17話 約束の行方
名前、適当に付けていると、そのうち間違えてしまいそうです…。
その時は、スミマセン。
明けて翌朝。
俺達は、作業部屋に集まった。
昨日は、弟子用の空き部屋を借りて泊めさせてもらったのだ。
俺達が部屋に入ると、そこにはすでに四人揃って"魔鋼塊"を眺めていた。
溜息をつきながら、何度も何度もひっくり返したりしながら確かめている。
俺が出した塊は、人の拳程度のサイズである。
大げさな反応をしているようだが、そんなに希少なのだろうか?
「お前は、何を言っているんだ?」
それが、カイジンからの返事だった。
以下、その説明だ。
"魔鉱石"は"魔鋼"の原石である。その原石の状態でさえ、金に匹敵する価値がある。
理由は簡単。その希少性と、用途の有用性である。
この世界を構成する要素、"魔素"。
元の世界には無かったこの"魔素"というものが、この世界で大きな役割を占めているのだ。
魔物を倒すと、希に、魔石と呼ばれる魔素の塊を落とす。
この魔石はエネルギーの塊のような物であり、精霊工学というこの世界独自の発明品の燃料となっているらしい。
また、上位の魔物の核である魔石は、宝石よりも美しく内蔵エネルギーの量も桁が違うそうだ。
そうした、上位の魔石は、色々な製品の核として使用されたりする。
細工師が加工する装飾品等も、こういった素材が使用されているのだそうだ。
その性能は、着用者の能力上昇や、付属効果等、様々な恩恵をもたらすのだと・・・。
そして、"魔鉱石"とは、普通の鉱石と決定的に違う点がある。
必ず、上位の魔物の付近でしか、採取出来ないのである。
何故なら、魔素の濃度の濃い場所にあった鉱石が、長い年月をかけて魔素を大量に含んで変異して、そうやって出来た物質だからなのである。
鉱物の、突然変異に近いのだ。
当然、魔素の濃度の濃い場所には、強力な魔物が生息している。
冒険者が小遣い稼ぎに倒せるような、そんな下っ端の生息地では"魔鉱石"は発見されにくい。
最低でも、Bランク相当の魔物の生息地にしか、"魔鉱石"は存在しないのだそうだ。
ちなみに、ここで初めて魔物のランク等級についても説明を受けた。
「そうなんすか! じゃあ、自分もBくらいっすかね?」
「「「・・・・・・・・・(お前が思うんなら、そうなんだろ。お前の中ではな!!!)」」」
おそらく、ゴブタのバカ以外の皆の思いは一つだっただろう。
バカは置いておこう。
それだけ、発見の難しい"魔鉱石"だが、そこから採れる"魔鋼"は、3〜5%しか含有していない。
つまり、拳大とは言え、"魔鋼塊"の価値は、同等の金の20倍以上という事なのだ。
金の価値は、元の世界とほぼ同程度。
国毎の共通の目安として、金本位制が採用されている為でもある。
その価値が理解して頂けた事と思う。
まあ、俺の睨んだ通り、希少な金属だった訳だ。
流石は俺! その辺りはぬかりなし!!! である。
ちなみに、めっちゃ大量に"魔鋼塊"を保有していたりするのだが、ちょっぴり怖くなったのは秘密だ。
バレるハズがないのだが・・・、バレたらどうしよう? なんて思ってしまうのは小市民だからだろうか?
で、本題はここからだ。
"魔鋼"が希少だというだけで価値が高い訳ではない。
その価値の本当の理由。それは、魔力の誘導と非常に相性が良いという性質にある。
魔素とは、ある程度のイメージで操作可能なのだ。
俺の『魔力感知』等もそうだが、『水操作』なんかも、魔素の操作によって行っている。
魔物のスキルも、その多くが魔素を元にしていると言えるだろう。
魔法については、よく判らないけど、恐らく似た原理になっていると思っている。
では、武器の素材に魔素が大量に含まれていたらどうなるのか?
驚くべき事に、"成長する武器"が出来上がるのだそうだ!
なんというロマン!!!
え、何それ? 欲しい!!!
ぐっと我慢したけど、喉元までその言葉が出かかっていた。
使用者のイメージに添って、徐々に理想の形態へとその姿を変える武器。
そして、使用者の魔力次第では、戦闘中に自由自在に形状変化も可能なのだと!
さらに、魔素の馴染みが良い為、スキルの威力も増大する。
ある意味、普通の武器と比べたら、余程の技量差が無ければ、魔法武器持ちが勝つだろう。
もしかすると・・・、金と技術を注ぎ込んだ場合の話だが、純魔鋼の刀身に、上位の魔石を嵌めたら、"炎の剣"や"氷雪の剣"なんて代物も出来るのではなかろうか?
俺の心が、"早く造れ!!!"と騒いでいるが、慌ててはいけない。
出来るような気がするので、今度機会があったら、魔石を手に入れたいものだ。
一頻りの説明を受けた後、カイジン達は作業に入る模様。
後学の為、俺達も見学させて貰う。
ゴブタの奴はどうせ寝ているのだろうけど・・・。
剣と言っても様々な種類がある。
俺の中での最強の剣と言えば、勿論、日本刀である。
しかし、刀の中だけでも様々な種類があるのだ。それこそ、どんな剣を造るのか、興味津々であった。
作り始める事、10時間。
何の変哲もない、一本のロングソードが出来上がった。
あれ? 魔鋼が大量に余っている。
拳大しかないのだ。一本の剣の素材で足りるのか? と思っていた程だったのだが・・・。
聞けば、全ての素材を魔鋼で造るような事をすれば、幾らかかるか判らない! との事。
考えてみれば、当然か。
道理で、"炎の剣"や"氷雪の剣"あるいは、"雷の剣"などの発想が出ない訳だ。金が掛かりすぎるのだ。
なるほどな! と納得させて貰った。
魔鋼を芯として用い、普通の鉄鋼でその刀身を整えるのだそうだ。
それでも、魔鋼の魔素が鉄鋼部分の刀身を侵食し、いずれは、一体化するらしい。
長い年月を経た武器の方が、強い物が多いとの事。
古くなって、刀身が錆びたり欠けたりしないのも、特徴らしい。
不思議な事に、剣にも命があるらしい。折れたり、完全な歪みが出来た時、魔素が抜けて一気に風化するそうだ。
打ち上がった剣を見せてくれながら、そんな話をしてくれた。
なかなかに、面白い話であった。
出来上がった剣を手に取り眺める。(手なんて無いんだが、そこは気分だ。)
よく見れば、シンプルな出来上がりだが、歪みがない。
無駄がないと言える。
日本刀のような、斬る事が主体では無いようだが、刃による斬撃も可能なようだ。
なるほど。これをベースとして、個人個人で目的毎に変化していくのか!
そう考えるなら、製作者の意図を省き、シンプルに纏めるのも頷ける。
さて、と。
親父さん達は、約束通り、素晴らしい剣を打ってくれた。
ここからは、俺の出番である。
「よし! ここからは、秘密の作業を行う。素材の確認をしたら、悪いけど、全員部屋から出てくれ!」
そう言って、皆に外に出て貰う事にした。
流石に、作製方法を見られる訳にはいかない。主に、説明が面倒という理由で!
「材料は、この部屋に全部揃ってる。でも、いいのか? 何なら手伝うぞ?」
「うむ。大丈夫だ! そんな事より、三日間、この部屋を覗くなよ? 約束だぞ!?」
「解った。お前を信じて待ってるよ・・・。」
そう言って、親父さん達は出て行った。
何故か、ゴブタも出て行った・・・。
あのバカは、一度シメル必要があるかもしれない・・・。
さて、本日のレシピは、"ロングソード"となっております!
作り方は簡単!
まず、お手本の一本を飲み込みます!
続けて、
ここに並べました材料を・・・、飲み込みます!
もぐもぐ、ごっくん!
そして、お腹の中でよく混ぜて・・・、
《告。解析対象:"ロングソード"成功しました。続けて、コピー作成・・・成功しました 》
これを、19回繰り返したら、終了で〜す!!!
簡単でしたね?
でも、良い子は決してマネしないでね?
などと、バカな事を思いながら作業を行なった。
ヤバイ・・・、一本のコピーに所要した時間、およそ10秒。
190秒・・・3分強で、19本のロングソードを作ってしまった・・・。
親父達を追い出してから、5分も経っていない。
というか、出来るだろうとは思っていたが、なんだか職人さんに申し訳ないくらい簡単に作製してしまった・・・。
『捕食者』、マジでチートすぎる。
さて、どうしよう?
三日間、ここを覗くな! なんて言ってしまったが、ここに三日何もする事なく篭るべきだろうか?
いや・・・。流石に、この部屋で意味もなく修行してても仕方ない。
もう出来たと、ぶっちゃけてしまうか・・・。
バターーーン!
扉を開けて、俺は外に出た。
心配そうに、こちらの様子を窺っていた四人が、慌てて立ち上がる。
ゴブタは・・・、寝ていた。
お前な…5分で出てきたらもう寝てるって、どういう事だ?
やはり、な。俺の中で、奴をシメル事が確定した瞬間であった。
「おい、どうした? 何かあったのか?」
「足りない材料でもあったか?」
「・・・、それとも、やはり無理、だったか?」
口々に、心配そうに問いかけてくるドワーフ達。
「う、うむ。いや、実は・・・な。」
その心配そうな、視線が痛い。ついつい、勿体ぶってしまった。
相変わらず、俺は人が悪いのだ。
死んでも治らなかったようだ。
「な〜んてな! 実は、もう出来たちゃった!」
「「「・・・・・・・・・、はあぁ???」」」
驚きの声がハモっていた。
そりゃ、そうだよね…!
「「「かんぱーーーい!」」」
俺達は、打ち上げと称して、夜の店に来ていた。
納品が無事に終わったので、そのお祝い! という名目だ。
いや、俺はそんな事しないでいいと言ったんだよ! でも…、
「まあまあ、綺麗な姉〜ちゃんもいっぱいいるから!」
「そそ!!! 若い子から、熟女まで! 紳士御用達の店なんだよ!」
「……………!!!」
「おいおい! リムルの旦那が来ないと、始まらないぜ?」
などと、言うのだ。
嫌だけど、しょうーがない!
本当に困った奴らだ!!!
いやー、真面目な俺のイメージが壊れるわー! 本当に困る!!!
店の名前は、『夜の蝶』。
本当に蝶だろうか? 蛾だったらぶち殺すぞ!
…いやいや、興味なんてないんだけどね?
そんな事を考えながら、店に入った。
「あら〜! いらっしゃ〜い!!!」
「「「いらっしゃいませーーー!!!」」」
うっひょーーー!!!
めっちゃ綺麗どころが、並んで居るではないか!!!
うぉーーーーー!!! 耳が長い!!!
え、エロフ! いや、エルフだーーーー!!!
ちょ! やっべーーー! 服、薄ーーーいいぃ!
ああ…見えそうで見えない…
何なの! 全力で『魔力感知』を発動してるのに!!!(普段は見えすぎるので、90%カットの低燃費モードなのだ。)
このお姉ちゃん達、見えそうで見えないラインを死守しておるわ!
く…、挑戦か? 俺に対する挑戦なのか!?
くそうくそう!
「うわーーー! 可愛いい!!!」
「ちょっとぉ! ワタシが先に目ぇつけてたのにぃ〜!!!」
ふわ〜り!
ボヨヨン! ボヨヨン!
キ、キターーーーーーーーー!!!!!
俺の身体が、プヨンプヨン!
俺の背中で、ボヨンボヨン!!!
ここは、楽園ですか?
「……、え、えーと…、嫌がっていた割には、えらく楽しんでくれてるみたいだな?」
は!
いかん、俺様とした事が…。
「え…? いや、それほどでも?」
ちょっと、無理があったか…。
誰一人として、信じてくれなかった。
だが、仕方ない。しょーがないさ!
だって、今、俺、エルフのお膝の上に、抱っこされてるんだぜ・・・
感動で胸がいっぱいだよ!!!
ああ…、亡(無)くなった俺の息子が生きていれば、今頃感動でおおはしゃぎしていただろうに……。
そんな、楽しい時間を過ごしていた俺達だったのだが、
「おやおや、カイジン殿では、ありませんか! いけませんな、この上品な店に、下等な魔物など連れ込んでは!」
喧嘩を売るかのような言葉を掛けてきた者がいた。
誰だ? このおっさんは…?
一瞬で、周りが静かになった。
女の子達も、おっさんの事を嫌っているのか、嫌そうな顔をしている。よく観察しないと判らない程度ではあったけども。
おっさんは、ドワーフにしては珍しく、細っそりとした体型に、長身であった。とは言っても、普通の人間と同程度の身長である。
「おい、女主人! この店は、魔物の連れ込みを許すのか?」
「い、いえ、魔物と言いましても、無害そうなスライムですし…」
「はあ? 魔物だろうが! 違うのか? スライムは魔物じゃないとでも抜かすか!!!?」
「いえ…、その様な訳では、決して…」
ママさんが、のらりくらりと言葉を濁して、怒りをそらそうとするのだが、取り合おうとしていない。
このおっさんの目的は、明らかに俺達であるようだ。
「まずいな…、大臣のベスターだ…。」
このおっさんが、噂のベスター大臣だと?
なるほど…、何というか、神経質でねちっこそうな顔をしている。
その時、
「ふん! 魔物には、これがお似合いよ!!!」
などとほざいて、俺の頭から水をぶっ掛けてきた。
これには、カチン! と来たが、ぐっと堪える。
相手は大臣だ、俺の短気で親父達やこの店のママさんに迷惑は掛けられない。
この店に出入り禁止なんて、そんな悲しい思いはしたくない!
俺が、そう思い、我慢をしようとしていたら、
「おい…。黙って聞いてれば、いい気になりやがって!」
ドン! と、テーブルを蹴り飛ばし、親父さんが立ち上がった。
「おう、ベスター! てめー、この俺の客に舐めたマネしてくれて、覚悟は出来ているんだろうな?」
…え? ちょっと、カイジンさん…相手、大臣ですけど、いいの?
ベスター大臣も驚きで引き攣っていたが、俺も驚きで飛び跳ねた!
俺の背中に柔らかい感触が弾けた! …わざと、ではない。決して!!!
「きさ、貴様! このワシに対して、そのような口を…!!!」
怒りと驚きで声も出せない、ベスター大臣。
「お前、そろそろ黙らんかい!!!」
そう言って、躊躇う事なくベスター大臣の顔面を殴りつける、カイジンさん…。
「リムルの旦那、腕のいい職人を探していたよな! 俺じゃ不足かい?」
不足どころか…というか、いいのだろうか?
だが、大臣を殴るなんて、もうこの国に居場所は無いだろう。
しかし、だ。
男には、言葉が必要ない時があるのだ。
「その言葉、待っていたぞ! 宜しく頼むぞ、カイジン!」
細かい事はいい。
カイジンが来てくれるというのなら、俺は受け入れるだけでいいのだ!
綺麗事などクソくらえ! 俺達は好きに生きたらいいのだ!
カイジンと俺は、熱く頷きあった。
そうして、約束は果たされた!!!
しかし…、この後、どうやって逃げようか?
やっぱ世の中、慎重に行動しないと、山程問題が生まれちゃうのだ…。
格好をつけても、今後の問題が消えて無くなってはくれないのだった!
ステータス
名前:リムル=テンペスト
種族:スライム
加護:暴風の紋章
称号:"魔物を統べる者"
魔法:なし
技能:ユニークスキル『大賢者』
ユニークスキル『捕食者』
スライム固有スキル『溶解,吸収,自己再生』
エクストラスキル『水操作』
エクストラスキル『魔力感知』
獲得スキル…黒蛇『熱源感知,毒霧吐息』,ムカデ『麻痺吐息』,
蜘蛛『粘糸,鋼糸』,蝙蝠『超音波』,トカゲ『身体装甲』
黒狼『超嗅覚,思念伝達,威圧,影移動,黒稲妻』
耐性:熱変動耐性ex
物理攻撃耐性
痛覚無効
電流耐性
麻痺耐性
次回でやっと…、ドワーフ王国から旅立てそうです。
思ったよりも、長くなりました。