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転生したらスライムだった件  作者: 伏瀬
竜魔激突編
183/304

177話 黒色軍団

 リムルの命令により悪魔達が召喚された時、流石に帝国軍上層部はその異常性を察知していた。

 ザムド少将もその一人である。

 悪魔召喚の為の門が出現した時、


「あ、ありえない……あんな巨大な悪魔召喚門(サモンゲート)など……」


 と部下の魔導師が呟いたのを聞き逃さなかったのだ。

 即座に魔素量(エネルギー)測定を行わせ、現実に気が付いたのだった。

 召喚された悪魔達は、それぞれが上位悪魔(グレーターデーモン)以上の大悪魔達であるという事に。


「あ、有り得ん……。一体どれほどの戦力だと言うのだ……」


 思わず、現実を認めたくないという思いが言葉となって零れ出た。

 その言葉を聞き逃さなかったグラディムが、ザムド少将に目を向ける。

 隠しても仕方ないのだ。ザムド少将はそのまま事実のみを告げた。

 すなわち、帝国軍の将兵の強さを上回る、大災害規模の悪魔の軍団が出現したのだ、と。

 数で上回っていたとしても、質の違いはどうする事も出来ない。

 このままでは蹂躙を待つばかり。

 自分含む帝国の上層部は生き残れるだろうが、末端の兵達は皆殺しとなるだろう――と。

 グラディムは信じたくない思いではあったが、ザムド少将は冗談を言うような男ではない。

 寧ろ真面目で、几帳面な男なのだ。

(ッチ。たかが魔王と侮ったか……)

 後悔しても、もう遅い。

 後は出来る事を為すだけである。

 この場に彼等の皇帝陛下も居る以上、無様な戦いは出来ないのだ。

 グラディムは即座に決断し、下に退避させていた自分の軍団を指揮するべく、転移魔法陣を発動させた。



 魔獣軍団の構成員は、獣王グラディムが選別し鍛え上げた精鋭である。

 古き時代に活躍した英雄の血を持つと言われる、生まれつきの強者達の集まりなのだ。

 そして、彼らが従える魔獣達は、A-ランク相当以上の力を持つと言われていた。

 DNA解析による魔獣の培養により生み出された、人造合成獣(バトルキマイラ)。戦闘に特化した能力を持つ、一種の兵器なのだ。

 そしてまた、それを支配し使役する団員達もまた、A-ランク相当以上の力を有しているのは当然だった。

 彼等は相棒と同時に戦うならば、地上においては無類の強さを発揮するのである。

 しかし、ここは海の上であり彼等にとっては不利な状況にあると言えた。

 だからこそ、急ぎ舞い戻った獣王グラディムは、一つの命令を発したのだ。


「総員、聞けい!! これより、秘匿命令を発する。

 計測班によると、あの悪魔達は個々がAランク以上の能力を有している。

 このままでは、多大な被害が出ると予測されるのだ。

 故に、最終手段でもって対抗する。

 特殊投与能力(メディカルスキル)『獣身化』の発動を許可する。

 速やかに実行せよ。敵は待ってはくれぬのだ!!」


 禁断の命令が発動された。

 特殊投与能力(メディカルスキル)『獣身化』とは、魔獣のDNAの解析も行っている技術局が開発した能力(スキル)である。

 その能力は、魔獣と兵士との融合。

 人に魔獣の力を付与させる、禁断の能力。

 禁断と呼ばれるに相応しく、能力(スキル)とはいえ、一度発動したら自力で解除出来ないのだ。

 研究所付属病院にて、薬の除去を行う必要があったのである。

 自分の相棒と、自分の身を同化させる事により、単純な使役をも超える力を宿す戦士を生み出す事が可能となる。

 投与する薬剤は錠剤として配られており、何時でも使用は可能であった。ただし、その使用許可は軍団長のみに許された秘匿命令(シークレットコマンド)なのだ。

 秘匿されるには、もう一つ理由がある。


 死亡率:10%

 適合失敗による完全魔獣化率:20%

 暴走率(人型・魔獣型含めて):30%

 身体変質による副作用発生率:20%


 という、余りにも不確かな影響が多数発生するからであった。

 実質、完全な成功率は20%でしかない。

 しかし中には、グラディムのように成功し、魔獣の力を取り込み生還する者もいる。

 そうした者は、どんどんと新たな魔獣の能力を取り込み、力を増していくのだ。

 1%にも満たない、完全適合者。

 魔獣騎士(キマイラナイト)と呼ばれる、獣王グラディムの側近達がそれである。

 獣王グラディムはこの状況でも冷静に、魔獣軍団の団員達に、「死ね」と命じたのだ。

 どの道、力を得られないのならば、この場で悪魔の餌になるしかないのだ。

 この命令は冷酷ではあったが、合理的でもあったのだ。

 団員達は、速やかに命令を実行する。

 内容は知らされており、その行為が死に直結する可能性が高い事は熟知していた。

 しかし、獣王グラディムへ対する絶対なる信頼が、彼等を迷わせる事なく命令を実行させたのだ。

 結果として、

 3万名いた魔獣軍団は……


 暴走魔獣7,700体に、完全魔獣5,800体。

 暴走獣人4,500名に、魔獣人兵7,400名。

 魔獣騎士(キマイラナイト)550名。


 大きく数を減らす結果となった。

 暴走する者は即放出され、上部甲板で暴れ始めている。念の為に、事前に暴走に対処する為の排出魔法陣を張っておいのだ。

 これは、周囲に待機した魔法使い達の役目であった。こうしないと、仲間であった者から攻撃を受ける事になるからである。

 そして理性を残し戦える者は、半数にも満たない13,750名となる。

 意思ある魔獣となった者も戦力として数えていてこの数なので、大幅な減少であると言えるだろう。

 しかし、獣王グラディムは満足気に頷く。

 予想よりも多く、魔獣騎士(キマイラナイト)が誕生したからである。

 元々、側近としての成功例は100名程度だったのだ。

 選別し、成功確率の高い者だけで実験していた為に、中々に数を増やす事は出来なかったのである。

 しかし、今回の緊急事態のお陰で、質の高い魔獣騎士(キマイラナイト)が450名も生まれたのは僥倖であった。

(これで勝てる!)

 獣王グラディムは確信すると同時、軍団を再編し、戦いに備えるのだった。






 ――奴等を殺しつくせ!


 その命令を受けて、黒色軍団(ブラックナンバーズ)の悪魔達は歓喜とともに力を解放した。

 そして、海上に退避している船へと、我先に殺到しようとしたのだ。

 空に浮かぶ100隻は、彼等の主の獲物である。

 後方の海面に浮かぶ200隻近くの飛空船が彼等の餌となるのだ。

 テスタロッサ、ウルティマ、カレラの3柱の配下、合計して600体。全員が上位悪魔(グレーターデーモン)を凌ぐ力を有する者達であった。

 Aランクを超える、上位の魔人にも匹敵する者達。

 その力が全ての制約から解放されて、哀れな獲物へと向けられた。

 しかし、


「待て!」


 ディアブロの一言に、全ての悪魔が動きを止めた。

 一斉にディアブロへと視線を集中させる。

 ディアブロは片手を上げ、悪魔達を楽にさせると、


「クフフフフ。お前達は理解しているのですか?

 一人たりとも死んではならぬという、リムル様の御命令を。

 お前達の死が、我等幹部の首を差し出しても許されざる大罪となるのだ、という事を」


 その笑顔は、親しみよりも恐怖感を相手に植え付ける。

 そしてまた、ディアブロの言葉は正しく、反論を許さない。

 悪魔達は静かにディアブロの言葉を聞く。


「先ず、テスタロッサ。貴方に下のゴミ掃除をお願いしたい。頼めますか?」

「ええ、よくてよ? 私一人でも容易い事でしょうね」

「ちょっと待ってよ! ボクが行きたい! ボクだって余裕だよ!?」


 ディアブロがテスタロッサに命じたのだが、ウルティマが横槍を入れた。

 それに対しディアブロは怒るでもなく、


「クフフフフ。確かに、貴方でも可能でしょう。

 しかし、せっかく下に無傷で浮かんでいるのですから、鹵獲すべきでしょう?

 あの船は全て、リムル様に献上したいと思うのですが、どうでしょう?

 ウルティマ、貴方は細かい魔力調整が苦手ですね?

 なので、ここはテスタロッサが適任なのです」


 珍しく、諭すように説明する。

 これはディアブロが、極上に機嫌が良い事を示していた。

 機嫌が悪い時に口を挟まれたなら、その者の寿命は一気にゼロへと向けて加速する事になるからだ。

 ウルティマも納得したのか、


「ちぇっ。――しょうがない。確かにボク向きではないね」


 我侭を言うのを諦めた様子。


「うふふ。では、行きましょうか――」

「待ちたまえ。ヴェノムを連れて行くと良い」

「あら、なぜ?」

「言っただろう? 今回は皆殺しにしろ、と命令を頂いているのだ。

 一匹たりとも逃がしてはならないのだよ。

 君の攻撃で生き残った者を狩り尽すのに、悪魔騎士(デモンシュバリエ)達を動かそう」

「――なるほど。猟犬としては、役立ちそうね。お借りするわ。

 モス、貴方は我等4柱に次ぐ実力者。

 死ぬ事は許されないと肝に命じるならば、好きに動く事を許しましょう。

 シエン、貴方は手勢を率いて、この空域から逃げ出す者の掃討を行いなさい!」


 テスタロッサは自分の配下に命令を下すと、速やかに獲物へと向けて動き出す。

 ヴェノムは一瞬、何か言いたげにディアブロを見たが、諦めたのか一礼すると、その場を後にしテスタロッサに付き従った。


「じゃあ、ディアブロが皇帝ってヤツを殺すの?」

「いえいえ、残念ながらそれは不可能のようです」

「おや? どうしてだい?」


 ディアブロの言葉に興味を持ったのか、珍しくカレラが問い返した。

 普段、人の話を余り――というか、全く――聞かない事で有名なカレラにしては、珍しい事である。


「クフフフフ。皇帝には、絶対防御があるようですので」


 そう言うなり、"熱収束砲(ニュークリアカノン)"をいきなり放つディアブロ。

 超長距離砲でもある"熱収束砲(ニュークリアカノン)"は、音速の十数倍の速度を維持したまま飛空船の結界を貫く。

 そして、勢いを殺す事なく、皇帝へと直撃した。

 だが、皇帝は無傷。それが判っているとばかりに、周囲の皇帝護衛の騎士達も動く事は無い。


「見ましたか? 皇帝守護の近衛騎士(ロイヤルナイト)が、全く動きませんでした。

 あれは、防御結界を破られないという自信があるからでしょう。

 どうやら、皇帝も究極能力(アルティメットスキル)所有者らしい。

 そして、その能力は"天使系"。

 "天使系"は防御に優れているのが特徴ですが、皇帝の防御はその中でも最高級なのでしょう。

 解析結果によると、"王宮城壁(キャッスルガード)"というもの。

 周囲の者の皇帝への忠誠心をエネルギーとし、周囲に皇帝の忠実なる部下が居る限り、無敵。

 要するに、帝国軍将兵を皆殺しにしなければ、皇帝を殺す事は出来ないのです」

「ふ〜ん。良くそんなの判ったね?」

「流石だな。見た感じでは、まったく判らなかったぞ?」

「クフフフフ。当然ですとも(とあるお方にお願いしましたので)!」


 自慢気なディアブロを、胡散臭そうに見やる二人。

 咳払いして誤魔化して、ディアブロは話を締めくくる。


「という訳で、貴方方は、皇帝以外の者の始末をお願いします。

 カレラは軍服の男を。

 ウルティマは残りの目ぼしい者を。

 モスとシエン以外の悪魔公(デーモンロード)達はウルティマのサポートを行え!」


『御意!!』


 命令を受けて、悪魔達は飛び去って行く。

 ウルティマとカレラも動こうとして、


「あれ? ディアブロは何するの?」


 ふと気になって、ウルティマが問い質した。

 ギクっとした様子になるディアブロ。

 しかし慌てる事なく、


「私には重要な役目があるのですよ」


 と言い放った。

 その態度にますます怪しいと感じる二人。


「まあ待ちたまえ。ディアブロ、隠し事は良くないぞ?」


 カレラの追求にしぶしぶと、


「私には、リムル様の雄姿を見守る役目があるのです!

 これは非常に重要な役目であり、貴方方には任せる事は出来ません!!」


 逆切れしたように言い切った。


「ちょ、ちょっと! 何よそれ?

 ボクだって、リムル様の活躍を見ていたいよ!!」

「何だって? そんな役得を君だけで堪能する気かい?

 いくら君が我等の上司だと言っても、横暴が過ぎるんじゃないかい?」


 これに対し、不満を言い出す二人の悪魔王(デヴィルロード)。

 同時に、道理で一番煩そうなテスタロッサを最初に追い出した訳だ、と納得してもいた。

 力関係ではディアブロが上であり、三人揃っているならまだしも、二人だけでは分が悪い。

 結局は不満を言いながらも、納得させられる事になってしまった。


「ちょっと! 大暴れしても良いんだよね?」

「ええ、勿論です」

「空に浮かんでいるモノは全て壊しても構わないんだね?」

「当然です」


 二人の機嫌を取り成すように、ディアブロが力強く頷いた。

 その程度で納得してくれるのなら、安い買い物なのである。


「判ったよ。美味しそうなヤツも居るみたいだし、ここは譲ろう」

「だよね。ボクも大暴れして、憂さ晴らししよ〜っと!」


 そう諦めたように言うなり、二人は同時に飛び出した。

 ついでに、周囲で命令を待っている者達に、


「散れ、お前達!

 お前達も、シエンの指揮下に入り、この空域からの離脱者を一切許すな!!」


 八つ当たり気味にカレラが叫び、呼応するように悪魔達は散って行った。


 ――奴等を殺しつくせ!


 その命令を守るべく、帝国の飛空船団を覆い囲むように、悪魔達は配置を終える。

 間もなく、大空と海面上での決戦が始まろうとしていた。



 ディアブロは薄く笑い、計画通りに進んだ事を悦ぶ。

 敬愛なる主の戦いを間近で見守り、より強く役に立つ為の参考とする。

 そして、この戦においては、自分以外の悪魔達に実戦を積ませるのが主題となるのだ。

 死ぬ事なく生き延びさせて、より強く強化させるのである。

 受肉した肉体の性能は、最上であった。

 であれば、後は使う者の技量(レベル)次第。

 それは、テスタロッサ、ウルティマ、カレラにも言える事である。

 与えられた能力では意味が無く、自ら獲得し、使いこなさせてこそ光り輝くのだ。

 敵を与え、それを撃ち砕く。

 悪魔族(デーモン)は唯でさえ、最強種族。

 下等な内は、天使や精霊に劣る劣等種だが、上位存在になれば立場は逆転する。

 成長が遅く、上位になる前に魂を砕かれて滅びる者が多いのだが、一度壁を抜けると敵が居なくなるのだ。

 故に、自分以外の悪魔王(デヴィルロード)達でさえ、力任せの戦いぶりが目に付いた。

 ここで一度、苦戦らしきものを味わうのも良い経験となるのである。


(後は、生き残れたら、の話です。無事に生き残ってくださいね。クフフフフフフ――)


 ディアブロは笑みを深めて、より一層楽しげに嗤うのだった。

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失敗率 = 100% - (失敗A 10% + 失敗B 20% + 失敗C 30% + 失敗D 20%) = 20% でしょ
[気になる点] 獣身化の完全な成功率の確率の計算が間違っています... 掛け算をしなくてはいけないので (1-0.1)*(1-0.2)*(1-0.3)*(1-0.2)*100 = 40.32[%] に…
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