198話 ゴブタ&カリオンvs四凶天将ヴェガ
し、死ぬっす! 今のはかなり危なかったっすよ!!
叫びながら逃げ惑うゴブタを横目で見ながら、カリオンは深く溜息を吐く。
コイツ、絶対わざとだろ! そう思いたくなる程に、ギリギリでヴェガの攻撃を掻い潜るゴブタ。
そう。確かに後一拍遅れたならば、ゴブタは魔力弾に当たって消滅していただろう。それは間違いないのだ。
だが、当たったら、の話である。
『カリオンさん、右に半歩、そのまま軽くジャンプっす!』
ゴブタの指示を受け、カリオンは躊躇わずに指示に従う。
疑問を返す事もなく、言われた事を素直に実行する。それは、ミリムとの特訓の頃からの変わらぬ行動であった。
指示通りに動いた直後、自分が今までいた地点を魔力弾が通り抜け、足元に被弾した魔力弾により地面が抉られる。しかし、ゴブタの指示通り動いた事により、カリオンには一切の影響が出る事はなかった。
(やっぱ、コイツは天才だな)
見えている筈が無い。
気弾でさえ、音速を超える速度で飛来するのだ。気に魔力を練り込むのに多少の時間が必要とは言え、放たれた後の速度は魔力弾が遥かに速いのである。
目で視認してからの回避は難しい。自分だけなら不可能ではないかも知れないが、人に指示をするなどは絶対に出来ないとカリオンは思う。
声での遣り取りならば、不可能なのだ。指示内容を理解する前に、攻撃の直撃を受けるのだから。
そんな訳で、カリオンとゴブタは『思念通話』にて会話しているのだが……
どれだけの思考速度を持つならば、敵の攻撃動作を見抜き、放つ攻撃の種類を見極め、着弾地点とタイミングを読みきれるというのだろう。
もはや、超直感力でギリギリ対応していた自分では想像出来ない領域に、ゴブタが到達している気になってくる。
そして、先程到着と同時に行った遣り取りを思い出す。
「カリオンさん、そのままじゃ不味いっすね。一瞬だけ『獣魔人化』して、速攻キャンセル出来ないっすか?」
そんな事を言い出した。
半身が消失している以上、このままでは危険なのは理解していたカリオン。しかし、ゴブタの言う言葉の意味が理解出来ない。
「はあ? おま、何を言って……?」
「簡単っすよ。『獣魔人化』を発動と念じると同時に、解除するだけっす!」
意味が判らなかったが、言われるままに実行して見た。
ゴブタとは気心の知れた仲なので、タイミングはゴブタに合わせて実行する。
すると、信じられない事が起きたのだ。
瞬間、爆発的に能力上昇が発動し、自己再生により身体の再構築による超回復が発動した。
そしてそのまま変身する筈なのだが、それはキャンセルされて、『獣魔人化』は発動しなかったのだ。
つまり、回復だけ発動した訳である。周囲の魔素を取り込み、魔素量も半分程度回復するというオマケ付きで……。
(はあああああ!? 何だ、そりゃああ!!)
驚愕するカリオン。
何が何だか理解出来ないが、確かなのは、『獣魔人化』を温存しつつ超回復出来たという事であった。
「おっと、一発で成功とは、流石はカリオンさんっすね!
失敗した時に備えて、完全回復薬もあったんすけど、これでは魔素量は回復しないっすからね。
どうです、便利でしょ? これ、ガビルさんにも教えたっすけど、大喜びしてたっすよ!」
そんな事を言うゴブタ。
つまり、変身系能力を持つ者は、タイミング良く変身の発動と解除を行う事で、完全回復効果を得る事が出来るという事らしい。
何で変身能力を持ってないお前が知ってるんだよ!! と、問い質したい気持ちになったが、今は理性を総動員してぐっと我慢したカリオン。
ともかく、今はヴェガを倒すのが先なのだ。
(本当、冗談みたいなヤツだぜ……)
そんな事を思いながらカリオンは、ゴブタの指示通りヴェガの攻撃を避け続けるのだった。
ヴェガは、生意気にも応援に駆けつけた人鬼族に、嘗て無い程に馬鹿にされていると感じていた。
一発当てれば死ぬ程度の弱者。
魔素量も貧弱で、辛うじてAランクを突破出来た程度の、弱小魔人級に過ぎない相手。
そんな相手に、自分の攻撃が当たらないのである。
(クソが! ふざけやがって!!)
荒々しく、練り込んでいない気弾をそのまま投げつけるように、地面に叩きつける。
気弾は地面で弾けて爆散し、土砂を空中に巻き上げた。
(ふん! これで視界を奪ってやったぞ。生意気な糞ゴミが!!)
巻き上げられた土砂に隠れるように、特大の魔力弾を練り上げていく。そして、視界を奪っても捉えている対象に向けて、必殺の一撃を放出した。
土砂を消し去りながら、大魔力弾は突き進む。
ところが、大魔力弾が対象に当たる直前に、その対象の気配が消失した事に気付く。
(――!?)
ヴェガの疑問は、脇腹に刺さった短剣により、解消された。
「ちょ! 硬過ぎるっす。刺した方の手が痺れたっすよ!」
糞生意気なゴブリンは、土砂による視界の封鎖を察知したと同時に、魔力を練ってその場に留めおいたのだろう。
撃ち出すのではなく、目眩ましに用いたのだ。そして、自分は気配を完全に絶って、土砂に紛れてヴェガの懐まで潜り込んだのである。
「下等なゴブリンの分際で舐めやがって!!」
激昂し叫ぶヴェガ。
だが、ゴブタは慌てる事なく、
「おっと、間違って貰っちゃ困るっす。自分は、ホブゴブリンっすよ!」
と、陽気に訂正する。
その舐めきった返事に、ヴェガの意識が怒りで沸騰しそうになる。
だが、そうしたヴェガの心境はゴブタの予想通りの反応であり……怒りでまともな思考が出来ないヴェガの死角へは、忘れられているカリオンが気配を絶ちつつ接近済み。
そして、
「死ね、獣魔粒子咆!」
今にもゴブタに襲い掛かりそうになっているヴェガは、反応出来ずに直撃を受けた。
見事にゴブタが、ヴェガを手玉に取っている感じなのだった。
獅子王カリオンの必殺の一撃だ、生半可な威力では無い。ヴェガの半身は魔粒子砲にて吹き飛ばされてしまっていた。
しかし、そんな状態になっていても、ヴェガに取っては然したる問題では無いのだ。
即座に自動回復能力が発動し、肉体の再生が始まっているのだから。
問題は、下等種族である人鬼族如きに、良い様に手玉に取られる現状であった。
「クソがああああ!! 許さんぞ、下等なゴミ虫めがああああ!!」
叫ぶ。
最早、全力にて叩き潰す。
その目は怒りに燃え、下等な相手と見縊って本気を出さなかった誇りなど、欠片も残ってはいない。
ヴェガは、ゴブタを敵だと、初めて認識したのだった。
ヴェガがゴブタを敵だと認めると同時、急速に冷静な思考を取り戻す。
自分が認める程の敵であるならば、馬鹿にされている訳ではなく凄いヤツなのだ、と思考を切り替えたのだ。
「くっくっく。そうか、そうだな。俺様が、単なるゴブリン如きに梃子摺る筈もない。
貴様はゴブリンのフリをしているが、どうやら只者では無い、そういう事だな?」
笑いながら、自分が納得した考えを披露するヴェガ。
何言ってるんだ、コイツ? という目で見るカリオンを放置し、ヴェガは続ける。
「だが……俺様の目は節穴では無いのだ。貴様の本当の実力など、疾にお見通しよ!!
さあ! さっさとその本性を曝け出せい! その全てを、俺様が打ち砕いてくれるわ!!」
そう言って、ゴブタに指を突き付ける。
そんな事を言い出したヴェガに対し、
「ふう、やれやれっすね。見抜かれてしまったなら仕方ないっす。
いいっすよ。お見せするっす! 自分の本当の姿ってヤツを!!」
ノリ良く合わせるゴブタ。
そして、そんな演技をしつつ、
『さあ、今の内に。アイツの背後に回って、一発撃ち込むっすよ、カリオンさん!』
卑怯な事この上ない指示を出すゴブタ。
だがまあ、カリオンには反対する理由は何も無い。
何やら変なポーズを取り、決めゼリフを言い出したゴブタを放置し、ヴェガの背後に回り込んだ。
「出番っす、"星狼王"ランガ! 発動『星狼召喚』!!
『今っす!!』
とくと見よ! "星狼武装"!!」
ゴブタは叫び、その瞬間、ランガが影から飛び出して来る。
(やれやれ、待ちわびたぞ、ゴブタよ)
(いや〜盛り上げるのに時間掛かったっすよ!)
そんな遣り取りが行われた事など、ヴェガには思いも及ばぬ話である。
光に包まれ、巨大な魔素量が出現しゴブタと融合する様を、驚愕と喜びの表情で眺めていた。
そんなヴェガの背後から、準備万端のカリオンが獣魔粒子咆を叩き込む。
だが、何度も喰らわせてもヴェガには通じない。穿たれた穴も、瞬時に塞がってしまうのである。
最大出力で放つのだが、直系1m程度の口径では、ヴェガの全てを焼き尽くす事は出来ないようであった。
それは拡散獣魔粒子咆を以ってしても同様である。
流石に9条の粒子砲を同時に放つには、魔素量が回復しきってはいないのだが、結果は変わらないと理解出来ていた。
今なら判る。
ヴェガは、本当に本気を出してはいなかったのだ。
ゴブタの指示通りに技を放ち、目眩ましや通常の気弾を織り交ぜて油断させ、既に3発以上の直撃を喰らわせていた。
お陰でカリオンの魔素量は尽き掛けている。さっき行ったスキルのキャンセルによる回復技は、タイミングが難しい為、成功率は低そうで当てには出来ない。
何より、
「何度も使用出来ないっすよ。周囲の魔素を取り込むっすから、魔素濃度が薄くなると回復しなくなるっす。
リムル様とかヴェルドラさん並に、自身の魔素量がパない人等だったら、そんな心配要らないんスけどね……」
との事。
確かに、乱用してよい技では無いとカリオンも理解する。
そんな中、無駄と知りつつ、何度も攻撃を実行させる意図は何なのか?
最初は疑問に思っていたカリオンも、薄々その目的が理解出来て来た。
ヴェガは自分達を見下して、全然本気を出してはいなかった。その隙に、様々な角度と位置から攻撃を仕掛けて、弱点の割り出しを行っていたのだ。
そしてゴブタはその弱さを見せ付ける事で、見事にヴェガの慢心を誘い、囮としての役割を担っていたのである。
(見事だ。流石は、ゴブタ……。
最初から全力では、ここまで上手く情報を引き出せなかったろうぜ……)
カリオンは、ゴブタの作戦を素直に賞賛する。
だが、それだけ危険な思いをして得た結果は、ヴェガに弱点等は無い、という事のみであった。
ヴェガは、大地に根を張ったように、地面から養分を吸い上げている。
そして、死体や草木といった有機物を取り込み、肉体を作り上げているのだ。無機物は肉体に流用出来ないらしい、というのが唯一の救いであった。
戦場は拡大を続け、大地には新たな死体が量産されている。
ヴェガの肉体の補充は、限りなく行う事が可能なようである。
今の一撃で与えた傷も、見る間に復元されていくのを眺めながら、カリオンは苦々しい思いを噛み締める。
だが、そんなカリオンとヴェガの前で、ゴブタに光が生まれ、漆黒の霧となってゴブタに纏いつく。
カリオンの耳にも、ヘンシン! と、ゴブタの声が届いた。
そして――
現れたのは、嘗て修行時代に何度か目撃した姿。
覚醒魔王に匹敵する程の魔素量を保有する、ランガという黒嵐星狼とゴブタが合一化した状態である。
つまりは、情報収集は終わり。ここからが、本番であった。
『カリオンさん、下がって気を練っていて下さいっす!
合図を送ったら、デカイの一発お願いするっすよ!』
『いや、俺も魔素量がスッカラカンだ。
残念だが、もう撃てそうもない……』
『何言ってるんすか! 『獅子竜身』があるじゃないっすか。
あれで一発、全部魔力を注ぎ込む感じで頼むっすよ!!』
覚悟を決める。
奥の手だが、使わなければ無いに等しい。
ここぞという時に使わないで、何時使うというのか。
『わかったぜ。使っちまうと、10分で行動限界が来るが、いいんだな?』
『え!? 前は3分だったじゃないっすか! 流石っすね!
でも、どでかいの一発で、勝負を決めるつもりっす。
後の事は心配せず、ドカン! と行くっすよ!!』
あくまでも陽気に、まるで心配していない気軽な調子でゴブタが言ってくる。
カリオンは、自身の悩みも吹き飛ぶようなその気軽さに苦笑を禁じえない。
『よっしゃ。任せろ!!』
カリオンの返事を最後に、打ち合わせは終了した。
そして、本気になったヴェガと、本気になったゴブタの戦闘が開始したのだ。
本気になったヴェガは強かった。
「グワァッハハハハハ!!
この俺様が本気で相手をしてやるのだ、光栄に思うがいい!」
「へへ、こっちのセリフっすよ!!」
両者が激突する。
それだけで、今まで以上に大気を振動させて、爆発が生じる。
エネルギーとエネルギーのぶつかり合い。
それは、カリオンの想像をも上回る、超能力の応酬であった。
究極能力『邪龍之王』は、有機物を操る能力を有する。
その身を極小の魔性細菌の集合体により構成する。故に、再生も自由自在。
捕食による能力獲得も、生物の構造を模倣する能力により、自由自在なのだ。
ユウキが生み出した、擬似人造粘性体とでも言うべき存在であった。
様々な生物の特徴を取り込み、独自に改良改造を加えて、効率良く使用出来るようにする。
人型に変形した一部のみを地上に出して、本体は隠れている。
つまり、大地に立つ以上、全ては地面で繋がっているという事であり、幾らでも補給可能と言う事。
そして、先程の邪龍獣のように単純な命令を与えて切り離した眷族だけではなく、複数体の分身を造り出す事も可能なのである。
分身は全て同能力を有する。
ただし、操れる者の能力に限界がある為、同時に出しても複雑な行動が出来なくなるのが弱点であった。
ヴェガはその事をよく弁えており、無駄に数を出さずに再生にのみ能力を用い、単純な命令を与えて邪龍獣を放つに留めていたのである。
しかし、そうした能力の使用方法は、本来の『邪龍之王』の性能をまるで生かしてはいなかった。
究極能力『邪龍之王』
…超速思考・並列思考・有機支配・複製量産・能力吸収・空間支配・多次元結界
というのが、その能力の全貌である。
恐るべき能力であり、その性能は非常に高い。
使いこなせるならば、どこまでも強くなれる能力だったのだ。
使いこなせるならば……
残念な事に、ヴェガは生まれてから、それ程の経験を積んでいなかった。
恐るべき速度で成長し、その能力は高まっていったのだが、能力を使いこなすには至らなかったのだ。
並列思考が使いこなせていたならば、大地に立つという限定条件があるとしても関係なく、複数の本体を操れていたであろう。
その脅威は想像を絶するのだが、それはあくまでも仮定の話。
ヴェガには使いこなせていない、というのが現実だったのだ。
そして、ゴブタはそれを正確に見抜いていた。
自分の身を囮とし、ヴェガを油断させる事で、攻撃を複数回受けさせる事に成功する。
全力戦闘を行う際、相手の能力を知っているか知らないかというのは、生死に直結する事になるからだ。
可能な限り、相手の手の内を読みきってから、此方の奥の手を切るべきだと教わっていたのである。
――ゴブタの尊敬する絶対の主、大魔王リムルの戦歴にて、それは証明されていた。
古参の配下として、ゴブタは常にリムルの戦いを目の当たりにしているのだ。
情報の大切さは何よりも重視すべきと、心に刻まれていたのである。
故に――
カリオンの協力を得て、情報は十分に集まったと判断する。
リムルより知らされたヴェガの特徴と、今戦ってみて感じた感触と。
すり合わせれば、自ずと答えは出たのであった。
地上に見えている部分を消し去っても、記憶と自我は本体に転移するようだ。大地に繋がる限り、その再生は無限に近い。
ただし、大地から離れた上空で仮初の本体が消失した場合、記憶と自我の転移に若干の時間差が生じていた。
つまり、本当の本体は、大地にある。いや、大地から離した場所にて消失させた場合、記憶と自我の転移が出来ない可能性も考えられた。
(厄介な相手っす。でも、無敵、では無いようっすね!)
敵の能力の大半を読みきり、ゴブタは勝利を確信した。
「じゃあ、行くっすよ!!」
自分とランガを鼓舞すべく声を出し、ゴブタは全力戦闘へと移行する。
ヴェガはゴブタの戦闘力の高さに感嘆していた。
やはり、自分が見抜いた通りにこのゴブリンは只者では無かったのだ、と喜びに打ち震える。
スピードは圧倒的に負けている。
パワーは互角、いや、若干自分が上回っているようだ。
だが、それでも驚異的な回復力を持つが故に、まだまだ余裕があるヴェガ。
自分の力はどんどん増幅する。相手の能力を奪えたならば、その分、一気に跳ね上がるのだ。
だからこそ、敵が強ければ強い程、自分が強化出来る事を意味していた。
自分が得た究極能力『邪龍之王』は、正に究極無敵の能力だと確信していたのだ。
「グワァッハハハハハ!! やるではないか。流石は、俺様が認めた男、よ!」
賞賛するヴェガの言葉を、ゴブタは無視した。
(ランガさん、そろそろ、アレ、お願いするっす!)
(クックック。良かろう、心得た!)
仕上げに掛かっていたからだ。
ヴェガが調子に乗っている内に、自分を本当の脅威と認識する前に、勝負をつける必要があると理解していたのである。
そして、それは正しかった。
「ヴェガさん、残念っすけど、自分の勝ちっすよ!」
「抜かせ、ゴブリンにしては、いや、ゴブリンと思えぬ程に強いのは認めよう。
だがな、最強の俺様からすれば、貴様はまだまだよ――」
「そうっすか? じゃあ、それが最後の言葉でいいっすね?
そうそう、ヴェガさんが死ぬ前にもう一度訂正しておくっすけど、自分は人鬼族っすよ!」
「――何!?」
がっぷりと組み合うゴブタとヴェガ。
ヴェガの魔性細菌がゴブタを捕食しようと攻性侵食を開始していたが、それらは全て、身に纏うランガの魔風障壁により阻まれる。
致死・腐食・崩壊効果を持つ風の魔力が、魔性細菌を滅ぼすのだ。
ゴブタを取り込めない事に苛立つヴェガに、ゴブタが終わりを宣言した。
直後、ゴブタとヴェガは、風の魔力により高空へと舞い上がる。
地面に転がる死体も草木も全て、上空へと巻き上げられた。
それは、大気を自在に操るランガの超能力の効果である。地上は更地となり、腐食効果を持つ風は、大地に潜り込み微生物諸共、手当たり次第に全ての有機物を上空へと排出していった。
「き、貴様ぁ! ま、まさか、この俺様の能力を――!?」
「おっと、そんなに慌てる所を見ると、図星っすか!?」
"死を呼ぶ風"は、"破滅の嵐"となり、"滅びの稲妻"を内包する。
「ぐぉおおおおおお!! やめろ、クソがぁ!! 今すぐ止めやがれ!!」
ヴェガが絶叫するが、ゴブタは止めない。
止める理由がない。
「冗談は、ヴェガさんの存在だけにするっすよ!」
軽く受け流し、全ての有機物を大きな球状に纏め上げる。
巨大な黒嵐球が出来上がり、内部のヴェガを風の刃が細切れにし、稲妻にて小雷球を作り上げていく。
そのまま流れるように仕上げに入るのだ。
「カリオンさん、準備は良いっすか?」
「おう、待ってたぜ! 『獅子竜身』!!」
ゴブタの合図に、カリオンが能力を発動させた。
そして、
「あの球に向けて、極大の一発をお見舞いすればいいんだな?」
「そうっすよ、お願いするっす!!」
頷くカリオン。
完璧なお膳立てに、口元に笑みが浮かんだ。
(流石は、ゴブタだぜ。本当、味方で良かったよ)
そして、練り上げた魔力を白虎青龍戟へと流し込む。
イメージするのは、自分の主たるミリムの姿。
その圧倒的な破壊力にて、祖国である獣王国"ユーラザニア"の霊峰を消滅させた、あの――
「止めろ、クソ虫がぁあ!! 止め――」
「行くぜ! 喰らいやがれぃ! 獣竜魔粒子咆!!」
極大の閃光が、ゴブタの制御する黒嵐球へと突き刺さる。
それは、圧倒的なまでの破壊のエネルギー。
ミリムの竜星爆炎覇を真似て編み出した、カリオンの究極奥義であった。
獣竜魔粒子咆の直撃は、黒嵐球内部の小雷球を連鎖爆発させる。
そしてそれは、そのまま一個の巨大な爆発球へと成長する。
放出されるプラズマの超高熱により、ヴェガの魔性細菌を余す所なく焼き尽くす。
後には、広大な範囲の更地が残るのみ。
ゴブタ&カリオンの連携技による、大勝利であった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
黒嵐球が爆発した地点が見える、ギリギリの場所にて。
ムクリ、と起き出す人物が一人。
今滅ぼされた筈の、ヴェガである。
「危なかった……今のは、本気で、危なかったぜ……。
だが、結局は俺様が勝つんだがな。
俺様はまだまだ強くなる。『邪龍之王』が在る限り、俺様は無敵よ!!」
ニヤリ、と笑みを浮かべ、ヴェガは嗤う。
保険として、分身体を残しておいたのは正解であったと思いながら。
記憶と自我の転移が可能なギリギリの範囲に、自分の複製体を残しておいたのだ。
今はまだ能力を使いこなせてはいないが、この能力を極めた時こそ、自分が最強存在になると疑っていない。
そう、"星王竜"ヴェルダナーヴァさえも、いずれは自分の足元に跪く事になる、と信じていた。
「楽しそうだな――――見つけたぞ。
リムル様の仰っていた通り、だな。
お前のような卑怯者は、必ずこういう手段を取ると思っていたよ」
背後から冷たい声が聞こえるまでは、ヴェガは自分の進化と最強の地位を疑ってはいなかった。
だが、現実はそれを許さない。
浮遊感が漂いはじめた。
地面ごと、宙に浮いているのだ、と気付いた時は手遅れである。
極大の結界により、周囲の地面ごと隔離され、ヴェガは既に囚われていたのだ。
「死ね、下種が!! "終末崩縮消滅波"!!」
先程の爆発を上回る、破滅のエネルギーが結界内を蹂躙する。
「――ぎゃ、ひぃやべでぶぅおね――――――」
ヴェガの、生まれて初めての、本気の哀願は、カレラに届く事は無かった。
下種の声を耳にするのも汚らわしいとばかりに、無慈悲に全てを消滅させたのだ。
こうして、四凶天将ヴェガは、完全なる"死"を迎えたのである。




