243話 頂上決戦 その4
予定より早く書けました。
俺は手の中のエネルギーの塊を『魂暴喰』で喰らい、こっそりと『虚数空間』へと流し込み隔離した。
狙ったようなタイミングで登場したようだが、勿論狙ったわけではない。
偶然である。
これでも色々と忙しかったのだ。
………
……
…
迷宮内が落ち着いたので、俺もヴェルダ討伐に向かおうかと思ったのだが……。
何故かエネルギーが回復しない。いや、回復する端から減っているような感じなのだ。
このままヴェルダに挑むのは危険が大きいと思い、先にエネルギーを回復させる事にしたのである。
上空に大量に天使がいるので、あれを仕留めた後に頂こうという訳だ。
丁度クマラが転移にて帰還して一斉攻撃が開始されたのも、タイミングが良かったといえよう。
その戦いは圧倒的なまでに、迷宮軍が優勢だった。
まず、クマラ配下の八部衆が周囲から一斉に襲撃した。
これにより、迷宮入り口に狙いを定めていた天使軍は算を乱し、大きな隙を作る事になった。
そのタイミングを見逃さず、迷宮軍が出撃したのだ。
後は一方的である。
意思統一されて強力な収束砲台と化していただけに、全方位からの攻撃への対処は難しかったようだ。
有能な指揮官だったようで、即座に部隊単位での迎撃戦へと移行してみせたが、初手で躓いたのが致命的であった。
それ以前の問題として、個々の戦力が大きく違いすぎるというものがある。
俺が言うのもなんだが、迷宮軍は一人一人が強かったのだ。
中でも、クマラや四大竜王、アピトにトレイニーさんとその姉妹達は別格だった。
ストレス発散と言わんばかりに暴れるクマラ。
尻尾による斬撃で、天使を縦横無尽に斬り裂いている。
そして、それを守るように展開する八部衆。討ち漏らしなど、あろうはずもない。
俺が見ているからと張り切る竜王達。
竜形態でのびのびと、大威力の吐息と大魔法を操っている。
個人の戦闘力だけではなくその配下をも手足の如く操り、敵を殲滅していくアピト。
これはもう見事と言うしかない。
一糸乱れぬ連携により、一刺しで一殺という勢いで蹂躙している。
各種精霊と融合し、旧魔王レベルに強化されたドライアドの姉妹達。
そして、下手をすると覚醒魔王並みのエネルギーがあるトレイニーさん。
どうやらトレイニーさんは精霊王級と融合しているらしい。
凄まじい威力の極大魔法を連発していた。
それこそあっと言う間に、誰の目にも明らかな程に勝敗は目に見えるものとなったのである。
俺も最初心配していたのだが、途中からは紅茶を嗜みながら観戦したのだった。
いや、だって……。
どう見ても過剰戦力で、負ける要素が見当たらなかったのだ。
流石は迷宮七十階層以下に位置する上位戦力である。普段活躍出来ないからと、ここぞとばかりに暴れ回っている姿は圧巻だった。
この姿を見ながら、例え大国の軍隊でも迷宮攻略は不可能だろうな、とぼんやりと思ってしまったのは秘密である。
帝国軍を撃退した実績もある上に、あの時よりも皆強くなっているのだから当然なのだが……。
落ち着いたら、迷宮難易度の調整を相談した方が良さそうである。
もはやどう弄っても、人間に攻略出来そうもないけどね。
そして、勝利が確実なものとなり、敵将が一人残るだけになった時――
「あ、マイさん……」
と、ラミリスの部下となったシンジが呟いた。
どうやら知り合いだったらしく、シンジだけでなくマークやシンからも話を聞けた。
敵の指揮官の名前は、古城舞衣というそうだ。
明らかに覚醒魔王級のエネルギーを持ち、天使達を支配している。だが、元は自分達よりも少し強いという程度だったのだとか。
「本当に少し強い程度だったのか?」
と強く聞いてみると、
「え、えっと……。少し、いやかなり……?」
「まあ、勝てた事はなかったですけど……」
「……彼女、滅茶苦茶強かった」
「マイの能力って、ユニークスキル『旅行者』だったんですよ。一度行った事のある場所へ瞬間移動出来るとかいう滅茶苦茶酷いチート能力。遠距離武器との組み合わせは凶悪でした」
と言葉を濁す三人。
三人がかりでも勝てた事はなかったらしい。
最後のシンジの説明を聞く限り、普通の者には勝てそうもない能力である。
時間差のない瞬間移動は、俺でも複数能力を組み合わせないと出来ないのだから。
三人が勝てないのも当然であろう。
普段は物静かな女性で、日本の高校生だったという。
ユウキの腹心の一人で、ヴェルダとなる前のユウキに心酔していたそうだ。
「彼女、真面目だったからね。それに、『送還術』を完成させるというユウキの言葉を信じてたみたいなんですよ」
なんでも、向こうに残してきた弟が心配で、常に世界を渡る術を研究していたのだそうだ。
そんな彼女だったが、ユニークスキル『旅行者』はこの世界限定のもので、向こうの世界へ行く事は出来なかったようだ。
だがしかし、彼女のユニークスキル『旅行者』とユウキの『召喚者』とを組み合わせれば、向こうの世界に渡る事も夢ではないように思える。
彼女はそう信じて、ずっとユウキに協力していたのだろう。
俺がそう納得していると、シンジが何かを言いにくそうに口を開いたり閉じたりしていた。
どうやら、何か言いたい事があるようだ。
ん? と思い声をかけた。
「なんだ、何か言いたい事があるのか?」
「あ、いや……あのですね……」
余程言いにくいのか、中々口にしようとしない。
「おい、流石に無理だって……」
「……ボクも、それは不味いと思う」
二人に止められるシンジ。
何が言いたいのかわからないけど、段々気になってきた。
「あ、すみませんでした。気にしないでもらえると――」
「ああ、もう! いいから言えって!!」
オドオドしながら言い淀むシンジが言葉を飲み込もうとしたので、強引に聞き出す事にした。
すると、言いたい事は簡単。
どうか古城舞衣を助けて欲しい、というものだった。
同郷という事もあり、異世界人の中でも仲が良かったらしい。
「スイマセン、僕の我侭ですよね。こんな事頼んでも無理な話だというのは理解出来ているんですが――」
申し訳なさそうに謝罪してくるシンジ。
まあ、聞き出したのは俺なんだけど。
「ちょ、ちょっとシンジ。流石にそれは、リムルでもどうしようもないよ……。皆の反感を買うと、魔王としての威厳を保てなくなるし……」
自分の部下がとんでもない事を言い出したと慌てたように、ラミリスが取り成しにかかる。
いや、どうなんだろう。そこまで慌てるような事でもないと思うんだけど。
だってほら、俺って結構我侭だし。
今更だと思うんだよね……。
「ははは、ラミリス様。そんな事で我等の忠誠が揺らいだりはしませんよ」
「その通りです。そんな事を気になさる方であったなら、そもそも敵対した者は皆殺しになっているでしょう。ですが、そうではありませんよね? そこにいるだらけきった魔王も、つい先程まで戦っていた敵でしたもの」
ベニマルが大らかにラミリスの心配を否定し、シュナがゴミを見るような目でディーノを見下ろしつつベニマルの言葉を肯定した。
ディーノもその視線に居心地が悪くなったのか、ソファーの上に寝そべるのを止めて椅子に座り直したようだ。そして、平然とした態度で頷いている。
「まあよ、リムルはそんな事は気にしないだろうぜ」
と、いい感じに纏めようとしてシュナにお盆で頭を叩かれていた。
お前が言うなという感じなので、自業自得だろう。
「で、どうしますリムル様? 一応、トドメは刺すなと伝達しましたが?」
ベニマルが俺に聞いてきた。
シンジ達が期待するように俺を見ている。
それこそ、今更の話だろう。
俺の仲間達なら、言わずとも俺の答えがわかるだろうし。
「シンジ、安心しろよ。俺に敵対しないと誓うなら、助けてやるさ」
「本当ですか!?」
「うん。でも、あくまでも敵対しないなら、だぞ?」
「それでも構いません。お願いします!」
「「お願いします!!」」
俺が請け負うと、シンジだけでなくマークとシンもお礼を言ってきた。
そういうのは、マイを助けた後に言って欲しいものである。
「さっすが、リムル! そうこなくっちゃ」
ラミリスが満面の笑顔で、俺の背中をバシンと叩いた。
現金なヤツである。
という訳でいつものように安請け合いして、俺はマイを制止する為に迷宮を出たのだった。
◇◇◇
さて、と。
ベニマルに後を任せて、俺は空へと飛翔する。
付き従うディアブロに先に行くようにと命じた。
「クフフフフ、お任せ下さい。リムル様が来られるまで、時間を稼いでおきましょう!」
「おう、任せた。天空門を破ったようだが、流石にあの三人ではヴェルダは倒せないだろうからな」
「そのようですね、流石にこの気配は凄まじい――少し急ぐとします」
そう言って、ディアブロは転移して先に向ったのだ。
今のディアブロなら、俺が到着するまでの時間稼ぎ程度は出来るだろう。
少し心配だったが、任せる事にした。
どちらにせよ、もう少し時間稼ぎしてもらう必要があったのだ。
俺のエネルギーの回復がまだだったので、倒した天使の大量の残存エネルギーを吸収しなければならない。
これを吸収しつつ、マイを説得すればいいと考えたのだ。
ところが、この考えは甘かった。
俺が手を翳し、『魂暴喰』にてエネルギーを吸収しようとした時、さっさと転移によりエネルギーが消えてしまったのだ。
どうやら、天使は倒されると自動で帰還するように設定されていたらしい。
仕方がないので天使を喰うのを諦めて、マイのところへと向った。
実際、マイは強かった。
ベニマルの指示により殺さないように戦っているのだとしても、誰も触れる事も出来ない様子なのだ。
トレイニーさんは参加していなかったが、竜王達は相手になっていなかった。
それだけでも大したものだが、アピトさえも翻弄しているのは驚きである。
流石は『瞬間移動』を使いこなせるだけの事はある。
大したものだ。
天使達が全滅したというのに心折れる事もなく、冷静に戦闘を継続している。
不屈の精神を持っているのだろう。シンジ達が惚れこむのも頷けた。
普通なら絶望しそうな状況だが、それでも勝利を信じて戦っているのだ。
見た所、瞬間移動は本当に厄介だった。
速さではアピトが上であるにも関わらず、アピトの攻撃は全て回避されてしまう。
あれではアピトに勝算はないだろう。
だが、クマラなら確実に勝てる相手だった。
しかし、今回は俺が相手する。
クマラなら勝てるけど、殺してしまうのも確実だからだ。
「リムル様、お久しゅうございんす」
俺に気付いたクマラが飛んできて、俺に甘えてくる。
可愛いのだが、今はそういう場合ではない。
「クマラ、天使の残党を処理してしまえ」
「承わりんした!」
俺の命令に素直に従うクマラ。
ある程度暴れた事で、ストレス発散も出来たようだ。
マイと戦っているアピトも俺に気付き、戦いを中断して俺に場所を譲ってくれた。
「私の力もまだまだでした。リムル様のお手を煩わせずに無力化させておきたかったのですが……」
悔しそうに項垂れるアピト。
「気にするな。エネルギーだけ見ても、相手はお前の倍以上ある。それを考えれば、お前は大したものだよ」
そう言って慰めておいた。
アピトもクマラと合流させ、天使の残党処理を任せる。
後はマイを説得するだけだった。
◇◇◇
対峙する俺とマイ。
マイは弓を構え、肩で息をしつつ俺を睨んでくる。
なるほど、美しい少女だ。
雰囲気はシュナに似ている。
日本人形のような美しい黒髪で、キリッとした表情をしていた。
佇まいは凛として、疲労が蓄積しているだろうに姿勢は崩れていない。
姿勢も美しい美少女なのだ。
だが、気になる点がある。
手足の先に血管が浮かびあがり、所々裂けて血が流れていたのだ。
血?
《どうやら、生身のまま天使を受肉したようですね。肉体の再構築もせず、熾天使と融合したのでしょう。エネルギーに耐えられず、崩壊が始まっているようです》
俺の疑問に、シエルが答えてくれた。
悪魔や天使といった精神生命体の膨大なエネルギーを、生身の人間が受け止めるには限界がある。まして、最高位の熾天使ともなれば、神人級の鍛え抜かれ覚醒した肉体でなければ耐えられない。
この古城舞衣という少女が、生身のままで熾天使を制御していたのだとすれば――凄まじい精神力だと言わざるを得ないだろう。
「初めまして、俺がリムルだ」
「――そう、貴方が。私は古城舞衣といいます。貴方に恨みはないけど、ユウキ君の為に死んでもらいます」
「ユウキはもういないだろ? 今はユウキじゃなく、ヴェルダと名乗ってるはずだけど?」
俺の質問に一瞬だけ表情が動いたものの、マイは直ぐに平静さを取り戻した。
「関係ありません、私はユウキ君を信じていますから。貴方を倒せば、落ち着いて研究が出来ます。私は何としても帰らないといけないの。これは私のエゴだとわかっていますが、それでも私は貴方を倒す――」
そう言って、マイは迷いなく弓を俺に向けてきた。
手足の崩壊にも気付いているだろうに、一切集中を途切れさせる事なく俺を見据えるマイ。
勝てるハズがないと理解しているだろうに、その瞳には怯えの色は見えなかった。
大したものだ、と正直思った。
マイはこの若さで、達観しているのだ。
一つの目的の為に、全ての迷いを捨てて……。
唯一の可能性と信じた道を、唯ひたすらに駆け抜けているのだろう。
「一応聞くけど、何で帰りたい?」
「なんで、ですって? おかしな事を聞くのですね。残した家族が心配ではないとでも? 勝手にこちらに呼び出されて、私達は大人しく従わねばならないとでも? 人として扱ってもらえず、兵器としてしか見てもらえず……そんな世界、滅んだところで心は痛まないわ。私は帰りたい、ただそれだけなの」
他の異世界人は早々に諦めた望郷の念を、マイは諦める事なくずっと持ち続けていたようだ。
考えてみれば、それは当然なのかもしれない。
俺は死んでしまったから諦めもついたが、召喚された者はそういう訳にはいかなかったのだろう。
シンジ達はアッサリと諦めたようだけど、未練がない訳ではないだろうから。
帰れるのなら帰りたい、そういう者は多いだろう。
ただ、そういう魔法は存在せず、そうした事例は一つもない。
そうした現実は簡単に知る事が出来るため、皆は早々に諦めてしまうだけなのだ。
マイは強い精神力で諦めなかった。そして、その能力のせいで希望を失う事がなかったのだろう。
だから俺は、残酷な事実を告げるしかないのだ。
「それは今の所、不可能なんだよ。向こうからこちらへは来れても、こちらから向こうへ行く手段は発見されていない」
「知ってるわ! だからと言って、諦めるなんて出来ないのよ!! それに、ユウキ君はきっと帰る手段を見つけてくれるわ。だから私は諦めない!!」
マイは叫び、渾身の力で矢を撃ってきた。
だが、無駄だ。
俺は矢を消し去ると、続けて言う。
「だから、ユウキは消えたんだよ。ヴェルダとユウキは別人だ。それに……お前を召喚したのも、多分ユウキだと思うよ」
俺の言葉を聞き、マイの動きが止まった。
そして、認めたくないというようにイヤイヤと頭を振る。
「うるさい! 私を惑わせるのは止めてもらいましょう。星屑の流星雨!!」
眦を吊り上げ、俺を睨むように最大最強の技を放ってきた。
だが、無駄なんだよ。
だって、俺に放出系の技は効かないのだから。
俺は『虚数空間』に全ての矢を吸い込んだ。
それでお仕舞いである。
「そ、そんな――」
マイは絶望したように弓を下ろした。
ようやく俺との圧倒的なまでの実力差に気付いたのだろう。
「いいか、俺はお前を殺すつもりはない」
「……なんで……ですか?」
「シンジ達にお前を助けて欲しいと頼まれたんだよ。じゃなきゃ、面倒だからわざわざ出向いたりしねーよ」
「まさか……!? 生きていたんだ、シンジ君達――」
俺の言葉を聞き、マイはショックを受けたようだ。
まあ実際、これだけの実力差を見せ付けられれば、俺の言葉が嘘ではないと理解出来るだろう。
俺が出るまでもなく、クマラならマイよりも強いのは本当だし。
「それにな、確かに世界を渡るのは不可能だろうさ。だがな、あくまでも今の所は、だ」
「――えっ?」
「これから先、研究次第では異世界との通路を探す事が出来るかも知れないだろ? 魂は循環しているのではないかというのが俺の相棒の推論だし、可能性はゼロではないと思うぜ?」
「本当、ですか……?」
「少なくとも、ユウキに任せるよりは確実だろうさ。お前が自分で研究するんだからな」
俺がそう言い放つと、マイは目を丸くして驚いたような表情になり、俺を見つめてきた。
人任せにせず自分で研究しろと言われた事に、ショックでも受けたのだろうか?
「……それでも……私は、もう戻れない。私はこの力を受け入れた、受け入れてしまった。僅かな可能性、膨大なエネルギーにより跳躍出来る可能性を信じて……。結果は失敗でした。天使の力に耐えられず、私の身体は崩壊し始めています。残された道は、ユウキ君を信じる事のみ――」
ああ、気付いていたのか。
熾天使の力を得て『旅行者』を進化させて、次元跳躍を行う。それがマイの狙いだったのだろう。だが次元を跳躍する能力を獲得する事に失敗し、残された手段はユウキを信じる事のみだった、と。
これは最初から、ユウキに嵌められているようなものなんだけどな。
それってつまり……。
「一応聞くけどさ、お前ユウキに「帰れるかもしれないよ? 天使と融合する事で、能力が進化する可能性がある。ただし、強すぎる力は君を傷付けるかもしれない――だから、おススメは出来ないけど、どうする?」とか何とか言われなかったか? その上、今戦っているのもユウキへの恩返しのつもり、とかなんじゃないだろうな?」
と、直接思った事をぶつけてみた。
マイの反応は劇的で、目を見開いて言葉もなく俺を凝視してきたのだ。
どうやら図星だったようで、似たような事をユウキに言われたのだろう。
「おいおい……やっぱりかよ。それってな、詐欺師の手口だよ――」
在り得ない可能性をチラつかせて相手を言いなりにする、まさに詐欺師の良く使う手だ。
美味い話には裏があり、人に勧めたりはしない。
相手に選択肢を与えているように見えて、実際には選べる手札が一つしかないようにもっていく。
実に巧妙なやり口である。
「言われてみれば……」
「まあ、騙される方も悪いと思うけどな。今度からは人に頼るだけでなく、ちゃんと自分で考えて物事を確かめるようにした方がいいぞ」
つい説教してしまった。
人任せにしまくっている俺が言っても説得力は皆無なのだが、マイは俺の事を良く知らないので素直に受け取ってくれそうだ。
マイは気丈にも涙を堪え、悔しそうに唇を噛んだ。
「お話はわかりました。どうやら、私が貴方に敵対する意味はないようです。どっち道、勝てる可能性もなさそうですし……。最後に我侭を申しますが、楽に死ねるようにトドメをお願いしても宜しいでしょうか?」
儚げに微笑むと、マイは俺にそう言った。
希望を失い、生きる気力を失ったのだろう。
「だから、帰る手段は自分で探せよ。諦めるのはまだ早いだろ?」
「……ですが、私はもうあまり長くありません。身体の崩壊が――」
「ああ、忘れてた」
俺はそう言うなり、マイの身体を抱きしめる。
そして、マイの身体と融合していた熾天使を『魂暴喰』にて根こそぎ喰らった。
熾天使は既に解析済みであり、一瞬にして作業は完了した。
残念なのは思った程エネルギーが回復しなかった事だが、マイには黙って『旅行者』を解析させて貰ったのでよしとする。
制限のない瞬間移動なんて、ユニークスキルの中でも希少な超優良スキルなのだ。俺が命令せずとも、スキルマニアのシエル先生が黙っていない。
(解析は?)
《無事に完了し、『旅行者』より『瞬間移動』を獲得しました》
な? 流石はシエル先生であった。
俺が天使を喰った事にマイも気付いた。
飛行能力を失い、俺の腕に抱きとめられているのだから当然だ。
「えっ!? 何が一体!?」
と、顔を真っ赤にして狼狽えていた。
「アピト!」
「ここに――」
俺はアピトを呼び、マイを抱き渡す。
「身体の崩壊は回復薬では治癒出来ないと思うが、シンジなら治療出来るだろう。治して貰うといい」
マイは驚きに口をパクパクさせていたが、思い直したように俺を見つめてきた。
しかも何故だか、残念そうな物足りないとでも言いたげな顔をしている。
だが、何かを決意したのか――
「ありがとうございました! この御恩は一生忘れません。そしてきっと、帰る手段を見つけてみせます!」
強い決意を込めて、俺に宣言してくれた。
それでいい。
生きる目的さえあれば、絶望とは無縁でいられるだろうから。
ユウキに対して恨みを持つより、自分の目的に向って真っ直ぐ生きる方が彼女には似合っていると思うしな。
俺はマイに頷き返し、小さく笑みを浮かべた。
内心では、こんなに簡単に俺を信じるなんて騙されやすい性格なんじゃ、と心配したりしてたのだが、それは言わぬが花だろう。
「連れて行ってやれ」
「心得ました、我が君」
そして、俺はアピトに命令する。
アピトは恭しく俺に向けて一礼し、マイを連れて去って行った。
こうして地上へ侵攻していた天使軍は最後の一体まで駆逐され、俺達の完全勝利が確定したのだ。
電子書籍が、各所で発売になった模様。
詳しくは、活動報告にて。
ついでにSSも載っていますが、それはその内こちらに移す予定です。




