190話 究極能力
ヴェルドの名前がヴェルドラと一文字違いという指摘があったので、ヴェルダと変更しました。
余り変化はないですが、気持ちだけ。
そういう事で、ご了承お願いします。
クリシュナが到着するまで、魔物の国へ帰国は出来ない。
だが、クリシュナの到着を待つ間、ノンビリと休養していた訳ではない。
皇帝ルドラを見取ったり、帝都の治安維持を指揮したり。
面会を求める貴族どもと会談したり、帝都の見回りと称して観光をしたりと忙しく活動したのだ。
観光は、都市構造の視察を兼ねているので、遊びではない。ま、息抜きにはなったのだけどね。
復興の為に、今すぐに何かを為す必要はない。
何しろ、建造物への被害は無く、人的被害が主だからである。
とは言え、身内が天使に奪われたり、魔王に支配される事になる臣民達の恐怖への対処として、精神的な配慮は行う必要があるだろう。
その辺が、悪魔達にはトコトン向いてない仕事だと思うだろ? ところが、案外そうでもないのだ。
感情を喰う悪魔達は、臣民の恐怖や不安と言った感情を食べる事により、精神への負担を軽減する事に役立ったのである。
もっとも、全ての感情を食べ尽すのは、本人への悪影響が出るとかで、ある程度の調整を行う感じで加減した上での話であった。
臣民達の悲しみが全て消えた訳ではないのだが、暴動を起こしたり抵抗勢力を組織したりといった行動を取らなかったのは、彼等にとって幸いであろう。
恐らくだが、そういう兆候が見られた瞬間に、悪魔達はそういう者共を消してしまっていただろうから。
そんな些事を、一々俺に報告する必要も無いと判断するだろうと予想出来た。
ユウキというより、悪徳の意志との勝負の前に、不安要素の芽は全て摘んでしまうのが正解なのは間違いないだろうし……そうなった場合は仕方ないと黙認するつもりだったのだ。
民間人に手出しするつもりはないが、武装蜂起した時点で滅ぼす事に躊躇いはない。
なるべくはそういう事になって欲しくなかっただけに、悪魔式精神的な配慮が成功してほっと一息ついたのだった。
俺達が帝国軍と戦闘していた最中、タイミングを見計らったかのように(というか、見計らったのだろうけど)、魔物の国にてディーノが尻尾を出した様だ。
慌てて被害を確認したのだが、ゲルドが大怪我を負い、シオンとソウエイが負傷したらしい。
だが、シオンの負傷は直ぐに治癒される程度のものであり、ソウエイも言う程の怪我ではないそうで一安心であった。
ただし、ゲルドの怪我は相当に酷いものだったらしく、命に別状は無いが、絶対安静という状況にまで陥ったらしい。
心配だったので、休憩時間に転移門により様子を見に戻った。
「おい、ゲルド。大丈夫なのか?」
治療室に入るなり、容態を聞く。
ゲルドは見るも無残な姿になっていた。
治癒能力の高いゲルドがこの状態なのだ、敵の能力の影響なのだろう。
容態を聞きつつ、戦闘記録を参照して見ると……シオンとソウエイが、ゲルドを生きた盾として活用している状況が鮮明に映し出される。
酷い! と、心の底からゲルドを慰めたい気持ちになった。
いや、見る限り格上の堕天使を二人相手どって撃退してのけたのだし、作戦としては非常に正しいのだろうけど。
この情け容赦無さが少し怖いと思ったのは秘密である。
まるで、智慧之王さんが作戦立案したような、的確な行動だったのは間違いないんだけどね。
「これはリムル様!
このゲルド、この身を心配させてしまうなど、自身の不甲斐なさに恥じ入るばかりです。
今後もより精進し、この程度ではビクともせぬ、強靭な肉体を獲得してみせますぞ!」
おう……。
今でも十分に強靭だと思うぞ?
何しろ、覚醒魔王級の攻撃を何度も受けて、致命傷には至らなかったのだから驚きだ。
シオンの能力による補助と、自己再生能力の賜物だろうけど。
「――そうか。期待している。
では、そんなお前に、少しばかり手助けしてやろう」
俺はそう言うと、ゲルドの進化を実行する。
《告。個体名:ゲルドの進化を行いますか? YES/NO 》
YESと念じ、10万個分の魂をゲルドに送る。
これにより、ゲルドも覚醒魔王へと進化した。
「丁度良い機会だし、自身が願う姿を思い描きながら、ゆっくりと休むといい」
「はは! 有難き幸せに御座います!」
感謝を告げるゲルドを残し、後の事は治療班に任せてその場を後にした。
感激し、号泣し出したので、逃げたともいえる。
大戦になると予想出来る以上、中途半端は駄目だろう。このタイミングでゲルドを進化させるのは、丁度良いのだが、あれほど喜ばれるとは思わなかった。
今回は辞退される事もなく、無事に儀式は終了したのだった。
そして、もう一仕事。
迷宮組の所へ向う。
迷宮内にてディーノがラミリスを狙ったようで、その後処理をする必要があったのだ。
話を聞き、今後の対処をする必要がある。
ディーノはベレッタを倒し、アダルマンとアルベルトをも圧倒して、もう少しでラミリスに手をかける寸前だったようだ。
まあ結局は、ゼギオンがラミリスを守護したお陰でラミリスも無事にすんだのだし、ディーノの裏切りを予想して最初から監視させていて正解だった。
だがそれは、ベレッタやアダルマンが弱いという訳では無い。
彼等は十分に強いのだが、ディーノが予想以上に強敵だったという事である。
また、ゼギオンの働きは驚く程に見事だった。
あれは一種の規格外の存在だ。俺の部下の中で、ディアブロと双璧を為す実力者である。
他の守護王達と、一線を画す強さであった。
戦闘記録を見る限り、まだまだ実力を隠したまま、ディーノを一蹴したようである。
なんという恐ろしい子。
正直、コイツが味方で良かったと思うのであった。
という訳で、アダルマン達の働きが悪かったという事はなく、寧ろ見事な時間稼ぎだと褒めたい所である。
なのに、生真面目な彼等は、また自分を責めているのではないかと心配になったのだ。
案の定、
「申し訳御座いません、リムル様。ラミリス様を危険に晒してしまいました――」
呼び出したベレッタに、アダルマン達は、頭を垂れて俺に謝罪した。
やっぱりな。そんな感じに責任を感じていると思ったよ。
「いや、作戦通り時間稼ぎ出来たんだろ? 素晴らしい働きだよ」
「しかし、我は守りの要。
リムル様にラミリス様の守護を任ぜられたにも関わらず、この体たらく――」
ベレッタが尚も言い募る。
余程悔しかったのだろうけど、勝てるか勝てないか見極めた上で、もっとも適切な行動を取っていると思う。
俺が素晴らしい働きだったと褒めてやる事で、ようやく落ち着いたようだった。
勝てもしないのに無謀な突撃をしたりしなかっただけでも、ベレッタやアダルマン達は十分な戦果を上げているのだ。
結果的にはラミリスも無事なのだし、何も問題は無いのである。
それに、
「まあ、お前たちが力不足を嘆く気持ちもわかる。
ならばこそ、更なる力を授けよう!」
と、どこの大魔王だ! という感じにポーズを決めて、俺はアダルマンに手を翳した。
《告。個体名:アダルマンの進化を行いますか? YES/NO 》
YESと念じ、アダルマンの覚醒進化を完了する。
続けて、ベレッタだ。
幸いにもというか何というか、帝国軍との戦闘にて大量の魂を獲得している。それを使用すれば、ベレッタをも進化させる事が可能となるのだ。
俺からラミリスに主となる主従関係を移したとは言え、ベレッタも俺が創造した魔人の一人。今でも、副主人権限は俺が所有しているし、ラミリスを守るという重要任務もある。
強化可能なのだから、覚醒させてやりたいと思う。竜王4体を従えるにも、力は必要となるだろう。
「ベレッタ、お前もだ。今後とも、ラミリスを守り抜け!」
そう命じながら、俺はベレッタの覚醒進化も終了させた。
「は! この命に代えましても!」
ベレッタは俺の言葉に強く頷き、進化を受け入れたようだ。
そして、ゆっくりと療養するようにと言って、自分の持ち場に戻らせる。
まあ、迷宮の防衛は敵がかなりの戦力を以ってしても大丈夫な程に強固なのだが、守護者を攻撃に出撃させる可能性もある。
ベレッタがラミリスの守護と迷宮管理の責任者となるのなら、より安心というものなのだ。
これで一仕事終了だ。
長椅子にて無邪気に眠るラミリスを見舞うと、幸せそうに眠っていた。
大丈夫なようで安心である。
「むにゃむにゃ……ディーノめー!
ワタシの48の必殺技を、全部試してやるんだから……」
寝言か。
こいつ、夢の中では強気だな……。
「無事で良かったな」
起こさないように小さく声をかけて、俺はその場を後にした。
シュナがラミリスの面倒を見てくれているので任せる。寝ているだけなので、大丈夫だろう。
ゼギオンが守る限り迷宮内は大丈夫だと思うが、一応ゼギオンにも話を聞いた。
「ゼギオン、よくやってくれた。
ディーノが怪しいのはわかっていたけど、一番手薄になったタイミングだったな。
お前がいて良かったよ」
「いえ、オレなどまだまだです。
リムル様ならば、オレが出ずとも、時空を超えた一撃で仕留められたのでしょう?
オレに活躍の場を与えて下さったその気持ちに、応えたまでの事――」
何を言っているんだ?
時空を超えた一撃? 出来る訳ねーだろ……。コイツの中の俺は、一体どんな化け物なんだ……
「あ、うん。そうだね……。もしかしたら、出来るかもしれないよね」
「ハッ! リムル様ならば、容易い事かと」
尊敬を通り越し、神を敬うような眼差しになっている気がする。
ゼギオンは複眼なので、俺の想像でしかないのだけれども。
気を取り直して、ゼギオンと暫く話をした。
どうやらディーノに刻印を刻んだらしい。思考操作の類ではなく、生殺与奪という恐ろしいモノである。
対象が術者の意に沿わない行動を取った場合、即座に命を刈り取る事が可能となるのだとか。ただし、相手の行動を制限するなどという細かい制約はかけられないので、相手の行動まで縛る事は出来ない。
対象が嘘を言うとわかるようだが、それ以外にはこれといった制限は無いのだ。強いて言えば、刻印を誰かに告げる事は能力発動の鍵となるので出来ないという程度である。
単純に、生殺与奪を握る為の刻印なのだろう。抵抗判定は、刻印が刻まれた時点で出来なくなる。
つまりは、ディーノでは既に解除不可能という事になるのか。上位能力者による協力があれば、解除も可能かも知れないけれど。
だけどまあ、よくも究極能力所有者に制約をかけれたものだ。
確かに、一度ディーノは死亡した事になるので、その際に命を奪えたのだろう。今のディーノは、ゼギオンの創った仮初の命にて動いているという事。
究極能力『幻想之王』って、ぶっちゃけとんでもない能力みたいだ。
コイツほど、戦闘に特化し、能力との適性が抜群な者もいないような気がする。
補完しあうと言うのか。長所を伸ばす能力を得る者が多い中、ゼギオンは短所を潰す能力を得ている。
自分に有利な状況を能力により作り出せるし、得意分野を伸ばすよりも有効な使用方法だ。ここらは、戦闘センスが重要になってくるのだが、それも特筆して優れている。
ゼギオン、本当に恐ろしいヤツである。
その後、刻印を介してディーノに連絡を行い、釘を刺した。
まあ、あの男に関する限り、敵対してくれる方がマシかも知れない。
無能な味方は、優秀な敵より恐ろしいという。ディーノの場合、敵方に居てくれるだけで、此方へ貢献してくれていると考えてもいいだろう。
せいぜい、ユウキ側の足を引っ張って欲しい所である。
その後も関係各所を巡り、魔物の国での用事を済ませて、俺は帝都へと戻ったのだった。
帝都に戻って来た。
陣頭指揮を取りつつ、能力について考える。
それは、クリシュナが到着するまでに行った中で、もっとも重要な事だった。
悪魔達の近衛騎士との戦いや、その後のユウキ=悪徳の意志との対峙、ゼギオンとディーノの戦い。
それらの出来事にて得た情報から、俺の中で疑問が生じていたのだ。
それは、この世界における根本にして、今まで深く考えなかった事である。
そういうものだ、と流していたのだが、ここ一連の流れの中で疑問として無視し得なくなっていた。
つまり、
能力=スキルとは、何か?
という事である。
俺はこの世界に来た当時から、ユニークスキルを所持していた。
本来、英雄クラスが所持すると言われる、ユニークスキル。
だが、個有=ユニークと言うだけあり、その性能は千差万別である。
ユニークでさえ能力の強さに大きな違いがあるのだ、究極能力ともなれば、天と地ほどに差が出てきてしまう。
究極能力を獲得した者は、世界の理を知る。故に、魔法の行使の上位に存在するのだ。
ユニークスキルよりも上位である以上、究極能力には究極能力でしか対抗出来ないと考えられた。
だが、それは正しいけれども、それが全てではないようだ。
例えば、クロエの『無限牢獄』や『絶対切断』だ。
これらの能力はユニーク級ではあるものの、その強さは実質、アルティメット級だと言える。
戦闘状況次第では、究極能力持ちにも勝てるだろう。
また、アルティメット級である究極付与『代行者』を持っている近衛騎士を、悪魔達はユニークスキルで倒してみせた。
つまりは、ユニークとアルティメットの違いは絶対では無い、という事になる。
そういう点から考えても、スキルとは何なのか、という疑問が生じるのだ。
種族固有スキルはまだ理解しやすい。種族ごとに所持しているという、言葉通りのスキルだから。
エクストラスキルや、剣術や魔術という基本スキルも同様に理解出来る。
こういうスキルは、個人ごとでも熟練度による違いしか発生しないのだから。
だが、個有能力は、個々人に発生し、そのそれぞれに性能も違う。
似通った系統はあるが、同一のものは無いだろう。同じ名前の能力でも、その性能や法則は、恐らく別物である。
今までの経験から、強い望みである渇望によって、能力が覚醒しやすいのは間違いない。
それは才能というよりも、適性。どれだけ望もうとも、存在値が足りなければ獲得出来ない。
ともかく、願いだけで獲得出来るものでもないという事。
だが、獲得した能力の強弱は、その意思に左右されやすい。より強く効果を発揮するには、強靭な意志が必要となるのだ。
結局の所、根源たる力を行使するのは、意思の力であると言う事なのだろう。
後は、能力の性質を見極めて、その正しい使い方を探る事、か。
俺には智慧之王さんがついていたので、正しい行使方法を教えて貰えた。
だが、自力獲得した能力であっても、使用方法を理解出来るというものではない。
いい例が、ディーノだろう。
智慧之王さん曰く、ディーノの能力は大罪系の『怠惰之王』であるらしい。
大罪系は、究極能力の中でも上位に位置する能力である。それなのに、ゼギオンに完膚なきまでに敗北している。
それは、智慧之王さんの予想通りの結果でもあった。俺は半信半疑であったのだが、智慧之王さんによると、ゼギオンが居るならば迷宮は大丈夫だと言い切っていた程である。
結果は智慧之王さんの言った通り。
理由を聞いた所、
《解。個体名:ディーノは、能力の使用方法を間違っています 》
と、さも当たり前の事を言うように説明してくれた。
怠惰な心により生み出された『怠惰之王』は、本人が動けば動くほど弱くなる。なので、本来の使い方は、配下(或いは仲間)を使役する事。
自身の能力を代理で行使させる能力付与にこそ、その真価を発揮する能力なのだ、と。
ギィならば、能力の本質を理解し、正しく使いこなすだろう。しかし、ディーノのような怠け者は、能力の本質に気付く事は無かったようだ。
というより、普段通り人に頼っていたならば、案外本能的に能力を使いこなせていたのかも知れない。
結果は、自分で動いた事による敗北。アイツがああいう性格で、助かったという事だろう。
まさに、働けば働くほど失敗する男の名は、伊達ではない。
他にもマサユキのように、自分で望む訳でもないのに、自然と英雄視されてしまうような、制御の難しい能力もある。
能力の本質を知り、それを使いこなす事がどれほど難しいか、それは自分の心を知る事と同義で難解な事なのだ。
能力を武器か何かと勘違いしているならば、決して本来の性能を引き出す事は出来ないのだから。
次の疑問である。
究極能力を複製し、配下への授与は可能だろうか?
ディーノの能力の本質しかり、『正義之王』による量産型の究極付与しかり。
配下や仲間への能力の譲渡などもそうだが、生み出した能力を譲渡出来るのだろうか?
いや、可能なのは実例があるから否定はしない。
しかし、それが可能なのならば、強力な軍団を生み出す事も可能となるのだろうか?
そこまで思案し、自分の考えを即座に否定する。
考えてみれば、そう都合良くはいかないだろう。
究極付与された近衛騎士は、確かに強かった。しかし、本当に究極付与を使いこなせていたのは、ダムラダと近衛 No.03 である武人、グラニートの2人だけである。
その他の者は、結局は本質を理解せず、ユニーク級しか持たぬ悪魔達に敗北しているのだ。
そのダムラダでさえも、俺の見立てでは、全盛期のヒナタと同等か若干劣る程度。
確かに強いのだが、究極というにはお粗末である。
自分で能力を発現した、近藤という男との違いであろう。
あの男が別格だったのは間違いない。力だけならディアブロに相当するカレラを圧倒した事からも、その事実は揺ぎ無いのだ。
(なあ、配下への究極付与って、俺にも可能か?)
《解。可能です 》
何でもない事だと、智慧之王さんは返事した。
適性ある者に、俺の能力を複製して授与する事は出来るらしい。しかし、使いこなせなければ意味がない。
考えてみれば、『食物連鎖』の対になる『供給』がそれに当たるのか。
最初から、智慧之王さんは適性があり、使いこなせる者へのみ、能力を授与していたのだ。
そして、見込みある者、例えばゼギオンやヴェルドラさんの能力の、強化改造を行っているという事なのだろう。
強力な能力だけを与えても、使いこなす事は出来ないのだ。
それで強化されるならば、最初から提案してくれる。提案が無い以上、それは無駄だという事だろう。
その点を、ルドラは見誤ったのだ。
いや、気付いていても、そうせざるを得なかったのかも知れないな。
人の心を理解し、能力を使いこなす強い願望がなければ、強大な能力を与えても意味が無いのだ。
最後の疑問になる。
そもそも、悪徳の意志とは何なのか?
解離性同一性障害と呼ばれる、多重人格みたいなものなのかもしれない。
しかし恐らくは、スキルに自我が芽生えた、智慧之王の進化したような存在なのだろうと思う。
能力への深い理解も頷ける。
最初の頃、俺の身体を智慧之王さんが主導した時の方が強かったのと同じ事だ。
感情を排した、自律する能力の意思。
厄介な存在だ。交渉も駆け引きも無意味だろう。
世界の崩壊がその主目的なのならば、滅ぼす以外に決着は無い。
改心を期待するのは意味が無さそうだ。智慧之王ならば、いかなる要求も受け入れず、俺の命令を遂行するだろうから。
従えるのは、天使達。
熾天使と呼ばれる上位個体は、覚醒魔王並みに霊子量が高かった。
そして、精神生命体の一種でもあるようだ。
天使の弱点、悪魔に対して劣る点だが、それは意思が無い事である。
精神生命体は、精神力により強さが変化する。エネルギーが高いだけでは、実際には脅威ではない。
それなりに戦力となるだろうけど、命令に従うロボットのようなもので、個体としては弱いだろうと予測する。
だが、強い意志を持つ存在を取り込んだ場合、悪魔に匹敵する存在となるだろう。
今までと異なり、天使達は受肉を果たした。
取り込んだ人の意思が目覚めたならば、厄介極まりない軍団に変じると思われる。
中には、能力を獲得する個体が出る可能性も高いだろう。
そうした個体へ、能力付与を行ったらどうなるのか。
まして、究極付与を行うならば……
使いこなせぬ可能性が高いが、智慧之王と同様に適性を見極める事も出来るのだろうか?
果たして、ユウキ=悪徳の意志が、適性を見極めて能力者を増産した場合、明らかに脅威となると思われた。
ならば、此方も対抗して、幹部達への究極付与を行うべきだろうか?
多少なりとも強くなるならば、ほとんど無駄だとしても実行すべきか悩む所である。
《問。適性者への干渉を行い、能力の促進を行いますか? YES/NO 》
ん?
そうか、進化の途上のヤツ等の手助け、か。
ゼギオンに施したような、能力促進の手助けを行うのか。それも良いかも知れない。
YESと念じた。
敵勢力に対抗すべく、少しでも配下の強化をしたい気持ちが伝わったようだ。
焦っても仕方ないのだが、こればかりは心と思考が乖離するのである。
しかし思えば、俺は常に智慧之王さんに助けて貰ってばかりであった。
今も適切に行動を取ってくれているし、俺の能力の再編も実行中なのだろう。
それなのに俺は、『先生』とか、『ラファエルさん』とか、適当な呼び方しかしていなかった。
だからふと、何の気なしに思ったのだ。
(なあ、智慧之王……お前にも、正式な名前をつけようか?
そうだな……いつも俺に色々教えてくれるから、おしえる≒"シエル"なんてどうだ?)
そう気紛れで言った途端、
《!!!!!!!!》
智慧之王の、狂ったように激しい意思を感じた。
同時に、奔流となって、様々な情報が俺の中に溢れ出す。
《告。究極能力『智慧之王』より、神智核:シエルが誕生しました。
この宣告は、神智核:シエルにより秘匿されました 》
唐突に、"世界の言葉"が俺の心に届いた。
これは……進化、なのか?
ラファエル先生、いや、シエル先生は、秘匿モードに開眼したらしい。
"世界の言葉"すらも隠蔽してのけたようだ。呆れるばかりである。
だが、そんな事よりも……
何だか、物凄く祝福されているような気分になる。どうやら、またしても俺はしでかしてしまったようだ。
まあ、スキルに名前を付けて可愛がるような変態は、流石に今までに誰も存在しなかっただろうしな。
《ワタシ、私は、シエル。神智核であり、能力を統合する者。
魔王リムルの魂にて、主の補助を行う者です。
御主人様、改めて宜しくお願いします!!》
おお……
機械的な口調だったのが、かなり流暢になったぞ!?
心なしか、演算速度その他諸々の性能も向上したような気がする。
俺の能力が全般的に、性能が向上したらしい。
思いつきから、仰天な結果になったものだ。
(宜しくな、シエル……?)
《はい! 宜しくお願いします、リムル様!》
こうして、智慧之王より分離した"シエル"が誕生した。
"シエル"は、俺の能力を統括する補助頭脳として、今まで以上の活躍をする事になる。