番外編 -未知への訪問- 13 引越しと、来訪者 -
一行は、快適に移動する。
昨日まではなんだったのだ、と文句を言いたくなる程に、バスでの移動は快適なのだ。
まず、冷暖房完備。
そして、暑苦しい防護服は着る必要がなくて、クッションのきいた座席に座るのみ。
皆の顔に笑顔が溢れていた。
昨日までの苦行のような行進はなんだったのかと、ザザは文句を言いたくなった。
いや、文句を言うのは筋違いだし身勝手な話だとも思うのだが、それでもこのとんでもない快適さを前にすれば、そう思ってしまうのも無理はない。
ザザは常識人だったので、子供達のように順応性が高くなかったのだ。
それに、同じ常識人仲間だと思っていたリンドウまでも、今は楽しそうに戦車の運転に熱中している。
「ヒャッハーー! こいつは最高だぜ!!」
人が変わったように、ノリノリで……。
(リンドウ君、まさか君がそんな風になるなんて……)
と、ザザは嘆いた。
しかし文句は言えない。
ずっと運転してくれているのだから、その程度は許容すべきだと思うからだ。
他のバスを運転する者達も、リンドウと似たりよったりなのかも知れない。
それは、蛇行する先頭車両にピタリと追従してくる事からも推測出来た。
それに、子供達は今の状態を楽しんでいるのだ。
窓の外は極寒の不毛の大地が広がり、目を楽しめるような風景ではない。
だがしかし、リンドウは子供達を楽しませる為か、あえて高度な運転技術を見せつけるように大岩すれすれを走ったりしていた。
クラクションを鳴らす代わりに、音波砲で岩を砕いたりもして見せる。
音波砲とは、主武装を取っ払われた今のバスに備わる唯一の兵装だ。しかし、その威力はアホ程高い。
この悪路でも問題なく平均時速八十キロを維持し、小型車以上に小回りも利く。
短時間なら空に浮かぶ事も可能との話なので、帝国に現存する万能戦車よりも性能が上なのではないか、と疑ってしまうのだ。
ちなみに、水中に入るのは問題ないらしい。
対放射線、対毒ガス、対細菌兵器類、その他各種防壁は万全で、水一滴すら入らぬように密閉されているそうだ。
言うまでもないが、空調設備には空気正常化機能も備わっていた。
この車内にいれば、地下の核シェルターよりも快適な環境が約束されていたのだ。
これは本当にバスなのか? と、ふと疑問に思う程の性能だったのである。
ノリノリなのは、リンドウだけではない。
カルマンにしてもそうだし、彼の部下達も皆一様に興奮している。
「カルマン隊長、これは凄いですぜ! 今見回りから帰還しましたが、今までの強化外装なんて目じゃない性能でした。飛行して少し意識するだけで、一瞬でマッハ2まで加速したんでさあ!」
「しかも、それによる視野暗転なんて発生せず、視界は良好。電磁嵐の中だってのに、ありとあらゆるセンサーが脳内に表示されて……完璧に性能を把握し、制御が可能となってやした」
「しかも、この『念話回線』ってヤツですが、どういう原理か不明ですが、電磁嵐の中でも互いの意思をやり取り可能なんでさ。言葉で話すよりも早く、お互いに意見交換出来るんですよ!!」
「全くスゲー改造ですわ。ひょっとしたら今の俺一人で、以前のカルマン機甲化分隊と互角に渡り合えるかも!」
「馬鹿野郎、そいつは言い過ぎだぜ!」
「全くだ。ワハハハハハ!」
と、凄まじく性能アップした自分達について確認し合い、笑い合っていた。
彼等が興奮するのも無理はない。
それはそうだろう。その気持ちは、ザザにも良く理解出来るのだ。
何故なら……。
ザザだって改造手術を受けたからだ。
この新しい身体――機動躯体は、ザザの常識をぶち壊す性能を誇っていた。
ヴェルドラ曰く、この身体は四甲機将であるミッシェルと同じ構造なのだという。
半信半疑で聞いていたが、手術を終えた今、それはあながち嘘ではないのではないかとザザは思っていた。
何故なら、身体の反応が今までとまるで異なっていたからだ。
常にザザを悩ませ、薬で抑えていた反応――脳が感じる拒絶反応が消えていた。
生来の身体に戻ったのかと錯覚する程に、その反応は人間そのものだったのだ。
例えば、手が椅子にぶつかったら痛みを感じるし、壁に触ると冷たさを、火に触れようとすれば熱さを感じるだろう。
自分で自分の頬を叩けば、そこに確かな痛みを感じるのだ。
それはつまり、全身に触覚が復活しているという事。
痛覚を含めた人間らしい五感が復活し、脳がそれに喜んでいる。
その結果、ストレスも大幅に解消されていたのである。
機械化兵でありながら、通常人並の力にセーブされた状態――それが今のザザなのだ。
だがしかし、決して生身に戻った訳ではない。
それは、意識すれば脳内にモニターを表示出来る事からも明らかだ。
そのモニターの中では、『通常/戦闘』と、これ見よがしに表示されていた。
さあ押せ! といわんばかりに、脳内にスイッチがあったのである。
現在は通常モードである。
ザザは恐ろしくて、そのスイッチを切り替えられない。
スイッチを押すような感覚で意識を向けるだけなのだが……それをしてしまうと、更なる非常識に見舞われるという予感があったのだ。
カルマンの部下達は、恐らくそのスイッチを押したのだ。
その結果が、今の彼等の興奮状態なのであろう。
「なあ、ザザさんよ、一つ聞きたいんだが、脳内によ……」
「聞くなよ、カルマン。なんかスイッチみたいなのがあるかって質問なら、俺は答える気なんざねーよ」
なかった事にしよう、とザザは思っている。
覚悟を決めたはずなのに、手術前よりも大きな不安がザザを襲っていた。
それは、いきなり巨大過ぎる力を手にしてしまったかのような不安である。
カルマンもそれは同様なのだろう、ザザのその答えを聞き、深く頷いていた。
つまり、カルマンの脳内にもザザと同じ表示がある、という事なのだ。
「そうかい。まあ、そうだよな。だがよ、これは本当に凄いぜ」
そう言われて、ザザはカルマンを見た。
「もしかして、切り替えてみたのか?」
「ああ。ぶっつけ本番は不味いからな。で、切り替えた途端に、時間の流れがゆっくりになったような感じになる。身体から全ての感覚が消えるんだが、まるで問題がねえ。なんせ、脳内モニターに全身図が映し出されてて、それを操作するような感覚で自分の身体を操れるんだよ」
カルマンは本職の軍人なので、諜報活動がメインだったザザよりも自分の状態を気にしていた。なので、性能チェックを行ってみたのだという。
痛みや熱さ寒さといった感覚が、全て情報に置き換えられて表示される。数値が表示され、その減少で現在の被ダメージがわかるようになっていた。
試しに軽く腕を振動刃で斬ってみたら、該当部位の数字が減少したらしい。しかし、僅かな時間の経過で数字は元に戻り、腕の傷も消え失せたのだそうだ。
「自己修復機能もあるってのか……」
「ああ、そうみてーだ。それに、戦闘モードになるとな、強化外装――じゃなくて、機動外装を遠隔操作出来るようになるんだよ。呼びつけるとか、偵察行動とか、簡単な戦闘も自動で行わせる事が出来るみてーだ」
「……本当か!? こう言っちゃあなんだが、もはや何でもアリ、だな」
軍の秘匿衛星通信以外ほぼ全ての通信を妨害する電磁嵐の中で、有線による接続会話に頼らぬ通信手段があるだけでも驚きである。
それなのに自分達が受けた改造手術では、無線通話どころか遠隔操作までも『念話回線』を利用して行えるようになっているという。
ザザの常識は今、音を立てて崩壊しそうになったのだった。
ちょっと押してみちゃおうかな――と、ザザの心に悪魔の誘惑が囁きかけた。
しかし、ザザは鉄の意志でそれを思い留まる。
ニヤニヤと笑いながらこちらを観察する者達の視線が、ザザに向けられているのを察したからだ。
(駄目だ、万が一の時に備えて試しておきたいが、今は駄目だ。あの人達のオモチャになるのは勘弁だぜ――)
ザザはそう考え、自分を戒めた。
「どうした、ザザよ。遠慮はいらぬ。思う存分、その力を試すがいい」
「そうだよ、ザザ。アタシも楽しみなんだから、ちょっと外に出てカルマンと戦ってみなよ!」
なんでだよ、と問い質すべきか。
やはりオモチャにしようとしていたな、と文句を言うべきか。
「ラミリスの言う通りである。どっちが上か、戦って決着をつけるのだ。なーに心配はいらぬ。八十%までの被ダメージならば、自己修復機能により八十分くらいで回復するからな」
「その通りです。"魔鋼"を用いていますので、多少の損傷は問題となりません」
ヴェルドラはついに、ザザとカルマンで模擬戦をしてみるように、直球で勧めてきた。
それにベレッタまでも頷き、多少の事では互いに致命傷にはならぬと太鼓判を押す。
どうあっても模擬戦をさせたいのだろうか?
もしかすると、ザザとカルマンがどちらが勝つか、賭けでもしているのでは……?
そんな考えがザザの脳裏を過ぎった。
これは確かめねばなるまい、とザザは決意する。
「なあ、ヴェルドラさん。まさかとは思うが、アンタら、賭けとかしてないよな? 俺とカルマンのどっちが強いのかとか、格闘型か火力型のどっちが戦闘に向いているのか、とか。そんなしょーもない事で、ラミリスさんと賭けなんてしてないよな?」
だから不敬であるのを承知で、ザザは半眼でヴェルドラに問うたのだ。
その結果は……。
「し、してないし? 我、そんなしょーもない事なんてしてないし!?」
「な、何言ってるだ!? ちょ、ちょっとザザ、アタシ達をなんだと思ってるワケ? そんな不真面目な事を確かめる為に、アンタ達を改造したとでも!?」
「ザザよ。ワレをこの方々と同一視しなかった事は褒めてやる。だからわかるな? ワレはそのような低級な事には興味はない、と!」
ザザの睨んだ通り、ヴェルドラとラミリスは挙動不審になっている。
そんな事は思っていなかったと言い募るものの、その態度こそが明確な答えであろう。
しかし意外だったのは、ベレッタまでも賭けに参加していた様子だった事だ。
「もしかして、ベレッタさんも賭けに参加してたんですかい? 俺とザザさん、どっちに賭けていたんで?」
ザザが質問するのを思いとどまったというのに、なんとカルマンが爆弾発言をする。
それを聞き、ピシリとベレッタが固まった。
(カルマンのヤツは、恐れ知らずの勇者なのか!?)
ザザも驚き、反応に困る。
「ほ、ホホホホホ。嫌だわ、カルマンさん。ヴェルドラ様方が、そんな賭けなど行う訳が御座いませんわ」
その場を救ったのはシャルマだった。
「流石だな、シャルマよ。やはりザザやカルマンは視野が狭い。物事は、大局的に見なければならぬぞ!」
「そ、そうそう。師匠の言う通り!」
「今回は不問に付すが、今後は気をつけるがいい」
シャルマの言葉に便乗し、ヴェルドラ達はその場を上手く収める事に成功した。
当然だが、ザザが突っ込まなかったからだというのは、言うまでもないのであった。
◇◇◇
ザザとカルマンの模擬戦は見送られた。
賭けをしていたという事実を隠蔽したいヴェルドラ達が、それ以上の言及を恐れた為である。
そして一行は、何の問題もなく目的地へと進む。
いや、問題は起きてはいたのだが……。
巡回警備を行っている、自動戦闘機械群。
放射能によって突然変異した、超獣とは異なる変異モンスター。
そして、レジスタンス組織――黎明の光――に属さぬ武装機械化盗賊達。
人の心などない、不毛の大地に生きる化け物達。
そうした脅威が、物珍しいバスを見逃すはずがない。
当然のように狙われたのだが、そうした脅威はカルマンの部下達によって一蹴されたのである。
「呆れるような性能だな……」
「驚きだぜ、本当によ。今、直角に曲がったよな?」
「ああ。音速を超える速度で、自由自在に軌道を変更するとは……。身体はともかくとしても、脳への負担はどうなっているんだ?」
「わからん。まったくわからんな……」
ザザやカルマンの出る幕などなかった。
超性能、超火力。
昨日までの常識を破壊して、圧倒的な戦力で敵を蹂躙してのけるカルマンの部下達。
彼等に守られている以上、バスの守りは万全だったのである。
「アレだな。上手くいって二週間、下手をすれば三週間以上。全員無事に移動するなど無理だろうと諦めていたが、この調子だと後一時間もかからずに目的地に着くな」
遠い目をしてザザが呟いた。
それは素晴らしい事なのだが、あまりにも楽過ぎて、酷く非現実的で実感が湧かなかったのだ。
空調の効いたバスの座席で寛ぎ、全員の手元には冷たい飲物まで用意されていて……。
ザザが、アレ? と思ってしまうのも無理はないのである。
「まあよ。難しく考え過ぎだぜ、ザザさんよ」
カルマンはそう言ってザザを慰めてから、当たり前のように手元に置かれている冷えた水を飲む。
純粋で、毒の心配も要らない、美味しい水。
その贅沢な水の冷たさが、カルマンの気分を高揚させた。
不安も悩みも忘れさせて、ヴェルドラ達を信じようという気持ちが募るのだ。
そしてそれは、ザザとて同じ気持ちであった。
「そうだな、悩んでも仕方ない、な」
ザザもカルマンに頷いて見せる。
たった一晩でこんな超改造をやってくれる人達がいるのなら、もうなんでもアリなのだろう、と。
悩んでいても自分が馬鹿を見るだけだ、とザザも吹っ切れたのだ。
(そうだな、そうなんだよ。常識に縋りつく方が、かえって馬鹿を見るんだよ!)
と、ザザもようやく悟ったのだった。
そんなこんなでザザ達は、ミッシェルに告げられた目的地へと到着した。
暗証番号を入力し、地面に埋まる隠れ家の扉を開ける。
岩陰にある扉の先は階段になっており、それを降りると地下空間が広がっていた。
千名が入っても十分な広さがある。
しかし、居住空間の清掃や生命維持装置のチェックなどが済んでいない為、まだ寛ぐ事は出来ない。
それに、他のレジスタンスの支部にも連絡し、今後の方針を打ち合わせる必要もあった。
やるべき事は多々ある。
そう考えていたザザやシャルマ達だったのだが……。
「よう、カルマン。待ってたぜ」
「ライツか! お前がここにいるって事は、この場所を用意したのは――」
「ああ、オレっちさ。ミッシェル様の命令でな」
地下には先客がいた。
完全武装した、数十名の兵士の一団である。
「カルマン殿、その方達は?」
リンドウが警戒しつつシャルマの前に出て、カルマンに問う。
だが、カルマンが答えるよりも早く、ライツと呼ばれた男が苦笑しつつ両手を上げた。
そして言う。
「おいおい、オレっちは敵じゃねーよ。ミッシェル様の密命を受けて、この南部方面での工作部隊を任されているのさ」
しかし、それを聞いてもリンドウは警戒を止めない。
「それを証明出来ますか?」
と、ライツに向けて問う。
カルマンとしても、ミッシェルの本当の目的を聞かされたばかりであり、誰が信用出来るのかまでは把握出来ていなかった。
なので、ザザに視線で問うたのだが……。
「すまんな、俺も全員を詳しく知る立場にないんだ。というか、密命を帯びた者同士では、一切の連絡を取らない。誰かの口が割れて、他の者まで危険に曝せないというミッシェル様の判断なのさ」
なるほど、とリンドウ達も納得した。
しかし、であればライツが味方であると証明するのは難しくなる。
「だがよ、俺達を待ってたって事は、ミッシェル様から事情を聞かされていたって事だろ?」
「そうだな。リンドウ君、心配し過ぎだろう。ミッシェル様は内密にレジスタンスの救助を行っているし、その行為を知っている者は少ない。何故ならば、その行為は間違いなく帝国への裏切りとなるからだ。それを知り、尚、ここに居る。それだけで、彼等がミッシェル様の手足となる実働部隊なのは間違いないだろう」
「し、しかしザザさん!? それならば、我等に直接その事を伝えてくれていれば……」
「いや、そいつは難しいだろうぜ。今、ザザさんが言っただろ。誰かの口が割れて、他の者まで危険に曝せないってな。無いとは思うが、レジスタンスに帝国側の密偵が紛れ込んでいる、そうした事態も想定しているんだろうぜ。帝国に所属する者は、全員が認識票を埋め込まれているからな。俺達はミッシェル様に粛清されて死んだ事になっている。あの時、俺達の認識票は破壊されているんだよ」
「その通りだよ、リンドウ君。俺も既に帝国の認識票は持たない。だから都市に入れないし、定時連絡は都市の外でしか行えなかった。やはりそれは不便でね、都市内部の人間に協力者がいないと、避難用のシェルターを用意するなど不可能なんだよ。そうした者の素性が秘匿されるべきなのはわかるだろう?」
「そう言われれば……」
確かに物資を自由に出来ない外部の協力者では、このような避難場所を用意するなど不可能だろう。
そう説明されれば、リンドウとしても納得出来た。
「すまなかった。私が君達を疑い過ぎてしまったようだ」
謝罪するリンドウ。
ライツはそれを笑って許す。
「まあ、警戒するのは当然だろうな。オレっち達の表向きの任務は、環境調査とレジスタンスの掃討だからね。けどまあ、運搬中の物資を奪われた回数の多い、落ちこぼれ部隊として有名なんだけどな」
そう言って、ライツは皆の笑いを誘ったのだった。
◇◇◇
ライツ達がシェルターの整備を行ってくれていた事で、シャルマは予定よりも早く行動に移れた。
子供達の面倒をヴェルドラ達に任せ、レジスタンスの他の支部の長と連絡を取る事にしたのだ。
ザザとリンドウを伴い、通信設備のある部屋へと入る。
「前回に報告した通り、私達はミッシェル殿の用意した隠れ家に到着しました」
シャルマは早速、各支部長へと報告する。
『そうか、帝国の中にも信用出来る人物がいたか……』
『ミッシェルといえば、帝国でも最高位の四甲機将だろうが。シャルマさんには悪いが、俺はアンタ達は騙されているんだと思っていたよ』
『戦力を集めろって話だったな。俺もアンタ方を支持する。可能な限りの戦力を動員させてもらうさ』
『ザランド殿、それは早計では?』
『かもな。でもな、ブランチャ殿。どっちにしろよ、先がないんだわ。環境維持装置の老朽化で、死病に侵された者も増えている。今から新しい拠点を探すのも困難。これが罠であろうがなかろうが、我等には他に希望がないのだ』
『それは……』
『そうよな、ワシ等としても考えを改める必要があるのう……。アンタ方の動向を見てから判断する予定じゃったからな。今晩中に結論を出すとするわい』
各支部の反応は様々だった。
シャルマ達が予定よりも早く到着した事で、未だ結論が出ていない支部もある。
だがそれよりも大きな理由として、大半の支部はミッシェルを信用しきれておらず、シャルマ達が騙されていると判断していたようだ。
しかし今、シャルマ達が新しい拠点に無事に到着した事で、ミッシェルの言葉を信じても良いと考える者が現れた。
ともかく、このままでは意見も纏まらないだろう。
そう判断した長老の意見により、この日の通信は終了した。
今日はもう一度支部毎に話し合い、明日の朝から通信会議を再開すると決まったのである。
これで一段落、後は各支部の反応待ち。
シャルマ達はそう考えていた。
ミッシェルからの依頼で、信用の置ける戦力を集める必要がある。
しかし、ある程度の情報は伏せたままで。
各支部長には、協力者がミッシェルであると伝えてあった。だが、それはミッシェルの了承を得ての事である。
仮にスパイが紛れていたとしても、逆にそれを以って支部長の中に裏切り者がいると炙りだせるとミッシェルが言ったのだ。自身を囮とする事さえ躊躇わぬミッシェルの姿勢は好ましく、シャルマも今では完全にミッシェルを信用しているのだった。
各支部長には、ミッシェルからの依頼で戦力を集めて欲しい、と伝えてあった。
帝国の内部で争いが起きる可能性があり、それに乗じてレジスタンスも行動を起こす。
ミッシェルに協力して恩を売り、今後の協力を約束させると説明して……。
支部長達が疑うのも当然だ。
彼等にも守るべき仲間がおり、無駄に戦力を失う訳にはいかないからである。
説得は難しい、けれど、不可能ではない――シャルマはそう考える。
何人かの支部長が言うように、各シェルターは既に限界なのだ。
地上には様々な脅威が溢れ、閉塞感漂う地下に隠れ住むにも限界がある。
となれば、打って出るしかないのである。
そうなれば、余力がある今こそが最大の好機。
帝国内部に、ミッシェルという協力者がいると判明した。ならばこそ、ミッシェルに協力して現体制を打ち倒す事こそが、レジスタンスの生き残る道であろう、と。
シャルマはそう決意を新たにして、明日の会議へ向けて意識を高める。
しかし、事態はそんなに甘くなかった。
シャルマ達を、思わぬ難問が待ち構えていたのである。
各支部への連絡を終えて広間へと戻ったシャルマ達だったが、そこに見知らぬ人物が一人いた。
全身傷だらけで、戦闘行為があった事が窺える。
今はカルマンとライツが、その人物の介抱を行っている。
「その方は?」
「こちらはミッシェル様の副官で、ジギルという方ですぜ。どうやら何かあったらしく、息も絶え絶えという様相で先程ここに到着されたんでさ……」
緊張して問うシャルマに、カルマンが答えた。
どうやら、帝国から逃亡して来たようだ、と。
追っ手はいなかったらしい。
恐らくだが、この場所を特定されないようにジギルが始末したものと思われる。
だからこそ、満身創痍なのだろう。
「今は治療薬を投与し、状態は快方に向かっております。意識を失われたのも一時的なもので――」
「――ここは?」
ライツが説明している横で、ジギルが薄っすらと目を開けて呟くように問うた。
「おお、丁度意識が戻ったようですね。ジギル様、オレっちです。ライツですが、わかりますか?」
「ライツ、か……。という事は、ここはミッシェル様の用意した第五地下シェルターだな?」
「その通りです」
「追っ手は?」
「ありません。カルマンの部下が周辺警護を行っておりますが、敵影は見当たらないとの事です」
「そうか、どうやらあれで全てだったか……」
ジギルはそこまで言うと、安堵したように溜息を吐いた。
それに頷くように、カルマンも言う。
「ジギル様、カルマンです。ミッシェル様の御心の内を打ち明けられ、今では俺も貴女の同士ですぜ」
「そうか、頼もしいな。そして皆様、初対面でこのような無様を晒し、失礼した。私はジギル、ミッシェル中将の副官にして、彼女の想いを知る者です。貴方方の敵ではないので、どうか御安心下さい」
ジギルの挨拶を受け、シャルマ筆頭に幹部達も挨拶を返した。
そんな中、空気を読めぬ――というか、読む気のない――男が、直球でジギルに問う。
「それでジギルとやら。お前、何しに来たのだ?」
おいぃ!? と、ザザは慌てた。
ザザだけでなく、カルマンやシャルマも。
ライツなど、その男の余りの無礼さに、声も出ぬ程に驚いている。
ミッシェルの副官にして、帝国でも支配者階級に属する最高位の貴人。
そんなジギルに対し、余りにも大きな態度。
流石に注意しようとしたライツだったが……。
「ま、まあまあライツ殿。ヴェルドラさんも、もう少し丁寧にお願いします。というか、交渉は我等で行いますので、向こうで子供達の相手をお願いしたいな〜なんて……」
慌てて間に入ったリンドウによって出鼻を挫かれた。
「クアーーーッハッハッハ! 子供達なら、我の完璧な子守にて今眠ったところである。それに、交渉は最初が肝心。我に任せよ、悪いようにはせぬ」
それが心配なんだよ!! と、ヴェルドラを知る者達は心を一つにする。
しかし、それを口にするような真似はしない。
「ほ、ほほほほほ。ヴェルドラ様に、このような雑事はお任せ出来ませんわ」
「そ、そうですぜ旦那。用意の整った部屋もありますんで、そっちでお休みになって下さいや!」
「むぅ。我を除け者にしようとしているのではあるまいな……」
ヴェルドラがブツブツ言いながら去ろうとしたその時――
「そ、そうでした! こうしている場合ではない、ミッシェル様が囚われてしまったのです!! 是非とも、皆様の助けを――」
ジギルが顔を青褪めさせて、その信じ難い爆弾発言を行った。
そして、事態は急転直下を迎えるのだ。




