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転生したらスライムだった件  作者: 伏瀬
天魔大戦編
194/304

187話 監視する者

 ディーノは何処から取り出したのか、身の丈程もある大剣グレートソードを構えた。

 肉厚幅広の片刃剣で、その重量で敵を叩き潰せそうな殺傷力の高そうな剣である。

 服系統の装備に皮鎧という軽装に似合わぬ、重厚な武器。"崩牙"という銘の神話級ゴッズ大剣グレートソードであった。

 対するベレッタは、素手。

 だがその肉体は、元はリムルが作製した魔鋼にて構成されている。

 しかし現在、ベレッタの魔力とよく馴染んだ結果、材質はゼギオンと同様の生体魔鋼アダマンタイトへと変質していた。

 魔力が通う事で、伝説級レジェンド以上の強度を秘める凶器となっていたのだ。

 通常の武器では傷一つ付ける事の出来ない、迷宮内で最硬度の存在。それがベレッタである。

 武器を構えるディーノに対し、武器を持たないベレッタが不利という事はないのだ。

 だが、ディーノの武器の攻撃性能は、ベレッタの防御力を上回る。

 両者の間に緊張が走り、ディーノがそれを打ち破るような気安さで動いた。



 徒手空拳でありながら、ベレッタはディーノの剣撃を上手く受け流す。

 決して正面から受ける事なく、攻防一体となった動きにより、ディーノを翻弄する。

 ディーノの攻撃が剣のみであるのに対し、ベレッタは全身が凶器である。素手は不利とならず、逆に様々な攻撃手段と成りえていたのだ。

 聖魔人形カオスドールであるベレッタにとって、属性変化もまた得意とする所である。

 魔属性攻撃に慣れた所に聖属性を打ち込んだり、対個人用の局所聖結界にてディーノの部位を封じたり。

 自らが有利となるように、計算された動きによりディーノに相対していた。

 だが、そのベレッタの内情は焦りこそしないものの、針の穴を通すような繊細なまでの演算により、辛うじて現状を維持している状況だったのである。

 何しろ、聖も魔も、属性攻撃が決定打とならないのだ。

 ディーノは堕天使である。本来は聖属性が魔に転じた存在として、聖属性が苦手なハズなのだ。

 だが、ディーノにとっては、聖も魔も、馴染みのある属性となっており、弱点ではなかったからだ。

 ベレッタのように、両属性を使いこなしている訳では無い事だけが救いであった。

 そして、ベレッタのユニークスキル『聖魔混合』によって両属性を融合した一撃だけは、何とかダメージが通るという状況だったのだ。

 対して、剣による攻撃のみとは言え、その一撃は容易くベレッタを切り裂く事が予想された。

 生体魔鋼アダマンタイトの強度は、神話級ゴッズの武器の前には非常に頼りないものとなる。

 一見ベレッタが有利に戦闘を進めているのだが、一手間違えると即座に逆転されてしまう状況なのだ。

 その事をよく理解しているベレッタは、決して勝負を仕掛けずに時間稼ぎに徹していた。

 自分ではディーノに勝てない事は理解出来たし、彼にとっての勝利とはディーノを倒す事ではない。

 確かに勝てるならばそれが一番良いのだが、この状況における勝利とは、ラミリスを守り通す事なのである。

 ラミリスさえ守りきれれば、自分が倒された所で、後に復活も可能となる。

 故に、ベレッタは何よりも時間稼ぎを優先し、決して焦らずにディーノの攻撃を捌きつつ、我が身を犠牲にする事も視野に入れた戦法を取っていたのであった。



 対するディーノは、ベレッタの意図を正確に見抜いている。

 ただし、見抜いたからそれを破れるのかと言うと、そうでもないのだ。

 警戒すべきは、『聖魔混合』による複合攻撃のみ。

 聖と魔を交互に織り交ぜたオーラにて身体を覆い、属性防御を突き抜けて攻撃してくるのだ。

 事実上、この攻撃に対する防御は不可能。意思の力と自身の魔力で上回らない限り、必ずダメージを受ける事になる。

 究極能力アルティメットスキルを持つ自分に対し、たかがユニークレベルでダメージを通せるという事自体が驚異的なのだ。

 ベレッタの、驚くべき程に高い攻撃センスを褒めるべきであろう。

 ただし、その能力は防御には生かされていない。

 高すぎる防御力のせいで、身を守る術は苦手としているようである。

 今の所、ディーノの攻撃を上手く捌いているのだが、それは飽く迄もディーノがベレッタの攻撃を喰らうのを警戒している為である。

 ディーノが本気で攻撃に転じた場合、ベレッタは無事では済まないだろう。

 ディーノは慎重に、ベレッタに隠し玉が無い事を確かめる。

 非常に面倒だが、ここでベレッタを無力化するには必要な作業なのだ。

 何しろ、殺してしまっても直ぐに復活するのである。

 迷宮各層の守護者を眠らせたのも、それが原因であった。

 ラミリスの配下でない者は、"蘇生の腕輪"を破壊する事により殺す事も可能なのだが、直下の者は殺しても復活してしまう。

 非常に厄介な能力を、ラミリスに与えられているのである。

 だからこそ、迷宮内ではラミリスの配下を倒すのではなく無力化し、その隙に大本であるラミリスを仕留める必要があったのだ。


(面倒だぜ、本当。ベレッタ一人相手でも、これだけ手間がかかるなんてな……)


 実は最初、ディーノは祝勝会にて進化の儀式が行われた事を把握していなかった。

 ユウキからの頼みで、祝勝会の最中にギィへ連絡を行い、リムルとぶつけるように画策していたのだ。

 そして、自身は巻き込まれないように隠れて様子を見ていたのである。

 全てはユウキの策であり、彼はそれに協力する立場にあった。

 策は上手く行き、ギィが暴れ出しそうな気配はあったのだ。だが、何故か和気藹々と打ち解けてしまい、策が失敗した事を悟る。

 このままでは自分のスパイ行動もバレるだろうし、潮時だと撤退を決意したのだが……

 迷宮内の様子が可笑しい事に気付いたのだ。

 まるで、眠りにつくかの様に静かになっていたのである。

 チャンスであった。

 自分の仕えるあの方、ユウキの中に潜む者の為にも、ラミリスの存在は障害となる。

 個人的にはラミリスの事は嫌いではないのだが、本来の役割を忘れたように好き勝手に生きるラミリスは、ディーノの主にとっては危険な存在となっていた。

 いや、正確にはラミリスが危険というのではなく……その生み出した迷宮が危険過ぎるのだ。

 不老不死の魔王に匹敵する魔人達が、大量に棲息する迷宮。

 難攻不落どころでは無い。

 まして、その最奥にて、滅ぼすべき文明の根幹とも言える最新技術の研究が行われている。

 正面から攻め込み、あの研究施設を破壊するのは、並大抵の戦力では達成不可能であるのは間違いないのだから。

 故に、どうしても迷宮ごと封印する必要があった。

 手っ取り早いのは、ラミリスの抹殺である。他に方法を模索する時間も無く、ディーノは決意したのだ。

 ユウキは常に迷宮を危険視していた。

 そして、ラミリスの能力を。

 迷宮の中に囚われて、入り口を塞がれた場合、そこからの脱出も困難になる、そういう事も言っていた。

 世界を創造する能力の片鱗たる、ラミリスの『迷宮創造』は、余りにも危険すぎる能力なのだ、と。

 ディーノもその考えには賛同する。

 故に、この場にて、ラミリスを仕留める必要があるのだ。


 迷宮内の強者達は、体力が大幅に奪われていたようで、簡単に眠りに落ちている。

 今ならば邪魔は入らない。

 仲の良かった友として、ラミリスを仕留めるのは多少心苦しいのだが、それでも躊躇いは無かった。


「ベレッタ、お前は良くやったよ。眠れ、"怠惰なる眠りフォールンヒュプノ"!!」


 能力の再使用可能時間になり、ディーノは躊躇わず究極能力アルティメットスキルを解き放つ。

 強力な、催眠誘導。

 意思の力による抵抗は無意味。眠りの必要な者は、必ず目覚めぬ眠りに落ちるのだ。

 広範囲に渡る影響を及ぼす、強力無比なディーノの能力であった。

 殺しても無意味と知っていた為に、ディーノは能力による効果にてベレッタを仕留めたのだ。

 それはベレッタだけではなく、この部屋にいてラミリスを守ろうとしていたシンジ達も同様であり、守られる対象であるラミリスもまた、能力の影響を受けて眠りについていた。


「真面目にここには強い者が多すぎる。本当、やれやれだぜ」


 崩れ落ちるベレッタを確認し、ディーノは呟いた。

 眠りこけるラミリスを一瞥し、


「本当、こんな事をしたくは無いんだが……許せとは言わない。サヨナラ、ラミリス」


 冷酷な光を瞳に宿し、ディーノは躊躇わずその手をラミリスへと伸ばす――




 悪魔族デーモンは、眠りの必要ない種族である。

 だからこそ、ベレッタは辛うじて、能力への抵抗に成功していた。

 煌く光を纏ったディーノの手刀から、その身を盾にしてラミリスを守る。

 ディーノの手刀は、易々と生体魔鋼アダマンタイトであるベレッタの身体を穿つ。

 魔力による防御を纏わぬ今、ベレッタの防御力など意に介さないようだ。

 抵抗レジストに成功したとは言え、それは単純に眠らなかったというだけの事。

 低位活動状態スリープモードへと強制的に堕とされて、ベレッタの戦闘能力は既にない。

 だが、


「ふ、ふふふ。敢えて核を破壊されました。これにより、私は死亡し、無傷で復活します。

 まだまだ終わりでは無いのですよ、ディーノ。貴方に主は殺させない!」


 ベレッタの声には絶望の響きは無く、自分達の勝利を確信していた。


「馬鹿め。お前が復活するまでの僅かな時間で、ラミリスを仕留めるのなんて造作もねーよ!」


 ディーノがベレッタの言葉を否定しようと叫ぶ。

 しかし、ベレッタの確信は正しかった。

 彼が時間稼ぎをしている間に、状況は好転していたのだ。

 というよりは、そもそもこの迷宮内に於いては――


「いや、それはさせません。

 この、"冥霊王ゲヘナロード"アダルマンが相手です!」


 ディーノの声に反応するように、研究室へと一人の男――いや、骸骨が入って来た。


「時間稼ぎを頼みます、アダルマン」


 信頼を込めてそう声をかけ、ベレッタは光の粒子となり消えていく。

 後を引き継ぐように、アダルマンは大きく頷いた。

 迷宮内にて、第二の戦いが始まる。






 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−






 本当に嫌になる。

 それは、ディーノの偽らざる感想であった。

 アダルマンもまた、ディーノの敵では無い。しかし、"蘇生の腕輪"を破壊しない事には、完全に仕留める事は出来ないのだ。

 逆にアダルマンからすれば、格上であるディーノ相手にも十分に時間稼ぎが可能という事。

 まして、


「余所見するとは、余裕だな?」


 そう声が聞こえ、鋭い斬撃が頬を掠める。

 アダルマンに続き現れた、アルベルトの剣によるものだ。

 超一流の剣士でもあるアルベルトの、神話級ゴッズの武器による一撃。

 まだ武具を使いこなせてはいないようで、ディーノが有利なのは間違いないのだが……

 復活したベレッタとアルベルトという二人の壁役により、アダルマンへの攻撃が防がれる。

 そして、強力な補助魔法に回復魔法の支援により、二人の攻撃はディーノに届くのだ。

 究極能力アルティメットスキルを持つ者に、魔法は通じない。

 これはある意味、魔法の上位に存在する究極能力アルティメットスキルなのだから当然の結果である。だが、直接的な効果ではなく間接的な効果を与えるだけならば有効なのだ。

 つまり、弱化魔法等は通用しないけれども、前衛の仲間への補助は有効と言う事。

 それも一流の大神官クラスのアダルマンの〈神聖魔法〉に〈死霊魔法〉の複合効果である。

 ベレッタも先程を上回る能力を発揮し、アルベルトも超一流。

 精神生命体にすらダメージを与えうる、前衛二人による超絶技の応酬。

 取っておきの眠りについても、睡眠を必要としない死霊や悪魔であり、有効打となっていなかった。

 圧倒的に格上であるハズの自分が、3人居るとは言え格下相手に苦戦するなどと……永きに渡るサボり癖のせいで弱くなったのだろうか? と自信を無くすディーノ。

 そんなふざけた思考をする辺り、ディーノにはまだ余裕があると言えるのだが。


「うるせー! 2人掛かりでか弱い俺に向かって来てる癖に、偉そうに言うな!

 クソっ! それに、何でだ? タイミング良過ぎるだろ!?」


 あまりにも、アダルマンが現れたタイミングが絶妙過ぎる。

 ディーノが範囲攻撃である"怠惰なる眠りフォールンヒュプノ"を使用した直後に、アダルマンが現れたのが不自然だ。

 まるで、最初からその攻撃が来ると予測していたかのような……

(いや、流石にそれは考え過ぎ、か……)

 自分の考えを否定して、ディーノは前衛2人の攻撃を捌ききる。

 超絶技を持つアルベルトの剣技に匹敵する辺り、ディーノも高次元の剣士であるのだ。

 ただし、それは技術よりも肉体性能により互角以上に戦えているという事になるのだろう。

 ディーノの『怠惰之王ベルフェゴール』は、普段動いていなければいないほどに、力を増すという特殊効果があるのだから。

 判りやすく言うならば、エネルギーの貯金が出来るのだ。

 一時に出せる最大量に限界があるけれども、通常以上の超常状態ハイパーモードを任意で使いこなせるのである。

 その能力により、ディーノは一時的に圧倒的な戦闘力を得る事が可能なのだ。

 だからこそ、未だに余裕があるので、目の前の3人の戦い方を見極め効率良く仕留める算段を行っているのだが……


「ふっ、ふははははは! 愉快愉快。教えても問題なかろう。

 お前は監視されていたのだよ。

 当然だろう? 此処が何処だと考えているのだね?

 偉大なる、魔王リムル様のお膝元だよ? 君が好き勝手出来る筈もない。

 当然だが、この戦闘も監視モニターされているとも」


 まるで、当然の事だと言わんばかりに、アダルマンが告げた。

 いや、考えて見れば頷ける。

 ディーノから見ても、魔王リムルは深謀遠慮を張り巡らせる、恐るべき知略の持ち主なのだから。

 だとすれば、最初に"怠惰なる眠りフォールンヒュプノ"の抵抗レジストに成功しても直ぐにやって来なかったのは、もう一度使用されるのを警戒しての事なのだろう。

 殺しても復活するという事を知るディーノならば、確実に眠りの攻撃による無力化を狙うと予想されていたのだ。

 そして再使用までの時間も把握され、彼等を完全に沈黙させる有効な手段は無いと舐められているという事になる。

 何よりも――


(この、俺を……"監視者"である俺が、監視されていた、だと!?)


 ――それは屈辱。

 本来、不真面目な性格であるディーノのプライドを刺激して、アダルマンはディーノを激昂させる事に成功した。

 少ない労力で最大の成果を上げる事を至上とするディーノだったからこそ、無駄にエネルギーを使用する能力の使用を忌避していた。

 だが、無い訳では無いのだ。

(いいだろう、さっさと終わらせてやる!)

 怒りでディーノは全力を解放する。出し惜しみする気は無くなっていた。

 監視する者が監視されている事に気付かないという最大の失敗をしでかしたのだ、この状況を知る者を生かしておく事は出来ないのである。


「面倒だが、そうも言ってられねーんだ。

 悪く思うなよ! "滅びへの誘惑フォールンカタストロフィー"!!」


 法則が書き換えられて、プラスの因子がマイナスへと逆行を開始する。

 それは、生者も死者も関係なく、活動を停止へと至らしめるエネルギー。ただし、そこに強制力は存在せず、術の対象が自主的に滅びへの道を歩むのだ。

 催眠術の一種とも言えるのだが、次元が異なる効果を及ぼす。

 抵抗レジストに失敗した者は、必ず死に至るのだから。

 もっとも、今回は誘導の先が"滅び"であったのだが、催眠による特定効果を対象に行わせる事も可能となる。汎用性のある能力なのである。

 音を伝達に利用している訳ではないので、結界等により防御出来ないのも特筆すべき点であろう。

 七つの大罪の一つ、"怠惰"に相応しき、恐るべき究極能力の一つと言えた。

 それは、知恵有る者、感情を有する者への絶対支配を可能とする能力なのだから。


 ディーノは能力の発動により、この場に居る者全てが倒れ伏し、死亡するのを確認した。

 思った以上に梃子摺った。

 これが、究極能力を獲得もしていない格下の存在であり、しかも一魔王の配下でしかない事実に戦慄する。

 正確には、ベレッタは掛け持ちであり、ラミリスの配下になるのだが、そんな事は関係ない話であった。

(まったく……これで、魔王リムルの配下の中でも最上位じゃないんだよな)

 ディーノがぼやきたくなるのも当然の話。

 ディーノの主観によると、今相手したのはリムル配下の中でも中堅所と言える者達だったのだ。

 アルベルト等は、評価を上方修正せねばならないだろう。

 緊急事態になったらしく、上位陣が出動した。残った中でも上位のベニマルも出掛けたのを確認している。

 残る脅威はシオンが居るが、その彼女とて究極能力アルティメットスキルに目覚めてはいない。

 念には念を入れて、状況を確認し、成功率が高まるギリギリまで粘って正解だったようだ。

 今倒した3名に加えて、ベニマルやシオン、ソウエイなどが参戦していたら、敗北はしないまでも状況はより困難になっていただろうから。


 一先ず安堵し、成果を確認すべくラミリスの死体へと手を伸ばすディーノ。

 "滅びへの誘惑フォールンカタストロフィー"は催眠誘導波を周囲に撒き散らす能力であり、逃げ場は無い。

 眠っていようとも、浴びてしまえば効果を発揮する。寧ろ、眠っているならば抵抗も出来ずに死亡するだけなのだ。

 ディーノはラミリスの死を確信し、その死体に触れた。


 ――触れた・・・、ハズだった。


 その死体が光の粒子に変わり、蝶の姿を象り、ディーノの周囲を飛び回る。

 まるで、ディーノを嘲笑するように……。

(――まさか……幻覚、だと!?)

 信じたくないし、信じられない。

 だが……確かに、アダルマンはこう言っていた。

 この・・・戦闘も監視されている、と。

(あれも、挑発だったのか? 俺の奥の手を使わせる為の……!?)

 そう、考えて見れば、ディーノに対し有利になった訳でもないアダルマンが、あそこであの発言をするのは不自然だった。

 だが、有利な状況になっていたのだとすれば、納得出来ない話では無い。

 つまり……


 コツン、コツン――

 と、ゆっくりと何者かがやって来る足音が響いた。


 悠然と歩み寄るその者へ、美しい光の蝶が舞うように飛んで行き、その腕に触れる。

 そして、その姿は愛らしく眠る妖精の姿へと戻っていき……無邪気に眠るラミリスは幸せそうに眠っていた。

 その腕のラミリスを、いつの間にか気配も無く横に立っていた青黒髪の男へとそっと渡し、


「ソウエイ殿、ラミリス様を頼む」


 静かに告げる男。


「ああ、任せろ。援護は?」

「必要ない。オレ一人で、十分だ」


 最初から、ラミリスへの防衛は完璧に施されていた。

 最も安全な迷宮最奥にて、幾重もの罠を張り巡らせて。

 とある者の指示により、忍び寄る者の能力を丸裸にすべく、小出しに戦うように命令されていたのである。

 彼等はその命令に忠実に従った。

 知らぬはラミリスばかりなり、である。


 そして、今――

 迷宮内の、最強の存在が動き出した。

 能力を進化させるべく繭となっていたのだが、その意識は常に覚醒していたのだ。

 思念リンクにより、常に連携を取り合い、状況は完璧に把握している。

 その圧倒的な絶対防御の加護により、ラミリスの安全を確保して。


 迷宮内にて、第三の戦いが始まる。

 ディーノの前に立つのは、 "幽幻王ミストロード"ゼギオン。

 この迷宮の、絶対強者であった。

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[良い点] めっちゃ鳥肌たった!ギゼオン! くぅーー!! 何回みてもここめっちゃ良い!!!
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