあそれも、適正である35レベルぐらいの話だが。



 《巨猿の風格》は、俺自身のレベルが高いために効かない。威圧など何処吹く風の俺に向かって、先手必勝とばかりに猿がタックルを仕掛けてくる。速い。神から授かった俊敏な脚は、此れまでどれ程の人間を突き飛ばし、殺してきたのだろう。

 アレに当たると起きる僅かな麻痺効果は、この暴君が弱者を甚振って文字通り捻り潰すのには十分な時間。だから避ける。幸い俺も足は速い。ともすれば、コイツよりも。


 タックルが回避され、壁代わりの巨木にぶち当たり若干の隙を晒す猿。その僅かな時間を休憩に使う訳にはいかない。猿の横からくるりと向きを変え、直ぐ様猿へとダッシュ。風と一体化したかのように駆け、十分に近づけたのなら、先ずは1発。右下から左上へ逆袈裟斬りを仕掛けた。猿の脇腹辺りに入った剣はそのまま皮膚を一閃。猿の咆哮が聞こえるが、まだタックルの隙は抜けきっていない。此処ぞとばかりに俺は《スキル》の名を口にする。



「―――……《四連斬》ッ!!!」



 長剣の刀身が光り、即座に俺の体が反応。敷かれたレールの上を刀が滑るかのように、半ば自動で猿の体を4回切りつける。左上から袈裟斬り、横に一文字、斬り上げて、最後は唐竹割り……とか言う奴だったか。その全てを喰らった猿はよろけるも、直ぐに俺へと向き直り、意味の無い咆哮を浴びせ掛けたのだった。猿の左上、名前の横に表示されたライフゲージはもう3割ほど減っていた。アレだけの攻撃力を誇る代わり、DEFは低いようだ。

 次に猿が行なってきたのは太く長い腕での薙ぎ払い。俺を掴もうと横から巨大なシワだらけの手が接近してくる。バックステップで回避しても良いのだが、距離を開けたくないのは猿だけじゃない。手っ取り早く始末したい俺も同じ。なら、()に逃げる。



「はっ……ッ!!!」



 念じることで出現するメニュー画面。そのスキルメニューで《空走(エアーラン)》を使った俺は、空気を3段踏むようにして猿の腕を回避する。下からの風圧が猿の素の腕力を物語るが、避ければなんてことはない。薙ぎ払いの隙に、また長剣での攻撃を浴びせ掛けようとした、その瞬間。



 ブアッ!!! と、目を開けられない程の豪風。何かが爆発的に発射された余波の風圧が、空中で身動きの取れない俺に襲いかかった。とはいえ、バランスを崩す程ではない。それなのに攻撃へと移ることは出来ないのは、眼前から迫り来る猿の巨大な左拳があるからだろう。―――右腕の薙ぎ払いで空中に逃げるように仕向け(・・・・・・)、ジャンプしてから着地まで動くことが出来ない自分をフリーの左腕がストレートで狙い撃つ。INTは無いに等しいんじゃなかったのかよと悪態をつく暇も無く、俺は正面から、その毛深い拳にぶち当たった。





 それはさながら、自動車か何かに衝突したようなショックだった。一体どういう電気信号が感覚に働き掛けているのかわからないが、少なくとも、この痛みは本物(リアル)であると俺は思う。たかが脇腹に掠っただけ(・・・・・・・・)でそう思うのは、やはりライフゲージが大幅に削られているからか。《空走(エアーラン)》で一歩横にズレること無く真正面から食らったら、即死か、それとも再起不能か。



(だが……ッ!! 俺にも負けられねぇ理由があるからな―――――――ッ!!!!)



 着地したと同時に上から襲いかかる刃のような爪、10本。両腕を振り上げて攻撃してくるのだ。スキルで言えば《虎牙》とかそんなレベルの技だろうが、猿の場合此れが2つ。しかも手がデカイために横には避けにくい。ならばどうするか。決まっている。




 ―――――――――ッ!?




 猿はまだ、避けられた事で隙が出来ていた。躊躇う事なんて何も無い。




「おらあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!」




 剣士スキル基本中の基本である《滅多斬り》は、スタミナが続くならば幾らでも斬ることが出来る。幾ら役職が進化しても変化することがないこのスキルは、ある意味珍しいスキルなのだ。



 斬る。


 斬る斬る斬る。


 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬るッ!!!!!!



 グングンと猿のライフが減っていく。このままゴリ押しできるか、とも思ったが猿は意外に早く俺にその太い腕を伸ばしてくる。―――猿の握り潰しは、薙ぎ払い後で無くても行える。右にステップしてその腕を避けつつ、スタミナ消費覚悟でダッシュ。―――別に怖くなったわけではない。止めを刺すのだ。




 剣を腰溜めに構えた。と同時に、刀身が輝き出す。―――このスキルは、大きくスタミナを消費すると共にある程度のチャージが必要な、現在俺が持つ最強のスキル。今の猿ならば、俺を見つけて攻撃するまでに時間がかかる。その隙に、一気にぶっ叩く。勝てる。そう、俺が闘いに熱中する余り、情報を忘れていなければ。






 ァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!






 空気をブルブルと震わせたその声は、頭から消し飛んでいた猿の激昂時の攻撃パターンだった。《暴君の激叫》とでも呼ぼうか、耳を塞ぐなどしなければ相手の動きは一時的に停止させられる。―――剣の輝きが、掻き消える。俺が目を見開くと共に、猿の巨体が、俺に向かって、跳んでくる。



 その、短剣のような爪を、俺の脳天へと突き刺そうと。



 俺は、動けなかった。











 猿―――アトルヴァレスも、AIとは言え予想外だっただろう。PCの急所を刺し貫く爪での突きが、脳天へとヒットしたというのに。今まで戦っていた相手のライフゲージがレッドゾーンを突破して0へと成ったというのに。何故彼は、爪を額に生やしながら悠然と《スキル》のチャージをしているのだろう。




「……悪ぃな、猿」




 彼は、バグだった。この脱出不可能のVRMMOデスゲーム内で、唯一。故に、「普通」のPCの行動がセットされているAIで動くアトルヴァレスには、脳を貫かれた彼がまだ生きているということが分からない。だからその動きに若干のラグが出来る事を、彼は何度も何度も経験することで知っていた。―――いや、それが無くとも。ゲームの仕様上、勢い余って壁に突き刺さっている爪を引き抜くにはそれなりの時間が要るだろう。



 刀身は、既に再び光り出し始めていた。光が、溜まって、溜まって、溜まって――――――――――――、やがて彼の耳にはチャージ完了を知らせるチープな効果音が響き、躊躇無しに、顔の上3分の1が無くなっているというのに。横薙ぎに、剣を振るった。断ち切る斬撃―――《セイバースラッシュ》。




「―――――――――……俺、死なねぇんだ」




 剣閃は純白の三日月に変化する。それは一直線にアトルヴァレスの首へと向かっていき、専用に用意されているのだろうか、何時もと違った切り裂くSEが響いた。首から上はズレ落ち、アトルヴァレスのライフゲージは0を指し示していた。巨大な暴君は倒れ伏すと同時に光の粒子へとその姿を変え、やがて音すら出さず消え去った。





「―――あー、今日は《巨猿の血眼》無しか……。ま、そんな日もあるか」





 彼は、死なない。―――――――――死んだら終わりのデスゲームで、死ねない。

どうも、こんなクソ長いタラタラした分を読んでくださり、ありがとうございました。


この短編は、いずれ投稿したいと思っておりますVRMMORPG小説をイメージして執筆いたしました。

まだ設定ができていないために小説自体はまだ書けそうにありません。ですが、「チーG」からのリハビリも兼ねて書かせて頂きました次第です。(「チーG(チートな俺は、Gクラス)」に付きましては、活動報告をご覧ください。)


よろしければ、この短編の感想をお願いいたします。文作法の指摘などでも結構です。まだまだビギナーなので、そう言ったご指摘は非常に役に立ちます。


それでは。

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