番外編 -リムルの優雅な脱走劇- 17
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宜しければ、御覧になって下さい。
ここまでの説明は理解してもらえたようだ。
ぶっちゃけ帝国の残党ならば、こうした技術を持っていても不思議ではない。
本当の意味での秘術とは比べ物にならない程に、稚拙な代物ではあるのだが……。
しかし、確かな技術として安定している点だけは評価出来る。
それに……。
常に悪魔と同化している訳ではなく、必要な時にその力を借りられるというのは面白い発想だと思った。
例えば、レオンの配下にギィが与えた力――"聖魔魂融合の秘術"を見てみると、同等の強さを持つ悪魔との融合である。
この秘術は、意思の強い方が全ての力を総取り出来る、蠱毒の法。
禁断の秘術である。当然だが、後戻りなど出来ない。
全か無か。
魂さえも全てを賭けて、覚悟を持って臨む必要がある危険なものなのだ。
それに対し、帝国の技術を発展させた悪魔合身法は、使役可能な悪魔と無理のない契約を結ぶ事で成り立っているようだ。
安全を確保した上で、必要な時に『同一化』可能なのだろう。
精霊との同化と違って、自身の霊体を鍛える事なく手軽に力を手に入れられる。
中々に便利な技術のようだ。
だが――
悪魔を使ったのは、間違いだったな。
支払う代償は、毎日一定量の魔力。それに加え、『同一化』した際に悪魔の力を存分に振るう快楽、といった所だろう。
その契約が守られないのなら、悪魔はさっさと手を引く筈だ。
つまり、自分よりも強い相手には立ち向かえないという事なのである。
格下相手には便利だが……肝心な時には、全くあてにならない能力、と言えるだろう。
それに、魔力が尽きたら悪魔はさっさと去っていく。
気紛れに召喚した者へ害を為す悪魔もいる程だ。
マグナス達の場合は、契約でそうした行為は防いでいるのだろうが……支払うべき魔力がなくなってまで、悪魔の行動を縛る事は出来ない筈だ。
代価がなければ、悪魔を働かせる事など出来ないのだから。
という事は、攻略方法など幾らでも思いつくのだ。
◇◇◇
俺の説明を理解して、皆の表情が暗くなる。
絶対に勝てないとでも思って、絶望したのだろう。
全く、諦めが早いのはマイナス点だな。
「なんだと……」
「マグナスのヤツは、そんな危険な力を……。上位悪魔を相手にするだけでも、俺達には危険な行為だというのに……」
ユリウスとカルマが、苦痛に満ちた表情でそう呟く。
これだけの実力差を突きつけられて、それでも本気で戦い倒すつもりなのだから、嘆きたくなる気持ちも頷けるというものだが……。
――別に、正攻法で正面から相手する必要などないだろうに。
俺の説明を聞いて尚、正々堂々と戦うつもりなのは、正直というべきか馬鹿というべきか。
「おいおい、俺の話を聞いていたか? 馬鹿正直に正面から戦っても勝てないというのは、理解出来たんだろ? だったら次を考えろ! お前の首から上に付いているのは飾りか? 少しはその脳味噌を働かせろ!」
俺はそう言って発破をかけた。
俺の言葉で、絶望に満ちていた生徒達の顔に生気が戻る。
そして、何か攻略方法がないかと、皆が一斉に議論を始めたのだ。
「普通、精霊や悪魔を常時召喚するには、大量の魔力が必要な筈。ボクが聞いた話だと、上級位の召喚師でも、上位悪魔の使役可能時間は精々十分程度だって言ってたよ!」
「私もそれは知ってるわ。契約者として認められた精霊使役者なら、もっと長時間精霊を具現化出来るって話だけど……」
「悪魔が人間を認めるって話は聞いた事ないし、強制使役なら短時間しか――」
「待てよ? それじゃあ、マグナスの強さは、時間制限があるんじゃ!?」
うむうむ。
中々いい感じに白熱してきたぞ。
ヴェノムみたいに人間を認める上位の悪魔もいるんだが、それは置いておこう。
どうやら生徒達も、マグナスの強さには時間制限があると気付いたようである。
そうして攻略の糸口に気付けた事で、議論はより活発なものへとなっていった。
「とにかく、時間を稼ごう。悪魔の力を発動させたのを確認したら、出来るだけ戦いを長引かせるんだ」
「そうか、その為の体力作りだったんですねサトル先生!」
違うよ?
単なる仕返しです。
お前な、たった一日走っただけで、体力がつく訳ねーだろ。
筋肉痛になるだけだよ。
「気付いたか。お前等、たった一日で成長したな!」
本音を押し隠し、重々しく頷いて見せる。
それだけで――
「「「サトル先生!!」」」
馬鹿が何人か感極まったような叫びを上げた。
単純過ぎだろ……ま、そんな所が可愛いんだけどね。
そうして暫く議論は続いて、ある程度具体的に作戦が纏まったようである。
「――という具合に、戦闘系がローテーションを組んでマグナス達を押し留めます。それをサポートする感じに魔法系による援護を行い、尚且つマグナス達への妨害を行う。こんな感じでどうでしょうか?」
ユリウスが代表して、俺に作戦の可否を問うてきた。
この作戦立案には、俺以外の教師達からの助言も考慮されている。
今考えられる中での最善だと信じているようで、ユリウスの顔にも少しだけ自信が回復しているのが見て取れた。
なるほど、ね。
まあ、良く考えられてはいる。
大筋では、俺の考えと同じだし。
《全然駄目です。肝心のマグナス達に対する直接戦闘能力が、全く足りていません。ローテーションが上手くいく可能性はゼロです。妨害魔法を発動させる暇もないでしょう。マグナスが本気を出せば、十秒かからずに前衛が皆殺しにされるでしょうから》
ですよね。
俺の考えも激甘だったようだ。
「駄目だな。そんな作戦では、マグナス達に皆殺しにされるのがオチだぞ」
そこまでマグナスが冷酷だとも思えないから、この作戦でも大丈夫だろうと思ったんだけど……。
シエルさんは、敵の感情を計算に入れるのを嫌うからな。
何が起きても万全なように、最悪の状況を想定しないと気が済まないのだ。
《まったくです。知恵を駆使して、せめて毒緑虎を手懐けるなど、もっと考えを巡らせてもらいたいものですね》
え、そんな事が出来るの!?
せめてって、もしかして狙いはもっと上、とか?
いや、俺なら簡単だけど……。
《その為にせっかく主様が、ラプラスにこの島の主と話をつけさせているというのに……。学生達の考えが足りないのは、とても嘆かわしいです。そうですよね、主様?》
あ、うん。
そうだったんだ……。
俺はいつの間に、ラプラスにそんな命令をしていたんだろう?
ラプラスには、中央に君臨する山岩象に失礼のないようにと、挨拶には向かわせたけど……。
シエルさんの中では、俺がここまで読みきっていた事になっているようである。
私にはわかっていますよ、と言いたげなシエルさん。
わかっていなかったのは俺なのだが、それは言わない方が良さそうだ。
と、その時――
(リムル様、遅くなってもうてスンマセン。ようやく話がつきましたで! この島の支配者っちゅう山岩象ですが、本能だけやなくてちょっとした知性もありましてん。せやけど、常識ちゅうもんが欠けてましたんや。ワイらの考えを理解してもらうのに、えらく手間取ったんですわ。けど、ようやくワイの秘密基地建設にも理解を示してくれましたし、もう大丈夫でっせ!)
ラプラスからの『思念伝達』が届いたのである。
というかラプラス君? 何をどこまで交渉してるんだ!?
ちょっと自由過ぎやしませんか?
ラプラスはラプラスで、俺の命令を自分に都合良く解釈したようである。
(ちょ、秘密基地の建設まで交渉したのかよ!?)
(はいな! 快く了承してくれましたわ。いや〜大変だったんでっせ? とりあえずワイの力を理解させて、それから四日かけて教育してましてん。『思念伝達』はホンマに便利ですわ。お陰で山岩象のヤツも、それなりの知識を学習してくれましたんや!)
自慢気にラプラスがそう報告してくれた。
俺の思っていた挨拶と、大きく意味合いが違うような気もするが……今更だな。
だが、それならそれで結果オーライか。
(それじゃあ、この島の魔物に、人間を襲わないように命令出来そうか?)
(簡単でっせ! 今ではワイの舎弟やさかい、なんでも命令は聞きよりますわ)
マジかよ。
大きな魔素が動いた気配はなかったから、ラプラスはかなり慎重に力を示したようだな。
器用というかなんというか。
それとも、秘密基地にかける情熱によるものか?
まあなんでもいいや。
秘密基地がオッケーなら、俺の一大レジャーランドの建設計画も可能だろうし。
おっと、目的が変わってしまう所だった。
今はマグナス達の問題が先決なのだ。
(よし、ラプラス。お前はそのまま待機してくれ。こっちはこっちで少し問題があるから、先ずはそれを片付ける)
(了解でっさ!)
俺はマグナスへの対策を優先しようと考えて、ラプラスには待機を命じたのだった。
◇◇◇
生徒達の反応を窺ってみる。
やはり、そう簡単には代案など出ないようだ。
再び暗闇に閉ざされたように、皆一様に表情が暗い。
俺が作戦を一刀両断に否定した事で、生徒達はかなり悲観的になってしまっているようだった。
「それではサトル先生、俺達にどうしろと!」
「勝てないとしても、それでも一矢報いるのも駄目なんですか!?」
「マグナス達に従うしかないの……?」
「そんな――」
などと、あちこちで嘆く声が聞こえたのである。
そうだよね。頭ごなしに否定されれば、俺だって泣きたくなる。
時間稼ぎをするというのが最善だと思ったんだけどな……。
シエルさんの発言の毒緑虎を手懐けるとかも――
「毒緑虎を、ねえ……」
簡単に言うけど、準魔王種級の魔物を生徒達に捕縛させようと考えるなど、正気の沙汰とは思えない。
そんなの、無理、無茶、無謀の三拍子が揃っているというものである。
だが、その時。
「――毒緑虎、ですって……!?」
マーシャが俺の呟きに食いついた。
そして、何かに気付いたように叫ぶ。
「もしかして……! サトル君――先生は、あの魔物を私達に捕縛させようと考えているんですか?」
「馬鹿なのマーシャ? そんな事、出来る訳ないじゃないの〜」
マーシャを宥めるようにアイナが言う。
だよねえ、無理だと思うよね。
「でもね、毒緑虎の方がマグナス君よりも弱かったじゃない? だったら、私達の連携を確認する練習相手には丁度いいんじゃないのかな?」
と思ったのだが、マーシャは瞳を輝かせて勢い込んで言う。
それに対する生徒達の反応は様々だが、否定的なものばかりだった。
「だから無理だよマーシャ! マグナス君よりはって言うけどさ、あんな化物、騎士団が出なきゃどうしようもないくらいの上位の魔物なんだよ!?」
「そうだぜマーシャ。会話が通じない分、前衛の負担も大きくなる。それこそ、時間稼ぎどころの騒ぎじゃねーよ」
「そもそもの話、マグナスには時間制限があるが、毒緑虎にはない。 どっちが厄介かなんて、言うまでもないだろう?」
という具合に。
俺の言いたい事を全て言ってくれたようで、何よりである。
だが、マーシャはめげなかった。
「魔物のエサになる肉はいっぱいあるんだし、それで餌付け出来ないかな? それにね、この魔法カードを組み合わせるとね、多分だけど魔物支配も出来そうなのよ」
そんな事を言い出したのである。
確かに真言変換魔法を使いこなせれば、魔物への強制支配魔法も可能である。
だが、それには熟練の理解度と膨大な魔力が――
そう言えばマーシャの魔力はかなりあるし、それにオリジナルカードを渡したままだったっけ?
まさかとは思うけど、理解しちゃったんだろうか? だとすれば、天才の一言では片付けられない時代を代表するような麒麟児という事になるんだけど。
それこそ、英雄級の……。
《ようやく主様の思惑に気付いた生徒が現れましたね》
満足そうなシエルさん。
シエルさんが認めたという事は、つまりマーシャは――
どうやらシエルさんの考え通りに進行中のようなのだし、俺もマーシャを信じて口出しは控えるとするか。
マーシャの発言をきっかけとして、再び議論に熱が入る。
可能かどうかの検討と、成功確率の検証。
そして、実行する場合の役割分担について。
等々。
その結果、皆の瞳にやる気の炎が燃え上がり、期待と希望に満ちて俺を見る。
「先生――」
代表して、ユリウスが口火を切った。
俺も頷き返し、続きを促す。
「――以上が、作戦立案となります。ご意見をお聞かせ願えますか?」
見事に纏められている。
《なかなか良いですが、付け加えるなら――》
俺はシエルさんの言葉をそのまま口にした。
生徒達からの、感心と尊敬に満ちた視線が痛い。
グルグル眼鏡で誤魔化しているが、俺の頬は気恥ずかしさで真っ赤に染まっている事だろう。
やっぱり、人の考えを自分の手柄にするのは駄目だよね。
なるべくなら、今後は自重しようと思ったのだった。
◇◇◇
夜の間に方針は決まり、実行に移したのは六日目の事である。
宿泊場の周囲にマグナス達が設置した結界の外に出て、魔物寄せの香草で肉を焼く。
少し時間が経つと、目的の魔物が姿を現した。
毒緑虎だ。
襲撃の夜に見た威容はそのままだが、その瞳からは凶悪な色が消えている。
俺を見るなり、尻尾を少し振って見せる毒緑虎。
どうやらラプラスの説得により、山岩象からの通達が行き渡っているようで一安心である。
――そして。
生徒達の魔物捕獲作戦は実行に移され、見事に成功を収めたのだ。
この時点で、この場に残った生徒の点数は、全員が百点以上になっていた。
何しろAランクの魔物の迎撃どころか、捕縛に成功したのだから当然だ。
全員が合格ラインを突破。
決戦の日を前に、全ての準備は整ったのである。
さあ、マグナスとの決着を付けるとしよう――
Q&A
Q:ミリム様はイメチェンしたの?
A:しました! ゴスロリは、あの方お一人に決定です。
Q:ミリム様の髪の色は?
A:あれはただのピンクに見えますが、桜金色という設定です。
だって、銀髪は字面はいいけど、実際は地味だと言われたので……。
銀髪キャラも多いですしね。
Q:ミリム様の服装は――
A:服って、着替えるから。色々種類出せるから!
そんな感じです。
以上、お目汚し失礼しました。




