189話 天上の軍勢
広大な天上の城。
白亜の柱が立ち並ぶ、謁見の間にて。
純白の翼を持つ天使達が、広間を埋め尽くしている。
その中でも一際大きく力強い3対の純白の翼を持つ者達が10柱、漆黒の翼を持つ者達が3柱、最前列にて跪いていた。
熾天使級13柱の、"終末の使徒"達である。
堕天使であるディーノ達と異なり、純白の熾天使達には表情は無い。
無機質な機械のように、能面のように沈黙を保っていた。
ただし、その内の2柱は、人の意思を宿す迸るような感情を伺わせていた。
熾天使を取り込み復活を遂げた、カガリとヴェガである。
当然ながら、以前を遥かに上回る"力"を得て、その存在値は大幅に上昇しているようであった。
彼等の主は未だに姿を現していない。
召集命令を受けて集合したのだが、予定時間になっていない為だ。
100万もの天使の軍勢の全てという訳ではなく、上位天使の指揮官級のみが集っただけなのだが、それでも広間は神々しいまでの神気にて満たされていた。
静寂な広間にて、
「ねえ、ディーノ。貴方があの方の配下だったなんて、初めて知りましたわよ?」
カガリが密やかに囁いた。
ディーノは気まずそうに、
「言える訳ねーだろ。俺は"監視者"だからな。正体を隠して行動するのがセオリーなんだよ」
と答える。
それもそうだろうと頷き、
「で、負けたらしいですわね? 魔王リムルは、配下もそれほどまでに厄介なのですか?」
一番関心の高い質問を発した。
因縁深き魔王であるリムル。その本人がカガリ達と戦っている隙に、迷宮戦力を無力化するのがディーノの役目だったらしい。
それはカガリにも知らされていなかった、ユウキとディーノとの密約である。
八星魔王に潜り込み、"監視者"として活動していたディーノ。
その目的は頂上からの監視であった。天使に対抗する勢力である魔王達。そこに潜り込み、情報を集めるのがディーノの役目。
そして、ディーノが目立つ地位に付き隠蔽を行いつつ、表舞台に上がる事なく調査を行うのが、ピコとガラシャだったのだ。
堕天使3柱は、人の世を調査するべく放たれた、特殊任務に従事する者達であった。
しかし、ディーノが活動を開始したのには理由がある。
本来、天使に命令出来るのは、ヴェルダナーヴァより究極能力『正義之王』を譲渡された、皇帝ルドラのみであった。
だが、彼の意志力では、熾天使級を動かす事は出来なかったのだ。
つまりは、隠密行動を取るディーノの存在に気付く事も無かったのである。
それなのに、ディーノはユウキとの密約を結んでいた。
吸い寄せられるようにユウキと出会い、その持つ"力"に魅了され――いつしか、ディーノはユウキの命令に従うようになっていたのだ。
理由はハッキリとは理解出来なかったが、恐らくは――
「厄介なんてもんじゃねーよ。本気で洒落にならないレベルだった。
迷宮内で最強と思えるヤツは、俺よりも強いのは間違いない。
確かに連戦で疲れてたし、少し相手を見縊っていた面もあったんだが……
相手はまるで本気を見せずに、俺を翻弄してくれたよ。
――それに、どうやら、何体か、覚醒魔王級が生まれそうだった。
何を言ってるんだって顔すんなよ!
立場が逆なら俺だってそう思うし、お前と同じ反応をするだろうけど、さ」
疲れたように、ディーノが答える。
その様子に、カガリもディーノが冗談ではなく本気で言っているのだと悟った。
「軟弱な事を言う。そんなヤツ、潰せば良い! 心配せずとも俺様が叩き潰してやるさ!」
ヴェガが豪語した。
(いいよな、馬鹿って……)
ディーノはそう思ったが口には出さない。
言っても意味が無いからだ。
カガリは呆れたように溜息を吐き、ピコとガラシャは不快そうに眉を顰める。
しかし何も言わないのは、彼女達もヴェガに何を言っても無駄だと悟ったからだろう。
ヴェガの発言により、場が再び沈黙に包まれた。
カガリはディーノの発言について思案する。
カガリ自身は、熾天使の力を取り込み大きく力を増している。更に、ユウキ以外には知られていない事であったが、魔王としての覚醒も行っていたのだ。
魔王の種子に、一万人分の魂を注ぎ込んで。
覚醒魔王として、そして熾天使の力を取り込んだ者として、究極能力『支配之王』を獲得していた。
絶対的な支配能力を得て、彼女はユウキにより"四凶天将"の位を授かっている。
最も強き4名を指し、"四凶天将"と呼ぶのだ。
その彼女と同格の、"四凶天将"の一人がディーノである。もう一人がヴェガで、最後の一人は不明なのだが……
恐らく、今日の召集はそのお披露目であると考えていた。
今はそれは置いておき、思考を続ける。
自分と同格であるディーノ。
その彼が、洒落にならないと言い切り、翻弄されたと言う相手。
決して油断は出来ない相手だろう。だが、それなのに……
カガリは、心の底から愉快な気持ちが湧き出して来るのを抑えるのに苦労する。
自身が手にした絶大な力。
それを試す機会が、直ぐにでも訪れる事を予感して。
そして……
待っていなさい、レオン。次は貴方が泣く番ですわよ!
カガリは、仄暗い悦びの感情を抑えつつ、思考を続けていく。
果たして、今の自分はディーノよりも弱いのか?
否。決してそうは思えなかった。
ディーノを翻弄した相手であったとしても、カガリならば勝てるだろう。
何しろ、彼女の力は、既に覚醒魔王をも凌駕するのだ。
今のカガリならば、魔王レオンですらも、敵では無いだろうと考える。
カガリは思考を続けながら、ユウキが現れるのを静かに待つ。
ヴェガは何も考えない。
命令を待つのみである。
彼は力を得た。
死を経験した事により、この世の更なる深淵を覗いたのだ。
熾天使を貪るように喰らい、その力を我が物とする。
と同時に、今まで得た能力の欠片が融合し、強化されるのを感じ取った。
敗北が、彼に力を与えたのだ。
暴発する力の化身。それがヴェガである。
ユウキにより創られし存在であり、様々な能力を取り込み融合し、補完しあった結果、ヴェガは究極の戦闘生物へと進化した。
究極能力『邪龍之王』を獲得していた。
それは、既存のスキルを圧倒する、破壊能力を秘めている。
力の制御を考えぬ者にこの能力が覚醒した事は、この世にとっての災厄であろう。いや、何も考えず力にのみ頼るものだからこそ、獲得出来たのかも知れないのだが。
ともかくとして。
ヴェガは待つ。その身に命令が下るのを。
彼はただ、目の前に立ち塞がりし者共を、殲滅するのみなのだ。
ディーノは俯き、現在の状況について考える。
どうしてこうなった? と何度自問自答しても答えが判らない。
遥か昔、あの方より役目を仰せ遣い地上に舞い降りた。
当時は自我らしきものも無かったように思うが、いつしか自分で物事を考える事が出来るようになっている事に気付く。
同僚のピコとガラシャにも聞いてみたのだが、ほとんど同時期に自我に芽生えたようであった。
その力を行使するのも面倒であったが、ディーノは魔王となる為にラミリスの世話になっていた。
聖の属性を魔に堕とす。
当時、ラミリスにしか出来なかった属性変化の秘法を行使して貰ったのだ。
同僚の2人は堕ちる必要は無かったのだが、何故か付き合って一緒に堕天使となる。変なヤツ等だというのが、ディーノの感想であった。
主が消えた後も、ディーノはずっと監視を続ける。
ギィとルドラの勝負の結末は見届ける必要があったし、消えた主への忠義も無くなった訳では無いからだ。
いつか、永き時の果てに舞い戻って来られると、ディーノは信じていたのだから。
そして巡り合った。
一目で理解出来る魂の輝き。
ディーノは、ようやく主が帰還したのだと悟ったのである。
だが、主自身、何やら制約があるようで自由に動く事が出来ないようだった。
なので、今まで通りの"監視者"の任務をこなす。
友人が悩んでいる事を知っていたので、ついでに色々チョッカイをかけたりしつつ、勝手気ままな生活を続けた。
此処までは良かったのだ。
帰還した主からは、ユウキという少年に協力するように、という指示しか出なかったのだから。
問題は、先日のラミリス襲撃に失敗した件である。
恩人でもあったラミリスを始末するのに抵抗はあったが、迷宮を無力化する為にはやるしかなかった。
あの迷宮は明らかに脅威であり、中を守護する魔人達は放置出来ない存在だと判断していた。
全員を葬るのが困難である以上、迷宮を創ったラミリスを狙うのは当然である。
とはいえ、本当に殺すつもりはなく、永久睡眠による封印を施すつもりだったのだ。
だが、それは失敗に終わった。
それだけではなく……
再生された右腕に刻まれた、青い蝶の痣。
どうみても、何らかの制約系能力の呪いか何かだとしか思えない。
道理で簡単に逃亡を許された訳だ、と深く溜息を吐きたい気持ちになる。
あの作戦直後に、ディーノの本当の主が目覚めている。
喜ぶと同時に、自分の不手際を報告する事に憂鬱な気持ちになった。
せめて、相手がユウキだったら……
スマン、失敗失敗! と笑顔で報告出来たのに。
報告を躊躇っている間に、大変な事になったのは自業自得だろう。
結局、ディーノの不安は的中したのだ。
『ようっす! ディーノ君、元気かね?』
聞きたく無かった、悪魔よりも嫌らしい魔王の声が脳内に響いた。
(やっべ、やっぱりこういう系統の能力だったか!?)
解除しようと試みても出来なかった、青い蝶の痣。
付けられた当初よりも美しく輝き、能力が根付いた事を証明するかのように輝いている。
腕輪にて隠しているものの、そんな事で誤魔化せるのは見た目だけだった。
『リムルか?』
『おう、良く判ったな。俺だよ、俺』
『何の用だ? 俺は忙しいんだけど……』
聞きたくないのに響き渡る声に、ディーノは問う。
『いやー何。簡単なお話だよ、ディーノ君。
君、俺に喧嘩売ったらしいね?
迷宮に侵入はまあいいとして、お仲間さんが街を狙ったそうだね。
本来なら、許されざる行為だが、今回は目を瞑ってもいい』
『マジで!? 条件は何だ……?』
『簡単な事だよ。お前はユウキ(仮)サイドなんだろ?
ユウキと俺が全面戦争で勝負する事になったから、お前は何もするな。
スパイをやって貰おうかとも考えたが、その情報は全く信用出来ないしな。
お前も裏切りは心苦しいだろうし』
『は? 強制で聞きだすとかじゃないのか?』
『嘘を吐いたら判るけど、言った後で内容変更されたら一緒だろ?』
ディーノはリムルの言わんとする事を悟る。
言わされた後で内容を変更された場合、対処出来ないという事。
遠距離のディーノの生殺与奪の権利は握ったようだが、行動制限までは無理だった、という事か。
最大規模の軍事行動を、信用出来ない情報を元に作戦立案するのは自殺行為、か。
それでディーノに何もするな、つまり、今まで通りニートしてろ、と?
だが、それでは意味が無いのでは?
『だが、それだけじゃ、お前のメリットが無いんじゃないか?』
『あるよ。お前が戦闘に加わらないだけでも、そっちの戦力を削れるし……
最大の利点は、お前に窓口になって貰える事だな。
戦争するのは良いけど、何か緊急事態になった場合にお前に動いて貰いたい。
まあ、世界を滅ぼそうって相手が、話し合いに応じるかどうかは疑問だけどね――』
なるほど、と納得するディーノ。
あくまでも、魔王リムルは正攻法で勝負するつもりなのだろう。
勝つつもりでいる。降伏勧告をするのに、ディーノを利用するつもりなのだろう。
どこまでも甘い、本当に甘すぎる魔王だとディーノは思った。
或いは、そう思わせる事がリムルの狙いなのかも知れないが……
自分達が負けそうになっても降伏は認められないと理解しているのだろうし、その為にディーノを頼るとも思えないのだ。
『わかったよ。そっちの言い分を飲む。
俺はなるべく監視役に徹する。それでいいだろ?
ああ、そうそう。ラミリスに、スマンって謝っといてくれると助かる』
『あ? 後で自分で謝れよ。アイツ、お前に48の必殺技を全部試すって息巻いてたぞ』
『48もねーだろ! アイツ、ドロップキックしか使えないじゃん!』
『知らねーよ。アイツがそう言ってたんだよ。伝えたぞ?』
『ふふ。わかったよ。じゃあな』
『ああ、またな』
またな、か。
ディーノは久しぶりに、心の底から愉快な気持ちになったのを自覚した。
そして、大変な事になったものだ、と頭を抱えた。
ディーノは、創造主たる自身の主を裏切る意思は一切ない。
かと言って、このまま正直に報告しても、ディーノが消されるだけだろうと理解している。
面倒な事になったな、というのが正直な気持ち。
だが、
(まあいっか。どうせ、俺って大して役に立たないし。
というか、真面目に働けば働くほど、弱くなるんだよね。
働くな、って言うんだから、願ったり叶ったりだろ!)
常に前向きに、サボる事に関して他の追随を許さぬ気楽な思考で、結論を出す。
そして、少しスッキリとした晴れやかな顔になり、主の到着を待つのだった。
そのポジティブさが、ディーノという男の恐るべき点なのだ。
時間になった。
厳かに鐘が鳴り響き、扉が開かれる。
玉座へと、一人の少年とそれに付き従う天女が一人、悠然と歩いて出て来る。
少年はユウキ、いや、ユウキの中に居たもう一人のユウキだ。
天女は、銀髪でサラサラの長髪を背中に流した美女である。ただし、その顔には一切の表情が欠け落ちている。
能面のような美貌を持つ、美しい女性であった。
ユウキが椅子に座ると、自然な動きでその右側に天女が立つ。
「面を上げよ!」
凛とした、美声が広間に響いた。
それを合図に、集合した者が一斉に立ち上がり、整列する。
「やあ、皆。久しぶりだね。初めまして、の者も居るようだけど。
ボクは"星王竜"ヴェルダナーヴァの心核を魂に宿す者。
ユウキと一心同体で、珍しい事に一つの魂に二つの心核があるんだ。
今はボクの番って事で、宜しく頼む。
ボクの事は、ユウキではなく、ヴェルダと呼んでくれ」
そう言って、ユウキ、いや、ヴェルダは話出す。
ヴェルダナーヴァは、ルドラの妹であるルシアと結婚した際、ヴェルダ・ナーヴァと改名していた。
故に、正式な自分の名前を名乗る事を良しとするのだ。
そして今、天上の城に真なる主が降臨した。
広大な謁見の間は、天使達の意思なき祝福により、圧倒的な神気により歓喜の波動に包まれた。
彼等の真なる造物主が、永き時を経て帰還したのだ。
ヴェルダは、魔王リムルに宣言した通り、大戦により全ての決着を付けるつもりである。
それが、彼の下した最終判断であり、彼を再生した創造主の意志でもある。
嘗て無く大規模な大戦になるだろうというのは、簡単に想像出来る事であった。
彼は、自分の正体がわからない。
彼は悪徳の意志であり、世界の破滅を望む者である。
幾つもの世界を彷徨い永劫の時を経て、ユウキの魂に宿ったのだ。
ユウキが小学生になったばかりの頃、両親が事故に巻き込まれて亡くなった。
居眠り運転をしていたトラックに正面衝突されて即死したのだが、その時目覚めたのだ。
ユウキの、世界の破滅を望む意志が、悪徳の意志を目覚めさせたと言える。
以来数年の月日が流れ、再び世界を渡る事になったのは、偶然なのか必然であったのか。
その時ユウキが獲得した究極能力『創造之王』により、欠けた記憶の欠片を再生し、確固たる意志と為したのだ。
悪徳の意志は、その時に再び、ヴェルダとしての記憶を取り戻したのである。
ただし、その力は当時のユウキには大きすぎた。
目覚めたばかりのヴェルダは、その力の大半を消費して、究極能力『創造之王』をユニークスキル『創造者』へと退化させたのだった。
そして、共存共栄の関係のまま、今に至る。
彼の記憶によると、彼の正体はヴェルダ、つまり"星王竜"ヴェルダナーヴァの心核である。
魂の力の大半は、娘であるミリム・ナーヴァへと受け渡された。
その残滓こそが、彼、ヴェルダ・ナーヴァなのだ。
だが、本当に自分はヴェルダなのだろうか? 単なるスキルに目覚めた意志である、悪徳の意志でしかないのではないか。
常にその疑問が、ヴェルダの心には宿っていた。
"星王竜"ヴェルダナーヴァは滅び、ヴェルダが残った。
では、今の彼は"星王竜"と呼べるのか? 答えは、否。
彼は一度力を失った抜け殻であり、とてもではないが、全盛期の力には及ばないのだ。
だが、何も問題ない。彼の力は健在であり、譲渡していた『正義之王』も回収済みである。
そもそも、ヴェルダには再び元に戻した究極能力『創造之王』があるのだ。
彼の目的は単純明快。
ルシアを復活させる事。そして、彼が本当にルシアを愛した"星王竜"ヴェルダナーヴァの心核であるのか、確かめるのだ。
世界を何度滅ぼしてでも、魂を何度も巡らせて、ルシアの魂を呼び戻す。
何度も何度も滅ぼして、果て無きその先に、彼女を取り戻す事こそが彼の願い。
魂の欠片を集めて、心核を取り戻す。
その成功確率は、可能性としては在り得ぬ程に極小ではあったが、決してゼロでは無いと答えが出ていた。
ならば、実行するだけである。
ユウキという宿主とは、世界を滅ぼすという点で、目的が一致した。
故に、協力関係を結んでおり、対等の付き合いをしているのだ。
今はヴェルダの番。彼が交代を望むまで、ユウキは魂の奥底に封じられる事になる。
さて、保管されていたルシアの肉体に熾天使を宿させ、生前の姿を復活させた。
心無き人形のようなルシアに、『正義之王』を移す。
悪徳の意志に近い性質を持つ正義之王は、一度ヴェルダが取り込んだ事により、ヴェルダに忠実な意志を宿した。
ルシアの肉体を守る守護者として、最も適任であると言える。
ヴェルダがルシアを想う限り、ルシアの肉体には傷一つ、何者にも触れる事さえ出来ないのだから。
元々ルシアが持っていた究極能力『知識之王』は、彼女の死とともに失われたようだ。
ついでに言えば、ルドラに正義之王を譲渡した時に代わりに預かった、究極能力『誓約之王』も同様に失ってしまっている。
自分達の魂が完全に砕かれて、世界に散ったからだろう。
ヴェルダだからこそ、心核だけになってしまった状態からでも復活出来たのだ。
ルシアを復活させる事は、"星王竜"ヴェルダナーヴァであった頃ならばいざ知らず、今のヴェルダでは容易い事ではないのである。
先ずは、能力の回収を行うべきであった。
いつか何処かで生まれるだろう、究極能力『知識之王』は、何が何でも手に入れる必要があるのだ。
慌てる事はない。
時間は無限にあり、彼の寿命にも限りが無いのだから。
世界を滅ぼし尽したその先には、必ずルシアが待ってくれているだろうから。
ヴェルダは、自身の存在理由を再度確認すると、天使達を睥睨する。
嘗て、自身が生み出した者共。
召喚には大量のエネルギーを必要とするが、希薄ですぐに消滅する破壊の軍勢。
だが、今回は自分のエネルギーを消費する事なく、天使達に肉体を与える事まで終わらせている。
準備は万端であると言えた。
13柱の、"終末の使徒"達。それと、ヴェルダに忠実だった守護戦士。
その14名が、ヴェルダの最強の部下となる。
筆頭にルシア。
その身に宿らせたミカエルが、熾天使の力を行使してルシアを守るだろう。
続いて、最強の4将である、四凶天将。
元魔王のカザリームこと、カガリ。
相棒であるユウキと共同で生み出した、ヴェガ。
古き部下である、ディーノ。
そして、守護戦士である彼。
堕天使のピコとガラシャは、ディーノの部下という扱いだったが、ルシアの身の回りの世話をさせる事になる。
残りの7柱は、
懲罰の七天使。
天使の軍勢を率いる、別働隊の隊長格だ。
ユウキの部下の中で魂の強き者達を、熾天使を用いて蘇生したのである。
アリオスという名の暗殺者を筆頭に、7名。
究極能力『武器之王』に目覚めて、盾、剣、斧 鎚、槍、鞭、弓を得意とする者達であった。
世界を滅ぼすのに、十分な戦力である。
ヴェルダの演説を聴く天使達に、表情は無い。
しかし、彼等は創造主の命令に従う事を至上の喜びと感じ、命令が下るのを待ちわびていた。
開戦の日は、もう間もなくなのだ。
ミランダさんは、魂を壊されたので、復活出来ませんでした。